進藤ヒカルに転生してしまった男の物語   作:ケーキの実

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時間をかけずに書いたから粗が相当あるかも知れない
気にしない方はどうぞお読みください


第02局目

「ヒカルは今日暇?」

学校からの帰宅途中、隣を歩くあかりが尋ねてきた。

ズボンのポケットから取り出した手帳を開き確認。

「……特に予定はないかな」

「ならさ、買い物付き合ってよ」

「何か買いたいものでもあるのか?」

「ちょっと気になってるアクセサリーをね」

嬉しそうに微笑む、あかりに毒気を抜かれたヒカルは仕方なく付き合う事になった。

 

 

「……ここは!?」

あかりに案内されたアクセサリーショップは塔矢と対局した碁会所の近くだった。

偶然にも出来すぎている展開に笑いが込み上げてくる。

原作に沿って進まなかったから介入された?まさかな。

こんな世界に転生させた時点でレールなんて外れるに決まってるだろうに。

 

「……あっ!!!キミ!」

大きな声が聞こえた方を振り向くと緒方精次がこちらに向かって走ってきていた。

俺の正面に来た緒方精次はジロリ顔を確認してから腕を引っ張った。

「ちょっと付き合ってくれないかな」

「あーそういうのいいんで。別を当たってください」

嫌そうな顔をしながら断った。

「……っ、ば、バカヤロウ。そっち系の話じゃない。囲碁の事だ」

慌てて顔の周りを真っ赤になって否定する緒方精次。

「碁の事なら仕方ないですね。着いて行きますよ」

どうせ原作通りなら塔矢の親父である名人と対面するんだろ?

そんで対局する流れに行くわけだよな。ルートが分かってると壊したくなる不思議。

 

「塔矢名人、あの子供を連れて来ました」

「誘拐されました」(ボソッ

 

「ふん。君がうちの息子のアキラに勝った子供か」

「あぁ、あいつな」

こちらを睨みつけるような眼光に僅かに震える。

この人、怖すぎだろ。小学生に向ける視線じゃねーぞ。

 

「さぁ、座りたまえ」

「分かりました」

 

『おい、佐為。本気で倒しに行けよ』

『私は手を抜いた事はありません』

キッパリ断言するその台詞に突っ込んではいけないだろうか。

指導碁打ってる時点で手加減って理屈に行き着いた俺が変なのか。

 

「石を3つ置きなさい」

「断る。もし対局するなら互先でしか打ちません」

 

 

 

 

「おい、塔矢名人に互先とか言ってるぞあの子供」

「若いもんは威勢がいいね」

「ワシには舐めてるように見えるがね」

外野からの雑音が鬱陶しい事この上ない。まあ、いい。

この対局で負けても仕方ない。まだ現代の碁を学んでいる最中の佐為だしな。

 

 

「5の5開き」

「3の8トドメ」

 

徐々に塗りつぶされて行く碁盤。俺にはさっぱりな展開にヘキヘキしながら佐為に指示された通りの場所に打つ。

 

「これはまずいな。先生の方が少し分が悪い」

緒方精次から聞こえた声に俺は心でガッツポーズをする。

佐為が勝っているんだな。よし、このまま行けるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢♢

 

 

「……ありません」

塔矢名人の投了で幕を閉じた。互いに接戦だったと言わんばかりの視線を緒方精次から向けられる。

「君はいつから囲碁をはじめたかね?」

「5歳の頃からで今で囲碁歴5年ですね」

「ほう。これで5年か。実に楽しかった」

「ありがとうございます!そろそろ友達が待っているかもしれないのでお先に失礼します」

そう言って軽く頭を下げて、碁会所から退店した。

 

 

 

 

♢♢♢♢

 

「先生、どうでした?」

私に向かって問いかけた緒方くんに溜息をついて答えた。

「彼は強い。今ではギリギリ接戦を演じられるけどこの先は分からない」

「どういう事ですか?」

「彼の打ち筋は古い。現代では悪手と言われ打たれなくなった手が見てとれた。だけど、私と打って行くうちにだんだんこちらの碁を学んでいるような打ち方をしてきた」

「それはどういう事ですか?」

「……私が言えるのはこれまでた。だが、一つだけ確かなのは近い将来、碁の世界は大きく変わる」

「そ、それは。彼がプロに上り詰めるからですか」

動揺を隠しきれない緒方くんには少し早いかもしれないな。彼もまた挑戦である。

そんな緒方くんに微笑むだけで答えた。苦虫を噛み締めたような表情をした緒方くんは私に挨拶をし、帰って行った。

 

 

 

進藤ヒカル。君が現代の碁を何故学ばずに過去の碁を学んでいたかは知らない。だが、君は私との対局で自分の過去の碁を否定した打ち方をしたね。

 

「私は楽しみでならない。過去の碁を極めた君が現代の碁を学びはじめたらどうなるのか」

緩んだ頬に手を当てて、久方ぶりの高揚だった。

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢♢

 

『神の一手に近い棋士と打ってみて佐為はどうだった?』

『……楽しかったです。私は徐々にですが、強くなってると実感があります』

『それは現代の碁を学んだから?』

『それもありますが、強敵と対局する事によって得るものかあるんです』

『ふーん。そういうもんか』

原作だとヒカルが逃げて対局がお釈迦になったんだよな。

佐為の進化速度が急激に上がっている。もしかして佐為にだけ打たせてる影響で経験値的なものが佐為にのみ入ってるのかもな。

それはそれで面白い。どうせ俺は囲碁に興味はないし、早くプロになるかな。

正直迷うんだよな、院生になるかそのままプロになるか。

和谷や伊角さんとかと友達になるのもありだけど、時間を無駄にするのも勿体無いかもしれない。

あ、そう言えば原作だとネット碁も打ってたな。

 

『おーい。佐為そろそろ帰るぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢♢

 

PCを調達したいが両親に頼んでも買ってくれる可能性は低い。

自宅のベッドに寝転がりながらこの先の展開を考える。

頼める人間の選択肢はじいちゃんしかいないんだよな。

 

次の日、学校から直帰でじいちゃんの家に向かった。

「ヒカルか。今日はどうした?」

「どうしても欲しいものがあるんだけど、じいちゃん頼む!買ってください」

頭を90度下げた。チラッとじいちゃんの顔を見るとキョトンとしていた。

「ヒカルから頼み事されるのは碁盤以来じゃな。なんだ?欲しいもん言うてみ」

「PCが欲しい!理由はインターネットで世界中の囲碁プレイヤーと対局がしたいからです!」

「……PCか。よしっ!買ってやる」

「……え?」

断られる前提でのお願いだったが、あっさり通って逆に驚いている。

原作だと割と厳しそうな人だったような気がするけど。

 

次の週に俺はじいちゃんとPCショップに行きハイスペックPCを購入した。

佐為は囲碁だけやらせておけばいいけど俺もネトゲとかで使いたいからスペックを高いのを選んだ。

さっさと自宅に配送してもらい、回線を繋げてもらった。

両親には突然の業者訪問で驚愕していたけど、俺が何とか説明してネット回線と契約して晴れてPC持ちになれた。

それから母親には叱られたのはまた別の話。

 

 

 

「えーっとワールド囲碁ネットで検索と」

確かこんな名前だったような。あったあった。

一番上に表示されてるな。登録制だから、まずは名前だな。

【HIKARU】と名前入力をし、国籍はJPNと。よし設定は完了と。

 

 

 

 

 

 

♢♢♢♢

あれから2年が経ち、俺はネット廃人になっていた。

殆ど引きこもり状態で学校はずる休みをし家でネトゲか佐為に催促された囲碁を打っていた。

『ヒカル〜。そろそろ、プロになりませんか?』

『そうだな。母さんもうるさくなって来たし、お金もお小遣いじゃ足らないし、プロになってチョコチョコっと稼ぐか』

『またそうやって。塔矢が聞いたら怒られますよ』

 

 

久しぶり服に腕を通して着替え始めたヒカル。

『外は少し寒いかな?長袖にしておくか』

 

 

 

 

日本棋院前に到着した進藤ヒカル。

『ここ、前にも来ましたね!ヒカル』

『あぁ、子供囲碁大会の時な』

『そう言えばヒカルは院生にならないんですか?』

首を傾げて尋ね始めた佐為に首を横に振った。

『囲碁はお前がやるんだよ。今更、子供と混じって学ぶ必要なんてないだろ』

『そうでした。ヒカルにも囲碁の楽しさを知ってほしいです』

『お金だけは楽しみだなフヒヒ』

 

 

 

 

受付に座ってるおばさんに声をかけた。

「あの〜すいません」

「どうしたの?」

「プロ試験の願書を貰いに来たんですけどもらえますか?」

「はいはい。……って!えええええええええ?ぷ、プロ試験受けたいの?」

「まぁそんなところです」

 

やれやれとでも思われたのか願書は何とか頂けた。

必要書類は住民票と履歴書と健康診断書と棋譜を2枚と1万800円を送付してくださいだってさ。

今日は5月の半ばだから申し込み受付の6月に出せばいいんか。

てか、お金どうしよう。またじいちゃんに頼むかな。

 

 

じいちゃんに頼んだら二つ返事で了承されて棋譜の一つはじいちゃんになった。

もう一つは塔矢アキラのでいいか。6月になり書類を全部揃えて郵送した。

 

 

 

 

 

『これでやっとプロへの道の第一歩か』

 

『ヒカル〜。まだ外来の予選がありますよ!』

 

『どうせ、お前ならどうにかなるだろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

7月半ばのある日、外来の予選日が決まったと報せる郵便物が届いた。




ここまでお読み頂きありがとうございます
次回は外来予選です
もしかすると本戦までやるかも知れない

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