俺とクーデレ幼馴染の日常   作:ラギアz

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俺と幼馴染と登校時間

朝。

月曜日、殆どの人が憂鬱に思う魔の日だ。しかし空は真逆に晴れ渡っている。春の、少し暖かく成り始めた柔らかな風が満開の桜並木にピンクの吹雪を吹かせる。その中。ベランダを乗り越え、隣の家の窓を静かに開けて、その部屋に降り立つ少女の姿があった。

 

長い黒髪を揺らす、人形や絵画の様に整いすぎたスタイルと顔を持つその少女は、青い瞳で爆睡している少年の顔をじっと見つめる。

この風景を他の人に見られたら一瞬でパニックになる事間違いなし。成績優秀で、容姿端麗。完全な美少女が幸せそうに、微笑を浮かべて見つめているのは平均平凡などこにでも居る男子高校生なのだから。

時刻は六時半。なのにも関わらずもう高校の制服に身を包んでいる少女――――雪柳桜は、少年の体を優しく揺する。

桜は、この少年を起こすのを日課としている。

朝ご飯を作って上げて、一緒に食べるのも。登校するのも。

付き合ってんの!?とか言われそうな関係だが、少年――――暁結城は頑なにそれを否定する。

桜としては別に結城と恋人でも良いのだが。昨日も、聞き間違いの所為で大変な事になりかけた。

中々起きない少年に業を煮やした桜は、少年から布団を剥ぎ取る。寒そうに手を伸ばして布団を追いかける少年に向けて、桜はどやっと笑みを浮かべた。

 

「ほら、寒いだろう?春とはいえ、まだ四月も序盤。さっさと起きた方が――――ちょおっ!?」

 

布団を右手に持って、語る桜。その口調は途中で途切れ、次いでぼふっと言う音が結城の部屋に響く。

理由は簡単。温もりを求め、寝ぼけている結城が桜を掴んで、そしてベッドの上に引き寄せたからである。

急な攻撃(?)に不意を取られ、桜はそのままベッドの上に倒れ込み、寝っ転がっている結城に抱き枕代わりにされる。

満足げに頬を綻ばせて、腕の中に包み込んだ桜の温もりを味わいながら少年は再び深い微睡に落ちていく。

勿論、急に抱きしめられた桜は思考が追い付かず顔が真っ赤になっているが。それはそれで、体温が上がって温もりを提供する抱き枕としては役目を果たしているだろう。

 

(……ななな何でボクは抱きしめられているんだろう。いつもはこんな積極的な事しないのに。昨日告白紛いの事をしてきたからかな!?いやでも、態度としてはバレバレだったし、幸せだったけど……違うよ!そこじゃないよ!というか、安心するなあ……。温かいなあ。このままでも良いかもしれないと思うボクが居る。落ち着いて、落ち着いて。円周率を100の段まで言うんだ、ええと、3.14……)

 

そのままヒートアップする思考で、高性能な頭を別な事に使い始めた桜。

もぞもぞと少年がみじろぎする度に「ひゃっ」と声を上げつつ、円周率を言い終え心を落ち着かせた少女は、結城を起こすべく腕の中でぐるりと回転する。

結城のお腹に背中を付けていた態勢から、向かい合う様に。胸がぎゅむっと押しつぶされ、それにも桜は赤面する。

 

「お、おい。そろそろ起きたrひゃあああっっ!?」

 

『起きたらどうだい』、そう桜が言うとした瞬間。

寝ぼけていて、そして温もりを求める結城は自身の腕の中にある桜を無意識の内にぎゅうっと強く抱きしめた。

それに反応して、更に顔を真っ赤にさせる桜。くたりと力の失い、ふにゃけた頭で、桜はそっと思う。

 

――――もう、このままで良いや、と。

 

 

☆★☆

 

ジリリリ!! と目覚まし時計のベルが鳴り響く。もぞもぞと動き、手だけを伸ばして俺はそれを叩いて止めた。

しかし、珍しい。普段は桜が起こしに来てくれるから、目覚まし時計が鳴る時間まで寝ていると言う事は滅多に無いのだが。

そんな事を思いつつ、俺は腕の中にある柔らかな温もりを抱きしめる。

「ひゃうっ!」

すると、そんな声を出して温もりは身じろぎをし……た……

 

……!!??

 

「きえええええええええ喋ったあああああああああああ!!??」

「ま、マッ○のCMみたいな叫び声を上げないでくれないかな!?」

 

慌てて腕の中の温もりをベッドに放置して、俺は一気に床へと飛びのく。ずざざー! と後ずさりすると、ベッドの上では顔を真っ赤にさせ、両足を外に放り投げてぺたんと座る桜の姿があった。

艶やかな黒髪ロングストレートに、朝の光が反射する。青い瞳は桜の後ろにある窓から見える空の様に美しく、澄み渡っていた。

状況と桜の綺麗さに呆然としていると、制服姿の桜は恥ずかしそうにベッドから降りる。その時に名残惜しそうな顔をしたのは気のせいだろうか。

 

「……御飯、作るから。着替えたら降りて来い」

「ああ、ありがとう。……なあなあ、この会話って新婚っぽくない?」

「良いから黙って着替えろおおお!!」

 

 

 

桜の居なくなった部屋で、俺はもそもそと着替え始める。制服は楽である。選ばなくても良いから、時間は取られず直ぐに着れる。

まあ、私服でも選んだりはしないんだけれども!

鏡の前に立って、改めて制服姿の自分を見る。

 

黒髪黒目に、平均平凡なスタイルと顔。紺色のブレザーに黒いセーター、白いワイシャツに校章。

灰色のズボンに、リュックが俺の通常スタイル。因みに部活はテニス部でした。

 

「高校でも部活決めなきゃなあ……」

 

テニスを続けるかどうかは、悩みどころだ。もっと他の事もやってみたいし。

 

「まあ、あれだよな。バスケとかバレーしてる桜を見てみたい」

 

別にどこが揺れるとかではないから、勘違いしない様に。

揺れてるのを見たい……なら、バから始まる競技最高。あれ、バスケもバレーもですね?

 

着替えを終えて、俺はバッグを持って下に降りる。エプロンを付け、長い黒髪をロングポニーテールにしている桜はもう配膳を終えていた。

 

「ほら、早く席に着いて。食べるぞ」

「あーい」

 

腰に手を当てて、告げる桜。まるでお嫁さんである事に、本人は気づいているのだろうか。

取り敢えず素直に俺は席に座り、桜も目の前の席に座る。二人揃っていただきますと言い、さっそくご飯を食べ始めた。

 

 

 

 

俺と桜の通う事になった高校は、徒歩20分のところにある。

無論、その高校で瞬く間に有名になった桜は登校途中、歩いているだけでも色んな男子生徒から話しかけられ続ける。先輩同級生関係なく。

まあ、そんな事があるのに俺は桜と一緒に登校するわけには行かない。だってそしたら色んな男子生徒から殺されるから。

 

……と、思っていたら。どうやら桜曰く、

 

『他の男子生徒が君の事を気にするわけないじゃないかこの平均平凡。分かったら早くボクの護衛として一緒に行くぞ行くんだ行かなければならないんだよボク以外と学校に行くことは許さないからな』

 

らしい。

半ば強制的に俺は桜と一緒に学校へ登校する事に成ったのだが、やはりというべきか途中の男子の視線が凄まじく突き刺さってくる。

中には気にすることなく桜に話しかけるイケメン達もいるくらいで、そう言う奴らは上手い感じに俺と桜の間に入り込む。マジ俺ぼっち。

 

まあ、今日もそんな感じで俺は絡まれ続ける桜よりも先に学校に付いて、自分の席に突っ伏していた。

 

疲☆れた。

 

「おーっす!おお暁、お前今日も疲れてんなあ!」

「おーっす……もう疲れたんだよう」

 

そんな俺に話しかけてきたのは、親友である岡取永大だ。

こう書いて、おかとり えいだい である。そのままである。

長身に短い茶髪、俺と同じくリア充ではない。小学校からの付き合いである。部活は俺と同じテニス部だった。

 

「さてさて、今日から部活動体験な訳ですが。お前はどうすんの?テニス?」

「いやあ……どうすっかなあ、と思ってる。お前は?」

「俺も。んじゃあ、放課後一緒に廻ろうぜ」

「おう、良いぞー」

 

「おい」

 

机に伏せている俺と、永大で話が纏まった、その瞬間。

突然、俺の後頭部に思い衝撃が走る。低い声色、怒りが込められたその声に、俺と永大はびくうっと身を跳ね上げた。

 

「ボクを置いて学校に行って、この後の予定を呑気に友達と話すなんて、ちょっと無いんじゃないかな!」

「いやいや、俺とよりイケメン達と一緒の方が楽しいだろ絶対!カッコいいし面白い話もできんだろ?」

「リア充爆ぜてほしい……!」

「そういう事じゃないんだよ!ボクはね、あんな奴らより……!」

「止めろ!それ以上暁と雪柳さんの世界を作らないでくれ!」

 

永大が叫び、桜が口ごもる。

そのまま固まっていると、チャイムが鳴り響いた。

 

「……取り敢えず、放課後にはボクも一緒に部活見学するからな!良いな!」

「良いよー」

「暁が良いなら俺は歓迎するぜ!」

 

最後にそう言い残して、桜は自身の席へと戻っていく。

 

「部活、何にしようかなあ……」

 

ぽつりと呟いて、俺は先生の立つ教壇へと目を向けた。


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