岸波白野の暗殺教室   作:ユイ85Y

6 / 33
ビッチ先生の前に訓練を。
まだ白野の肉体が完全回復する前にやっておきたかったのでここで。

では六話をどうぞ。


06.体育の時間

 

 殺せんせーに対して明確に殺すという意思表示をした私だが、別にそれで何が変わるという事も無い。この教室が抱えている時限爆弾は私がどうこうするものでもないし、何もしなかったとしても今すぐに起爆するという可能性はゼロだ。何よりあの殺せんせーの事だから、みんなが殺すという事の意味に気付いて悩む事もどうにかする術を持っているのかもしれない。

 だから私がやる事は何も変わらない。この教室でやれる最大限の事を行って自分の力とするだけだ。

 

「よし、次!」

 

「「はい!」」

 

 そして今は体育の授業。通常の学校であれば球技や持久走、特定の競技などを学ぶ時間だが、このE組は当然違う。暗殺を目的とする教室である以上、最も学ばなければならない体の動きは戦闘のそれだ。暗殺なら不意を打つのが重要で、基礎は必要ないのでは? と思われるかもしれないが、私はむしろ逆だと思う。基礎が出来なければ暗殺なんて以ての外だろう。ナイフの使い方一つでも状況に応じて色々とあるだろうし、何より暗殺……気付かれずに殺す事に失敗すれば、その後は向かい合っての殺し合いだ。基礎技術が高くなければそこで終わり。次の機会を得る事さえ出来ないのだから。

 そう思った私は間違ってなかったらしい。聞いた所によると、烏間先生が体育教師を務めた初日の授業で「基礎をやる意味があるのか」と聞いた生徒がいたらしいが、二人掛かりでも勝てないという現実を突きつけられて基礎の重要性を説かれたとか何とか。

 

「狙いが見え見えだ、フェイントでも当てる気で!」

 

「はっ、はい!」

 

「よし、次!」

 

 そうこうしている内に私の番が回ってきた。ちなみにペアで挑む訓練なのだが、私にはペアがいない。

 理由としては、まだ体が回復しきっていない私が誰かとペアを組んで襲い掛かった場合、不調が原因で思わぬ事故に発展する危険性がある事。足がもつれて接触事故を起こした結果骨が折れたなんて事になれば、この教室においては大きな損失となるだろうからこれは理解できる。私一人なら巻き込む相手もいないし、烏間先生を巻き込んだとしても対応は簡単だ。

 だから私が一人でこの訓練に臨むのは何らおかしな事ではない。ないったらない。村松君達が三人一組でこの訓練をしていたから一人あぶれる事は無いと思ってたら烏間先生からこの話をされて地味にショックを受けてなんかない……!

 

「どうした? どこか具合でも悪いのなら……」

 

「あぁいえ、違います。少し考え事を」

 

 烏間先生の声で現実に帰還する。要らぬ心配をさせてしまった。

 

「……そうか。まぁ、無理はしないように……よし、来い!」

 

 その声を聴くと同時に前へ駆け出す。霊子体で走り回っていた時と比べると、やはりどうしても感覚が違う。これが肉体を得たからなのか、それとも回復しきっていないのが原因かは解からないが、これには慣れるしかない。違和感を抑え込むようにして力強く一歩を踏み出し間合いを詰め、烏間先生の胸目掛けてナイフを突き出した。

 斬るという線の軌道よりは突くという点の軌道の方が躱し難いだろうと思っての選択だったが、それはサーヴァント戦レベルでの話であり、私と烏間先生では実力に開きがありすぎる。案の定、腕を払われるだけで易々と防がれてしまった。

 

「くっ!」

 

 その後もナイフを振るって二、三回連撃を繰り出すが、ナイフを握る手にそっと力を加えるだけで、いとも簡単に流されてしまう。この結果は解かり切っていた事ではあるが、こうもまざまざと見せつけられるとクルものがある。

 

「……むぅ」

 

 埒が明かないと思い、いったん後ろに跳んで距離を取る。といってもそんなには離れない。腕を突き出して大股で四、五歩踏み出せば届く様な距離だ。

 

「どうした、終わりか?」

 

 首を振って否定する。今からする事には間合いが必要なだけだ。

 

 弱者が強者と戦う場合、真正面から戦うのは愚かとしか言いようがない。地力で負けている以上、勝つためには不意打ちや奇襲といった方法で成果を出し、立て直す暇を与えず一気に攻めきることが最重要となる。そういう意味で言うならば、今の私は烏間先生という強者を相手に正面から挑んでいるのだから、勝ち目なんて無い……まぁ、そういう訓練だからと言ってしまえばそれまでなのだが。

 ならその上でどうするかだが。それに関しては考えがある。

 これは訓練上の勝負であって、殺し合いではない。殺し合いならどう足掻こうが勝てない私でも、勝負なら勝ちの目はある。

 

『烏間先生にナイフを当てる』

 

 この勝利条件さえ満たせば私の勝ち。その時に(あり得ないが)満身創痍だろうとそれさえ満たせば勝ちなのだ。

 ナイフを当てるだけが勝利条件なら簡単だ。超接近戦に持ち込むか、投擲で被弾させればいい。だがそこまでの道が険しく長い。近づけば躱しやすい距離を取られ、投げても躱すか受け止めるかするだろう。

 ならどうやって当てるべきか? 幸いにして私が現状で優位な点は、「烏間先生は油断している」という事、この一点だ。素人同然の生徒、加えて私は体力が戻り切っていないとなれば、多少なりとも油断はする。どれだけ気を付けていたとしても、いや、気を付ければつけるほど実力差が浮き彫りになり、結果どうしても油断する。強者の余裕、所謂慢心というやつだ。

 

 だから、そこを突く。

 私が勝つとすればそこしかない。慢心故に足元をすくわれて危機に陥るというのは他でもない、彼の慢心王(AUO)を見続けてきた私自身が痛い程よくわかっている―――!

 

「ふっ」

 

「む」

 

 ナイフを放り投げる。しかしその飛距離は短い。烏間先生の足元にも届かず落ちるような軌道。それがわかったのだろう、烏間先生も躱すことはせずにその場で動かず、かといって無視も出来ないのでナイフの軌道を目で追っている。私から意識を逸らしたのだ。

 

「――――ハッ!」

 

 その隙を突く。

 

「なっ!?」

 

 両腕を横に広げ、まるで抱擁を受け止める様な姿勢のまま全力疾走。向かう先には烏間先生。そしてその道程には先程放り投げたナイフがある。落ちるよりも先にナイフを掴み、体に張り付けるようにして固定。ナイフは地面に当たる事無く私に押されるようにして共に直進する。

 これが私の考えた作戦……と呼べるほどのものでもないか。とにかく勝つための方法だ。

 接近戦に持ち込んでも躱される。投擲しても受け止められる。突きは受け流されて切りかかっても掠りさえしない。ならばどうするか? 簡単だ、「受け止める事の出来ないナイフ」を作ればいい。

 広げた腕で横の動きを封じ、受け止めようものならナイフを挟んで密着する事になり烏間先生の負け。大きく横に跳べば活路もあるが、一瞬の動揺で判断が遅れそんなものは間に合わない。退路は封じた、この戦い私の勝利だ―――!!

 

 

 

 

 

「ぬぐっ」

 

「……発想は良いが、速さが足りないな」

 

 失敗した。頭を押さえられた! しかも私が首を痛めないように引き寄せながら受け止めることで衝撃を逃がして! 何が慢心だ、この人油断も隙も無いじゃないか!

 成人男性の力を跳ね除けるほどの力は私にはない。押さえられては突進も止まる。こうして、今回の訓練は私の負けで終わった。

 

「君はまだ体力も戻り切っていないし、ほんの数日ではあるが他の生徒より暗殺に加わるのが遅い。今はどうすれば当てられるかというよりも先ず、ナイフの扱いに慣れる事を優先するといい」

 

「……はい」

 

 うん、ぐうの音も出ない。今の訓練だけで息が上がってるし、これは本当に体力の回復を優先すべきだろう。

 今更思い出したようにして、体に張り付くようになっていたナイフがポトリと落ちる。それが切っ掛けの様にして、全身から力を抜いた。

 

「……まぁ」

 

「?」

 

「戦力差を考えて、自分に出来るだけの事をしようとしたというのはわかる。……点数はやれんが、その姿勢は評価しよう」

 

 抑えられていた手で頭を撫でられる。そういえばギルガメッシュも戦闘が終わった後、時々こうやって撫でてくれたことがあった……これよりもぐしゃぐしゃって感じで荒っぽかったけど。「なに、偶には見える形での労いも必要だろう」とか言ってたっけ。その時の事を思い出して、自然と頬が綻んだ。

 

「よし、次!」

 

「「はい!」」

 

 私の番は終了した。大人しくその場から下がり、後は次に順番がやってくるまで他の人を見る事にする。他の皆は自分の番が終わった後も個人でナイフを振ったり組み手をしたりしているが、そこまでの体力は私には無い。それなら他の人の動きを見た方が幾らか学習になるというものだ。今は大人しく見学に徹しよう。

 

「いいなぁ……」

 

 ……それはそれとして、倉橋さん? 私、貴女にそんな目で睨まれるような事何かしたっけ?

 

 

 

   ◆

 

 

 

 今日も今日とて体育の授業。今日やるのは的当て……つまりは射撃だ。改造によって通常のエアガンとは比較にならない程の弾速を叩き出すエアガンを片手に、離れた場所にある的を狙う……というものなのだが。

 

「当たらない……」

 

 そう、当たらない。いや正しく言うなら当たってはいるのだが、その着弾位置はどうにか枠の中に納まっていると言えるぐらいのレベルで、中心に書かれた殺せんせーの顔の場所からは程遠い。そのままマガジンが空になるまで撃ち続けたが、結果は悲惨なものだった。他の皆も中心に当てる所までは中々出来てはいないものの、着弾地点は私よりも小さく纏まっている。中でも二人ほど射撃のコツを掴んでる生徒がいるらしく、着弾範囲が殺せんせーの顔の中にすべて収まっている的もある。

 

「むぅ」

 

 マガジンを交換して再度射撃に取り掛かる。これに関しては動く必要も無く、体力の消耗も無い。バラつきが酷いのは単に習熟度の問題だろう。なら数をこなせば身に着く筈だ。凡俗であるのなら数をこなせ、才能が無いのなら自信をつけよ。ギルガメッシュの言葉に従い、引き金を引く。

 

「……んー」

 

 弾が当たったのは的の外、それも的が描かれた紙の端だ。

 

「上手くいかないなぁ」

 

 先程からずっとこんな調子だ。自分ではナイフよりもこちらの方が上手く出来ると思っていただけに、少しショックだ。

 ちなみにそう思った理由は単純に、相手の行動を予測して動くのが近距離と遠距離なら遠距離の方が得意というだけだ。これに関してはマスターとしてギルガメッシュに指示を出し続けた経験の賜物だろう。だってあの王様私が先読みに失敗すると露骨に機嫌悪くなるし。そんな結果に終わった日はほっぺを抓られたりチョップされたりグチグチと文句を言われたりと面倒な事になるので、避けるためには観察眼を鍛えるしかなかったのだ。

 

「当たらないのか?」

 

「え?」

 

 突然横から声を掛けられた。

 

「千葉君」

 

 声を掛けてきたのは千葉君だった。前髪で目元を隠した男子で、誰かが「ギャルゲーの主人公みたいだ」と言っていたのを覚えている。ギャルゲーというものがよくわからなかったので調べてみて成る程と思った。あと調べている間に思った事は、ギャルゲーの所謂ラッキースケベやハーレム展開といったお約束に関して謎の既視感を覚えたくらいか。特に気にする事でもないから流したけど。

 

「何か不調みたいだったから」

 

「あー、まぁちょっとね」

 

 言いながら、再び二発三発と標的に向けて弾を発射する。が、結果はさっきまでとそう変わらない。酷いものでは的の紙にさえ収まらなかった。

 

「どうしても狙いがぶれるんだ」

 

「……片手射ちだからじゃないか?」

 

「え?」

 

 片手射ち? 確かに私は右手だけで銃を持ってこの訓練をしてるけど……

 

「……的は先生と違って動かないんだから、精度を高めるだけなら両手で構えたほうが良い」

 

 そう言って、千葉君は銃を構えた。私とは違い、右手で構えた銃に左手を添えている。そして構えてから一秒もせずに引き金を引くと、パンッという音とともに吐き出された銃弾は的に書かれた殺せんせーの右目にヒットした。

 

「……おー」

 

「撃つ衝撃でどうしてもぶれるから、腕全体で固定する感じだな。両手なら安定するし、今は動く的に当てる必要ないから機動性要らないし」

 

「なるほど」

 

 アドバイスに従い、両手で銃を構える。放たれた弾が当たったのは、殺せんせーの口元。中心には程遠いが、それでも先程までの結果からすればかなりの進歩だ。

 

「な?」

 

「……うん」

 

 千葉君の確認に頷いて答えた。

 そうか、両手で撃つというのはすっぽりと頭から抜けていた。私にとって銃というイメージが真っ先に浮かぶのは、一回戦で戦った女海賊のフランシス・ドレイクだ。彼女は両手に拳銃を持った戦闘スタイルだったから、自然とそれを思い浮かべていた。これは少し、聖杯戦争の記憶に頼らずに他の事にも目を向けていかないといけないかもしれない。あの海での戦いの記憶はこの教室では色々と使えるものがありそうだけど、それに頼り過ぎなのもいけないな。

 

「ありがとう千葉君、助かった」

 

「あー……礼なら速水に言ってやってくれ」

 

「え?」

 

 千葉君はそう言ってある一点を指さした。そっちを見ると、速水さんが黙々と射撃訓練をしているのが見える。

 

「『撃ち方おかしいから教えてあげたいけど、どう言って良いからわからないから言ってきて』って言われたんだよ」

 

「……そうだったのか」

 

「速水は複数の的狙うのが上手いから、見た感じで自分の殺り方だと合わないと思ったんだと」

 

 確かに今速水さんがやっているのは、複数設置された的を連続で撃ち抜いて行くというものだ。一つの的に当てるのは一発だけで、すぐに次のターゲットへと照準が移動する、高速で移動する殺せんせーを意識した訓練方法と言えるものだ。確かに、一つの的をずっと狙っていた私の殺り方と合わないと判断するのも頷ける。

 千葉君に言われたからという訳ではないが、私の足は自然と速水さんの方へ向かっていた。後ろの気配から、千葉君も一緒に着いて来てるのが判る。

 

「速水さん」

 

「……何?」

 

「千葉君から聞いた」

 

「そう」

 

「その……ありがとう」

 

 多少回りくどい方法ではあったものの、彼女が私の事を考えて動いてくれたのは事実だ。その事に対して一言礼を言いたかった。

 

「……勘違いしないで」

 

「え?」

 

「横でずっと外されてると、こっちまで調子悪くなりそうだから直してもらおうと思っただけ。……だから別にアンタのためじゃない」

 

 銃を撃ちながら速水さんはそう告げた。こちらを一瞥もしないで言い放ったそれは捉え方によっては随分と冷たく感じるだろう。

 だが私はそれを冷たいとは思わない。寧ろ微笑ましいとさえ思う。というか凛のSG1と同じ気配がする……!

 

「……何? あんたら」

 

 怪訝な声で現実に引き戻された。どうやら自分でも気づかないうちに笑みを浮かべていたらしい。あんたら、という言葉に振り返れば、千葉君も口角が上がっていた。

 

「何でもないよ……ね?」

 

「あー……そうだな」

 

 凛のSG摘出の時もそうだったが、これは指摘しないのが正解だろう。一度指摘してしまえば絶対に否定するし、その度にボロが出る。速水さんの名誉のためにも、これは言わないでおこう。髪の中から除いた千葉君の目とそう語った。

 そうと決めた以上やる事も無い。素直に受け取ってもらえなかったが感謝の言葉は伝えたのだし、先程まで練習していた位置に戻った。

 

「……ツンデレだったね」

 

「だな」

 

 多分本人に自覚は無いだろうが、あれは間違う事無きツンデレだ。もしかして凛という字が名前に入る女子はツンデレになる法則でもあるのだろうか?

 そんな事を考えながら自分の訓練を再開した。有難い事に千葉君がそのまま隣で自分の訓練をしつつ、私の射撃を見てくれるらしい。烏間先生と比べれば当然劣ってはいるが、生徒の中でもコツを掴んだ人物からの助言は上から教えられるよりも見えてくるものがあるかもしれない。何にせよ私よりも腕前が上の人物の指導だ。断る理由は無いので厚意に甘えておいた。

 暫く続けた結果命中率は上がったが、どうも一発一発狙いを定めて撃つというやり方は私に向いてないように思える。射撃の型を覚えるためにそうしていたが、発射される弾が一つだけというのがどうも物足りなく感じるのだ。何というかもっとこう、複数の銃口から一斉に射撃して弾幕を撃ち込むとかの方がいい気がする。当たっても効かないとかなら当てる場所を考えて一発ずつ撃つ必要もあるだろうが、殺せんせーに対してこの弾はどこに当たろうとも結果を出してくれる(と聞いた)。なら展開数は多い方がいいだろう。教えてくれた千葉君には悪いが、安定して撃てるようになったら二丁拳銃に変更しよう。お手本(ライダーの動き)も頭の中にあるしね。




ナイフ訓練と射撃訓練でした。射撃は体育でいいんだよね……?

まだ四月の終わりごろなのでそれ程実力に差は無いと思いますが、後のスナイパー達はこの段階から片鱗を見せているという事で一つ。
速水さんのツンデレに関してですが、多分無自覚なんじゃないかと私は思ってます。それに白野に対して今の段階ではデレる理由も無いですし……ツンデレ書くの難しい……

近接格闘とか銃の撃ち方とかあやふやです……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。