セブルス・スネイプはやり直す 作:どろどろ
憂い朝
――セブルス・スネイプは死んだ。
生涯を通して愛し通した、リリーと同じ瞳を持つ少年。ハリー・ポッターに看取られながら。
彼は決して善人では無かった。しかし一概に悪人と断ずることも出来ない人間だった。
愛のみが、彼の生きる理由。
強いて言うなら、一途すぎるだけなのだ。
リリーと会えない。
触れられない。
この想いが届くことは、決してありえない。
だが彼女の忘れ形見に幾度となく彼女の姿を投影していた。そして犬猿の仲であったジェームズ・ポッターの面影も。
(――結局、私は……最後まで……)
冷たくなってゆく自分の身体。
感覚を忘れ、熱が急激に冷めていくのを感じていた。
しかしそれと反比例して、目頭に淡い温もりもこみ上げてくる。
(私は――彼女に、恩を返すことも……償うことも……)
完全に肉体の制御が聞かない。
全てが乾く。全てが死んでゆく。
薄れ行く意識の中、残酷に溢れた一粒の涙が、誰にも知られることなく地に落ちた。
(だがそれは……ある意味、救い、だったのかも、しれない、な……)
――……。
………。
◇◆◇
そして、セブルスにありえない感覚が襲った。
瞳が動く。そして――身体も……。
突然上体を起こして周囲を見渡すセブルス。
「何が……起こって……ッ!?」
――セブルス・スネイプは目を覚ました。
だが確実に、『闇の帝王』の飼い蛇の牙によって体の節々を噛み切られ、絶命した感覚すら鮮明に記憶している。
それが目を覚ましたというのだ。
セブルスは、もしかすると誰かに救われたのか――と、ありえないことを考えたが即座に否定する。
あの状態では回復も治療も不可能なのだ。
となると、これはどういう現象だ……?
「助かった、のか……」
――また無様に私だけ。
どうやらセブルスがいるのは、そう裕福でない民家の一室のようで、ボロの布切れを毛布として扱っているベッドの上にいた。
ヒビの入ったまま放置された窓。ホコリまみれの部屋。使い古されたランプ。
「この場所、どこかで見覚えが……ッ!」
途端に頭痛を覚え、セブルスは咄嗟に頭を抑えた。
それとほぼ同時だっただろうか。
ノックも無しに、部屋のドアをガタンッ!と開いた男は、そのままずかずかとセブルスに近づく。
「セブルス! いつまで寝てるんだ! そろそろ出る時間だろう!!」
その男はセブルスを知っている。いや、それよりもむしろ、もっと親しいような喋り口調だった。
セブルスは男の姿を見て、声を聞いて、瞬時にこの男が誰かを理解した。そして同時に、驚愕も。
「……父上、なのか?」
「はぁ? 何言ってるんだお前は」
そこにいた人間は、セブルスの父親その人だったのだ。
しかもかなり若い。年齢は30〜40といったところだろう。
何故、どうして。
理由はともかく、この不可思議な現象によって、セブルスは一体どんな状況に置かれているのか。
なんとなく察してしまったが、確かめるため、恐る恐る自分の体を見やると。
「……何だこれは!?」
完全に子供の姿だった。
容貌までは把握できない。
夢中になって、セブルスは父親を突き飛ばして部屋を飛び出す。
「お、おい! ……あいつ、変なもんでも食ったか?」
父親が何やら言っていたが、セブルスは止まらない。
建物の構造は分かっていた。何故ならここはかつてのセブルス・スネイプが住んでいた建造物。
そう、スネイプ家だったのだ。
洗面所に辿り着いたセブルスは、自分の姿を移した鏡を殴りつける。
「……酷い顔だな」
青ざめた不気味な表情。
間違いなく、戻っている。
おそらく歳は十代に届いているかいないか、そんなところだ。
「血色が悪い。まるで亡霊だ」
亡霊。
まさに自分を比喩するのにピッタリではないか。
「――そうだ」
セブルスの脳裏に過る、学生時代の数々の光景。故郷での、あの彼女の横顔。
そう、リリーは。
「リリーは……。これが夢なら覚めないでくれ」
すぐにでも家を飛び出そうと考えたセブルスだが、身体は動かなかった。
いや、動くことを自ら否定したのだ。
自分が彼女に合う資格など無い。
ポッター家を愚かにも破滅に導いたのは他でもない。セブルス自身なのだから。
「おお~い、セブルスいい加減にしろ。早く着替えろってんだ」
父親の声がする。セブルスの部屋からこちらに近づいてきているようだ。
そして父が洗面所に顔を出すと、セブルスは不意な疑問を投げかけた。
「着替える?」
「ああ? 寝ぼけてんじゃねえ。今日からホグワーツだろう」
となれば、キングス・クロス駅。
9と4分の3番線、ホグワーツ特急だ。
これからホグワーツ。
(若かりし頃の夢……いや、走馬灯にしては感覚が覚めすぎている)
セブルスは状況把握が得意だ。更に頭も回る。
現在の状況から考えて――そう、理論的な思考は無駄。原因の追求よりも現状の把握を優先するべきだ。
幼い時の記憶を呼び起こす。
まだ暖かかった、あの時の記憶を――
(初めての駅となると……確かリリーと待ち合わせをしていたな)
リリーがそこにいるのかいないのか。
夢だろうがなんだろうが、セブルスにとってリリーが人生の基準だった。
「ああ、分かった」
「……?」
口調も雰囲気も一変したセブルスを不審に思い、首をかしげながらも父はその部屋を去って行った。
どういうわけか知らないが。
「――“戻った”と解釈するべきか」
そしてここから、セブルス・スネイプ第二の人生が始まろうとしていた。
皆さんが疑問に思うであろう事に答えます。
■スネイプ先生の会得していた魔法はどうなりましたか?
・当然、知識も記憶もそのままなのですから、魔法だって使えます。数十年かけて研鑽してきた魔法の技術と知識が、少年スネイプくんの身体に宿っている訳です。つまりどチートである。
■なぜ過去に戻ってきたのですか?
・別に深い理由は考えてません。あまり深く追求しないように。
■どのくらい強いですか?
・ぶっちゃけホグワーツでは、マクゴナガルとダンブルドアくらいしか彼に歯が立ちません。一対一なら教師陣を余裕で圧倒します。
■スネイプの一人称は一般的に吾輩じゃないんですか?
・和訳だと「私」と「吾輩」もどっちも同じ意味です。