俺とクーデレ幼馴染の日常   作:ラギアz

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遅れて本当にすみませんでした。
新生活に慣れぬまま、遅れに遅れ申し訳ありません。
今後、書く時間の確保は確実に出来るようになりました。
もっと投稿し、沢山楽しんでいただけるように頑張ろうと思います。
すみませんでした。

では、どうぞ!


俺と幼馴染と家族風呂

 近くにできたお風呂屋さんに着いた。

 名前は「楓の湯」。どうでもいいけど、温泉って大体がほにゃららの湯な気がする。建物の中に入れば明るいロビーがあり、入場券を買って中に入った。大きい廊下の横には食堂、ゲームセンター、マッサージ機や自販機等が設置されている。

 新設と言うのもあって、内部はとても綺麗だった。

「混浴とかは無いのかな……」

「あってもキミとは入らないけどね」

「いや、別に桜が居なくても他の女の人が居るかもしれないじゃん」

「控えめに言って溺れろ」

「ボボッ! この温泉、深い!」(謎のアクセント)

 中身も何も無い会話を繰り広げつつ、俺たちは男湯と女湯に別れる。脱衣所には数人のおっさんが居た。「810」と書かれたロッカーに着替えと荷物を放り込み、体を洗う用のタオルを腰に巻く。そのまま鍵を閉めようとしたところで、ブブッとスマホが振動した。

 LINEの通知。見てみれば、桜からの連絡で――、

『30分で出てこい。食堂の入り口で待ってるから』

 と書かれていた。手早く了解と返した俺は時計を確認。しっかりと時間を覚えてから、浴場へと足を踏み入れる。

 中に入ると、お風呂特有の匂いと熱気が体を包み込んだ。

 このお風呂屋さんは幾つかのお風呂が集合している形らしい。手前に濁り湯、奥に普通の温泉、左手に岩盤浴とサウナと水風呂、右側に五右衛門風呂が置かれていた。外からは見えないように囲われてはいるものの、上は吹き抜けになっている。サウナ以外、全面露天と言えるだろう。

 中々良い雰囲気だ。このお風呂屋さんは当たりである。

 まずシャワーのところに向かい、椅子に腰かける。ここは手押しで、決まった時間だけシャワーが出る仕組みだ。これの悪いところは、ほんの少しだけお湯が欲しい時に出すぎる事だろう。毎回調節に失敗する。

 ところで洗う順番はどうだろうか。

 洗う順番は、男子中高生ならば女子のそれを聞くだけで妄想が捗るだろう。逆に聞けばセクハラになりかねないが、聞く機会もそんなに無い。

 俺は頭から洗って、体は左腕から洗う。右利きだから左側を最初に洗うことが多い。

 因みに桜は髪から洗って体は首から洗う。何故知ってるかって? 幼馴染の特権さ。

 まあ今は知らないけど。

 マナーとして一通り体を洗い、かけ湯をしてから湯船に足を踏み入れる。最初は濁り湯にずぶずぶと沈み、肌をじんわりと温める熱さに息を吐いた。無論、タオルは頭に乗せておく。

 温泉には様々な効能がある。が、男でそれを気にする人は居ないだろう。

 男が気にするのは湯加減、あとは女湯が覗けるかとか混浴かとかだ。温泉のお湯に浸かると、家のお風呂がぬるく感じてしまうのは俺だけじゃないはず。普段お風呂が余り好きではない俺も、温泉にはそこそこ長く入る。

 とは言え、今日は桜に呼び出されている。時間を見つつ、俺は全てのお風呂を楽しんだ。

 大体25分経った辺りで脱衣所へ。多少の名残惜しさを感じつつ着替えを済ませ、「810」と書かれたロッカーを閉じる。食堂の入り口、つまりは長い廊下。スマホを見れば時間はぴったりであり、もう桜は立っていた。

「お。珍しく時間に間に合ったじゃないか」

「失礼な。学校に遅刻したことは少ないし、待ち合わせにも間に合ってるぞ」

「学校に遅刻したときはボクが風邪とかでキミを起こせない時だったし、待ち合わせは大体ボクも一緒だからだよね? どうする結城、一か月ボクが居ない生活でもしてみるかい?」

「すみませんでした」

 素直に謝罪。桜は濡れた黒髪を左肩から纏めて前に下している。背中に垂らしているのも良いのだが、全ての髪を結わずに一方向から下しているのは大変大人っぽい。良い。

 浴衣などが無いのは、心の底から残念である。買ってこようかな。

「浴衣とかは買ってくるなよ。……さて、じゃあ行こうか」

「え? どこに?」 

 さらっと思考を読まれつつ、俺は歩き出した桜に問いかけた。彼女は歩みを止めずに、顔だけを後ろに向ける。

 

「――家族風呂。混浴。入るかい?」

「えっ」

 

 後から聞いたが、葵はこの時サウナ耐久をしていたらしい。

 

☆★☆

 

 ぽちゃん、と。

 シャワーヘッドから水滴が滴り落ちた。静かな浴室に音は響き、微かな余韻を残して消える。家族風呂と言うのは別途料金を払い、一つの檜で出来た丸い風呂を貸し切った物だ。当然そこには家族、もしくは恋人友人等しか入れない。

 露天、と言う扱いになるだろう。竹で出来た塀はあるものの、空は遠くまで見る。三日月が綺麗に光っていた。

 俺は桶状の檜風呂の中心当たりに正座している。タオルは頭へ置き、体は全裸。先に着替えて入った俺は、今脱衣所で服を脱いでいる桜を待っていた。

 残念なことに、俺はドアをずっと見続ける度胸は無い。故に外側を眺め続けているのだ。

 桜と混浴……か。混浴をするのは初めてでは無いが、いつになっても緊張はする。幼い頃はまあ大丈夫だったが、異性と言うものを特に意識し始める頃から一緒に入らなくなった。

 今流れている汗はお風呂の熱さの所為だけでは無い。

 俺の臆病……ではない。慎重な精神が告げているのだ。

『おいてめえ、桜の裸を見て生きてられるのか?』

 答えは決まっている。生きてられる訳ねえだろ。

 その状態で生きていられるのはクラスに数人居る陽キャくらいだ。てめえら絶対許さねえからな。

 永大? 永大は陽キャっぽい普通キャラだ。俺はどちらかと言うと陰キャに傾いている。

 悲しき現実、思考がマイナス方面に加速する中で。

 背後で、引き戸の開く音がした。

 俺は風呂の中央から端っこまで素早く移動。ぺたぺたと足音が近づいてきて、かけ湯をする音が響いた。

「体は洗ってないよね。さっき洗っただろうけど、ま、折角だしボクが洗い流してあげるよ」

 ことん、と桶が床に置かれる。

「ああ、体を洗っていなくても気にすることはないよ。温泉と言うのは効能があるから、決して洗ってからじゃなきゃダメと言うのは無いらしい。マナーとしては洗った方が良いだろうけど、ね」

 つらつらと並べられる言葉。水面が揺れて、淵で波が跳ねる。

「それはそれとして。ねえ、結城」

 そして。

 彼女は俺に、予想通りの言葉をかけてきた。

 

「そろそろ、こっちを向いてくれても良いんじゃないかな?」

 

 だ め で す。

 向いたら俺が死ぬ。しかし向かない限り桜は俺を風呂から出さないだろうし、寧ろ煩悩塗れのまま付いてきてしまった俺が馬鹿だったのだ。

 童貞は確かに女子とのそういうイベントに憧れる。

 しかし、いざ自分がそうなった時に行動できるか。それは別問題なのだ。

 考えろ。俺。この荒野行動しているときにクリアリングを怠る俺の脳。回れ!!

 直後、俺は頭に乗せたタオルを使って目隠しを作ろうと考え、動いた。ばちゃん! とお湯が跳ね、飛び散った水滴が落ちるよりも早い腕。タオルを掴む、しかしその直前に——

「だーめ」

 桜の一声と共に、タオルが取り上げられた。

 距離的に、足で取られたタオル。何とも器用な行動に舌を巻きつつ、次に俺はお湯を後ろにぶっかけた。

 まずは彼女の目を見えなくして、その隙に横を通り抜ける。

 裸は見たい、でも勇気はない! 複雑な感情をエネルギーにして動き、お湯が再度、大きく音を立てた。波紋が広がり、後ろで桜が息を飲んでいる。音だけで状況を察知しつつ、一気に湯舟から脱出する……!

 刹那。

「ちっさ」

「待って名誉のために言わせてもらうけどこれはまだ真の姿では無いから取り合えず男性の心をぼこぼこにするのは辞めて!!」

 確かに、言葉は短く声も小さかった。

 だがそこに込められているのはデトロイトスマッシュ、いやマキシマムファイア並みの破壊力。男性の心を砕きかねない魔の言葉……ッ!!

 しかし、よく考えれば桜から俺の体の正面は見えない。背を向けているのだから。

 落ち着けばブラフだと直ぐに分かるハズだった。だがもう振り返ってしまった俺は、桜の生足を見て、妖しげな笑みを浮かべている彼女を見て、吸い込まれるように体を見て———

「えっ」

 固まった。

 桜は、裸ではなく。

 薄緑色の、薄っぺらい浴衣のようなものを着ていたのだ。

「おや? どうしたんだい、そんなに驚いて。まさかキミは、ボクがわざわざ男に裸を見せに行くような女だとでも思っていたのかい?」

 固まる俺、湯船から身を出して淵に腰掛ける桜。楽しそうに、意地悪そうに、赤く上気した頬と体を震わせている。見とれるほど綺麗な笑みを浮かべ、彼女は俺にタオルを投げつけた。

「いくら裸を見慣れた仲だからと言って、思春期なのに隠さないのは頂けないかな」

「お前が取ったんだろ!」

 それに見慣れてなんかいない。あいつの体を見慣れる事は、多分一生無い。

「ね、結城」

「なんだよ」

 

「その、そんなに大きくなってるのは、入らないかもです」

「見てないだろあたかも見たかのように言わないで!!」

 

 ……あれ。でも今タオルを投げつけられたんだよな……?

 

☆★☆

 

 それから二十分くらい、俺と桜は狭い風呂に浸かっていた。体が少し触れるたびに、桜はほんの少しだけ体を押し付けてくる。ちょっとすると離れて、また寄り添ってくる。

 言葉は特になく、ただ俺がドキドキしているだけだった。

「……そうだ」

「どうした?」

 ふと、桜が呟いた。彼女は湯船の中で立ち上がると、逆上せそうな顔を拭う。

「結城、体洗ってあげる。椅子に座って」

「……冗談だよな?」

「本気だよ、ばーか」

 俺の額を優しくつついた彼女はそのままシャワーの前に行き、シャンプーを手の上に乗せた。そのまま少し掻き混ぜて、彼女は俺を目線で促す。

 桜のイケメン力にぼろ負けしつつ、普通に元から負けてる事にも気づきつつ、俺は素直に腰掛けた。

「じゃあ、目を閉じて」

 そして、優しく丁寧に髪が洗われ始める。こんなとこでも無駄に上手い桜。乱雑な男の手とは違い、華奢な指が髪の間を通り抜けていく。

「目隠ししていると、他の感覚が鋭敏になるみたいだね。二、三回目の時に試してみるかい?」

「何が二、三回目かは良く分からないけど桜さん逆上せてません?」

「いや、大丈夫だよ。ほら、流すよ」

 泡が全て流されて、桜は次にタオルにボディーソープを付けた。付けたところで彼女は固まり、恥ずかしそうに俺を見つめる。どうしたのか、と思った直後。

「あの……ごめん。手とか体で洗った方が良かったかな……?」

「やめて? 落ち着いて? いややって欲しいんだけど今じゃないかな?」

 スキル! ヘタレEX発動!

 

 そのまま特に何もなく(股間を洗われかけたり、背中に手を這わせてきたり、耳を舐められたりは例外)、桜によって俺の体は洗われた。

「じゃあ俺、湯船に浸かってそっぽ向いてるわ」

「何で?」

「何でって、洗う時には流石に湯浴み着? 取るだろ。だから」

「いやそうじゃなくて」

「え?」

 桜は椅子に座り、湯浴み着の前を解いた。

「洗ってくれないのかい? ボクは君のことを懇切丁寧に洗ったのに」

「……えっ」

 はらり、と。

 前の結び目が解かれ、肩から外れた湯浴み着が床に落ちる。

 頭から臀部の終わりまで、美しいくびれのライン。肩甲骨はうっすらと浮かび、その隙間に汗かお湯が溜まっている。白い肌を伝う水滴は臀部から滴り落ちる。はだけた湯浴み着は臀部を隠しているものの、少しだけ覗く臀部の割れ目が艶めかしい。

 桜は静かに、ゆっくりと湿った黒髪を背から肩に乗せ、胸の上あたりへと流した。

 露わになるうなじ。首を少しだけ捻り、彼女は蒼い目を俺に向ける。

 何も言葉はなかった。雰囲気に……いや、雪柳桜の魅力に呑まれた俺は、そっとシャンプーを手に乗せる。

 夜空の下。水滴が滴る音や桜の息遣いしか聞こえない、二人だけの空間。

 桜はそして、口を開いた。

 

「ごめん。髪はその、キミの為に綺麗に整えておきたいから……洗うのはそういうのを気にしなくなるであろう、数年後にしてくれないかな?」

「ちっくしょう洗うの下手でごめんなさい!!」


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