岸波白野の暗殺教室   作:ユイ85Y

24 / 33
律登場です。
大改造まで行きたかったんですが、長くなりそうだったので分けました。


24.砲台の時間

 

 もうすっかり通い慣れてしまった山道を歩く。修学旅行を挟んだ所為か、何時もよりも足が重い気がした。楽しいとは一概には言えず、更に私にとっては王様との再会という特大過ぎるイベントもあった修学旅行も終わり、今日からはまた通常授業だ。

 

 山道を歩く私の横にギルガメッシュの姿は無い。霊体化しているという訳でも無く、本当にこの場にいないのだ。「何かあれば念話か、急ぎであれば令呪で呼べ」との事で、今日彼は家でお留守番である。

 護衛がどうこうと言っていた割にこの対応なのは、本当に自分から行動するのが面倒だからなのか、それとも私に対して何があっても自分を呼ぶ時間くらいは稼げるだろうという信頼をしてくれているという事なのだろうか。判断に困るが、何となくどっちもな気がする。8:2で面倒な方が多いくらいだろう。

 まぁとはいえ、気紛れな彼の事だ。多分その内学校にも霊体化して一緒についてくる気がする。そうなれば一緒に登下校だ。そう考えると何だか楽しい。

 

 しかし、こうも着いて行く気は無いと面倒オーラを前面に押し出されると、やはり私に持ち掛けた護衛の話は本当に再契約の建前だったんだなという認識が大きくなる。その事にニヤついてたらげしげし蹴られた。それがまた可笑しくて懐かしかった。

 王様もそう思ってくれたのかは不明だが、途中から蹴りの威力も弱くなり、最後は一緒にくすくす笑ってたっけ。

 

 ……ちなみに彼から告げられた麻婆常食禁止令は、すったもんだの舌戦を繰り広げた後に、週三回までなら許容するという条件で結論が出た。何時になったら王様は麻婆の美味しさを解かってくれるのだろうか。

 

「白野ちゃーん! おっはよー!」

 

「おはよう、倉橋さん。片岡さんも」

 

「うん。おはよう岸波さん」

 

 勢い良く駆けて来た倉橋さんと追いかけて来た片岡さんに挨拶を返し、分かれるのも何なので一緒に歩く。

 雑談の内容は昨日見たテレビの話やどこの店のスイーツが美味しい等の一般的な話から、殺せんせーを殺すためのアイデア等のE組独特な会話まで様々だ。倉橋さんがコロコロと表情を変えながら話すので、見ていて飽きない。

 

「そうだ、昨日烏間先生からのメール見た?」

 

「あー、来てたね確か」

 

 片岡さんの言葉で思い出した。携帯を取り出してメール画面を開く。クラスでやってる事が(暗殺)なので、連絡を円滑にするためにも、教師陣には連絡先を伝えてあるのだ。

 恐らく一斉送信されたであろうメールには、こんな事が書かれていた。

 

『明日から転校生が一人加わる。多少外見で驚くだろうが、あまり騒がず接してほしい』

 

 ……との事だ。

 

「転校生、なんだよね? 本校舎から移動してくるんじゃなくて」

 

「そうね。外からE組に来るって事は―――」

 

「―――先ず間違いなく殺し屋だろうね」

 

 片岡さんの言葉を受け継ぐ形で答える。否定の意見は無いのか、特に二人から声は上がらなかった。

 

 正直、ついに来たかと思う。教師(イリーナ先生)で駄目なら生徒として、という事だろう。殺せんせーは教師として行動する以上、生徒の前で教壇に立たなければいけない。生徒の位置から殺せるなら暗殺もしやすいだろう。

 

「……でも、外見に驚くってどういう事かな?」

 

 倉橋さんがぽつりと疑問を口にした。

 

「んー……外人、とか? ビッチ先生みたいに」

 

「それだったらビッチ先生で見慣れてるし、今更外国人くらいで驚かないけどなぁ」

 

「それもそっか」

 

 二人して頭をひねっている。すると、意見を求める視線が片岡さんから向けられた。

 

「……どう見ても同級生じゃない。とか?」

 

 思った事を口に出すと、二人は小首を傾げて続きを促してくる。揃った動きが可愛い。

 腕を組んだ状態でぴんと一本指をたて、持論を述べた。

 

「殺し屋だとして、国が参加させるって事は相当期待できるって事だと思う。そして、そんな殺し屋が私達と同世代だとは思えない。きっとこの暗殺に参加できるだけの実績を持ってるんだと思うし、それだけのキャリアを14~5年で立てられるとは考えにくい。

 ……なら、どう見ても三十代四十代の髭もじゃなオジサンとかが、学生服着て座ってるって事なのかもしれない。それなら『多少外見で驚く』って言葉も納得できるし」

 

「「成る程!」」

 

 二人そろった納得の声。どうやら私の考えは受け入れてもらえたらしい。

 それからは三人で転校生の外見予想だ。既に二人の中では髭のおじさんが転校生のデフォルトとして存在しているらしく、勝手な憶測を立ててはオプションを付け足していく。

 グラサンを掛けさせて煙草を咥えさせるのはいい。スキンヘッドに刀傷もありだろう。だが背中の入れ墨と長ドス装備はちょっと待てと言いたい。殺せんせーを殺すのに純粋な刃物は必要無い……多分不破さん辺りが仕込んだ任侠漫画の知識なんだろうなぁ。

 

「……まぁ、実際に見てみれば分かるんじゃないかな?」

 

 着物を着せようとした所で流石に止める。一応学生なんだから制服に決まってるだろうに。

 

「う、うん。そうね」

 

 倉橋さんと一緒になってはしゃいでいたのが少し恥ずかしいのか、片岡さんの頬がほんのりと赤い。

 

 校舎が見えてきた辺りで話を切り上げて教室に向かう。心なしか二人の足が若干早い気がする。多分転校生が楽しみなのだろう。そうして教室の所まで行くと、入り口で潮田君達が固まっていた。

 

「おはよう、どうしたの?」

 

「あ、岸波さん……えっと、その」

 

「……見た方が早い」

 

「そう?」

 

 杉野君が道を開けてくれたので、ひょこりと覗いてみる。そこには見慣れた教室の景色が広がっていたが……一つ、どうしても目を逸らせない物があった。

 

「……は?」

 

 箱。

 そうとしか形容出来ないものが堂々とそこにある。私の席の二つ左隣。窓際最後列の席の所に、椅子の代わりに平たい箱が鎮座していた。何か液晶とか付いてるし……

 

「――――――」

 

 すると、その液晶部分に映像が映し出された。人の顔だった。

 

「おはようございます。今日から転校してきました、『自律思考固定砲台』と申します。よろしくお願いします」

 

 如何にも口周りだけ動かしてますといった表情の動作でそう告げた画面上の少女は、言うべきことは言ったという事なのだろうか、画面を消して沈黙してしまった。一切の抑揚を感じさせない、正に機械的な音声だった。

 

 ―――言動から察するに、アレが件の転校生という事なんだろうか。

 

 確かに驚く外見をしているが、中身の方はそうでもない。

 

「なんだ……AIか」

 

「「「「「軽いッ!!?」」」」」

 

 私の声にその場の全員が反応した。え?

 

「え……そんなに驚くような事?」

 

「そりゃそうだろうよ……」

 

「流石にちょっとその、淡白過ぎないかなーって、思うんだけど……?」

 

「まさかの人外だよ白野ちゃん!? オジサンですらないよ!」

 

「お、オジサン? ……まぁ、予想のはるか上ではあるだろ」

 

「冷静に考えて岸波さん。AIよ? 人じゃなかったのよ? 普通驚くでしょ?」

 

 立て続けに話される皆の言葉に、あぁ成る程と納得した。

 

 ―――つまり、私と皆とでAIについての認識が違うんだ。

 

 多分皆にとってAIっていうのは、映画とかゲームの中に出てくる近未来的な物なのだろう。それが現実として自分の目の前にあるから驚愕も大きいんだと思う。

 しかし、それに対して私にとってAIというのは随分と身近な存在だ。0と1で構築された霊子虚構世界において、AIというのはごくありふれた存在だった。ムーンセルでも校舎内にはNPCがいたし、言峰や桜といった上級AIも知っている。AIでこそないが、出会った頃のラニなんかは、言い方は悪いがあの砲台少女と似たような印象だったしね。何より、私自身が元々AIみたいなものである。正確にはNPCだが。

 だからAIという存在に対して、他の皆より驚愕の度合いが小さいのだろう。

 

「いや、オジサンが座ってるよりは最新技術の結晶ならまだ現実的かなぁって……」

 

「どう考えても機械よりオジサンのほうが現実的だよぉおおおお!!」

 

「あぅう、揺らさないで……」

 

「……なぁ片岡、オジサンって何だ?」

 

「あぁ……えっとね―――」

 

 取り敢えず、私の肩を掴んでガックンガックンと揺さぶって来る倉橋さんは落ち着いてほしい。あと一番非現実的な存在はここの担任だと思う。

 

 

 

   ◆

 

 

 

 その日の授業が始まった。

 

 朝のホームルームで烏間先生から自律思考固定砲台の紹介があったが、物凄く疲れた顔をしていた。まぁ、無理も無い。常識的な烏間先生にとってはかなり扱いにくい案件だった事だろう。

 

 彼女がこの教室に投入された理由としては、どうも殺せんせーが国と結んでいる契約に関係があるらしい。

 殺せんせーは生徒に対しては危害を加えないという契約を政府と結んでおり、それ故に私達には「手入れ」という方法をもって対応してくる。そしてどうもその契約対象外である殺し屋にも手入れで対抗しているらしく、修学旅行のスナイパーなどもそれが遠因で暗殺の仕事を降りたとの事だ。これは烏間先生から聞いた。

 

 そうして政府が考えた事が、手入れで暗殺の妨害をされるなら手入れ出来ない存在を送り込めばいい―――という事らしく、物理的な干渉が不可能なAIを生徒としてE組に送り込んだという事情らしい。彼女の暗殺を中止するならば破壊するしかないが、顔と人格を持つ彼女はれっきとした「生徒」であり、危害を加えてはならないという契約がある以上殺せんせーは彼女に対して手を出せない。

 

 つまり殺せんせーにとって、どうする事も出来ない殺し屋が至近距離に常駐する事になる。暗殺を進めていく上でこれは大きな一手になるだろう。シンプルな契約を逆手に取った、巧いやり方だと言える。

 

「いいでしょう自律思考固定砲台さん。貴女をE組に歓迎します!」

 

 殺せんせーがそう宣言した事で、正式に自律思考固定砲台が生徒としてE組に加入した。

 まぁ書類上は一介の雇われに過ぎない殺せんせーに生徒の受け入れを決定する権限なんてものがある筈ないので、この宣言は確認以外の何物でもない。だが受け入れるという姿勢を示す事は意味があるだろう。

 

 

 

 そうして新顔一人を加えて始まった授業だが、今の所なんの問題も無く国語の授業は進行していた。あんな体でノートはどうやって取るのかと思っていたが、多分板書内容をデータに加えてるとかそんな学習法なんだろう。楽そうで少し羨ましい。

 烏間先生が彼女を指して「ずっと銃口を向ける」と言っていたから少し心配だったのだが、授業中の暗殺は禁止というルールくらいは教えられているのかもしれない。

 

 ―――でも、どうやって撃つんだろう?

 

 ちらりと左へ視線を送る。その外見はやはりどこからどう見ても箱そのものであり、銃を構える腕なんて見当たらない。見た所、銃口らしき穴も確認できない。これでどう射撃を行うというのか。前の方でも茅野さんと潮田君がその事について話しているらしく、顔を寄せて小声で話している。

 

「―――この登場人物の相関図を纏めると……」

 

 殺せんせーが板書のために後ろを向いた。その時―――

 

「――――――」

 

「え」

 

 ガションガションという機械的な音に思わず横を見ると、転校生から銃が生えてきた。いや、生えてきたというよりは展開したと言った方がいいだろうか。

 機体横の部分が開いたと思ったら、そこから銃を搭載したアームが飛び出してきたのだ。その展開スピードも尋常ではなく、銃の体積はどうやってあの機体内に格納していたのかという大きさだ。

 

「やっぱり!」

 

「かっけぇ!」

 

「……おぉ」

 

 潮田君達の驚愕の声が聞こえてくるが、こればかりは私も驚いた。多分朝のAIに対する認識とは違い、今回は皆と感情を共有していると思う。AIやプログラムといったソフト面については経験値が豊富な自信があるが、こういったハード面についてはあまり知識も経験も―――

 

 ―――いや、あるか。

 

 うん、修正。こっちの経験値もよく考えたらそれなりに豊富だった。王様の宝物庫にある、これよりも更に内部機構どうなってんだコレと思わざるを得ないようなハイパーウルクテクノロジーの数々と比較すれば、体積を無視した展開機能とか可愛いものだ。

 そうだな、王様の宝具に比べたら全然常識的だった。向こうは例えば全自動調理宝具とか、自動防御宝具とか、天翔ける王の御座(ヴィマーナ)とか……もう意味が分からない。ホントあれ内部機構は何がどうなって機能してるんだろう。元に戻る保証は微塵も無いが、一回くらい解体(バラ)してみたい。

 

 

 そんな事を考えていた私をよそに、転校生は射撃を開始する。固定砲台の名に違わぬ濃密な弾幕が形成され、殺せんせーへと迫る。同規模の弾幕なら他の生徒達でも出来るだろうが、どうしたって人手が必要になる。それを一人でやってしまえる辺り、政府が送り込んでくるだけのスペックがあると再認識した。

 

 しかしそこはマッハ20の怪物先生だ。初見ならともかく、弾幕自体は私達で見慣れている。案の定スイスイと躱してしまった。

 

「ショットガン四門に、機関銃二門……。濃密な弾幕ですがここの生徒は当たり前にやってますよ」

 

 黒板に跳ね返る弾さえ背中を向けたまま避ける余裕を見せながら、殺せんせーは語る。

 

「それと、授業中の発砲は禁止ですよ」

 

「……気を付けます。続いて攻撃に移ります」

 

 気を付けますとは。

 

 そうして再び展開される銃器の腕。今までは聞こえなかった発砲音が、再び授業中の教室に響き渡った。

 

「……こりませんねぇ」

 

 殺せんせーも緑と黄色の縞模様の(ナメている)顔になってこれに相対した。まぁ横で弾丸を吐き出した銃の種類をざっと見るに先程と同様のラインナップだし、結果は何も変わらない―――

 

「――――――ッッ!!?」

 

 ……当たった。

 

 チョークを持った殺せんせーの指先。そこが見事に吹き飛んでいた。

 

「――――――」

 

 誰も言葉を発しない。当然だろう。殺せんせーに対して明確なダメージを与えられたのは、今の所数えるくらいしか無い。それも一月以上訓練を費やしての結果だ。

 だというのにこの転校生は、それをたった二回の射撃でやってしまったのだ。殺せんせーがあの顔色を浮かべていて油断していたというのもあるかもしれないが、それを差し引いても、彼女の実力が途轍もないものであるという事に変わりはない。

 

 持っていたチョークが床に落ちて二つに割れる。その横で、破壊された触手がビチビチと暴れていた。

 

「そうかよめたぞ……あ、あれはまさしく陰陽撥止」

 

「知っているのか、不破……」

 

「うむ」

 

 硬直からいち早く立ち直った不破さんがそんな事を口にし、菅谷君がそれに反応した。二人の話している内容によると、初撃と全く同じ軌道で二撃目を放つ事で攻撃を隠す技法らしい。正確には少し違うとの事だが原理は近しいものだとか。多分何かの漫画知識なんだろう。

 ようは隠し玉(ブラインド)。殺せんせーはそれにやられたという事だった。

 

「右指先破壊。増設した副砲の効果を確認しました」

 

 ―――成る程、「自律思考」か。

 

 暗殺対象(ターゲット)の防御パターンを学習して対策を自分で考えだす。その度に武装とプログラムに改良を繰り返して確実に追い詰めていく……という事なのだろう。

 

 彼女なら殺れるかもしれないと、自然にそう思った。実際に実力を目の当たりにしてしまえば無理も無いだろう。事実として、今最も殺せんせーの首に近い生徒は彼女だ。授業(学習)時間が豊富にあるこのE組は、実に彼女向きと言える。

 

「よろしくお願いします殺せんせー。続けて攻撃に移ります」

 

 そう言って、彼女は次の自己進化(アップデート)に取り掛かった。




 
コメントでも何度か言われているのですが、プログラムの律と元NPCな白野の相性は良いので、必然的に絡みが多くなりそうです。

金ぴか様には家で留守番してもらったり、学校に来ても霊体化しててもらいます。
そのため、金ぴか絡みの騒動はまだ先ですが、裏で何やってんだコイツという不安を楽しんでもらえたらいいなぁ。

次回は改造の時間です。





追い課金で以蔵さんを宝具5にできました。聖杯使うかは検討中。
タダ石10連で水着ノッブ引けました。ネロ狙いに課金するかは検討中。
メイドオルタは回さない。騎も弓も戦力は充実してるし、頼光さんは何故か食指が動かない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。