あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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十四話

ゆっくりとリエラは目を覚ました。

 

.....あれ私生きてる?

ぼんやりとした意識の中でそう思った。

次第に意識がはっきりしていく。

そうだあの時、私は撃たれて倒れた。

今でもあの瞬間を思い出せる。リアルな死が這い寄ってくるあの感覚を。

ここはどこ?

直ぐに自分が車の荷台の中に居る事が分かった。

色んな物が所狭しと押し込まれていて私もその一つだった。

 

まさか敵に捕まった?

あの時の前後関係を考えれば間違いなくそうだろう。

帝国軍に捕虜にされているのだと思った。

だからごそりと現れた人物に強く警戒した。

 

「あ、起きたのね」

 

良かったと微笑む栗色の髪の女性。

その女性が着ている服を見て緊張が抜けるのが分かった。

なぜならその女性が着ていたのはガリア公国の軍服だったからだ。

良かった、私は味方に保護されたのだ。

安心からふらりと体が傾く。

女性が慌てて体を支えてくれた。

 

「ありがとう」

「もう大丈夫です安静にしていれば直ぐ良くなりますよ」

 

慈愛に満ちた声だ。心が落ち着く。

ゆっくりと視線を巡らす。

どうやら大型四輪自動車の中の様だが。

 

「あのここは?」

「まずは自己紹介ね、私達はガリア義勇軍第七小隊、私は副官のアリシア。

そしてここは私達と同行している方のトラックよ、荷台を借りて貴女の治療をしていたの」

「なぜ私は生きているのでしょうか?」

「銃弾は心臓の上をそれて抜けていったわ奇跡というしかないわね。

そしてここには大量のラグナエイドがあった、貴女が助かったのはこの二つがあったおかげよ」

 

それも同行者さんに感謝しないとね。とアリシアさんは言った。

どうやら治療する場所だけでなく治療道具まで惜しみなく分け与えてくれたのだそうだ。

リエラはコクりと頷いた。

その同行者さんには感謝しなくちゃ。

 

「貴女は道の真ん中で倒れていたのよ覚えてない?」

 

全く覚えがなかった。

私は森の中で敵に撃たれた。なのにどうしてそんな所で倒れていたんだろう。

クルト達もどうなったのだろうか。

あの爆発ではとうてい助からないのでは。

そんなよくない想像ばかりが頭をよぎる。

 

「アリシアさん、私が倒れていた近くに私と同じ服の人達はいませんでしたか?私の仲間なんです」

だがアリシアさんは残念そうに首を横に振った。

その場にいたのは私ひとりだったらしい。

仲間が私を置いていくはずがない。

つまりはそういう事だろう。

 

暗い表情になるリエラを励ます様にアリシアが言った。

 

「きっと大丈夫よ、貴女の仲間は生きてるわ、今もどこかで貴女を探しているはずよ!それまでは私達と一緒に行きましょう?まずは貴女の怪我を治さないとねっ」

「はいありがとうございます」

 

それは只の慰めだったのだろう。だが、

......そうだきっと生きてる。

強くリエラはアリシアの言葉を信じた。

そう思わなければ気が狂ってしまっていただろうから。

 

「そうだ貴女が目を覚ましたら呼んでほしいと頼まれていたんだったわ。

この荷台をかしてくれた人なんだけど会ってもらえるかしら?」

「はいぜひ私からもお礼を言いたいので」

 

体調が万全じゃないなら無理しなくて良いのよ?と言ってくれたがリエラは大丈夫ですと言った。

ここの医療物資がなければ死んでいた身だ。

それらを無償で提供してくれたのだ。命の恩人と言っても過言ではない。

きちんとお礼を言いたかった。

 

血を失い過ぎてぼんやりする頭でもそう考えた。

だが何かを忘れている気がする。

重要な何かを。

 

アリシアさんの言葉を聞いてから違和感を覚えていた。

だけど何もおかしな事はなかったはず。

彼女達は義勇軍第七小隊所属で彼女は副官.......。

 

まって第七小隊とはどこかで聞いた覚えがなかった?

しかもごく最近の事だ。

あと少しで答えが見つかる謎解きの様なもどかしさを感じているリエラにアリシアは言った。

 

「そうそう彼良い人だから安心してね、私達や隊長のウェルキンも信頼しているから。

()()()さんの事は......」

 

——ハルト。その名前で全てを思い出した。

リエラの喉元から声が出かかった。

そうだ。ここが、この部隊こそがそうではないか。

この部隊こそが私達のターゲットだ。

その目標こそがハルトその人である。

今ようやくリエラは自分の置かれている立場を理解した。なんたること、

つまり自分は目的対象のいる部隊に拾われてしまったのだ。

なんたる偶然。いや偶然ではない。

そうなる可能性はあまりにも高かった。

 

状況を理解した上でリエラに出来た事はといえば、うそでしょ......と愕然としながらこれから待ち受ける未来について想像する事ぐらいであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

あの重傷者が目を覚ました事を受けてラインハルトは荷台に入る。

内心やや驚いていた。

まさかあの傷で直ぐに目を覚ますとは思わなかったのである。

当分寝たきりだろうと思っていたが。

驚くべき回復能力だ。本当に人間か。

そのゴリラガールもといリエラ(アリシアから聞いた)と面会する。

 

リエラはというと何だか落ち着かない様子だ。

ラインハルトが入って来た瞬間からせわしなく視線が泳いでいる。

動悸も激しくなっているようで興奮状態が見て取れる。

明らかに俺に対して強い興味をもっていた。

 

.....これはビンゴか?

リエラの分かりやすい動きが逆にブラフにも見えたが、話をして直ぐに分かった。彼女は嘘をつくのが得意な人間じゃない。貴族社会で生きてきたラインハルトにはそれが良く分かる。

特に相手がなぜ自分に興味を持っているのかを図るのは容易だ。

投げ入れる餌に食いつくかどうか泳がせるだけでいい。

 

「.....なにわともあれ健勝な様子で何より。手助けをした甲斐があったというものだ」

「は、はい。ありがとうございました助けて頂き感謝します」

「礼には及ばないさ。ガリア軍の為に働けたなら俺にとって無類の喜びだ。故郷より持ち込んだラグナエイドが無駄にならずにすんだ」

「素晴らしい性能ですね流石は連邦の....」

 

あっさりと餌に食いついた。

彼女は俺が連邦から来たことを知っていた。

ガリア国内の人間ではないと予め知っていなければ分からない情報をだ。

やはり確定だな。いや話を聞いた限りセルベリアが動いた事は確実、恐らく彼女の手によって運びこまれたのだろう。つまり彼女こそが追跡者。俺の首を付け狙う猟犬だ。

少し想像とは違ったが。

 

ともあれセルベリアはお膳立てをしてくれたというわけか。

それにしては早すぎるが。

やれやれ優秀過ぎる部下を持つと気苦労が絶えないな。

 

さて追跡者の一人を確保した時点でこの旅は俺の勝ちといえるだろう。

なにせガリアが俺を追っているという事実を確認できただけでなく、同時に猟犬の首輪を掴む事に成功したのだ。

後はこちらで相手の追跡をコントロールできる。

王都に行くまでの間、俺が捕まる可能性はほぼ無くなった。

 

後は何事もなく次の街を経由すれば河川に出る。

そしてかの有名なランドグリーズ前の大橋を渡れば王都は目の前だ。

目的は完遂される。

 

まあそう簡単にはいかないだろうな。

まず間違いなく障害はある。

ウェルキンに聞いた限りでは帝国軍の動きが予想よりも早い。

次の街は最前線からそう離れてはいない。

帝国軍が動く前に街に到着すればいいが間に合うだろうか。

あるいはガリア正規軍が耐えきればそれで良い。

 

手札は残り少ない。

俺とイムカ、義勇軍第七小隊そして猟犬。

打てる手がある内に策を弄す必要がある。

ここまで来て捕まる訳にはいかない。

それは帝国軍に対しても言えることなのだから。

 

「これから短い道のりだがよろしく頼む」

「よ、よろしくお願いしますハルトさん」

 

俺はリエラと握手をした。

こうして知らずにリエラはラインハルトの遠大にして無謀な計画に組み込まれるのであった。

 

 

 

 

 


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