岸波白野の暗殺教室   作:ユイ85Y

21 / 33
触手幼女とドジっ娘女神が畳みかけて来て遅くなりました。恐らく年内最後の投稿になります。
烏間先生は結局こうなりました。


21.進展の時間

 

「家に帰るまでが修学旅行です! 寄り道などしないように!」

 

 修学旅行の最終日。激動だった二日目とは打って変わって何かが起こる事も無く、E組の生徒は誰一人欠ける事なく椚ヶ丘の地に戻って来ていた。普通はそれが当たり前だが、一歩間違えば生徒数人が死亡していた可能性もあったのだ。その事に内心胸を撫で下ろしても仕方ない。

 

「結局殺せなかったなー」

 

「ねー。折角色々考えてたのに……」

 

「ま、しゃーねーだろ。次の殺り方考えよーぜ」

 

「さんせー!」

 

 修学旅行が終わった以上、駅に留まる意味も無い。京都で買った土産物を手に、一人また一人と家路についていく。街中という事で声は抑えてあるが、何も知らない人が聞けば何事かと振り返るレベルの話をしながらだ。まぁあの年頃なら切った張ったという内容のゲームを遊んでいる人物も多いだろうし何も知らない人物が聞けばそういう話だと誤解してくれる可能性の方が高いとは思うが、迂闊であることに違いは無い。

 

「緊張感無いわねぇ」

 

 隣にいるイリーナも呆れ顔だ。彼女は本職の殺し屋である分、余計に思う所があるのかもしれん。ちなみに今の彼女の服装は、修学旅行初日にここを訪れた時の全身ブランド物である。この後は帰宅するだけなので、流石に目を瞑る事にした。

 

「ハァ……全くだ」

 

 ―――今度奴と相談して、通常授業の中で情報秘匿について教えた方がいいのだろうか。

 

 デコレーションを施したナイフケースを全校集会の際に見せびらかしてきたり、一応注意を払ってはいるものの、暗殺関係の話を外で平然と行ったりと、どうもそういった方面での危機管理能力は年相応と言わざるを得ない。まぁ、一番黙っていなければいけない国家機密が適当な変装で出歩いている時点でアレなので、その辺りの意識改革も進めなくてはならないだろう。

 

「―――ム」

 

 粗方帰ったか―――と周囲を見渡すと、生徒の姿が目に入った。彼女もどうやら教師の言葉に従って寄り道もせず帰るらしく、一人ぽつぽつと歩き出していた。

 

「つっ……かれたなぁ~……」

 

 そんな事を呟きながら伸びをする少女……岸波さんは、今現在俺が最も気にしている生徒と言って良い。昨夜の超生物との話し合いで彼女に見え隠れする異常性を知ってしまった以上、目線が向かってしまうのは仕方ない事だった。

 

 ―――やはり、気になる。

 

「……ところでカラスマ、今日この後暇かしら? ちょっとどこかで―――」

 

「スマン、後にしてくれ」

 

「え、ちょッ!?」

 

 何か話していたイリーナの言葉を遮って歩き出す。向かう先は当然、岸波さんの所だ。

 

 彼女には個別に聞きたい事が山ほどある。後日一人だけ呼び出すという形を取る事も出来るが、それだと警戒されてしまうだろう。修学旅行という一大イベントが終了した今ならば、気が抜けて多少は口が滑るかもしれん。

 

「岸波さん、少しいいか?」

 

「はい?」

 

 俺の呼び声に反応して、岸波さんがくるりと振り返る。その佇まいにおかしな所は何一つ見受けられない。資料に添付されていた写真と全く同じ顔立ちだ。

 

「……奴から話を聞いてな。色々(・・)あったがその、大丈夫か?」

 

「え……と、はい。殺せんせーが助けに来てくれたので。幸い大きな怪我も無かったですし」

 

 敢えて主語を省いた聞き方をすると、案の定奴が介入した事についての答えが返って来た。流石に、ここで高校生の相手は大変だったなどという決定的な言葉を零すような事は無いらしい。

 

「……奴が到着した時、君は拘束を解いていたと聞くが」

 

 一歩踏み込んだ内容。俺が奴からある程度の詳細を聞いていると告げる意味もある。

 

「あれは……その、上手く抜け出せて」

 

「――――――」

 

 あはは、と岸波さんは笑う。取り繕う様な笑みだ。

 彼女の言っている事は間違いなく嘘だ。あの現場には強引に引きちぎられた縄があったという事を奴から聞いている。上手くというよりは無理矢理とつけるべきだろう。

 しかしそれを俺に説明すれば、外見と一致しない筋力についての説明をしなければならない。故に誤魔化すしかない。

 

「……そうか」

 

 もう一度岸波さんの全身を見る。全体的に細いシルエットの華奢な体躯だ。年相応の肉体と言って良いだろう。この本気で締め上げれば容易く折れてしまいそうな体に、高校生数人を無力化できる力量が備わっているとはとても思えない。する筈も無いが、仮に今ここで俺が本気で殺しに掛かれば二秒と経たずに勝利できるだろう。

 だが、彼女は事実としてそれをやってのけたのだ。人畜無害そうな外見をしたこの少女が、その愛らしい顔の下に恐ろしい何かを隠し持っている事は、もはや疑いようが無い。

 

 ―――君は一体……

 

 何者だ?

 何が目的だ?

 何を隠している?

 

 そう問いかけるのは容易い。俺が深淵を覗き込めばそれで済む。彼女にも俺が警戒している事は知られてしまうが、それはもう仕方ない事だろう。今まで以上に隠す事を徹底されそうだが、今の様に隠そうとすれば違和感が出てくる。場合によってはそれが彼女の正体を探る突破口となるやもしれん。

 

「――――――」

 

 奴との話の後俺なりに彼女の正体を考察してみたが、考えられる可能性で一番高いものは『殺し屋』だった。

 月を破壊した超生物(規格外)が担任を務める教室にやって来た、正体を偽っている事が確実(規格外)な生徒。イレギュラーが二つ揃ったのならば関連付けて考えるのが自然だ。そしてその二つに関係を結びつけるのであれば、それは暗殺以外にはあり得ない。政府がイリーナ(プロ)を教師の位置に据えたのと同じように、生徒の位置から暗殺を狙う殺し屋がいてもおかしくは無い。

 そして殺し屋の中には、今回の修学旅行の様に、第三者を平然と巻き込む手段を取る者も少なくない。奴を殺すために巻き込まれるのは間違いなく生徒達だろう。生徒の安全を確保しなければならないこちらとしては、到底看過出来る事ではない。

 

 岸波さんが殺し屋だったとして、そういう手段を取らない輩だとは言い切れないのだ。

 

「……君は」

 

 ……無論、この考察が全くのハズレという可能性もある。しかし彼女が抱えているものが正体不明の爆弾である以上、真相の解明は必要なのだ。

 

「……あの、烏間先生?」

 

 ―――しかし……

 

「……いや、すまん……それだけだ」

 

 ……続けるはずだった言葉を、寸前の所で飲み込んだ。

 

 確かに彼女が抱える秘密の解明は急務だ。他の生徒の安全や暗殺への影響を考慮してもそれは間違いない。

 しかし彼女と目が合った瞬間頭に浮かんだのは追及の言葉ではなく、昨夜の話し合い、その最後の内容だった。

 

 

 

   ◆

 

 

 

『……お前の言いたい事は分かった。これは流石に放置していい問題ではない』

 

 岸波さんが別人と入れ替わっている、という衝撃の可能性が出て来た以上、彼女を放置する事は出来ない。早急に調べる必要がある。入れ替わっていたのは何時からなのか、岸波さんに成り済ます目的は何か、これが目の前の超生物に関係する事なのか。そして……本来E組に来るはずだった、()()()()()()()の安否。調べる事、暴くべき真相は多い。部下を一人か二人専門で当たらせるような案件だろう。

 

『それで……お前はどうするつもりだ?』

 

 わざわざこちらに告げて来たのだ、何かしらの行動を起こすつもりなのだろう。コイツならば手入れと称して抱えている秘密を暴露させるくらいは出来るに違いない。

 しかしそんな予想はあっさりと、普段の小馬鹿にする様な声色で裏切られた。

 

『いえ、別にどうもしませんが?』

 

『……はぁ?』

 

 何を言ってるんだと一瞬思ったが、続く言葉で冷静さを取り戻せた。

 

『というか私は何も出来ませんよ。隠し事に関しては人の事をとやかく言えませんし―――それに、そういう()()ですからね』

 

『ッ―――そう、だったな』

 

 生徒に危害を加えないことが絶対の条件。コイツは教師を務めるにあたってその条件を受け入れている。隠し事を無理に聞き出そうとするのは生徒の嫌がる事、広義的には危害と捉えられてもおかしくは無い。ならば生徒第一のコイツは何が何でも動かないだろう。

 

 ―――本来なら俺がコイツに言わなければならない事だった。いくら想定外の事態だからといって、迂闊だったか。

 

 そうだ。如何に隠し事をしていようと、岸波さんはこのE組の生徒だ。ならば他の生徒同様危害を加える事は許されない。それに強力な力を持った人物が生徒として潜入しているという事実は、それだけを見れば国にとっては都合がいい。多少の事には目を瞑るだろう。

 

『なら、何故こんな話をする。何か対策を取るという事ではないのか』

 

 しかしそうなると、この話題を担ぎ出した意図が分からない。これではただ彼女に対して不信感が芽生えただけで、何一つとして良い事が無い。

 

『……まぁ言い方はアレですが、釘を刺しておこうかと思いまして』

 

『釘だと?』

 

『えぇ―――烏間先生、貴方にね』

 

『―――』

 

 自分の眉間に皺が寄ったのが分かる。睨んで続きを促せば、すぐに言葉が返って来た。

 

『烏間先生なら今日この話をしなくても、いずれは同じ結論に辿り着いていたでしょう。その時、岸波さんの正体を突き止めるために独断で動かれると思いましたのでねぇ……それも、多少強引な方法を使ってでも』

 

『ム―――』

 

 ……否定できん。恐らくこの結論に自分の頭の中だけで辿り着いていれば、部下を使った張り込みくらいは押し通していたやもしれん。

 

『そんな事をすれば、彼女はこちらの全てを警戒するでしょう。そうなってしまえば岸波さんと向き合う事はとても難しくなる。

 ……生徒がどのような秘密を抱えていようが、信じて接しなければ向き合えない。疑いの姿勢を見せた後で信じていると言っても信用がありませんからね』

 

 あぁ、そこに行き着くのか―――と、すとんと納得した。普通ならば何を言っているのかと思う様な台詞だが、コイツが言うならこれ以上無い説得力がある。

 

 結局のところ、コイツはどこまでも()()なのだ。ただ生徒の為に教師であろうとする。己が理想とする教師像を目指して突き進んでいるといってもいいだろう。

 

『……そうか』

 

 そう言われてしまっては、コイツよりも教師としては未熟な俺に言える事は何も無い。抗議の代わりにため息が漏れた。

 

『だからまぁ、この話を持ち出したのは―――烏間先生に、()()()()()()()()()とお願いしたいからでして』

 

『……確約は出来んぞ』

 

 そう言って、奴の要望を受け入れる。他の生徒に被害が及ぶようなら迷わず探りを入れるという意味で口にした言葉を、奴はしっかりと受け取ったらしかった。

 

『―――まぁ、岸波さんが他の生徒に危害を加える事は無いでしょう。

 そんな子なら、自分の正体が露見するリスクを冒してまで神崎さん達を助けはしませんし、何より自分の目的のために周囲の人間や入れ替わる対象をどうこうする様な人間に、あれ程の綺麗な殺意は出せませんよ』

 

『……それもそう、か』

 

 

 

   ◆

 

 

 

 次第に遠くなっていく背中を見送る。荷物の重さに苦戦している姿は暫く直進した後、角を曲がって見えなくなった。

 

「――――――」

 

 あの後は何を話すという事も無く、寄り道はせずまっすぐ帰るようにと念を押す形で会話が終了した。岸波さんも少し俺の態度に首を傾げていたが、それ以上何も無いという事が分かると大人しく帰路についた。

 

「……よく踏み止まってくれました、烏間先生」

 

「ッ……急に出て来るな」

 

「ヌルフフフ……これは失敬」

 

 岸波さんの姿が完全に消えた所で後ろから声を掛けられる。言うまでも無く奴だ。振り返れば、街中という事で一応変装している顔が近い所にあった。

 

「もう少しくらいなら踏み込むのではと一瞬思いましたが、杞憂だったようで」

 

 昨夜コイツからの何もしないでほしいという要求に頷きこそしたが、それでも彼女に対して行動を起こす事を止められなかった。『出来る限りの不安要素は取り除いておくべきだ』という、防衛省の人間としての意識は今も胸の中にある。

 

「……まぁ、色々とな」

 

 しかし、それを抑え込む感情があるのもまた事実。最近になって心の中に芽生えて来た教師としての意識は、俺の後ろでヌルヌル笑うコイツと同じ結論をはじき出した。体育の授業で自分を真っ直ぐに見据えて来た目を信じたい。あの目は疑うべきではなく、向き合うべきものだ―――防衛省の人間としての意識を押し込めたのは、そんな感情だった。

 そんな俺の心情を知ってか知らずか、俺をここまで迷わせる原因を齎した超生物は笑い声を深める。鬱陶しい。

 

「彼女の隠している事については、いつか本人が話してくれるのを待ちたいものです。蛇がいるのは分かっているんですから、わざわざ藪をつつく必要は無い」

 

「……そうだな」

 

 奴の言う通り、それが一番問題が少ない。こちらが説明を強要するのではなく、彼女自身の意思で打ち明けてくれるのならそれが一番だろう。願わくば、そうなる以前に何の問題も起きない事だが……、国家機密で暗殺なんて事をしている以上、それは難しいだろう。今出来る事は出来るだけ目を光らせておくくらいか。

 生徒全員が去った以上、もうここにいる意味は無い。超生物の言葉に頷いてから踵を返した。

 

「あぁそうそう、イリーナ先生がこの後飲みに行かないかと言っていましたよ」

 

「無理だ。この後は修学旅行の一件を上に報告せねばならんのでな」

 

「にゅや、それは残念……」

 

 岸波さんの事は伏せておくべきだろう。上に報告すべきなのは得体のしれない生徒ではなく、裏で動いていた殺し屋の事だ。今後生徒を危険に晒す事が無いように、上には今回暗殺の話を持って行った殺し屋についてもう一度調査を依頼せねばならない。コイツから詳しい状況をもう一度聞いた方が良いかもしれんな。

 

「……しかしまぁ、随分と()()()なってきましたねぇ。烏間セ・ン・セ・イ?」

 

「……黙れ」

 

「にゅやっ!? 危なッ!?」

 

 

 

   ◆

 

 

 

 背中の荷物を背負い直して息を吐く。駅を出てからこの作業を何度繰り返しただろうか、少なくとも二十回は超えている筈だ。カバンが肩に食い込んで痛いが、それももう少しの事だと己に言い聞かせる。行きの荷物も重かったが、お土産の分が加算されているので余計に重い。京都での諸々をこなした体には結構つらい。

 

 学校から自宅までの帰宅ルートならたまに誰かと一緒に話しながら帰る事もあるが、駅からの帰宅ルートだと道が一緒の人は残念ながら一人も居ない。少し遠回りすれば誰かしらと帰り道を同じくできただろうが、寄り道は駄目だと言われているのにわざわざやる理由はない。それに荷物の重さを考えると、今は誰かと話しながらより一刻も早く家でこれを背中から降ろしたい。進む足に力を入れた。

 

「……烏間先生は何が聞きたかったんだろうか」

 

 話す相手がいないと、自然と頭の中には先程の事が浮かんでくる。

 

 修学旅行も終わって椚ヶ丘に戻り、さぁ帰ろうとしたところで烏間先生に呼び止められたのだ。何か連絡事項でもあるのかと思いきや、旅行先での一件に関して二~三質問されただけだった。まぁ生徒が誘拐されれば気になるだろうし、裏で何者かが動いていた形跡もあるんだから警戒して当然だろう。当事者に話を聞きたいというのも頷ける。

 でも烏間先生の雰囲気からは、それだけではない()()を感じた。言ってもいいのかどうかを逡巡するような、迷っている人の目だった。最後の質問、「君は―――」の後に続けようとした言葉は何だったのだろうか―――

 

「―――あ」

 

 と、思考が言いよどんだ直前の会話内容に辿り着いた時、ふと思い当たった。

 

 ―――まさか、バレた?

 

 あの場での私の立ち回り。コードキャストと八極拳を使った戦闘が烏間先生にバレていた。そう考えるとどうだろうか。

 

「……うわぁ」

 

 少し考えると、その可能性がとんでもなく濃厚だと思えてきた。

 まず現場に残って事後処理をした殺せんせーから粗方の話が通っているだろう。それは間違いない。ならば、私が高校生数人を相手に戦っていたという状況が伝わっていてもおかしくは無い。

 そして烏間先生は近接戦闘のプロである。それは体育の時間の動きを見ても一目瞭然だ。そんな烏間先生なら、私のやった事がどう考えても異常だという事には気付く筈。つまり……

 

 ―――あの場で烏間先生は、私にコードキャストの事とかを聞くつもりだったんだろう。

 

「そっかぁー……まぁバレるよなぁ……」

 

 思わず立ち止まってそんな言葉を呟く。恐らく買い物帰りであろう自転車に乗った主婦が怪訝な表情で私の後ろへとすれ違って行った。

 コードキャストや八極拳といった、具体的に何をしたかという所については把握されていないだろうが、それでも私が何かをしたというのは知られてしまった筈だ。そんなもの、気になって聞かない方がおかしい。

 

 だがそれなら、何故直前で思いとどまったのかという疑問が残る。聞かれても出来るだけ話すつもりは無いから聞かれなくて助かったという部分はあるが、どうにも違和感が拭えない。女子中学生が男子高校生数人を一方的に返り討ちにしたなんて事実、追及されない方がおかしいと思うんだけどなぁ。

 気付いていないから聞かれなかったというのはまず考えられない。そもそも気付いていないのならあの場で呼び止められる事も無かっただろう。

 

「……まぁ、いいか」

 

 その一言で考えを中断して、再び歩き出す。その場で暫く考えてもこれだという理由は私の頭では捻り出せなかった。そうして悩んだ私がたどり着いた結論は―――保留。一旦脇に置くことにした。思考の放棄ともいう。

 どれだけ考えても結論に辿り着けないのは、情報が不足しているからだろう。マトリクスが不足している状況で真名に辿り着くのが困難なように。ならばその事で思考に耽るのは今ではない。

 

 ―――今気にするべきなのは、それを踏まえた上で今後私がどう動くかだ。

 

 残り僅かとなった家への道を歩きながら、今後の方針を考えていく。といっても、これは神崎さん達を助けた日の夜に布団の中で考えていた事で、要はただの再確認と言える。

 

 とりあえずの方針としては、今後も使うべき場面がやって来るのならコードキャストや八極拳を使用する事は躊躇わない。私はギルガメッシュではないのだから慢心なんて出来ないし、躊躇した結果取り返しのつかない事態になったりなんてしたら目も当てられない。だからこれは絶対の基本方針。

 そしてその事を追及されたら、開示する情報は最低限。聖杯戦争やギルガメッシュの事はほいほいと話せる内容じゃないし、コードキャストの件だってそうだ。神崎さん達に話したのは目の前で見せてしまったから説明が必要だと判断しただけで、本当ならあまり外に出したい情報ではない。どこから誰の耳に入って、どこが動くか分からないしね。

 だから話せるのは、精々八極拳くらいだろうか。幸いというべきか、礼装さえ実体化させなければ、コードキャストは見た目でバレる事は無いだろうし。身体能力については少しずつ体育で積極的に動くようにしていこう。それで多少はお茶を濁せるはずだ。八極拳を何時習得したのかについては……うん、適当に誤魔化そう。小さい頃近所に住んでた麻婆老師から教わったとかにしておこう。ごめんね、頭の中に出て来た死んだ目をした麻婆老師。

 

 そうこうしている内に自宅が見えて来た。それを認識した途端、背中の荷物がずしりと重くなったように感じる。もう終わった気になっている証拠だ。

 

「あぁ……疲れた」

 

 自然とそんな言葉が零れた。実際、今回の修学旅行は楽しい事も激しい事も盛り沢山で、肉体・精神共に疲労が尋常じゃない。明日からの二連休はがっつりと休ませてもらおう。

 玄関の扉まで辿り着き、カバンの中でぎっちりと存在を主張するお土産の中から家の鍵を取り出してがちゃりと一ひねり。家に帰るまでが修学旅行だというのなら、これでようやく終わりなのだろう。

 

「ただいまぁー」

 

 ―――こうして、今後の課題点や不穏な気配が浮き彫りになった暗殺教室の修学旅行は、ここに終了した。

 

 

 

   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フン―――ようやく帰ったか。

 一足先にこちらで待っていたが、地上の住まいもみすぼらしいのだな。マイルームより空間的なゆとりはあるだろうが、どうあっても納屋の域を抜け出せんというのも貴様らしい。

 だがまぁ、今更不満は漏らすまい。(オレ)とてこの世界に来る際、家財の九割を落としてきた身だ。再度の赤貧、甘んじよう。

 

 ……しかし、我の蔵が二度に亘ってこうも風通しが良くなるとはな。いよいよ貴様のハサンが感染(うつ)ったのやもしれん。その辺り、貴様はどう考える? なぁ―――雑種?」

 

「――――――」

 

 ―――。

 ―――――。

 ―――――――。

 ―――――――――えっ、と。

 

 ―――何でここにいるの? あのA・U・O・キャストオフ(ごーじゃすなへんたい)……?




 
白野を追いかけて来たもの:英雄王ギルガメッシュ

お待たせしました、英雄王登場です。急な登場ですがテコ入れではないのでご安心を。英雄王出すのはココと決めてました。
「来て、ギルガメッシュ―――!」で颯爽登場でも格好良かったのですが、それは令呪でもできますので。一度別れてからの再会ならこっちだろうと思いこうなりました。

烏間先生は政府と教師の間で揺れ動いてもらいました。それと生徒に何者だとかって責め立てるのを殺せんせーが許さないと思いましたので。はくのんの正体については保留です。


次回、雑種垂涎の雑談タイム。



私は知っている。人間として登場した後でも何らかの形でサーヴァントとして実装される事があるのを。天の衣やら柳生の爺様で知っている。
だからきっと麻婆だって……!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。