岸波白野の暗殺教室   作:ユイ85Y

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前回冒頭で触れたガールズラブに関してですが、明確な描写があるわけではないのでつけないでおきます。
いずれイケ魂:EXなザビ子が建築士するだけなので……
では3話をどうぞ。


03.毒殺の時間

 

 味覚においてのみ私が超生物から人外認定された昼休みも終わり、その後の授業も滞りなく進んでいった。いや、時折殺せんせーが「あがってきた」とか言って水を飲んでたから滞りなくとは言えないか。

 というかあの麻婆そんなに辛さ残るのかな? 私はそんな事も無いんだけど、超生物だからなのかな。

 

「お菓子から着色料を取り出す実験はこれで終了! 余ったお菓子は先生が回収しておきます」

 

 今日最後の授業である理科の実験が終わった。実験で使ったお菓子は各自用意する物だったのだが、そんなことを知らされていなかった私はカルマの分を分けてもらって無事実験を終えることが出来た。そういう連絡はちゃんとしてほしい。

 

「給料日前だから授業でおやつを調達してやがる……あれ買ったの俺等だぞ」

 

「地球を滅ぼす奴がなんで給料で暮らしてんのよ」

 

 殺せんせー給料で暮らしてたのか……いや、教師として在籍してる以上それは当然なんだろうけど、何にお金を使ってるのやら。そしてお金を使わずに糧を得ようとしている辺り、金欠なのだろう。何となくハサン呼ばわりされていた時の事を思い出す。

 あれは本当に屈辱的だった……今思い出してもあの時の態度は酷かった。まぁ確かにお金は無かったけど、あれ程までに見下さなくても良かったんじゃないかと思う。何なんだ貧しさが移るって。移るか……いや、思い返せば表に付いて来てくれた時、「家財の九割を落としてきた。暫しの赤貧、甘んじよう」とか言ってた記憶が……あれ、まさか本当に私のハサンが移ったのか?

 

 とまぁそんな事を考えていたから、突然聞こえてきた声に我が耳を疑った。

 

「毒ですっ! 飲んでください!」

 

 びっくりしてズッコケた。それは周りの人達も同じだったらしく、何かお笑い番組で見るみたいな前傾姿勢になっていた。

 

「奥田さん……これまた正直な暗殺ですねぇ」

 

「わ、私……他の皆みたいに不意打ちとか上手く出来なくて……でもっ! 化学なら得意なんで真心込めて作ったんです!」

 

 私の場所からは奥田さんの表情は見えない。しかしその声色は真剣そのものだ。

 でも正直その殺り方はどうなのかと思ってしまう。こと毒に関しては正真正銘のプロフェッショナルであるロビンフッドを知っている分、この暗殺が如何に間違っているかがよく解かる。

 

 そもそも毒というのは如何に相手に気付かれないように仕込むかがポイントだろう。あらゆる手段を用いて井戸の中や食料にこっそりと仕込むのが普通は正解だ。それは過去様々な戦争が証明している。

 その考え方で行けば、奥田さんの方法は0点、いやマイナスだ。毒を飲めと言われても受け取る人はいないだろう。罠と呼ぶのも烏滸がましい見え透いた仕掛け。隠蔽されてないBBチャンネルのスイッチがあったら私だって絶対避ける。流石に殺せんせーもこれに引っかかったりは……

 

「それはそれは。では頂きます」

 

「あ、飲むんだ」

 

 思わず口に出してしまった。飲むんですかそうですか……。

 まるでそれがジュースか何かであるかのように、殺せんせーは何の迷いも無く試験管の中身を飲み干してしまった。そしてそれによる変化は直ぐに現れる。

 殺せんせーの体が痙攣しだす。まるで本当に毒物の被害にあっているかの様に。これは決まったのか? 奥田さんが百億総取り……?

 

「この味は水酸化ナトリウムですね。人間が飲めば有害ですが先生には効きませんねぇ」

 

「……そうですか」

 

 効いてなかった。にょきって感じでツノが生えただけだった。毒を飲んでツノが生えるっていうのもどうなんだろう。あの触手ボディに何がどう作用しているというのか。それはそれで興味深くもあるけど。

 

 その後残った二本の毒薬を飲むも、殺すどころかダメージを与える事すら叶わなかったらしい。というかそれならわざとらしい呻き声とか止めてほしいよ。無駄に迫真の演技だから「やったか!?」って思ってしまう。それで裏切られるのはお約束だよねって横で不破さんが言ってたがそんなお約束はいらないからね。

 ちなみに残り二本の変化だが、酢酸タリウムを飲んで翼が生え、王水を飲んで真顔になった。顔文字みたいな真顔と誰かが言っていたが正にそうだと思う。普段から環境依存文字のアイコンみたいな顔してるしね。

 

 

「それとね奥田さん、生徒一人で毒を作るのは安全管理上見過ごせませんよ?」

 

「……はい、すみませんでした」

 

放課後(このあと)時間あるのなら、一緒に先生を殺す毒薬を研究しましょう」

 

「!……はいっ!」

 

 そう言って、殺せんせーと奥田さんは二人並んで廊下へと消えていった。標的と一緒に作る毒薬というのはどうなんだろうか……後でそれを飲むのが自分なんだから、効く毒なんて絶対に教えない気がする。

 ともあれ、奥田さんの暗殺は失敗した。人体に有害な毒でも効かないという情報が分かっただけでも僥倖だが、あの暗殺の方法では仮に効果がある毒を作ったとしても盛れる可能性はゼロだろう。

 

「あれ、岸波さん帰るの?」

 

「私らバドミントンやるけど一緒にやんない? ナイフ慣れなきゃでしょ」

 

「んー……ゴメン、今は体力回復が先でさ。技術云々はその後かな。また今度誘ってよ」

 

 倉橋さんと中村さんからの放課後のお誘いを断り、学校を後にする。ナイフに慣れるというのも大事だが、体力を戻すのが先だろう。

 日常生活に支障が無い程度には回復した私の肉体だが、その日常生活が暗殺の毎日という事になれば当然基準が変わってくる。この暗殺教室の生徒として見た場合、私は健康体どころか虚弱と言われても可笑しくないだろう。実際、今日は登校で山道を登るだけで息が上がったんだから、この認識は間違ってない。

 それに私にはこの辺りで暮らしていた記憶も無い。何を買うのにどこに行けばいいという情報すら皆無だ。なので地理の把握も兼ねて、今日は色々歩き回ってみるつもりでいる。何なら夕飯も外で済ませてしまってもいいだろう。

 

 ……この時の私は知る由もなかったが、私が帰った後の教室では「毒で顔色変わるだけなら、死に掛けたとまで言ったあの麻婆は矢張り毒以上の何かなのではないか」との話題が持ち上がり、私の人外度数が跳ね上がったらしい。解せぬ。

 

 

 

   ◆

 

 

 

「今日はこんな所かなぁ」

 

 太陽が沈み始める頃、近辺を粗方探索した私は、たまたま見つけた料理屋で少し早めの夕食を摂っていた。帰りの事も考えると、ここで何かお腹に入れておかないと厳しい。

 調査の結果、この辺りは住宅街が広がっており、人目に付くことを考えると暗殺に使えそうな所は無かった。暗殺したい生徒は殺せんせーの携帯に連絡を入れればいいらしいので、罠を仕掛ければどうにか出来そうではあるものの、矢張り一般人に見つかるリスクと天秤に掛けると……といった所か。この辺りはSE.RA.PHでなく地上で行われていた聖杯戦争の考え方が応用できそうだ。

 

 魔術も国家機密も秘匿すべきという一点では変わらない。だから聖杯戦争は人目を避けて夜間に行われたり、事前に人払いの結界を張っておいたりするのが当然らしい。もしこれを破ったりするサーヴァントがいた場合、その陣営を除く全陣営が聖杯戦争を一時中断して結託、袋叩きにあうなどといった事もあったそうだ。ムーンセルの校舎の図書室でそんな感じの文献を見た記憶がある。

 これが聖杯戦争だから袋叩きなんて四面楚歌に陥ったと言えるが、同時に聖杯戦争だから袋叩きで済んだとも言える。もし国家機密が漏えいするなんて事になれば、袋叩きでは済まないだろう。うん、暗殺は校舎及び裏山でのみ行うという大前提は崩さない方が良さそうだ。

 

「おじさん、替え玉頂戴」

 

「あいよ」

 

 そんな事を考えながら、新しくやって来た替え玉を少しだけ温くなったスープに沈める。ラー油をこれでもかと回しかけ、ずるずるっと麺を啜る。そう、今私が食べているのはラーメンだ。何気に初体験だったりする。何でもネットでは「ある意味で日本食代表」とまで言われていたので一度食べてはみたかったのだ。

 

「……あれ、岸波?」

 

「え?」

 

 ふと。入り口ではなくカウンターの方から声を掛けられた。顔を上げてみると……何だろう、へちまみたいな顔をした同年代の男子がいた。この顔はつい数時間前に教室で見た記憶がある。確か名前は……

 

「えっと……」

 

「あー、そういや自己紹介してなかったっけか。村松だよ。村松拓哉」

 

「村松君か。村松君……うん、覚えた」

 

 どうやら自己紹介もされてなかったらしい。道理で名前が出てこない筈だ。

 

「で、何でここにいるの? バイト?」

 

(ちげ)ーよ。手伝いだ手伝い。ここ実家だから」

 

「……そうだったのか」

 

 言われてみれば向こうで寸胴鍋をかき混ぜている店長と顔が似てる気がする。

 

「で、お前は何でうちでラーメン食ってんの?」

 

「あぁ、リハビリも兼ねて歩きながら、この辺りの地理を頭に叩き込んでたの。それでお腹減ったから」

 

「んでうちのラーメンか……」

 

「うん」

 

 会話が一段落したので再び麺を啜る。んー、麻婆味のラーメンとかやってないかな。ないか。

 

「んで、味どうだ? 不味いだろ?」

 

「うん、美味し――……え?」

 

 ……何だか、今日は自分の耳を疑う事が多いな。聞き間違いでなければ村松君は今、自分の実家がお金を取って出している商品を不味いと言ったような……?

 

「親父にも言ってんだけどな。どれだけ言ってもレシピ変えやがらねぇ。俺がガキの頃から不味いまんまだ」

 

「そうかな? 私は美味しいと思うけど」

 

 ラーメンを食べるのが初めてだから他と比較が出来ないけど、ちゃんと料理として纏まっていると思う。

 

「……お前、やっぱあの麻婆で味覚壊れてんだよ。絶対」

 

「失礼な」

 

 仮に私の味覚が壊れてるんだとしたら原因は麻婆じゃない、テロい金星料理だと思う。あれを完食した身からすれば、食べて大丈夫な物というだけで大抵の物は美味しく頂ける。何で文房具を煮込んだらシチューになるのか。『調理したものがこちらになります』のチート技を使っても無理だろう。

 というか仮にこのラーメンが本当に不味かったとして、自分の家の物をそこまで言うのもどうなんだろうか。

 

 結局その後、替え玉をもう一つと村松君が作った餃子を頂いてお店を後にした。ラー油の量に引かれた以外は普通の食事風景だったと思う。

 外はすっかり日が落ちて暗くなり、いくつかの星が顔を覗かせていた。その中には当然、強制的に三日月にされた月もある。

 

「……ギルでも出来そうだな」

 

 殺せんせーに抉られた痕を見て、何となくそう思った。ギルの宝具なら抉るどころか消し飛ばしてるかもだけど。

 ……月が突然消え去りました。私たちはもう一生お月見が出来ないのです……うん、無い。明らかに大事件なのに危機感がまるで無い。

 火照った顔に当たる、ほんの少しだけ冷たい春の風が心地良い。月を背にして帰宅を急ぐ……明日は奥田さんに毒薬がどうなったか聞いてみよう。




まだ原作の毒の時間が終わらない…
あと2話くらいで原作2巻に進める予定。

思ったよりも多くの人が見てくれてて嬉しいです。これからも頑張りますね。

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