俺とクーデレ幼馴染の日常   作:ラギアz

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これから更新頻度が遅くなります。一か月くらい。
え? 今までだって遅かっただろって?

・・・(知ら)ないです。


俺と幼馴染と初詣

 新年になると、日本人は様々な風習を執り行う。おせちを食べたりお年玉を貰ったり、鏡餅を開いたり。因みにだが、鏡餅は蛇がとぐろを巻いている姿だとも言われている。カグツチやオロチ……チ、と言うのは民俗学的に強大な力を持つ蛇の事も表す。蛇の目はまるで鏡の様でもあるし、何と脱皮すると目も剥がれるのだ。

 いやまあ、そんな事はどうでもいい。

 流石に新年ともなれば葵も帰ってくる。両親は忙しいらしく、お年玉だけを送ってきた。桜の分も。俺と葵も何故か桜の両親からお年玉を貰い、俺――――暁結城は更に桜の父親とも二人で話した。すげえ緊張した。

 ……いやでも親父さん。式場は早いですよ。

 さて、今日は一月三日。三が日最後の日だ。元旦、二日、とおせちを食べつつ、炬燵でぬくぬくしていたものの、そろそろ外に出るべきだろう。

 

☆★☆

 

 平均平凡な俺は、完璧超人の幼馴染雪柳桜と共に住宅街を歩いていた。葵は中学時代の友人と二つ駅を挟んだ天満宮へ。中三のあいつは受験生である。どこに受験しようともあいつなら受かる気がするし、なんなら慶應義塾とかも行けそうだ。

 どこに行くのかは聞かされていない。兄なのに!!

「いやあ、寒いね。海辺だからか、やけに風が強いのもあるけどね」

「おっ、そうだな。まあ俺は着込みまくってるから大丈夫だけど、桜は和服だもんなー」

 桜が手に息を吹きかけながら呟き、俺もそれに賛同する。

 ユニクロの薄いダウンにダッフルコートを重ね、手袋にマフラーを装着した俺に死角は無かった。が、そこそこの温かさを確保している俺の隣には、白を基調とした和服姿の桜。寒そうである。

 あいつの家は、両親が割と行事に積極的なタイプだ。和服と浴衣は大量に揃えてあるらしく、祭り等にも着させるらしい。桜自身が和系統を好きなのもあって、彼女の和服姿はもう見慣れて……ないな。うん。今でもドキドキするしね。

 白い生地に薄桃色の花弁を咲かせている和服の上に、桜は十徳? だったかを羽織っていた。

 しかし、それにダッフルコートレベルの温かさを確保は出来ないだろう。事実、冬真っ盛りの寒さに桜は身を震わせている。コンビニでもあれば肉まんやコーヒーを買うのだけれど、この住宅街にそんな物はない。男女が並んで歩いていて、男が完全防寒というのは些か格好悪いか。

 少しだけ迷った後に、俺はマフラーを外す。寒気が露わになった首を冷やす中で、そっと黒いマフラーを桜に巻いた。

「……良いのかな? 寒くないかい?」

「大丈夫だ。手袋もいるか?」

「いや、いらないよ」

 桜はそう言うと、柔らかく微笑みながら俺の手を握った。指先をつまむ程度の、優しい握り方。そこで手をぐにぐにした後に、桜はしっかりと指を絡める。

「ん。あったかいね」

 俺の顔を見上げて、首を傾げる桜。彼女の頬は緩んでいて、赤くなっていた。

 

「あけおめーことよろーおとくれ」

「あけおめ、ことよろ、やらん」

 神社の鳥居のところには、永大と凛、アイリスが立っていた。永大が早速挨拶をしてきて、俺もそれに返す。

 因みに今のは、

 あけましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします。

 お年玉くれ。

 の三文を縮めたものだ。そのハズだ。

「あけおめー!」

「あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します」

 凛とアイリスとも挨拶を交わし、今年初の顔合わせも済んだ。スマホを見れば時間通りの集合。年末年始に起きた事を面白おかしく話しつつ、俺たちは境内へと足を踏み入れる。

 年始になれば、多少大きな神社であれば屋台が出るのはご存じだろう。

 それはこの神社とて例外ではない。入口近くにあったお好み焼きを早速食べながら、長い長い参拝客の列に並ぶ。交代制での買い出しをすることになり、一番最初は俺と永大だ。

「……さて。何食う?」

「なんでもいい。が、温かいものがやはり良いだろうな」

「例えば?」

「か き ご お り」

「オ ニ ゴ ー リ」

「ってそれはポケモンやないかーい!」

「あ、大判焼きの……あんこを三つ、カスタードを二つお願いします」

「てめえ素に戻ってんじゃねえぞ暁ィ!!!」

 叫ぶ永大をスルーしつつ、大判焼きを購入。近くで焼きそばとたこ焼きも買い、桜たちの元へと戻った。

 入れ替わりに桜、アイリス、凛が出店を見に行く。残された俺たちはもそもそとたこ焼きを食べ始め、熱さに敗北していた。

「祭りとかの悩みはあれだ、飲み物が少ない。それが致命的だな」

「確かに。でも、神社に自販機は合わないからな。やっぱ、水の一本は用意すべきだよな」

「当たり前だよなあ?」

 そして、やはり会話は斜め45度下をえぐり込む。

「で。女子の服装は新年早々良いですなあ」

「桜は勿論、アイリスの黒ストは神」

「知ってるか? 凛の白いダウンの下、縦セタなんだぜ?」

「あの胸で?」

「あの胸で」

「……自分の武器を理解してるよなあ」

「な。と言うか悪いが永大……」

「ん?」

「縦セタはアイリスのが似合うと思います」

「弁護人、意見をどうぞ」

 

「はい。まず、アイリスはお淑やかです」

 (白状態)が付くけどな!!

「なので縦セタだけを着て、下はまるで何も履いてないかのような『近所のえっちいお姉さん』と言う位置がとても似合います。あ、下着は履いてなきゃダメだぞ。その状態のノーパンは邪道だ。ブラも無しで揺れてる胸が見たい。それで家事力高いと尚良い。勉強できると尚良い。ちょっとだけドジなのもいとおかし」

「ふうん。で? キミはその『近所のえっちいお姉さん』と何をしたいのかな?」

「ナニをしたいに決まってんだr……はっ!?」

「死ね、この、アホ!!」

「吉田沙保里並みのパンチッッ!!!」

 こうかは ばつぐんだ!

 暁結城 は 倒れた! しかし 逃げられない!

「いやお前……吉田沙保里さん並みのパンチ食らったら死ぬだろ」

「死ぬ、で済まねえよ」

 鳩尾をさすりながら立ち上がると、目の前に薄桃色のダウンジャケットがあった。

 視線を上げれば、嬉しそうなアイリスの顔。隣には呆れたような凛が両手に袋を持っている。

「……どっから聞いてたの?」

「『はい。まず、アイリスはお淑やかです』からですよ♪」

「最初からじゃないですかやだー!!」

「うふふ。ほら、ぎゅーってしてあげますよー♪」

 アイリスの両腕がにゅっと伸びて、俺の首の後ろで組み合わさった。にこにこしているアイリスはそのまま俺を自身に引き寄せ、それに従って俺の顔も着地した。

 そう――――――その、聖なる女神の双丘へと(訳・胸に顔を埋められました)。

「あー、もう。何時でも言ってくれたらぎゅーっとしてあげますよ?」

 アイリスは抱きしめる力を強くしながら呟く。次いで胸元に顔を近づけた彼女は、あたかも俺の耳を舐るように囁いた。

「このままドロドロのぐちゃぐちゃになるくらい愛し合っても良いのよ……? 結城……♡」

 あっやべえこれ落ちる。

 耳元には熱い吐息。艶やかな声が、脳を刺激する。柔らかさに包まれながら、思わず頷きそうになって、

「全身の関節という関節を外したら人体ってどれくらい伸びるんだろうね結城気になるかなそんなに試したいのかな良いよ実験しようか人体実験だよ楽しみだね始めようか今すぐ」

「それは事件だ桜!」

 突然燃え上がった背後からの殺気に体を跳ね上げた。そのまま二、三歩後ずさりしつつ永大の後ろへ逃げ込む。間髪入れずの行動に、アイリスは残念そうな表情を浮かべ、桜はごきんっ! と右手を鳴らしていた。

「……浮気はなあ……流石に擁護出来ねえよ暁」

「待って! 許して下さい! 何でも志摩スペイン村!」

「帰ったら覚えておきなよ……?」

 蒼い瞳に怒りの炎を燃やしながらも、ひとまず桜は落ち着いてくれたらしい。俺の手から大判焼きの袋を取ると、あんこ入りのを取り出して食べ始めた。アイリスに警戒の睨みを利かせつつ、桜はさりげなく俺とアイリスの間に入り込む。

 うーん。むねってすごい。

「反省してるのかな……?」

「あー参拝の順番ださあーて十五円はあるかなあー!?」

 話題をそらしながら財布を覗き込み、十五円を取り出す。十ぶん、五円が、ありますようにと言う願掛けだ。

 参拝の作法は、二礼二拍手一礼。因みに住所と名前を言ったり、日ごろの感謝も伝えるのも作法の一つだ。何より、お願い事は目を開いてする。

 理由は単純で、俺たちは鈴を鳴らして神様を起こす。

 そこでお願い事をするんだから、やはり頼みごとをするときには相手の目をしっかり見なさい、ということだろう。

 そこはかとない豆知識としては、神社が一番多いのは新潟県。

 因みに、俺が好きなのは諏訪大社と白狐稲荷神社である。そこの歴史は最高に面白い。

 まあ、そこを話すと長くなる。俺は十五円を、汚れを落とす様なイメージで賽銭箱に入れた。間違っても投げて入れてはいけない。失礼だからね。場所によっては仕方ないところもあるけれど。

 住所と名前、日ごろの感謝を伝え。うっすらと目を開きつつ、俺は本題のお願いごとに入る。

(……永大、凛とアイリスとかと同じクラスになれますように。生徒会もうまく行きますように)

 それと――――――、

 最後に一番大事なお願い事をしてから、俺は一礼。足元に置いていたバッグを取って列を抜け、皆の居る販売所のところへ向かった。

「さて、お守りは……特にいらねえか。受験も無いしな」

「それよりさ、おみくじ引こうおみくじ!」

「おっ、いいねえ。じゃあ俺大吉ー!」

 選べねえよ。

 真っ先に走り始めた永大と凛を追いかけ、100円と書かれた場所にお金を入れる。八角形の木箱を振ってから棒を取り出し、その番号の書いてある引き出しを開けた。

 一番上の紙を取り出す。おみくじ、と書かれている紙の運勢は大吉だった。

「よし。これで一年間は安泰だな」

「……失物出ない病気長引く引っ越しやめとけ……それで本当に大吉なのかい?」

「えっマジで? ……うわ本当だ! いやでもまって! 待ち人来てるって! 縁談良いって!」

「彼女持ちだよね君は!!」

 そう叫ぶ桜の手には、やはり大吉のおみくじが握られていた。わき腹をついてくる桜の口に大判焼きを入れ、永大の結果をのぞき込む。

「やーい小吉でやんの!」

「うっせえ暁! てめえ何凶だ!」

「なんで凶って確定してるんだよ! 残念、大吉なんだよなあ」

「神は裏切ったのか……?」

「お前の運が悪いだけだと思うよ」

 凛は中吉。アイリスは大吉。結果的に、皆それなりに良い結果に落ち着いた。永大だけは不満そうだが。

 おみくじも引き、参拝もし、屋台も楽しみ。新年の顔合わせも終えた俺たちは、もう帰路に着いていた。長い石畳の階段を下っていると、途中で桜が肩を叩いてきた。

「結城、結城。……その、お願い事は何にしたのかな?」

「いやまあ、普通に色々だよ。桜は?」

「……君と同じことだよ、きっと」

 顔を赤らめ、そっぽを向く桜。恥ずかしそうにしている彼女を見て、俺は思わず告げる。

 

「お前まで……おでんのだいこんに溺れたいと思っていたのか……」

「君は何をお願いしているのかな!? バカなのかな!!」

 

 無論冗談である。

 しかしまあ、言うわけにもいかない。お願いしたことをほかの人に言うと、叶わなくなるらしいし。

 だから、と言う訳でも無いが。単に恥ずかしいというのもあるけれど、

 

 桜と今年一年間ずっと一緒に居るためにも、願い事は口に出さないでおこう。


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