あの日たすけた少女が強すぎる件   作:生き残れ戦線

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四十話

征暦1935年3月22日。

 

ギルランダイオ要塞に駐在するガリア方面軍は遂に公国領内に向けて進軍を再開した。

イレギュラーとも呼ぶべきガリア正規軍の残した毒ガス兵器による弊害は、予想以上の人的被害と時間的浪費という傷跡をガリア方面軍に与える事になり。これはマクシミリアン達にとっても痛恨の極みであった。

というのも本来の戦略的計画上ではギルランダイオ要塞を陥落せしめた後、敵が態勢を立て直す暇もない内に一気呵成とばかり敵領内に雪崩れ込み、ガリア公国首都ランドグリーズに繋がる主な防衛拠点を制圧する目論見があった。

すなわち電撃戦による速さでの侵攻で瞬く間に決着をつけるのが狙いだ。

だがそれもダモンの策によって計画の見直しを余儀なくされる。

ガリア進攻における最重要本拠点と考えていたギルランダイオ要塞の完全な毒ガスの除去は最優先事項であったため、今日に至るまで再侵攻は断念せざるをえなかったのだ。

ようやく全ての消毒作業が終わり要塞の支配を完全なものとした事で、マクシミリアンは待機していたガリア方面軍に発令を下す。

 

ガリア公国を攻めるにあたって、マクシミリアンは軍を三つに分けた。

すなわち北部、中部、南部を制圧する進攻部隊。

これらの担当をするのはドライシュテルンと呼ばれるマクシミリアン幕僚の指揮官達。

 

初老の将軍ベルホルト・グレゴールが指揮する北部方面軍には北部沿岸沿いの街を始めとした生産都市の制圧を任せている、中でも目下、最重要拠点と考えられる鉱山都市『ファウゼン』は今後の戦略上、何としてもも手に入れなければならない場所である。

 

南部はラディ・イェーガーに任せた。ガリア有数の森林地帯である『クローデンの森』に隠匿されていると噂のガリア軍秘密基地の発見、及び制圧が主な任務だ。これを疎かにすると大部隊で進軍する中部方面軍の横っ腹を不意打ちで襲われる恐れがあるためだ。

故に、それを阻止するべく。剛柔併せた戦術で臨機応変に対処できるであろうイェーガーが置かれた。

 

そして中部には新参者であるジェシカ・エドワーズを据えた。反対の意見も少なくはなかったが、あえてマクシミリアンは彼女を指揮官にした。その理由が語られる事は未だない。

なぜなら彼女を選んだ理由は、彼女自身の能力というよりも(勿論優秀である事は認めている)その特異な血に由来する事が大きいからである。

 

マクシミリアンは語る。

 

「戦争というのはただ勝てば良いと云うわけではない。勝ち方にこそ意味がある、つまり結果ではなく過程こそが重要なのだ」

 

「なぜか分かるか?」とマクシミリアンは壁際にひっそりと佇むように立つ銀髪の女に向けて言った。その女は五日前、セルベリアに勝負を挑んだ元は同じ実験施設の同輩であるヴァルキュリア。セルベリアから受けた居合の太刀傷はすっかり完治しているのか背筋をしっかりと伸ばして彫像のように待機しているプルト―――は護衛対象のそんな問いに対して暫し考える様子を見せるが、やがて首を横に振った。

 

「結果的に勝利を得ようと、それまでに辿った過程が杜撰であれば、それに価値はない―――それでは被支配下となった民は納得しない。いずれ国のためと立ち上がり反旗を翻すであろう」

「例えるならば先の毒ガス兵器がそれに当たるのですね」

「そうだ。アレは言うなれば違反行為、ルールを無視した蛮行だ。それ故、その脅威は計り知れず。我が軍は窮地に立たされた。もはや迅速の勢いでランドグリーズを落とす事は不可能であろう、敵の狙い通りかは知らぬが持久戦に持ち込まれた形だ」

 

故にマクシミリアンはガリア進攻における方針を転換させた。

一息にキング(ガリア首都)を取るのではなく。ルールに則り盤上の駒を一歩ずつ動かし、雑多な(都市)を落としていく事にした。何も問題はない。

敵が卑怯な策を謀ろうとと構わない。盤上の駒を操る打ち手として、むしろ楽しさすら覚える。

 

「正道をもって余は敵を叩き潰す。だが敵の罠を食い破るには力が不可欠であり、ガリアの民を服従させるに足る力。それこそが.....」

「私達....ヴァルキュリア人」

その呟きを肯定するかのように冷たい笑みを浮かべ。

「先の戦闘においてセルベリア大佐は実に有益な成果を出してくれた。ヴァルキュリアの戦闘能力は野戦においては一個大隊の働きを凌駕し、攻城兵器としても有用である事が分かった」

「はい......」

 

同意するように頷くプルトは何か思うところがあるのか表情を変えずに黙り込んでいる。

凡そ考えている事は一つ。

 

「不服か?決着をつけられなかった事が」

「いえ.....はい。不満が無いと云えば嘘になります。せっかく機会を与えて下さったと云うのに申し訳ありません」

「構わぬ、これでこちらの意志は良く分かった事だろう。あの女の行動は制限できた筈だ。重要なのはこの要塞に留めおき、ラインハルトの救援に向かわせない事にある、かねがね成功といえよう」

 

だが意外だったのはこちらの威に対しても退かなかった姿勢にある。

力で迫れば膝を崩さざるをえないと考えていたのだが、死んでもこちら側に下る気はないと云った様子だった。

逆にこちらを脅す始末。厄介な存在だ。

 

「やはり元からの目的であるアレの回収を強行すべきか......」

「?......あの女を呼び寄せたのは要塞攻めだけの為ではなかったのですか」

「無論だ。セルベリア大佐を呼んだ本来の目的は、彼女が持ってくるであろう『ヴァルキュリアの槍』と『ヴァルキュリアの盾』双方の遺物の回収にあった。お前達のどちらかに使わせるために....」

 

危険な前線に送ったのもその為だ。あわよくば戦死してくれればよかったのだが。

思いとは裏腹に人形は戦場を舞台に踊り切ってしまった。

 

「であれば次の手を打たねばならん。なにせ我らは遺物を持ち合わせておらぬからな、味方にできない以上は殺してでも奪い取る必要がある」

「それでしたら今度こそ私に御命じ下さい。どの様な手を使おうともセルベリアの首を討ち取ってご覧にいれましょう!」

「.....いや、これ以上こちらから手を出して警戒されるのも厄介だ。最前線に送り込み、わざと物資の供給を滞らせる。敵陣の中に孤立させれば、流石のセルベリアといえど力尽きよう。敵に討たせるのも一興か....」

 

冷酷に淡々とセルベリア殺害の計画を考えるマクシミリアン。

そこに一切の慈悲もなく。対象が弟の腹心であるのにも関わらず何の感慨も覚えていないのか、その怜悧な瞳に映るのは机に置かれた盤上だけ。ただの駒としか見ていないのだ。あるいは自分すらも......。

 

ふとマクシミリアンの視線が盤上から重なる様に置かれた幾枚もの書類に注がれた。それはガリア国内古今東西のヴァルキュリア伝承や遺跡の在りかが記された文献だ。

それらを眺めながら――おもむろに目の前のヴァルキュリアに命令を与える。

 

「お前達にはバリアス砂漠に行ってもらう。砂漠の中にあると言われる古代ヴァルキュリア人の遺跡に侵入するのが任務だ、お前が扉を開く鍵となれ――そこに余が探し求めているものがあるはずだ」

 

古代ヴァルキュリアの遺物はヴァルキュリアの血を引き継ぐものにしか扱えない。遺跡でも同様のギミックが施されていて、ヴァルキュリアにしか扉を開く事が出来ないのだ。それ故、マクシミリアンがその血に連なる者であるとされるプルトにその命を与えた事は至極当然のことでもある。

 

残念そうにしていたプルトもまた自らに求められる役割を自覚して私事(わたくしごと)を振り払った。

......今はまだセルベリアに勝つ見込みは薄い。ならば次に会う時まで、強くなっていればいいのだから。そう思い返事をした。

 

「分かりました、全てはマクシミリアン様の仰せのままに」

 

..............。

 

 

そして、一通りの指示が終わった頃合いである―――それは起きた。

コンコンと扉を叩く音。部屋の前に立つ衛兵からのノックである。

平常であれば鳴らないそれにマクシミリアンは訝しんだ。何用かと疑問の声を扉に向かって投げかけた。

 

「何事だ?」

「―――私事中のこと申し訳ありません、来室の方が訪れまして。許可を求めております」

「なに?そのような者が来るとは聞いていない。いったいどこの誰だ」

 

疑念の色が濃くなる。ドライシュテルンが発った今、この日、この時間にやって来る者に心当たりがない。

.....まさか、もうあの男が来たというのか?。

チラリと視線を傍に立つプルトに向ける。が、その表情からしてどうやら違うようだ。

ならばいったい誰が。

 

「もしや....」

 

薄く驚きの色が混じった呟きが漏れる。衛兵が来客者の名前を告げた。

 

「遊撃機動大隊『大隊長』セルベリア・ブレス大佐です」

「.......分かった。通せ」

「は!」

 

的中した名前にやはりかと思いつつ、彼女の来客を意外に感じた。

あれだけ脅しつけてやったのだ。こちらが味方でない事はあれも分かっているはず。あえて緊張状態を形成したのもセルベリアの動きを制限させるためだ。連邦と帝国の戦争が終わるまでこの要塞に封じ込めておくために。

勝手な動きができないよう監視も付けさせた。奴らの報告からは何も問題は起きていなかった。

ならばいったい、お前は何をしに来たセルベリア・ブレス......。

 

考えを巡らせていると許可が降りた事で居室の扉がゆっくりと開かれる。

そこから蒼い銀髪を靡かせながらセルベリアが現れた。

やはり昔見た時とは比べものにならない強い意志を感じさせる紅い瞳がこちらを見抜く。

マクシミリアンもまた泰然とそれを見返した。

 

「突然の事ながら来室の許可を頂き感謝します」

「うむ」

 

兵士達の模範にできそうなほど流麗に構えていた敬礼を解いたセルベリアが口を開く。

先ずは何てことの無い礼を述べながら話し始め。それに軽く頷くマクシミリアン。

 

「して.....何用で此処に来た。まさか遊びに来たと云うわけではあるまい。こう見えて余は格式ばった口調は好まん、単刀直入に申すがいい」

 

いっそ鮮やかにマクシミリアンはいきなり話の核心に切り込んだ。相手の反応を窺う為でもある。

しかしセルベリアは動揺を見せず「では手短に....」と一呼吸置いて言った。

 

「申し上げたい事はただ一つ。私達『遊撃機動大隊』の異動許可を与えて頂きたく参上仕った次第です」

 

セルベリアの言葉を聞いたマクシミリアンは思わず気が抜けた。

何というか拍子抜けである。

まさか先日の事を忘れたわけではあるまい。それとも心変わりしている事に一縷の望みをかけたか。

だとするなら残念ながらこちらの答えは変わらない。

 

「その事なら言ったはずだ。貴殿はガリア攻めに協力していだだく。離隊させるつもりはない、当然ながら異動の許可は与えない。大方ラインハルトの元に向かいたいのだろうが、私設軍であるラインハルトの部隊に帝国軍兵を援軍として送ることは帝国法で禁止されている。それを知らないセルベリア大佐ではあるまい」

「はい、確かに貴族などが権利の濫用で恣意的に帝国軍を動かせないよう法で禁じられているのは知っています。ですが帝国軍であれば何の問題もないはずですね?」

「.....なにを言っている」

 

セルベリアは懐から一枚の封書を取り出して。睨みつけるマクシミリアンの前に置いた。

それを見たマクシミリアンの目に初めて動揺の色が灯った。

何故ならその紙には帝国の軍用官印が押されていたからだ。

軍用官印とは帝国軍が正式に発行したという証でもある。

つまりそれは皇帝の意志そのものと言っても過言ではない。

 

「軍の指令書......いえ、厳密には招集命令書と言ったほうが正しいでしょうか」

「招集命令だと、まさか.....!」

 

封書の中から発行紙を取り出すとその内容を読む。

内容にはこうあった.....。

 

『皇帝の名のもとに命ずる。

全権総指揮者ラインハルト・フォン・レギンレイヴ上級大将は第八都市駐在全私設部隊を率いて帝国軍に参列せよ。時刻三月の終わりまでに必ず帝都に入り、皇帝に拝謁の儀を賜る栄誉を受け。新たな指令を授けるものとする』

 

これの正体を語るには今から一月ほど前まで遡る事になる。

二月も終わりと成った頃に皇帝がラインハルトに送った命令書だ。

ラインハルトがセルベリアをお共に帝都に向かう事となった原因でもある。そして既に謁見が終わり意味の無い紙切れかというとそうでもない。時刻は三月の終わりまでと書かれているので期限は切れておらず、無茶苦茶だが使えると云えば使えるのだ。

つまりどういう事かと云うとセルベリア達はこの命令書に書かれた内容を逆手に取ってガリア方面軍からの離隊を画策しているのである。この話しのミソは~ラインハルト・フォン・レギンレイヴ上級大将は第八都市駐在全私設部隊を率いて~の文だ。この文章での見方を変えれば指揮者であるラインハルトに率いられるため彼の元に集まらなければならないと解釈できない事もない。

 

「―――ですので私達は招集命令の範囲内に含まれていると考えガリア方面軍を離隊し帝都に向かう必要があります」

説明を述べつつそう言ったセルベリアに、マクシミリアンは怒気を露わにした。

 

「ふざけるのも大概にせよ!このような子供の戯言の様な理屈で通ると思っておるのか!例えこの命令書が有効で貴様の屁理屈が通ったとしても―――やはり帝国法に基づき一私設部隊でしかない奴に部隊は送れん。なぜならあ奴は帝国軍の指揮下に入っておらんのだからな!」

「いいえ、ラインハルト様は帝国軍の指揮下にあります」

「なんだと、どこの軍だというのだ」

「それは―――ハプスブルク州駐在軍です」

 

帝国軍というのは基本的にどの貴族領にも逗留している。

外敵から国土を守る防衛戦力の役割を持つ帝国部隊。

だがそれとは別に貴族の内乱防止のための抑止力という側面も持っている―――が、ラインハルトの自領であるハプスブルクにもそれは存在した。

 

「これがその証です。皇帝陛下の招集令が来た時に一緒に送られてきたものです」

 

手渡された指令書を見てマクシミリアンは唸り声を上げる。

 

「そうか、気づくべきだった.....私設部隊にしては上級大将などとあまりにも位が高すぎる。帝国第3機甲軍の全権を手に入れていたか」

 

恐らくその軍は本来であればガリア方面軍と合流する手筈になっていたのだ。皇帝がラインハルトに与えるはずであった軍隊。ラインハルトがその話し自体を蹴ったせいで曖昧霧散としていたが権利そのものは失われていない。

 

皇帝の意向が込められた命令書の強制力と正式な帝国軍編成書がある以上、もはや法によってセルベリアを縛る事は出来ない。認めなければ今度はこちらが皇帝の意に反するとして疑われかねない。ただでさえ本国が攻撃を受けている中、ガリア進攻を強行しているのだ。こちらの腹を探られるかもしれない、可能性はゼロではないだろう。

自身の目指す先を考えるならば、今、帝国の諜報機関に動かれるわけにはいかなかった。

 

「......よかろう、現時刻をもってセルベリア大佐および遊撃機動大隊の離隊を認める」

 

表面上は冷静に告げていたが、内心(はらわた)が煮えくり返る程の怒りを感じていた。現状を唯々諾々と認めざるを得ない事に納得がいかないのだ。

 

「感謝します、それでは私はこれで失礼いたします。マクシミリアン様もお達者で」

「ああ、貴様の働きにはこちらも感謝の念が拭えない。要塞戦の勝利を祝した宴を開こうと思うが如何か?」

「ありがとうございます。ですがそれには及びません、帝国軍人の務めを果たしただけですので失礼ながら辞退させていただきます。それに戦いはまだ終わっておりませんので.....」

「.......そうか、見事な心意気よ、セルベリア大佐こそ帝国の誉れであろう、また会える日を楽しみにしている」

「ええ、私もです」

 

お互い表情を微塵も変えずに言葉を交わし合う。ニコリとも笑わない。それを最後にセルベリアは退室した。

背中を見送ってバタンと閉まる扉。

静かな時が過ぎる中、それまで黙っていたプルトが口を開いた。

 

「よろしいのですか?このまま行かせてしまっても」

 

単純な疑問から掛けられた一声に、目を閉じて黙考していたマクシミリアンがふと盤上の駒に目を向ける。蒼銀の輝きを放つ馬型の駒をジッと見て。―――それを盤上から取り除いた。

 

「用済みの駒に価値はない。カラミティレーベンに通達、本国の帰路につく遊撃機動大隊を急襲しセルベリア・ブレスを―――抹殺せよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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帝国側に面する要塞の外の一角にズラリと屈強な兵士達が整列していた。

戦争で受けた傷もすっかり良くなり無事に全快した遊撃機動大隊の面々である。

前もって彼らの敬愛する大隊長殿に待機しておくよう命じられていたのだ。

激しい戦争によって百名近くが殉職したとはいえ、前よりも血気に溢れている程に士気が高い。

整然と立ち並ぶ彼らの前にセルベリアが現れる。気付いた兵士達は身を引き締めた。緊張感が立ち込める。

眼前の兵士達を見渡すと言った。

 

「待たせたなお前達、これより我らは本国に帰参しラインハルト様の元に向かう。既に既知の者もいるかもしれんが現在、帝国は連邦軍の進攻を受けている。この要塞戦を遥かに超える激しい戦火に見舞われるであろう事は明白であり全滅の可能性すらありうるだろう。だが我らに同胞を見捨てるという選択肢は存在しない!立ちはだかる敵は全て焼き払い!刃に傷つき倒れ死ぬのが我らの役目だ!味方を鼓舞し民を救い主君を守れ!それが我ら遊撃機動大隊の存在意義である!!」

「―――応っ!!!」

「乗り込め!」

 

セルベリアの号令に従い、各々は迅速に動き。各小隊に割り振られた軍用車に素早く乗り込む。

軍用トラックのジェネレーターが青く稼働を始める。一瞬で物々しい雰囲気が形成された。

それを見て取るセルベリアも自身専用の軍用車に向かい、助手席に乗り込む。

 

「――ん?」

 

そこで気づいた。なぜか運転席に見慣れた人物が座っていたのだ。

艶やかな黒髪にどこか浮世離れした雰囲気の女官―――ではなくメイド服に身を包むエリーシャである。

やや戸惑った表情で言った。

 

「なぜお前がこっちに居る」

「正規のルートでは時間が掛かり過ぎますので、少し特別な急ぎようの道を使います。なので私が案内をします」

 

ドライビング用の黒手袋をキュッと装着しながら微笑む。

成程そうかとセルベリアは頷き。

不安そうに「戦が始まる前に間に合うか?」と問いかけた。

するとエリーシャは首を振ってこう言った。

 

「この作戦は恐らく戦争前に間に合ってはいけないのです。一番はタイミングが重要です、早すぎてもいけず遅すぎてもいけない。一応日にちは調整はしたので大丈夫だと思うのです。ラインハルト様の指定した日に合えばいいのですが」

「作戦、調整?.....お前まだ何か私に隠している事がないか」

「......ふふ、それでは行きます」

 

言うと思い切りアクセルを踏んだ。足で踏まれた軍用車は泣き叫ぶようにラジエーターの稼働音を響かせ勢いよく動き出した。

急激な加重に驚きの声を上げるセルベリア。抗議の視線を向ける。声も上げようと思ったが止める。今は一刻も早くここを離れた方がいい、そう思ったからだ。

 

なので次点で気になっていた事を聞いてみる事にする。

 

「それで。今から向かうのは何処だ、ニュルンベルクではないのだろう?」

パチクリと目を瞬かせる。

「おや、良く分かりましたね」

セルベリアは当然だと頷き自信を持って言った。

「分かるさ、あの人がこの状況で何もせず手をこまねいているだけのはずがない。きっともう動き出している筈だ、何か大きなことをしようとしているのではないだろうか......」

「正解です、計画通りであればラインハルト様は―――」

 

そしてエリーシャは言った。次なる戦場の舞台となるその名を。

 

「―――連邦との国境線、帝国西部の最前地帯『ハイドリヒ』に向かったはずです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第一章『連邦軍撃退編』開幕!

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