Fate/VR   作:ヴィヴィオ

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第11話

 

 

 

 味噌汁のいい匂いとトントンという規則正しい包丁の音が聞こえ、目を覚ます。目を開けると、台所で制服姿のかなでがエプロンをつけて料理をしていた。

 

「かなで……」

「……おはよう……ご飯、出来てる」

 

 互いの顔を見ると、昨日の事が思い出されて顔が赤くなる。しかし、今思えばリアル女子高生を妻にして、やってしまったんだよな。むしろ、かなでの身長から中学生といっても過言ではない。

 

「と、ところでその服は?」

「おかしな事を聞くのね。高校の制服よ。今日は学校に住居の変更と名前の変更を申請しないといけないから」

「なるほど」

 

 ベッドから出て、洗面所で顔を洗う。その頃には食卓に美味しそうな食事が並べられていた。

 

「美味しそうだ」

「口に合うかはわからない」

「そうれは……食べてみるか」

「ええ」

 

 二人でちゃぶ台に向かい合って座る。ちゃぶ台の上には大量の料理が置かれている。

 

「いただきます」

「いただきます……」

 

 味噌汁から飲む。薄味だが、美味しい。それに一生懸命に作ってくれたのだから、それ以外は言えない。

 

「薄味だけど美味しい。だけど、調味料をあまり使ってないだろ」

「そうよ。もったいないもの」

「使ってくれていいからな」

「いいの?」

「ああ。入れすぎは駄目だけどな。何事も適量がいい」

「わかったわ」

 

 二人で食事をしていく。しかし、高校の制服もいいな。

 

「今日はログインするつもりだが、どうする?」

「お昼には終わるわ」

「じゃあ、それまでに準備しておこう」

「ええ。それより、お腹が空いたわ」

「今食ってるよなっ!?」

「そっちじゃないわ。魔力よ」

「そっちか」

「ええ。それにコウも朝に立っていたわ。そんなにこの服が好き?」

「それは生理現象だ。それとむろん、好きだ」

「いや?」

「いや、嫌じゃない。むしろ歓迎だが……というか、燃費悪くないか?」

「こちらの世界では魔力が作りにくいわ。常にスキルを使って宝具を顕現していくから、仕方ないのだけれど」

 

 確かに神秘なんてこの時代にほぼ存在しないだろうしな。消費量が多いのは納得だ。

 

「じゃあ、俺は午前中に準備している。休みを取って、向こうでの生活を基本にするつもりだが……大丈夫か?」

「ええ。冬休みだから、私は何時までも大丈夫よ」

「わかった」

 

 食事を終えてから、魔力の供給を行ってから二人で一緒に出掛け、かなでを学校まで送っていった。

 

 

 

 

 

 かなで

 

 

 

 

 ご主人様であるコウと別れて、学校に来た。取り敢えず、職員室に向かって必要な書類を提出する。

 

「これは本当なのか?」

「そう。法律上は問題ない」

「いや、そうなんだが……まあ、わかった。住所と名前の変更をしておこう」

「お願いします」

 

 用事が終わったので、外に出ると友達が居た。

 

「あ、かなでちゃん、どうだった?」

「ばっちりよ、ありがとう。ゆり」

 

 私の友達であるゆり。

 

「メールを貰った時はとっても驚いたわよ。でも、生きていられるかも知れないって、本当なんだよね?」

「ええ、そうよ。生き残れる手段を見つけたわ」

「ドナーが見つかったの?」

「ううん、別の手段。だから、結婚したの」

「そう……まあ、いいか。それで、相手はどうなの?」

「いい人。結婚するまで、手を出して来なかったわ」

「少なくとも見境はあるのね」

 

 ゆりと話しながら校舎の中を歩く。今日は冬休みなのに人が多い。何かあったのかも知れない。

 

「ゆりはなんでいるの?」

「それはね、ライブがあるからよ。かなでちゃんも行く?」

「ガルデモの?」

「ええ」

「ヴォーカルは?」

「雅美よ」

「午前中までなら、行くわ」

 

 ゆりと一緒に歩いていくと、日向君が車椅子のユイを連れてきているのが見えた。

 

「そういえば、どんな事をしたの? お姉さんに教えてくれない?」

「わかった」

「いいの!?」

「うん。ゆりなら、別にいいよ」

 

 教えると、ゆりが顔を真っ赤にして走り去っていった。

 

「なんでかしら?」

 

 取り敢えず、メールで連絡を入れてからライブを見に行く。途中で戻って来たゆりと合流して、聞いた後、ガルデモから音楽データを貰ってゆりから貰った音楽プレイヤーにいれておく。ジャック達にも聞かせてあげよう。

 

「かなでちゃんは冬休み、どうするの?」

「私は……旅行に行く」

「ハネムーンね」

「そう、かも? 取り敢えず、私はあんまり携帯にも出れないかも」

「そっかぁ。私も妹達の世話をして、ゲームでもするかな~皆誘って」

「そう。時間が空いたら、連絡するわ」

「ええ、楽しみにしているわ」

 

 ゆりと別れて、コウに連絡を入れる。待ち合わせ場所が送られてきた。ショッピングモールに居るみたいで、そちらに向かおう。

 

 

 

 横断歩道を歩いて進んでいると、反対側の奥の坂道からトラックが信号が赤なのに猛スピードで走ってきた。運転席を見ると、運転手が倒れている。そのトラックの前にはオレンジ色髪の毛をした男の人と、背負われている女の子が私の反対側の横断歩道を渡っていた。

 

「危ない」

「っ⁉」

 

 普通なら間に合わない。でも、今の私には力がある。

 

「力を貸して、アルトリア……風王鉄槌(ストライク・エア)……」

 

 風を纏って見えない状態にしてあるエクスカリバーを振るって、風を解き放ってトラックを吹き飛ばす。トラックは暴風で横転して進路をそれて電柱にぶつかって止まった。それを確認しながら剣を消す。同時に飢餓感が湧き上がってくる。でも、我慢。今は救助が優先だから。

 

「大丈夫?」

「ああ、急に風が吹いてくれて助かった。初音は大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ……ごほっごほっ」

「この子は……?」

「病気でな」

「そう……」

「こっちは大丈夫だから、運転手の方を頼む」

「わかったわ」

 

 横転したトラックに飛び乗って、運転席側の窓から中を覗く。運転手は気絶しているようで、動かない。取り敢えず、窓を殴って割る。そこから鍵を開けて開いて、ドアを開ける。邪魔なエアバッグを破裂させてから中に潜り込んで、シートベルトを外して運転手を助け出す。

 

「おい、そっちはどうなんだ?」

「不味いわ」

 

 トラックから飛び降りて、運転手を地面に寝かせる。既に心臓が止まっている。もしかして、吹き飛ばしたのはやり過ぎたのかしら?

 

「心臓マッサージをする。誰か、AEDを持って来てくれ! アンタは救急車を頼む」

「ええ、わかったわ」

 

 電話を掛けながら、私は壁にもたれかかっている女の子の横につく。

 

「大丈夫?」

「は、はい」

「そう」

 

 横に座って救急車を呼びながらこっそりと鞘を一時的に彼女の中に入れてあげる。この子はなんとなく、私と同じ感じがするから。

 しばらくして、救急車が来て運転手の人を乗せていく。警察も来ていて、凄く不味い事が判明した。このままだと時間が取られて昼にログインできなくなる。そうなると、ジャック達に怒られる。

 

「私は行くわ。後はよろしくね」

「は、はいっ……って、え?」

 

 立ち上がってさっさとショッピングモールに向かう。殺しちゃったかも知れない訳だし、逃げるわ。今の私はご主人様のモノだから、捕まる訳にはいかないの。逃げる時に一つ良い事を思い付いた私はそれを実行に移す。風を纏って姿を消すのだ。

 

 

 

 待ち合わせ場所に着いたら、姿を戻す。先に待って居たコウに抱き着いて、直ぐにキスをする。

 

「っ!?」

「ちゅるっ、んっ、んんっ」

 

 舌を絡めてたっぷりと魔力を貰う。これでようやく飢餓感がなくなった。回りを見ると、視線がかなり集まっている。

 

「何するんだ」

「お腹が空いたの。少し、人助けをしたから」

「詳しい事は後で聞こう。今は逃げないと不味い」

「ええ、わかったわ」

「待ちなさい」

 

 コウの動きが止まって、横を振り向くとそこには青い制服の大人の人がコウの腕を掴んでいた。

 

「ちょっとあちらで話を聞かせて貰いましょうか」

「ささ、こちらに」

「わ、わかりました」

 

 私とコウは白色と黒色の車に乗せられて、名前と生年月日。住所などを聞かれていく。住所などはコウと同じと答えた。

 

「それで、苗字が同じというのは兄妹ですか?」

「違います。妻です」

「えっと、結婚しているのですか?」

「そうです」

「本当なの?」

「本当」

「市役所に確認して貰えればわかります」

「確認してみます」

 

 一人の人が無線で連絡を入れていく。

 

「どちらにしても、公共の場では控えてくださいね。特にその、妻の方は学生なのですから」

「すいません」

「ごめんなさい」

 

 謝っておく。確かに問題だった。満たされていた時との落差が凄くて飢餓感に抗いがたい。気を付けないと。

 

「確認が取れました。確かに夫婦のようです」

「そうか。ありがとうございました。これからは気を付けてください」

「ご結婚おめでとうございます。でも時と場所を考えてくださいね」

「はい」

「ごめんなさい」

 

 パトカーから出して貰って、手を繋いでショッピングモールに入る。

 

「ごめんね」

「まあ、いいさ。詳しい事は食事をしながら聞こうか」

「ええ。今日はビュッフェがいいわ」

「わかった」

 

 焼き肉屋の近くを通ると、慌てた店員がcloseの看板を取り出していた。そのまま通り過ぎて、ビュッフェの場所に入っていく。

 

「ここは自分で取っていくのね」

「そうだぞ」

「わかったわ」

 

 直ぐに皿ごと席に持ってきて、食べる。同時に怒った内容を伝えていく。

 

「なるほど、わかった。人助けなら仕方ないだろう」

「ありがとう」

 

 食事が終わってから、お土産にケーキを買う。他にも相談して缶詰めなどを沢山買っておく。それから家に戻った。

 

 

 

 自宅に戻った私達は準備をしてから、二人でスマホを取り出す。

 

「さて、準備はいいか?」

「大丈夫」

「では、やるか」

「ええ」

 

 アプリを起動すると、ログイン画面に移動した。生体認証を行って、ログインする。直ぐにスマホが光って身体が光っていく。意識を失い、気がつくとそこは宿屋の中に居た。

 

「ジャック達が居ないな」

「そうだね」

 

 代わりに人形が二体、あった。

 

「そういえば、クラスカードもあったしな」

 

 思い浮かべたのか、コウの前にクラスカードが出て来た。

 

「なるほど。ログアウトすると人形に戻るのか。かなで、ちょっと待っててくれ」

「わかったわ」

 

 私は買って来たケーキをテーブルの上に乗せて、持ってきた魔法瓶を取り出して、紅茶を入れておく。コウの方を見ると、人形が光ってジャックとジャンヌになった。

 

「おかーさんっ!」

「トナカイさんっ!」

 

 二人がコウに抱き着いていく。

 

「寂しかったよ~」

「そうなのか?」

「動けませんでしたから」

「うん。二人の事はずっと見てたけどね」

「カードの中からでも意識はあるのか」

「そーだよ。わたしたちが特殊かも知れないけどね」

「どちらにしろ、私達はまたトナカイさんが戻って来てくれて、嬉しいです」

 

 嬉しそうに笑っている。動けないのは辛いし、その気持ちは分かる。

 

「皆、準備できた。食べよう」

「そうだな」

「これはなにっ!?」

「ケーキですっ、ケーキですね! クリスマスケーキです!」

「ちょっと遅いけどな。取り敢えず、お土産だ」

「やったー!」

「やりましたね!」

 

 楽しそうに二人が席につくので、私はケーキを切ってくばってあげる。ワンホールを四人で別けるので簡単。

 

「ほら、いただきます」

「「いただきます」」

「どうぞ」

 

 楽しい、おやつを食べ終わるとこれからの事を考える事になった。

 

「これからどうするの?」

「金を稼ぐ。まずは……どうぞ」

 

 扉がノックされ、入って来たのはこの宿の人だった。

 

「三日分のお金、払ってくれよ」

「わかりました」

 

 

 

 

 桜坂幸田

 

 

 

 代金はまだエネミーを売って出来た金があるので、なんとかなった。しかし、あちらでの世界での時間もお金がかかるとなると、家を手に入れた方がいいと思う。下手な所だと人形を盗まれるかも知れない。

 

「ありがとうよ」

 

 宿の人は直に出て行った。

 

「さて、これからやるのは拠点を得る為の資金稼ぎだ。その前にこの街も探検しないとな」

「探検っ!」

「楽しみですね!」

「別ける?」

「そうだな。ジャック、街を調べてきてくれ。アサシンのジャックが適しているからな」

「は~い」

 

 お金も稼がないと不味いからな。同時に出来る事はやるべきだ。

 

「一人になるが、大丈夫か?」

「だいじょ~ぶだよ。でも、終わったら、いっぱい褒めてね?」

「もちろんだ」

「私とジャンヌは?」

「俺と一緒にエネミーを狩って資金稼ぎだな。クエストでもあれば助かるんだけどな」

「クエスト?」

「NPCとか頼まれる依頼だな。ゲームなら経験値やお金が貰えるはずだ」

「取り敢えず、探してみよう。情報を集めないとな」

「ええ、わかったわ」

「そうですね。情報収集は大事です」

 

 これから始まるのは普通のゲームなら、クエストだが……ハンティングゲームなら違うんだよなあ。どちらにしろ、食糧確保が大事だな。

 

 

 

 

 


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