先日まで空を遮っていた雨雲は無く、初夏の日差しが降り注ぐ六月のある日。今日は時間割を変更して、午後イチの授業が体育となっていた。
梅雨の時期という事もあって外で訓練ができる日は貴重なので、天候次第で時間割が変更される事は事前に通達されてある。なので急な変更にも拘わらず、体操服を忘れた人は一人もいない。
「さぁ皆さん! 体育ですよ体育! 晴れた日差しの下、健康的に汗を流しましょう!」
殺せんせーも久しぶりに晴れた影響なのか、何時もよりテンションが高い。湿気を吸収してしまうらしいので、それが無いからあんなにはしゃいでるんだろうか。じめっとした空気だと気分が下がるから、まぁ理解できなくも無いんだけど。
「……おい、何で此処に居る。他の仕事は良いのか」
「マッハで全て終わらせました。久しぶりの晴れなんですから、先生も外で何かしたいんですよ!」
「そうか、邪魔だから下がれ」
「にゅやーっ! 取り付く島もない!」
殺せんせーも体育の授業に参加したいらしいが、烏間先生に素気無くあしらわれている。まぁ殺せんせーの体育は人間のスペックでついて行けるものではないから仕方ない。そのために烏間先生がいるんだから、この結果は妥当と言えるだろう。
「とはいえ……折角の体育日和だというのに、岸波さんが休んでしまったのが残念ですねぇ」
殺せんせーはそう言って、僕たちの一角に目を向けた。何時もならそこにいる筈の彼女の姿はそこにはない。
岸波さんはめきめきと実力を伸ばしている。といっても成績自体は僕らと大差無いけど、半年も寝たきりだったという事を考えれば凄い進歩だと思う。
それに彼女は僕たちよりも意識が高い。暗殺に関して色々な方向から考えているのだ。殺せんせーを精神的に揺さぶったり、殺し屋の技術を分析して応用できないかと考えたりと。もしかすると、僕たちの中で一番暗殺に前向きなのは彼女なのかもしれない。
「……まぁ確かにそう思わなくも無いが、病院では仕方ないだろう」
「えぇ、分かってますよ。念のために病院に入っていくのをマッハで確認していますから」
「……授業中なんかブレてると思ったら」
確かに今日の殺せんせーは、授業中に何度かぶれていた。窓を開け放っていた事と合わせて、あれはそういう事だったのかと今更理解する。
「病院を理由に街で遊び耽るようなら校舎まで攫ってくるつもりでしたが、杞憂で何よりです。
……ホント、非行とかじゃなくてよかった」
「岸波さんはそんな事しないと思うけど……」
「先生だってそう思いますよ! でも急に休まれたら気になるじゃないですか……にゅやーっ!?」
独り言に近い声量だった神崎さんの反論をしっかり聞き逃さず、わざわざマッハでこちらに詰め寄ってから殺せんせーが叫んだ。体育という事もあって皆がナイフを持っていたので、取り敢えず攻める。
「ヌ、ヌルフフフ……この隙あらば取り敢えず殺すという姿勢。熱心だと褒めたいですが、生徒が悪辣になっていくようで先生複雑です」
「……何を騒いでいるんだ、まったく」
あ、烏間先生が呆れてる。
まぁそうだよね、これから授業だって時に。ごめんなさい烏間先生、あんなに教えてもらっているのに僕らはまだ攻撃を当てられません。
「ですが皆さんまだまだ甘い! 先生にナイフを当てるにはまだまだ練習が必要です!
そのためにも体育ですよ体育! さぁ授業を始め―――あだだだだだ!?」
「しれっと俺の仕事を盗るな」
殺せんせーの顔が物理的にぐにゃりと歪む。烏間先生のアイアンクローに暫く悶えていた殺せんせーだったけど、烏間先生がナイフを取り出すとその瞬間に離脱してしまった。つまりいつでも抜け出せたという事なんだろう。それを烏間先生も分かっているのか、粘液まみれの手を拭きながら軽く舌打ちをしていた。
「体育は俺が教える。お前は水たまりの撤去でもしていろ」
晴れたと言っても先日までの雨で、グラウンドにはあちこちに水たまりが作成されている。気にするほどではないと思うけど、確かにあれが無ければもっとグラウンドは広々と使用できるだろう。
「……しょうがないですねぇ。では宜しくお願いします」
とぼとぼと殺せんせーがこの場を去る。その手にはスポイトが握られていた。え、それで水たまりを?
「さて、少々遅れたがまぁいい。
先程もあったように、奴に攻撃を当てる機会は今後いくらでもある。そうなった時のために―――」
殺せんせーもいなくなり、烏間先生が授業に取り掛かる。他の皆も気持ちを切り替えて、ナイフを握り直した。僕も烏間先生の話を聞こうとして……ふと、視界の端に殺せんせーが映った。
「――――――」
こちらから遠ざかっていくその背中は哀愁が漂っていて、何かしたわけでも無いのに罪悪感が湧いてくる。確かに殺せんせーの身体スペックと同じ動きを要求されるのは困るけど、それ以外の部分では優秀な教師だ。
以前殺せんせーは、杉野の肉体的な才能を見抜いてアドバイスをした。あれ以来杉野は投球フォームを変更して変化球にさらに磨きをかけている。もう僕じゃキャッチボールの相手が務まらなくなってきたくらいだ。
直接的な指導じゃなくても、かつて杉野にしてくれたように、何か動き方の助言くらいなら殺せんせーも体育の授業に参加できるんじゃないだろうか。
そんな事を考えながら殺せんせーを見ていたら―――
「―――ッ!?」
殺せんせーのいた場所が
「なっ――――!?」
「キャァア!?」
「うぉあ!? 何だァ!?」
突然の事に辺りが騒然となる。見ていた僕でも訳が分からないのだ、他の皆はもっと分からないだろう。
その中でもやはりと言うべきか、烏間先生の行動は早かった。
「落ち着け! 生徒達はこっちへ、俺の前に出るな!」
爆発を確認するのとほぼ同時に僕たち生徒を一か所に誘導して背中に庇い、何が起きたのかと状況の把握に努めている。職員室から慌てて飛び出してきたビッチ先生もこっちに合流した。
「ちょっとカラスマ! 何事よ!?」
「知るか、こっちも何が起きたのかサッパリだ!」
言い合いながらも、二人の視線は爆心地に向けられている。その場所は舞い上がった土煙で何も見えず、殺せんせーの安否も不明だ。まぁ多分殺せんせーは生きてると思うけど。
「爆弾? 誰か地雷でも仕掛けたって事かしら」
「……いや、そんな話は聞いていない。生徒が踏むかもしれん以上そんな事に許可は下りない筈だ。仮にしていたのなら通達が来る」
教師二人がこの事態の原因を探っているけど、爆弾の可能性は低い様な気もする。
殺せんせーは鼻が利く。爆弾が仕掛けられているなら火薬の臭いがする筈だし、それをスルーするとは思えない。
いや、もしかしたら気付いていながらあえて起動させたんだろうか。僕達が誤って踏まないように?
そんな事を考えていたが、目の前の景色に変化が訪れる。
「きゃっ」
「あ」
「殺せんせー!」
強い風が吹いたかと思うと、視界を遮っていた土煙が晴れる。以前岸波さんの提案で対触手物質を粉状にしたものを殺せんせーに向けて全方位からまき散らした時にもやって見せた、触手を音速で振るう事による突風。再び同じ事をして、煙幕の中から殺せんせーが現れた。
「無傷……」
「いや」
誰かが言った被害状況を、烏間先生がすぐに否定する。良く見れば、足元には殺せんせーの抜け殻があった。
脱皮。月一回だけ使用できる緊急回避を使用して殺せんせーは難を逃れていた。つまりそれは、
そしてその事実は同時に、さっき考えていた僕の予想を潰すものだった。あえて引っかかるならマッハで逃げればいいのにそれをしなかった。いや、咄嗟の事で出来なかったんだ。
「やれやれ……とんでもない挨拶もあったものです」
殺せんせーは普段の様に軽口を叩いているが、その声にいつも通りの軽さが無い。多分相当警戒しているのだろう。これが殺し屋の仕業だとすれば、いきなり緊急回避を使わなければ対処が出来ない攻撃を仕掛けて来た相手という事になる。警戒して当然だ。
「一先ずは見事と言っておきましょうか。先生に脱皮を使わせるとは大したものです」
殺せんせーはそう言って、視線を上の方へと向けた。その先には校舎の屋根がある。
「え?」
―――まさか、そこにいるのか?
その場に居た全員が、思わず視線を殺せんせーと同じ方向へ向けた。
「――――――」
そこには、黄金の男がいた。
◆
遠くて詳しくは見えないが、全体的な雰囲気はわかる。
金塊を糸にしたような黄金の髪。距離があって目の色までは分からない。背の高さから、多分烏間先生と同じ年頃だろうか。
身につけているのは時代錯誤と言ってもいい黄金の鎧だが、まるで美術館に展示されている物であるかのように美しい。日光を照り返して光り輝くその人物は、まるで太陽が降りて来たかのような神秘性を纏っていた。
だが、そんな外見のイメージと違い、纏う雰囲気は凍える程に冷たい。片腕を腰に当てて佇むその男は、恐らくだが殺せんせーを睨んでいる。
彼が、殺せんせーを攻撃したのか。
その事実を認識した僕を含めた皆の足が、自然と後ろに下がる。得体の知れない人物を前にして、警戒と恐怖から足が勝手に動いていた。
「―――脱皮。脱皮か。忌々しいものを見せつけてくれるものだ」
男の声が響く。怒りと苛立ちの混じった、不機嫌さを隠そうともしない声。
「ですが……折角の奇襲も無駄に終わってしまいましたねぇ。残念ながら貴方では私を殺せなかったようだ」
殺せんせーはニヤニヤ笑いながら埃を払っているが、自分を追い込んだ相手を前によくあんな態度が出来ると思う。初手は食らってしまったけど、相手が分かっているならどうとでも出来るという自信があるからだろうか。
しかしその態度が気に障る物であるのは間違いない、案の定、屋根の上にいる男から漂ってくる不機嫌なオーラが強くなった。
「さて……それで、貴方は私を殺しに来たという事でよろしいのでしょうか?」
一応の確認なんだろう、殺せんせーが問いかける。殺し屋なのかと。
まぁそれ以外に無いだろうとは思う。こんな所まで来て殺せんせーを攻撃するのは僕ら以外じゃ殺し屋だけだ。あんな特徴的な服装をした人物が全くの偶然でこんな所まで来て、更に殺せんせーに理由も無く脱皮を強いる攻撃をしたとは思えない。ほぼ間違いなく、賞金狙いの殺し屋だ。
そう、思ったんだけど。
「いや、違うが? 貴様の首などどうでもよい。我には何の価値も無いのでな」
「にゅやっ!?」
違った。殺し屋じゃ、ない?
「貴様の首も世界の命運も、我にとってはどうでも良い。
だが―――貴様という存在そのものには爪の先ほどの興味が湧いたのでな。こうして態々漫遊がてら足を運んでやったのだ。感謝しろよ?」
「ま、漫遊……いや、それでも本気で殺しに来てましたよね!? さっきの一撃!」
「何を言うかと思えば……貴様が評したように、ただの挨拶だが? これで死ぬなら所詮その程度の存在、我が興味を示す価値すら無かったというだけの話よ」
―――何だ、この暴君。
彼の言い分を聞いた僕たち全員の感想が一致した気がする。圧倒的な上から目線、他者の命を石ころ同然の様に扱う傲慢さ。これを暴君と呼ばずに何と呼べばいいのだろう。そんな僕たちを余所に、二人の会話は続いていく。
「とはいえ、矢張りこうして見にくるまでの価値は無かったか。星を砕くと宣言しながら、自らを殺す刃を研ぐ。酔狂な獣と思ったがそれには程遠い。
所詮はただの真似事、ごっこ遊びの延長よ」
「……言ってくれますねぇ。先生は真剣に教師をしているんですが」
男が一方的に下した評価に、殺せんせーの声が険しいものに変わる。
彼の中でどういう基準があって、そんな結論が出たのかはわからないけど、殺せんせーは教師という役割に全力だ。テスト内容は個人の力量で内容を変えているし、暗殺やそれ以外でも生徒に対して親身になってくれる。E組というだけで雑に扱う本校舎の教師達よりも良い先生だというのは疑いようが無い。
―――あれ?
だけど、ふと思った。
「ほう、ならば答えてみせよ。貴様の歪な有り様、その真意は何処にあるのかを」
殺せんせーは、
そんな僕の疑問は、偶然にもあの男が発した問いとほぼ同じだった。
思えば最初から、殺せんせーのやっている事はおかしい。
来年の三月に地球を破壊するつもりなのに、やっている事は僕たちの担任だ。しかも教えている事は自分を殺させるための技術。
自分という脅威を止めさせようとしているのかと思いきや、攻撃は普通に避けるし平気でダメ出しをしてくる。おまけに普通の授業はしっかりと教えてくれて、僕たちの将来についても色々と考えてくれている。……星を壊すと言っているのに。
言っている事とやっている事が
だけどこの手の質問に対して、殺せんせーが答える事は決まっている。
「さて……答える義理はありませんねぇ。どうせ先生がみんな壊してしまいますから。
知りたいなら私を殺せばいい。そうすれば見えてくると思いますよ……ま、無理ですがねぇ」
そう言ってこちらのやる気……もとい殺る気を煽るのがいつもの殺せんせーで、今回も同様だ。唯一違うのは、僕ら相手に浮かべていた
「ほう―――そうかそうか、そういう事か」
そんな殺せんせーの警戒をよそに、男は随分と上機嫌だ。
殺せんせーの答えが満足のいくものだったとか? 正直アレを聞いて怒る訳でもなく、普通にそれを受け入れているのが不気味と言えば不気味だ。
「……何が楽しいんですかねぇ。貴方を喜ばせる様な事は言ってない筈ですが?」
「阿呆め、言及しなければやり過ごせると思ったか? 口を閉ざす事、煙に巻く事。それ自体が失言となる事もあろうさ。
我相手にはそれで良いのやもしれぬが、同じ事を生徒に告げていては裏の意図も透けるというもの」
裏の意図? どういう事なのか考えようとしたが、それよりも早く男が言葉を続けていく。
「まぁよい。思った通り貴様は
「…………模造品、ですか。
えぇ、否定はしません。自分が劣化版でしかない事など、百も承知です」
殺せんせーは静かに男の評価を聞き入れている。模造品、という評価が具体的に何を示しているのかは分からないけど、あまり良い意味ではないだろう。
「フン、憤る事も無いか。つまらんな。アレの手前動くつもりも無かったが、これに付き合って時間を費やし、あまつさえ影響されるというのも腹立たしい。
―――いっそ、ここで殺しておくか?」
「ッ……!」
自分の喉以外にも周囲のあちこちから、息をのむ音が聞こえた。さっきまで言っていた殺す気は無いというのは何だったのか。心変わりがあったらしい男の気配が変わった。
男の目が殺せんせーを睨みつけたその瞬間、視線に殺気を込めた。やった事はただそれだけ。
しかしその瞬間に、極寒の世界に足を踏み入れたかの様な寒気がこの身を襲った。上から抑えつけられる錯覚さえ覚えるような重圧さえ感じる殺気は、しかしその内の一つとしてこちらに向けられたものではない。
殺せんせーに向けられた殺気の余波だけで、烏間先生とビッチ先生を含むこの場の全員が恐怖を覚えている。直接向けられる殺せんせーは堪ったものではないだろう。
「やれやれ全く……違うと言っておきながら、結局目的は暗殺ですか。
まぁ良いでしょう。色々と好き放題言ってくれましたしねぇ。初撃のお礼も合わせて、念入りに手入れしてやりますとも」
向けられている筈の殺気をものともせずに、殺せんせーはヌルヌルと何時もの笑い声を上げる。ようやく普段の調子が戻って来たらしい。その触手の先には幾つもの研磨道具や艶出し道具が見て取れる。……磨くんだろうか、あの鎧。
「ほぅ、手入れときたか。反撃でも報復でもなく、手入れと」
「えぇそうです。それが私を殺しに来た者への対処ですので。
なので覚悟しなさい―――その鎧も武器も何もかも、太陽の下で直視するのが困難なくらいピッカピカにしてやりますよ!」
「そうか……ならばやってみせよ」
何の行動も起こしていないけど、男の纏う殺気がより一層強くなる。酷薄な笑みを浮かべたのが雰囲気で分かった。遂に戦闘が始まるのだ。
あの男が何をやったにせよ、最初の一撃で殺せんせーに脱皮を使わせたことは事実。多分殺せんせーもその攻撃の正体はまだ把握していないんだろう。それを見極めるためなのか、手入れ道具を手にしながらも自分から率先して動こうとはしていない。それだけ警戒している証拠と言っていい。
僕達の方にも緊張が走る。これまでビッチ先生や修学旅行のスナイパーといったプロの殺し屋が殺せんせーを狙う場面は幾つもあったけど、実際にこの目でその場面を見るのは初めてだ。律がそれに近いのかもしれないけど、生徒だから微妙な所かな。
何はともあれ、殺せんせーにダメージを与えかけた攻撃だ。見ておかなきゃ。
そんな事を考えて、僕はしっかりと目を凝らす。
目を凝らしたからこそ、それが現実とは思えなかった。
「…………え?」
僕だけじゃない。
クラスメイトも、先生達も、殺せんせーまでもが呆気にとられる。
その現象を起こした張本人であるその男以外の全員が、その光景に己の目を疑った。
「―――『
男の声が、妙に響いた。
◆
理解を超えたモノ、というのは多く存在する。僕たちの場合、殺せんせーがその代表格だろう。
残像で分身を生み出す超スピード。あらゆる教科に対応した教育能力。専用の武器でなければ傷つけられない謎の触手。存在そのものが僕たちにとっては理解不能な生物だ。
E組1の漫画好きである不破さん曰く、漫画などで非日常的な世界に触れていると、いざ何か起こった時に素早く対応できるようになるらしい。実際、不破さんは殺せんせーを受け入れるのも速かったような気がする。
だから、殺せんせーなんて非常識が服を着て笑っている様な存在と日常的に接している僕らE組は、普通の人よりもそう言った事に耐性があると思っていた。
……その僕たち全員が理解できず、呆気にとられる光景が目の前に広がっている。それは殺せんせーも同様だったらしく、警戒しながらも固まってしまっていた。
「……何だ、それは」
消え入るようなか細い疑問の声が、殺せんせーの喉から絞り出された。
男の背後の空間に、黄金の波紋が浮かんでいる。
まるでそこに金色の水面があって、そこに一石を投じたかの様な波紋が波打っているのだ。
そしてその波紋から、一本の武器が顔を覗かせている。
遠目でよくわからないが、ある程度の形状は輪郭から察せられる。薙刀を思わせるその武器は、何度か目にした事があった。もっともそれは漫画やゲームでの話で、実物を見るのはこれが初めてになるが。
青龍偃月刀―――日の光を反射して煌めいて見えるそれは、恐らく多くの装飾が施されているのだろう。美術館や博物館に飾られているような見事な武器がそこにはあった。
問題はそれが、
少しして頭に浮かんだ予想としては、
しかしその予想は、次に起こった事で否定される。
「にゅやぁっ!!?」
空中に浮かんだ青龍偃月刀。手に持って武将の如く振り回すのが正しい使い方なんだろう。だけど出現が非常識な武器は、攻撃方法も非常識だった。
男が一切のアクションを執っていないにもかかわらず、謎の方法で出現した武器は猛スピードで殺せんせー目掛けて
とはいえ、黙って
土煙の向こうに、地面に刺さった青龍偃月刀が見える。あの武器が間違いなく今の攻撃に使われた事の証明であり、あれが確かな物質として其処に存在している証拠だ。僕の考えていた立体映像という仮説はアッサリと否定される。
「……何よアレ。意味不明だわ」
殺せんせーも非常識の塊と言っていい存在だけど、それでも超スピードによる分身なんかはまだ理解が出来た。だけどこれはまるで理解できない。プロの殺し屋でもあるビッチ先生が本気で困惑しているのが、アレの不気味さを強調していた。
―――だけど、今の一撃で武器は失われた筈……
そう思った僕だったが、それを嘲笑うかのように視界の端が光で満ちる。頭を掠めた嫌な予感を確かめるために、その方向へ眼を向けた。
「……え」
「まさか―――」
「……何なんだ、アレは」
そこには、幾つもの
ここ最近の天候で見慣れてしまった、水たまりに出来る雨の波紋。それを黄金に染め上げたかの様な光景が、あの男の背後に広がっている。つい先ほど武器を吐き出した砲門とでも呼ぶべきそれが、幾つもの武器を出現させていた。
何の飾り気も無い直剣があった。豪奢な装飾のある馬上槍があった。対照的な意匠の双剣があった。黄金で出来た斧があった。
どうやって使うのかよく分からない剣があった。何に使うのかよく分からない形状の武器があった。武器と呼んでいいのかわからない物があった。
この世に存在するあらゆる武器の中から適当に選んだかの様な、まるで統一性の無い武器の数々。唯一共通している事は、それら全てが殺せんせーを殺す目的でこの場に現れたという事。その数は10を軽く超える。
「手入れと言ったな。雑種
静かになった校庭に男の声が響く。喜悦を含んだその声色は、獲物をいたぶる獣のそれだった。
「我の財宝は数が多い。総数は数えるのも馬鹿馬鹿しくなる程でな……これでも氷山の一角よ。
何もかも磨いてやると己で言ったのだ、どこまで凌げるか見てやるとしよう―――励めよ?」
言い終わると同時に、無数の武器が雨となって襲い掛かった。
ギルガメッシュに殺せんせーをどう呼ばせるかで結構悩みました。結果、アルテラへの雑種もどきをヒントに雑種くずれに。
普通に襲いかかってますが、まだ殺意はそんなにありません。エルキドゥの友人試験が白野にも適応されているくらいに考えてください。
白野を預けてもいい相手か試す。不適格なら死ねって感じです。人類最古のモンペ。
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ヴリトラちゃん引けました。かわいい。
多分こたつに負けると思う。