あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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七十話

......『ブリッツクリーク』という戦術がある。

その要諦は進撃速度と目標破壊力の大きい戦車を中心とする装甲兵力を集中して運用し、敵の防衛線の最も弱い部分に突入してこれを突破する。

突破後は機動力を活かして適地奥深くまで侵入して交戦し、敵を攪乱して戦意を喪失させることを最大の目標とする。そのためには戦車が破壊できない堅固な目標は歩兵や砲兵攻撃に任せて迂回し、また,進路上の障害物は空軍の『爆撃機』に攻撃、破壊させ可能な限り装甲部隊の進撃速度を遅らせないようにする作戦の事だ。

 

これによって戦車隊の被害を最小限に抑えながら、最大の攻撃を与える事が可能となる。

19世紀を代表する戦術の一つだ。

まさか実際にこの目で見る事になろうとは思いもしなかった。

 

「....どうやら敵には戦車戦の天才がいるようだ」

 

認めよう。

いまこの瞬間、この世界において最も最先端の戦術を駆使しているのは目の前で展開している連邦軍だ。一点に集中した戦車隊が鮮やかな機動をもって前線を食い破っている光景は実に見事というしかない。惚れ惚れするような機動だ。コレを考えた指揮官は紛れもなく天才だ。

天才が指揮する戦車隊か。

恐らく帝国の将軍クラスでも彼の部隊と戦術を破れる者はゼロだ。

それほどに、この時代においては完成した戦法なのだ。

こと爆撃機という存在が大きい。

あれではどんなに鍛えられた部隊でも意味はない。

戦闘そのものが出来ないのだ。地上から見上げる事しか出来ない、戦争の定義が崩壊している。

 

もし俺達が敗北して、ここを抜かれた場合――帝国は滅ぶ。

誰も勝てないからだ。

帝都は火の海になるだろう。

そしてニュルンベルクも。工業都市は軒並み破壊される。

あのダルクス人の親子も只では済まない。

大勢の人々の命に危険が迫っていた。

 

やはり戦いを諦める訳にはいかない。

ここで敵の侵攻を止める。

「ですがそれでは矛盾しているのでは?」とシュタインが言った。

誰も勝てないとたった今言ったばかりではありませんか。

であれば我が軍にも勝ち目は無いのでは?.....と。

 

確かにシュタインの言う通りだ。

誰も勝てないと評しておきながら自分が勝てる道理はない。

そう勝てる筈は無いのだ。

......普通であれば。

 

だが、あえて言おう。この俺にとって、

 

「――電撃戦は生きた化石に等しい」

 

俺の前に立ち塞がるには1000年遅かった.

一見、完璧に思えて付け入る隙は多々ある。

故に我が軍が敵に勝っている部分で勝負すれば勝機はある。

 

その一つがヴァジュラの通信システムだ。

あれは俺が自ら作り上げた特別製だ。

瞬時に味方との交信が可能な通信機械をヴァジュラ内部に埋め込んである。

基本的に親機が子機に送受信する為の物だが、マスター機は全員の通信機に送受信が可能だ。

それは俺が持っている。

 

まだ試作段階で完璧とは口が裂けても言えない。

設備が足りない、支援兵器がない、何もかもが足りない。

しかしやらなければならない。

不完全だろうが何だろうが、現状の持てる手札で挑まなければならない。

状況は最悪だ。

それでも負けるつもりはなかった。

俺には力強い仲間が居るから。

 

「その為にもまずは――」

 

第一の目標である、あの爆撃機が邪魔だ。

あれを撃退しない事には我が軍の勝利はありえない。

現在、B-17の飛行機部隊は敵からの反撃がない事を良い事に悠々と北の空を回遊している姿が確認できる。一回目の擲弾降下が終わり、降下地点から離れた為に、北を大きく迂回しながら戻ってくるつもりだ。恐らく次の降下ポイントは中央だろう。侵攻する敵装甲部隊の進路上の敵を破壊する気だ。そしてその中央にはあの部隊がある。

それを確認したラインハルトは、

 

「――急ぎウェルナーに繋げ」

 

この状況を変えられる者が居るとすれば、

それは彼をおいて他に居ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

その通信を聞いた中央相互支援連隊長ウェルナー・ロイエンタールの第一声は、

 

「無理です」

 

だった。その彼は、

金と銀の色素を併せ持った珍しい目線を無線機に注いでいる。穴が空くほどに見詰めていた。

......いまこの無線機の向こうの人物は何と言った?

もしかして聞き間違えたのだろうかと思って聞き返したのだが、帰って来た言葉は、

 

『お前の部隊があの飛行機を撃ち落とせ』

 

やはり荒唐無稽だった。

あまりにも突飛な命令に主君と云う事も忘れて思わず拒否してしまった程だ。

それほどに無理難題だった。

あんな空を飛ぶ怪鳥の如き鉄の塊をどうやって落とせと云うのか。

普段から空想の様な事を言う人だったが、いよいよ頭が変になったんだろうか。

この戦況だ、そうなるのも仕方ない。可哀想に、

 

『.....おい何を馬鹿な事を言っている』

「......口に出てました?」

『ハッキリとな。俺の頭がおかしくなったと思っているようだが.....」

「違うんです殿下!これは.....!」

「構わん。どうせこれから強くそう思うだろうからな」

「え?」

 

首を傾げるウェルナーをよそにラインハルトの声が続く。

 

『命令はただ一つ、爆撃機の撃退だ』

「っ本気なんですね....?」

『無論だ。もうすぐ第二波がやって来る、時間は無いが、お前の力ならあの爆撃機を破壊できる』

「どうやって?」

『88mm高射砲だ、あれを使え。弾は榴弾型を使用しろ。元々は飛行船を破壊する為に用意した武器だ。射程距離の問題は無いだろう』

「無理ですよ!飛行船は前もって機体性能を調べているから予測計算できますが。あの飛行機というやつは何の情報も持ち合わせていないんです!状況が違います!」

 

『今から言う事を記憶しろ。――全長は22.8m、全幅は31.64m、爆弾搭載量4000㎏を超え平原一帯を焼け野原に出来る力を持つ、最高速度は526km/hに到達可能、狙って当てることは出来ない。だが、初戦でそこまでの速さは出さないはずだ。 高度は8,138mまで上昇する事が可能。だがこれも降下爆撃の際は目標に近づくため2000m付近まで接近するはずだ。そうでなくても通常は4000mをキープするに留まるはずだ――他に必要な情報はあるか?』

 

スラスラと回答用紙を読み上げるような容易さで機体性能を暴露していくラインハルトの声が無線機から響く。まるで最初から知っていたかのような淀みない口調に、ウェルナーの頭が追いつかない。

 

「え?へ?何ですか今のは?.....まさか」

『あの飛行機の性能だ』

 

あっさりと告げられた声に、何が何やら分からない。

あれ、おかしくない?何で殿下がその情報を知っているのさ。

突拍子もないとはこの事だ。

.....あー分かった。やっぱり殿下おかしくなっちゃったんだ。

これまでの激戦のせいで精神に支障をきたしてしまったのか。そうに違いない。

 

『違うわ!大馬鹿者!』

「うわあ!また!?」

『いいかげん思った事を口にするのはよせ。

――それより頼んだぞ、お前の予測能力だけが頼りだ』

「っ....つまり失敗すれば」

『....俺を含めた全員が死ぬと思え』

 

その言葉の重みにウェルナーは息をのむ。

僕が失敗すればみんなと殿下が死ぬ。計り知れない重圧だ。

それを感じたウェルナーは思わず足がすくむ――ことはなかった。

 

それどころかフツフツと高揚感が湧き上がるのを実感した。

....これは?

自分に起きた変化にウェルナー自身が戸惑った。

だがこの感覚は悪くない。

そして気づいた、....いま僕は初めて殿下に頼られているんだ。

 

人は弱い。自分達で作った世界の理にしか生きられない。

僕もそうだった。この目のせいで不幸な生き方を強要されていた。

だけどあの人はこの世界の理不尽に真向から立ち向かった。

その鮮烈な生き方に....僕はいつしか憧れていた。

 

今度は僕が理不尽に立ち向かう番だ。

 

「まったく.....あの頃から変わってませんね。いつも貴方は無茶ばかり言う」

『すまない、これしか思いつかなかった。だがお前なら俺達を救ってくれると信じている』

「分かりました、先ほどのは本当ですね?なら.....そこまで言うならやってみましょう。もう時間もないんでしょうから」

『頼んだぞ。あと狙撃兵を借りるぞ――ん?笑っているのか....?』

「じゃあ切りますよー.....」

『――』

 

無線機をoffにして部下に手渡す。

それを受け取った副官は見た。今まで見た事のない青年の自信に満ちた顔を。

思わず見惚れていた彼女は美しい金の瞳がこちらを向いた事でハッと我に返る。

慌てて無線機を持っていった。

 

その後ろ姿を不思議そうに見送ったウェルナーは、ふうっと息を吐き、首を振る。

....やってやる。

何も無茶を押し付けられるのは初めての事じゃない。

先程も超重戦車の弾道計算をしたばかりだ。

Bが観測と計算を行いAに通信で送る。最後にAがBの指示通りに引き金を引く。それと何も変わらない。一つ違う事は平面から立体になるだけだ。何も問題は無い、落ち着いてやれば出来る。

最初の指示を出す。

 

「全砲兵部隊に告げます、破壊目標を空の飛行物体に変更してください」

 

その命令が伝播され、丘陵地帯で戦っていた砲兵部隊が目標を地上の戦車から空の飛行機に移す。数人がかりで照準を変える、その兵器の名は88mm高射砲。その名の通り本来は高い位置に存在する敵を倒すために作られた代物だ。主に飛行船を目的にラインハルトが改良した対空砲である。

野砲でありながら戦車砲を遥かに超える射程の長さから戦車破壊に使われていたソレがここでようやく本来の形で使用される事になるのだと云う事を誰も知らない。

それはともあれ丘陵地帯から平原に至るまで存在する300の照準は空に向けられた。

 

ウェルナーもまた視線は空にあった。破壊目標である飛行機を遠目で確認する。

フォートレスとか言うらしい、あの物体は、

まるで自分達こそが空の支配者であると誇示するかのように、雲より低い所を飛んでいる。

自分達を撃ち落とせるものはいないと思っているのか。

だが、その余裕とは裏腹に驚くほどの飛行速度だ。

あれでは狙って当てるなんて芸当は誰にもできない。

恐らく僕でも直撃は無理だ。

 

――だけど、確率を近づける事はできる。

 

「....弾道計算開始」

 

その瞬間――世界の音が消える。

戦場の激しい戦いの音だけでなく、隣に立つ副官の息遣いすらも聞こえなくなった。

鉄と硝煙の匂いも無くなり、あるのは金と銀の瞳が妖しく彷徨う視覚のみ。

だがその目が見ているのも飛行機ではなく、それを取り巻く膨大な数字と計算式だった。

驚くべきことに彼には測定器を使わずとも彼我の距離が見えていた。

そこから割り出し、弾道がどう放物線を描けば、その距離に到達するか導き出していく。

恐らく彼の見ている世界を常人が見れば吐き気を催すだろう。

それ程に異常な世界の中で彼は式を構築する。

 

その間にも爆撃機はグングンと接近している。

ラインハルトの言う通り機体が徐々に高度を下げている。

コレは降下爆撃態勢と言って目標に近づく事で、擲弾降下による目標破壊の成功率を上げる戦術だ。それによって超重戦車もピンポイントで破壊されてしまったのだが。

 

今回はそれが命取りになる。

最初の降下爆撃による計算(イメージ)は頭の中にある。

そこから照らし合わせれば、どのような編隊で軌道を描き向かって来るかが予測できる。

驚異的な速さで弾道を予測した。

 

「第一砲兵隊は砲塔角度を15上に調整し右に3動かした後、砲撃命令を待て。

 .....第二・第三は飛行集団の両翼を叩き中央に誘導してください」

 

言下に両翼から砲撃が開始される。

放たれた88mm砲弾は目にも止まらない速さで空に向かう。

あっという間に飛翔距離を伸ばして高度2000mまで上がり――その遥か上空の爆撃機に迫る。

百発近い砲撃は、しかし直撃には至らない。

空中の敵を当てるのは至難の業だ。そう簡単には当たらない。

....問題ない。両翼からの攻撃は囮だ、

 

これで敵は警戒して狙いを絞る。

つまり攻撃命令を出していなかった()()()に敵は来る。

来い、そこにある見えない道を通って。

 

捉える射程距離と数多もの放物線が待ち構える、完璧な位置に誘い込まれたとも知らず、

滑空する爆撃機はいよいよ急降下爆撃態勢に移行する。速度を抑えて高度が下がってくる。

.....3000.....2500.....2300。そして、

金銀の目にしか見えない道に爆撃機が重なった瞬間、ウェルナーは第一砲兵隊に命令を下した。

 

「88㎜高射砲(アハトアハト)――発射!」

 

ドドドンッと爆発音が連続して、

50の榴弾が一斉に音を超えて放たれた。

狙いは正確に爆撃機を捉えていた。だが、なんと驚く事に放たれる寸前、先頭の爆撃機が緊急回避を実行したのだ。直前に敵の狙いを読んでいたのか分からないが、もう高射砲は放たれた後だ。

 

「ッ――!」

 

砲手としての勘か、躱されると誰もが思った。

その直感は残念ながら当たる事になる。

まんまと爆撃機は直前で射線から逃れる事に成功し、直ぐ傍を榴弾が通り過ぎたのだ。

全員が絶望する中、

....ただひとりウェルナーだけは笑みを崩さなかった。、

 

その瞬間――榴弾は自ら爆発した。

自壊した瞬間に榴弾の破片が空中に飛び散り、勢いよく四散したその破片が爆撃機を襲う。

甚大な被害を負った。

翼の一部が吹き飛び、左翼のプロペラが破損し、その影響でエンジンに故障を及ぼしたのだ。

 

結果――爆撃機は地上に墜落する。

 

それを追うようにして他の二機も地上に落ちた。平原に落ちたソレはバラバラに砕け散る。

無様に落ちたその姿を敵も味方も見ていた。

無敵の兵器ではない事が証明されたのだ。

 

この事実を敵は驚愕を味方は歓声をもって迎え入れた。

 

 

 

 

***

 

 

 

ブゥゥゥンとプロペラの風切り音が聞こえる程に近い。

黒煙を上げた爆撃機がすぐ横を通り過ぎて行った――

――十数秒後、墜落する爆撃機は激しく地面に叩きつけられ、

そのショックで燃料に引火したのだろう。盛大に爆発する音が風に乗って聞こえてくる。

 

「.....流石だな。三次元弾道予測計算を完全に駆使している。

もはや敵は逃げようと絡めとられるだけだ。奴にしか見えない『空白の道』とやらに....」

「ラインハルト様っ危険です!御下がりを!」

 

不敵な表情で丘上に仁王立つラインハルトが呑気に評する。

その背後で慌てた様子の騎士が必死に訴えるが、意に介した様子のないラインハルトは眼下を見据える。広大な平原が視界に広がっていた。

ラインハルトは前線にほど近い高台に来ていた。丘陵地帯で最も高い場所だ。

 

ここからなら平原の戦いがよく見渡せた

前線に刻まれた傷口を見れば爆撃による被害の大きさが分かる。

そして、その傷口から装甲部隊が侵入した。瞬く間に帝国軍の陣形内部を攪乱する。

 

恐らくアレが電撃戦の核となる部隊だ。

焼夷弾の爆撃で混乱した味方の部隊を的確に攻撃している。

戦車隊を巧みに操り、気づいた時にはもう包囲されている。なす術もなく蹂躙された。

まるで一つの生き物のように帝国軍の陣地を次々と破壊していった。

情報の伝達が早い証拠だ。

悔しいが突撃機甲旅団よりも練度が上だ。あれほど早くは動かせない。

戦車乗りとしての天性の才能だ。

 

手強い敵だが、だからこそ叩き潰す価値がある。

あの装甲部隊さえ撃破できれば風向きは変わるだろう。

...それが最も難しいんだけどな。

 

なぜなら、

爆撃機の影響で一部の前線部隊の通信が乱れているのだろう。

それが原因で他の部隊との統制が取れていなかった。

そんな混乱を極める帝国軍は敵にとって格好の獲物でしかない。

危惧した通りの事が起きようとしていた。

一刻も早く装甲部隊を止める必要がある。

 

ならばどうやって撃破するのか?

普通の部隊では無理だ。同様に第三機甲軍でも難しい。

通常の正攻法では勝てない可能性の方が高い。

それでは駄目だ。

絶対に勝てる方法でなければならない。そんな方法があるのかと問われたらそんなものはない。

だが少しでも勝利に近づく方法は存在する。

その為の鍵はヴァジュラが握っていた。いや、正確には内蔵されている。

 

ふと見上げれば小さな気球が空を舞っていた。

尻尾に細長い紐が括り付けられている、それは俺の後ろまで伸びていて、

 

「――GMP観測気球の打ち上げ成功」

「受信画像投影電子パネルを起動させます――感度良好を確認――成功」

「V1の識別反応を確認――成功」

 

俺の背後に集められた夥しい数の機材と繋がっている。

数人の技術士官により手際よく機械が組み立てられていた。

彼らはまるで子供のように目を輝かせている。

組み立てた玩具が無事に動いたのを見て喜んでいるのだから子供と変わらない。

 

机に置かれた電子板の上に樹脂シートを敷く。

透明のシートには縦線と横線が幾重にも刻まれており座標図となっていた。

薄い緑色の電子板には小さな光点が点滅しているのが分かる。一つだけではない百以上が点滅していた。それを確認した技術士官が満面の笑みになる。たまらず歓声を上げた者もいた。

 

それを見た俺の反応は何ともいえないものだった。

....やはり感度が低い。画素も不鮮明で荒いな。

当然だが敵の識別反応も無い。

本来なら此処に熱感知式のレーダー兵器を付属させる事で、

敵の位置情報も映さなければならないのだ。

 

だが其処までには至っていない。不完全なシステムと言って云い。

 

だから敵を知る為の目が必要になる。

それは彼らに担わせる。中央相互連隊が誇る狙撃部隊だ。

精鋭の狙撃兵三十人を高台に配置した。もちろん敵兵を狙撃する為ではない。指定した戦車の動向を監視させるためだ。リアルタイムで情報を送り続けてもらう。かなりアナログな方法だが、これで敵の位置情報を逐次知る事が出来る。敵情報は電子パネルの座標図にチェスの駒を置く事で視覚的に瞬間的な判断を行えるようにした。

これでようやくシステムは50%が補完された。

現状ではここまでが限界だ。

 

最後に、このシステムの命は味方との情報伝達の速さにある。

味方との瞬間的な交信が出来なければ意味が無い。

だからこれが必要になる。先ほども言ったマスター機という奴だ。

無線機をヘッドセットとインカムに繋げて使用する。

部下から受け取って頭部に装着した。

 

.....それにしても妙な事になった。

この不完全なシステムが俺達全員の行く末を左右する事になるなんて、正直これを作った本人も意外だったのだ。信用出来ないわけではない。だがこれは本来であれば使うつもりのない戦術だった。セルベリアが居れば使用する必要のない。あくまで保険のつもりで作った機能だから妙な気分だ。....彼らには遊び半分で作ったなんて言えないな。

 

そんないい加減なモノに命を懸けているとは知る由もない彼らは実に真面目な様子で準備を終えた。ヴァジュラの配置も済み、コレで全ての準備は整った。後は俺の言葉を待つだけだ。

 

ラインハルトもソレを見て厳かな雰囲気になる。

.....確かに電撃戦はこの時代において圧倒的とも云える戦術だ。

コレに対抗できる戦術は世界中を探してもそうはないだろう。

 

「だが、だからこそ俺はあえて言おう。――我が軍の勝利だと!!これより逆転劇を開始する!」

 

言下にラインハルトは無線機をonにした。

その瞬間、ヴァジュラは真の力を発揮する。

――戦術歩兵システム、

【SARS】(空間識覚を拡張、及び交信を主体とした命令指揮系統の構築)

発動。

 

 

 

「.....見せてやろう100年先の戦術を」

 

 


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