え? 本編と関係ない? まぁ、いつものことなので気にしてはいけません。
ですが、一年と数か月ぶりに沖田さんが復刻するとあってはテンションが上がらずにはいられません! 今度こそ天才(吐血)剣士を入手せねば……でも、この前のプロトセイバーで懐がピンチ!? おのれ運営、あこぎな商売しやがって!!
ですが、正直プロトセイバーに今月の生活費を突っ込んだことには後悔してません。宝具演出が大変かっこよかった。
アレを見ると、聖剣使いとしてはアルトリアの方が格下に思えてしまいますねぇ。でも、アルトリアの場合は聖槍の方に十三拘束がしっかりかかっていることを考えると、プロトは聖剣、アルトリアは聖槍の方が力を引き出せてたりするのかなぁ? なんて思ったりもする今日この頃。
というか、プロトの方は何で不倫されてしまったんだろうか? アルトリアの場合は色々複雑な事情というかアレコレあって、一概に誰が悪いとは言えない感じでしたが、プロトの場合……ねぇ? 一見理想の王(子?)様、でもその実臣下に嫁を寝取られたダメ亭主……という事なのだろうか? それとも、ランスロットが真正のロクデナシだったのだろうか? あるいはギネヴィアがとち狂った? アルトリアだからこそ救われていた部分ってあるんだなぁと思ってしまいます。
P.S
ついでに、大変長らくお待たせいたしました。なかなか書く気になれず、でも書き出したら案外すらすら行けたことに驚いています。要は、最初の一歩が肝心なんですね。
一時の激情に任せた、策はおろか碌に防御もしないままの特攻。
最低限、致命傷だけは避けようとしたが、上手くいったのは多分に運の要素が強い。
事実、頬・肩・脇腹と三か所に痛撃を貰い、特に型に貰った槍の刺突は貫通寸前の重傷だ。
正直、ウォシスの腕をはじいた段階で既に右肩はほとんど使い物にならなくなっている。
それを維持と気合でなんとか叱咤し、いけ好かない男の鼻先に鉄扇を突き付けているような有様だ。
しかし、それを今ここで悟られるわけにはいかない。
故に、オシュトルはまるで何もなかったかのように装う。
「っ……無事か、クオン?」
「わたくしのことよりハクが! そんな、血だらけになって……」
「安心しろ。見た目は酷いが、深手は負っていない」
「診る」
「応急ですが手当てします」
精一杯のやせ我慢をしながらの強がりだが、果たしてどこまで信じてもらえたかは怪しい所だ。
なにしろ、相手は誰よりも付き合いが長く、なおかつ腕利きの薬師でもあるクオン。
彼女の眼力を以てすれば、オシュトルの強がりなど看破されてもおかしくはない。
(まぁ、クオンだけでなくあちらも容易く見抜いているようだが……)
チラリと視線をずらせば、そこには跪きながらも酷く真剣な眼差しを向ける女性の姿。
耳や尻尾と言った分かり易い特徴だけでなく、顔立ちから何からクオンとは似ても似つかないエルルゥ。
だが、彼女の眼差しにオシュトルは強い既視感を覚える。
そう、アレはクオンが薬師として患者を診る時と同じ目だ。
恐らくは、彼女こそがクオンに薬師としての技術や心構えを叩きこんだ師なのだろう。
自身に向けられる眼差しだけで、オシュトルはそう確信していた。
「おやおや、随分と無茶をなさる……ですが、同性の嫉妬というのは中々に見苦しいものですね」
「なんとでも言うがいい。貴様がクオンに触れる、そう口にするだけで吐き気がするのでな。実際に見ようものなら、それこそ目が腐りかねん」
「随分と口汚いことですね。品性のない者たちといると、それがうつってしまうのでしょうか?」
「なに?」
「まぁ、そのような些末なことはどうでもよろしい。いい加減そこをどいていただけませんか?
デコイ達と戯れるあなたと違い、私は忙しい。鍵の入手は通過点、やることは山のようにあるのですよ。
時間も惜しい事ですし、ここは……」
ただでさえ冷え切っていたウォシスの瞳が、さらに凍てつく。
この男が何を考えているかなど、それだけで一目瞭然だ。
「やめて! 鍵なら渡す! だから、ハクにこれ以上……!」
「と彼女も仰っていますよ。私としても無駄な時間は使いたくないので、退くのなら早くしていただけませんか? さもなくば……」
「さもなくば、どうするおつもりでしょう? この場を血で汚すことは何人たりとも罷りなりません、何度も申し上げたはずですが」
「なっ!?」
「ウルトリィ様……」
「ウルお母様、どうして」
「……これはこれは、正直驚きましたね。まさか、種の本能を退けるとは……」
三人の視線がウルトリィに集中する。
当然だ。亜人種であれば絶対に逆らうことができないはずの
それは確かにウルトリィにも効果を及ぼしていたにもかかわらず、彼女は何事もなかったかのように立ち上がっている。
クオンですら身動ぎ一つできないというのに……。
「ですが、さすがはウィツァルネミテアの総本山を統べる
「……」
「答える気はない、と。まぁ、いいでしょう。とはいえ、先ほどのことは私よりもあちらに仰っていただきたいのですが……」
「経過は問題ではありません。問題なのは、この場が血で汚されたという事実です。あなた方には即刻お引き取り願いましょう。聞き入れていただけないようであれば……」
実力を以て排除する。言葉にせずとも、その意を履き違えようはずがない。
殺気も殺意も表には漏れていないが、いっそ強制力すら感じる圧力が伴っている。
だが、それだけではない。オシュトルはウルトリィから極僅かな別の何かを感じ取っていた。
(これは、焦り? しかし、いったいなにを……)
「怖い怖い……先ほども申し上げた通り、あなたと事を構えるつもりはありませんよ。
とはいえ、もらうべき物は貰っていきますが。さぁ、クオン」
「貴様!」
「あなたがおっしゃったことですよ。離れろ、マスターキーならくれてやる、と。その言葉、よもや嘘ではないのでしょう?」
「ちぃ……!」
言葉の綾と言ってしまえばそうだが、事実オシュトルはクオンとマスターキーならばクオンを取るだろう。
同胞の救済を蔑ろにするつもりはない。ウォシスの手にマスターキーが渡る危険性も未知数。
すべて承知の上で、それでもなおクオンの方が大切なのだ。
これは理屈ではなく感情の問題。それに言い訳するのなら、マスターキーは後から奪い返すことも不可能ではない。故に……
「クオン」
「でも、ハク……」
「良いんだ。マスターキーも同胞の救済も、所詮は自分たちニンゲンの問題でしかない。
十分すぎるほどに巻き込んでおいて言えたことじゃないが、お前を危険に晒してまで固執するもんじゃない。
まぁ、そいつはお前たちにとっても大事なものなのに、自分が勝手に決めるのもどうかとは思うんだが……なに、なんとかなるさ。取り返す機会もあるだろうし、それで勘弁してくれ」
それが気休めでしかないことは誰の目にも明らかだ。
だからこそ、クオンは自分が彼の足を引っ張っている状況に臍を噛む。
オシュトルを支え彼の力になるどころか、自分が足手まといになっていれば世話がない。
その上、この鍵は母から受け継いだ大切な物。それが、こんな男の手に渡るなど許容できるはずがない。
しかし、だからと言ってこの状況でできることなど……その瞬間、クオンは声を聞いた。
〈何ヲ悩ム……〉
どこか遠いようで、その実何よりも近くより響く声。
〈何ヲ足踏ミスル〉
聞き慣れない、だが生まれた時から聞き続けてきた声。
〈答エナド、元ヨリ一ツシカナカロウ〉
当然だ。これは、他ならぬ自身の内より響く、自分の声なのだから。
〈忘レタカ〉
(何を…言っているの?)
〈我は何だ?〉
(それとこれと、いったい何の関係が……)
〈母は動いたぞ〉
(っ!!)
〈如何に
ならば、我らにできぬ道理があるものか〉
なにを、と問う事に意味はない。
これは他ならぬ自分自身の声。対話の形式をとっていようとも、本質的にこれは対話ですらない。
そう、これは単なる確認のための作業。
分かりきっていることを、目を逸らしていたことを、直視するための。
あるいは、見ないようにしていたのは本能的にこの場の危険性を察していたからかもしれないが、最早そんなことは関係ない。それよりも、今はもっと重要なことがある。
〈忘れたなら思い出せ〉
〈現実を直視する時だ〉
〈“小娘”のように恋い焦がれていれば満足か?〉
(そんなわけ、ない)
〈“女”として愛し、共に歩む。それが我の望み〉
(そう、それがわたくしの願い)
〈ならば、子どもの時間は終わりだ〉
(……)
〈都合の良い時だけ血の力に縋る、子どもならばそれも良かろう。
だが、愛した漢と並び立とうと望むのなら……〉
(現実も事実も、何もかもすべてを受け入れて自分の足で立つしかない、かな。
家族に、仲間に、血に……色々なものに縋れた時間はおしまい。
ここからはわたくし自身の足で、力で、意志で!)
歩んでいく。
例えそれが、一歩間違えば深淵に引きずり込まれる選択であろうとも。
ハクと、愛した漢と並び立つためならば、恐れるものなど何もない。
「さぁ、クオン。私にマスターキーを渡しなさい。
あなたも、彼がこれ以上傷つくのは望まないでしょう?」
優しげに語られる言葉に総身の毛が逆立つ。
その不快感を何とか噛み殺し、クオンはマスターキーを持った右手ではなく、空いた左手でウォシスの手首をつかんだ。
「なっ! バカな、なぜあなたが……」
予想外の事態に困惑と驚きの色を隠せないウォシス。
だが、クオンにそれに付き合ってやる理由はない。
彼女はウォシスの腕を引くと同時に膝に力を籠め、勢いよく立ち上がる。
引き寄せられるウォシスと立ち上がりながらマスターキーを持ったまま硬く拳を握りこむクオン。
後の答えは簡単だ。いけ好かない薄ら笑いを浮かべていた男の顔面に、思い切り拳を叩きこむ。
むしろ、他にすることがあろうか。いや、ない!!
「がはっ!?」
「「「ウォシス様!!」」」
「くおん、さん?」
「我はウィツァルネミテアの天子、トゥスクル皇女クオンである!
失せろ下郎!! 貴様なんぞにくれてやるものなど、この拳でも勿体ないわ!」
「……まったく、この子ったら」
「ふふっ、ふふふふふ……ごめんなさい。お転婆な子ですけど、よろしくお願いしますね」
「は、はぁ……」
呆れた様子でこめかみを抑えるウルトリィと、「よくやっ……言った」とばかりに笑いを堪えるエルルゥ。
呆気にとられたオシュトルは、なんとも間の抜けた返事を返すしかない。
「もう、クーちゃんったら」
「ぐっじょぶ」
「でも、ずるいですクオンさん。私たちの分も取っておいてください」
「あらあら、でしたらわたくしもです。動けさえすれば、こう思いっきり……」
仲間たちも跪いたまま何やら不穏なことを言っているが、オシュトルも人のことは言えない。
なにしろ、正直言えば胸がすいたというのが本音だ。
オシュトルとしても、ウォシスには色々と腹に据えかねていたのだから。
(おいおい…と言いたいところだが、自分も便乗してぶん殴ればよかったな。惜しい事をした。
いや、待て。そもそも、クオンの手加減抜きの拳って……)
想像するだに恐ろしい。身の毛もよだつとはまさにこのことだ。
しかもウォシスを引っ張り込みながら、その上マスターキーをメリケンサック代わりに。
(顔面陥没したんじゃないか? それこそ、頭蓋骨が粉砕していても自分は驚かんぞ)
別にウォシスのことを心配しているわけでは全くないが、クオンの腕力を知っているが故に、そう考えずにはいられない。
(ああ、やっぱりクオンは怒らせてはいかんな。自分は絶対にクオンと喧嘩はせんぞ、絶対にだ!!)
明日死ぬからと言って、ならば今日死んでもいいとは思わない。それと同じだ。
誰だって生命は惜しい。
華の乙女を相手に失礼極まりないが、同時に極正当な評価でもある。
まぁ、クオンには絶対に聞かせられない内容だが。
「ですが、これで答えは出ましたね」
「はい。クオンがこの方を選んだ以上、それが全てですから。でも、あちらはそれでは納得しないのでしょうね」
「ええ。しかし、問題はありません。丁度、皆さんもお着きになられるようですから」
(この人たちは何を言って……というか、エルルゥさんも普通に立ち上がってるんだが。ウォシスが殴り飛ばされて無効になったのか、それとも元々動こうと思えばできたのか。色々な意味で計り知れないな、この人たちは)
それこそ、まさに神託とでもいうべきものだ。本来ならどう抗ったところで抵抗など無意味なはずなのだが、エルルゥは微妙なところだが、少なくともウルトリィとクオンはそれを跳ね除けた。
遺伝子に刻まれた本能よりなお深い階層からの縛り。これを破ることの困難さは、それを保たないオシュトルには想像することすらできない。
だが、極めつけに困難なことなのはわかる。
何しろ、ウルトリィですら一時とはいえその縛りに屈したのだ。
敢えて従ったという可能性もあるが、この場での闘争や血で汚されることを決して許さないであろう彼女が、どんな理由があれウォシスの暴挙を容認するとは思えない。
恐らく、跳ね除けることはできるが、即座にとはさすがにいかないのだろう。
だからこそ、ウルトリィと同じようにその縛りを跳ね除けたクオンもまた生半可な女ではないのだろう。
そんな女に惚れてしまった自分の奇特な趣味に呆れればいいのか、それとも誇ればいいのか。オシュトルにとっても今一つ判断がつかない。
しかしそこで、オシュトルは続くウルトリィの呟きに、些か以上に不穏な気配を感じ取った。
「とはいえ、少々急いだ方が良さそうですね」
それまでのどこか穏やかな、我が子の成長を喜ぶ姿からは一転、何かを危惧するような声音。
横目で見れば、ウルトリィだけでなくエルルゥもまた真剣…というより、深刻というべき表情を浮かべて御簾の奥を見つめている。
(そういえば、先ほどから向こうの声が途絶えているな。何か関係があるのか?)
とはいえ、情報があまりにも少なすぎる。
不可抗力とはいえ、この場が血で汚されたことで社の主の不況を被ったのかとも思ったが、それにしては静かすぎる。嵐の前の静けさ……にしても、少々不自然だ。
二人のその真意を問おうとオシュトルが口を開くより半瞬早く、ウルトリィが先手を打った。
「オシュトル様。慌ただしくはありますが、本日はここまでという事で」
「それは、構いませぬが……しかし、よろしいのですか?」
「はい。貴方は真実を知ってなお決意と覚悟を固め、クオンは鍵を貴方に委ねることを決めました。
ならば、これ以上この場にとどまる理由はない筈です。どうか、お引き取りを」
(やはり、何かを焦っている。だが、いったい何を? 社の主の怒りが向けられることをか? それとも、もっと別の……)
「でも、ウルお母様!」
「クオン」
「母様……」
ウルトリィとエルルゥ、二人の視線がクオンに集まる。
詳しくは何も語らない。ただ、無言のまま「今はとにかくこの場を離れろ」とそう語りかけていた。
クオンにもまだ積もる話があるのだろう。何かを言おうとしているが、二人の視線に押し黙ってしまう。
オシュトルとしても、できればクオンには母たちと存分に語り合ってもらいたい。
それに……
(社の主。自分の考えが正しければ、御簾の向こうの人物もクオンと縁浅からぬ間柄の筈。できれば、その辺りも明らかにしておきたい。それでなくとも、クオンにとっては話をするだけで意味があるだろう)
故に、急いでこの場を離れるよりも留まって話を聞くべきではないか。
せめて、オシュトルは退席するにしても、クオンだけでも……。
しかし、ウルトリィとエルルゥには焦りの色が濃い。
この二人がこれほど焦るほどの事態と考えれば、今は従うべきなのではないか。
(だが、次またここに来ようとして、果たして通してもらえるものかどうか……)
そんな懸念を察してか、エルルゥはオシュトルを見上げるとそれは杞憂だと告げる。
「ご安心ください。貴方は太古の叡智を得る資格を持ち、クオンに認められた方。
この地に、貴方を拒む扉はありません。無論、クオンのことも。
私たちはいつまでも、そしていつでも此処であなたたちをお待ちしています。
ただ、今は少々お時間をいただきたいのです。ですから、今は何卒……」
「わたくしも、オンカミヤムカイ
貴方がいらした時には、丁重にお迎えいたします。相応しい時期が整いましたら、お伝えすることもお約束いたします。貴方にも立場と責務がありましょうが、どうか」
(……やれやれ、この二人にここまで言われてはさすがにな)
オシュトルとしても、それを無視することはできない。
それに、理由はどうあれこの場を血で汚したのはオシュトル本人。
なぜ焦っているのかは未だわからないままだが、これ以上迷惑をかけるわけにはいくまい。
ただ、そうとなると問題がある。
「承知いたしました。此度は出直すと致しましょう。
ご迷惑をおかけしたこと、心より陳謝いたす」
「……大丈夫、だよね。また、会えるんだよね!」
「ええ、約束するわ。その時には、今までのことたくさん聞かせて頂戴、ね?」
「………………うん!」
「すまんな」
「別に、オシュトルのせいじゃないかな。だけど……」
「ああ、問題はウォシスだな。あれで退散してくれていればいいのだが、そう都合よくはいかんか」
「だね」
社の外まで殴り飛ばされた結果、オシュトルたちからはウォシスの姿は見えない。
だが、ただならぬ気配は伝わってくる。十中八九、社の外で二人が出てくるのを待ち構えているのだろう。
社に踏み込んでこないのは、ウルトリィたちを警戒してか……。
(多勢に無勢か。さて、どうしたものか……)
散々迷惑をかけておいて、今更ウルトリィたちに助力を求めるわけにもいかない。
なにより、あまり惚れた女の家族の前で無様は晒したくないのが漢の意地というものだ。
とはいえ、ウォシスの戦力は未知数だが、あちらには腕利きと思われる
ウォシスが側近として連れ歩いているならば、それなり以上の実力者とみるべきだ。
対して、こちらの戦力はクオンとフミルィル、ウルゥルにサラァナ…そして、傷を負ったオシュトル。
数的には優勢だが、オシュトルは重傷だ。これでは事実上の足手まとい。
他に伏兵がいないとも限らない状況では、あまりにも心許ないのも事実。
「御心配には及びません」
「ウルお母様、まさか手伝ってくれるの?」
「いや、しかしそれはさすがに……」
「そうですね。最早決定が下された以上それでも良いのですが、それには及ばないでしょう。
皆さんも、色々鬱憤が溜まっているでしょうし」
「それはどういう……っ!」
疑問を呈そうとしたところで、落雷にも似た轟音が皆の耳朶を打つ。
(どこかで雷でも……バカな。ここはかつての地下都市だぞ。そんなものあるわけが……)
一瞬、嵐か何かの可能性を疑いそうになるが、即座に否定する。
当然だ。何しろ、ここは地表から遠く離れた地下深く。
仮に地上が嵐だったとしても、その音がここまで届くなどありえない。
「いったい、何が起こっている……ぐっ」
「ハク!」
「支える」
「肩をお貸しします、どうかご自愛を」
「わたくしが見て参ります!」
「待ってフミルィル、わたくしも!」
ようやく縛りから解放されたフミルィルとウルゥル・サラァナ。
双子はオシュトルを支え、フミルィルは状況確認のために動き出しクオンもそのあとを追う。
できるなら全員で行動した方がいいのだが、今のオシュトルは荒事になっても明らかに役に立たない。
それがわかっているからこそ、双子が残り、クオンとフミルィルが確認に行ったのだろう。
とはいえ、それがわかっていたとしても、オシュトルにこの場で大人しく待っていることなどできる筈もない。
「待て二人とも! 何が起こっているかわからんのだぞ! くっ、仕方がないか……止めてくれるなよ」
「仕方ない」
「主様のご意思が最優先ですから。私たちが身を以てお守りします」
それはそれでオシュトルとしては本意ではないのだが、今はとにかく二人を追いかけるのが先だ。
故にいざという時には双子が盾になるという言い分にはあえて触れず、そのまま社の外へと向かう。
そして、社の外へと踏み出したオシュトルの目に映ったのは、思いもしない光景だった。
「お前は……ミカヅチ!?」
「ふんっ、ようやくお出ましかオシュトル。待ちくたびれたぞ」
「なぜ、お前がここに……それに」
「兄様!」
「あやや、オシュトルはん傷だらけやんか」
「お、オシュトル様!? どうして、そんな……」
「遅くなり申し訳ございません、兄上!」
「どうやら、微妙に間に合わなかったみたいじゃない」
「むぅ、おしゅはおれたちがいないとほんとだめだなぁ」
「な、なななな…オシュトル! お前ともあろう男がなんだその姿は!!」
「おやおや、ちょっと目を離すとこれです。本当にあなたという人は、余計な仕事を増やすだけでは飽き足らず……困ったお人だ」
そこにいたのは生死不明だったはずのミカヅチと、ウォシス一行を包囲する様に展開する仲間たちの姿だった。
「お前たちまで……しかし、どうやってここに」
「うむ! トゥスクル使節団の者たちがここまで案内してくれたのじゃ。
まぁ、途中で邪魔も入ったが……しかしオシュトルよ、余の許しもなくこのようなところで何をしておる!!」
「む、それは……」
「聖上、詮索は後回しにすべきかと。今はそれよりも……」
「わかっておる! 今は何より、この場を治めるのが先決じゃ。じゃが、そのあとは……」
「無論、詳しく事情を伺わせていただきましょう。オシュトル殿も、努々お忘れなきよう。
ヤマト総大将が我らはおろか聖上にも断りもなく、帝都どころかヤマトから離れるとは。もちろん、納得のいく説明をしていただけるのでしょうな」
(なんというか、別の意味で大事になってきてないか、これ)
確かにありがたい救援ではあるのだが、そのあとに待ち受けているであろう質問攻めを思うと、途端に気が重くなる。
とはいえ、これで状況は圧倒的にオシュトルたちに有利。
「さぁ、どうするウォシス。大人しく投降するなら良し、抵抗するというのなら……」
「ふ、ふふふふ……あなたこそ、何か勘違いをしているのでは?
デコイをいくら集めたところで、私には意味などないという事をお忘れですか。
彼女と社の方々には利きが悪いようですが、鎖の巫達は私の言葉には逆らえなかった。
さて、彼らに同じようなことができるのでしょうか?」
(ちっ、最早自重する気もないか……)
クオンに殴られた顔を抑えながらも、ウォシスの態度には余裕がある。
クオンたちの抵抗には意表を突かれたようだが、まだ自身の優位を確信しているのだろう。
そして、それはあながち間違いでもない。
この場でウォシスの命令に抵抗できる者が果たして何人いるか。
見れば、案の定伏兵と思しき頭まですっぽり外套を被った者たちが姿を現している。
ミカヅチたちが戦えれば何とかなるだろうが、ウォシスに抑え込まれてしまえば戦うどころではない。
それどころか、皆を標的にされれば形成は一気に不利になる。
(有難い援軍の筈が、かえって状況を悪くしてしまうとはな……こうなれば、いっそ自分が……)
ウォシスの命令を打ち消す命令をするしかない。
皆との関係性は崩壊するかもしれない。だがそれでも、皆の命には代えられない。
そう、オシュトルがある種の決意を固めようとしたところで、唐突にアンジュの肩に何者かの手が置かれた。
「下がっていろ。貴様らでは役に立たん」
「な、何じゃと! 貴様、何様のつもりじゃ! 余はヤマトが帝、アンジュなるぞ!!」
「なんだ貴様、そんなことも知らずにのこのこついてきていたのか。こんな小娘が帝とは、ヤマトの未来も暗いな」
「な、何じゃと!」
「あらあらオボロ、あまり子ども相手に大人げない事を言うものではありませんわ。それこそ器が知れるというものですわよ」
「お前はどっちの味方だ、カルラ!」
「さぁ、どちらでしょう?」
「き・さ・ま~……やはり貴様とは馬が合わん! 今日という今日は……!!」
「わ、若様落ち着いてください!」
「そうですよ、今はそれどころじゃないんですから」
いきり立つ痩身の漢とそれを諫める双子の少年。そして、そんな怒りなどどこ吹く風と言わんばかりに飄々とした態度を崩さない徳利を手にリラックスした様子の美女。
それどころか、仲間たちの後ろから現れた者たち全員が、オシュトルにとっては大なり小なり既知の者たち。
とはいえ、それに対する驚きは仲間たちが表れた時ほどは大きくない。
なにしろ、この國は彼らの國。他国の者である仲間たちがいるのは不自然だが、彼らがいること自体は不思議でも何でもない。
「オボロ皇……」
「ドリィにグラァ、それにみんなまで……」
「あらあら、お姉さま方も。なぜこちらに?」
「当然、クーが心配だから」
「せっかくだし、応援は多い方がいいかなって」
「まぁ、そういう事だ。とはいえ、ヤマトの方々と一触即発になっている時は焦ったものだが……」
アルルゥとカミュの言葉を継ぎながら、どこか疲れた様子を見せるトウカ。
生真面目な彼女には、ここまでの道中は色々と気疲れするものだったらしい。
「まぁ、そいつぁしょうがねぇだろ。こっちとしちゃ、勝手に動かれても困るしよ」
「ましてや、その目的地がこの社となればなおのこと。ヤマトの帝よ、くれぐれも……」
「ええい、わかっておる! 此度のことは特例中の特例! あとで謝罪でも何でもしてやるわ!」
「その言葉、お忘れなきよう。それと聖上」
「むっ……な、なんだベナウィ」
「一度は侵攻された間柄とはいえ、相手はヤマトの帝。徒に挑発されるのは、褒められたことではありません」
「まぁ…そうだな」
「ええ、そうです」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……………………ああ、もうわかった! 確かに俺も非礼だった、それについては詫びる! それで良いのだろう!!」
「という事ですので、ヤマトの帝よ。どうか」
「聖上、我らにも非はあります。それにクロウ殿の仰ることももっともかと」
実際、トゥスクル側からすればヤマトはこの上なく迷惑な存在だ。
折角友好的に振る舞ったというのに侵攻され、また厄介な面倒ごとを持ち込まれた。
オボロからのあたりが強くなるのも無理はない。その自覚はアンジュにもあるらしく、渋々ではあるがムネチカの諫言を容れることにしたらしい。
「ふん、わかっておる。そのような些末なことで揉めるつもりはない。じゃが、我らが役に立たんとはどういう事じゃ」
「奴は
「なんじゃと!?」
「それは、本当なのですか?
「滅んでいる。が、例外もいるという事だ。そして、奴の言の葉は我らにとって無視できぬものだ。動くなと命ぜられれば、この身は金縛りにあったように指一本動かなくなるだろうよ」
誰もがその言葉を素直に受け止められずにいながらも、同時に世迷言と切って捨てる者もいない。
まるで実体験を語るかのような重みが、オボロの言葉にはあったからだ。
「貴様の言が真実として、ならばどうする」
「どうしようもありませんよ。あなた方は私に逆らえない。そう作られているのですから。
さぁ、愚かなデコイ達よ。跪けとは言いません。その場で、案山子のように無様に立ち尽くしなさい。
そうすれば、命だけは見逃して差し上げましょう」
「な、なに……!」
「これは、面妖な……」
「身体が、動きません」
「では、奴は本当に
「その割には、あんまり威厳と感じないじゃない」
「ミカヅチ! ムネチカ! おのれ、ウォシス皆に何をした!」
「ふむ、やはりあなたには利きませんか。まぁ、それは予想していたことですので良しとしましょう。
あなた一人加わったところで、大勢に影響はありませんしね」
「ああ、その小娘一人ならな!!」
オボロの怒声と共に、トゥスクルの面々が徐々に……だが確実に体の自由を取り戻していく。
未だヤマトの者たちは木偶のように立ち尽くしているにもかかわらず、だ。
「お、おぬしら……動けるのか?」
「ふん! 貴様らとは鍛え方が違う!」
「というよりも、経験の差でしょう。昔、似た様な縛りを受けたことがありますので」
「以来、我らは二度とあのようなことがないよう、自らを錬磨し続けてきたのだ」
「ん、頑張った」
「あ~、カミュの場合ちょっと例外だけどね」
とはいえ、自由を取り戻したトゥスクルの面々はヤマトの者たちを守るようにウォシスたちに立ちはだかる。
彼らは、初めからこうなることを予想していた。この地に入る資格があるのは
少なくともこの縛りを体感し、それを跳ね除けるための鍛錬をしてこなかった者たちが一朝一夕にどうにかできるものではない。そのことを、かつて体験した彼らは知っていたのだ。
「彼女に利かなかったのも、あなたたちの仕業ですか……」
「いいえ、クオン様はカミュ様や帝と同じ例外ですから」
「それに、これは言葉で伝えられるようなものではありません。実際に体験し、その上で鍛錬するしかありませんから」
そうドリィとグラァが言う様に、言葉ではこの縛りをうまく伝えることはできない。
故に、抗うための手法を技術として伝えることは、現状ほぼ不可能に近いのだ。
「ま、とりあえず臍の下あたりに力込めて……あとは気合だ、気合」
「なんともまぁ、具体性の欠片もない助言ですね……」
「そ、その……もう少し詳しく教えてもらえませんか?」
「つってもな~、なんかあるか?」
「すまんが、某にもなんと言って良いものやら……」
「ん、気合があればなんでもできる」
「さすがにそれは言い過ぎだと思うけど……えっと、頑張って!」
「結局助言になってないのです!?」
「ネコやんネコやん……とりあえず気合、入れてみるしかなさそうやね」
「ああもう……誰も彼もバカばっかりなのです」
全体的に武人、それも脳筋系が多いせいか、学者肌のネコネにはついていけないらしい。
ルルティエにしても、見るからに困惑の色を隠せない。
逆にノスリなど「そうか、気合か! 任せろ! 良い女は気合で奇跡を起こすものなのだ!!」とよくわからない自信を迸らせている。
「さて……では、ちょっと拝借」
「あ、余の剣に何をする!」
「別に、少しの間返してもらうだけですわ。ついでにこの剣の使い方、よく見ておくことですわね」
「なんじゃと? おぬし、何を言って……」
「貴様らヤマトの者にも言い分はあるだろう。だが、ここはトゥスクルに生きる者たちにとって神聖な地だ。
特に、俺たちにとってはな」
「そうですね。ここは、我らの顔を立てていただきましょう」
「つーわけだ、にーちゃん。好き勝手してくれた落とし前、着けさせてもらうぜ」
「我らが主の眠りを妨げた罪、ここで贖ってもらおう」
「おとーさんの敵、クーの敵……オボロボロの刑」
「そうだね、アルちゃん。久しぶりに、思いっきりやっちゃおうか!」
「デコイの分際で!!」
そうして戦端は開かれた――――――――――――ただし、一方的な蹂躙劇として。
ウォシスは知らなかったのだ。トゥスクルの猛者たちの実力とその裏にある経験を。
彼らにとって、ヒトから外れた敵との戦いは初めてではない。
それどころか、十数年前に神と呼ばれる存在と戦いこれを封じたのが彼らなのだから。
それを知らなかったことが、ウォシスの敗因だった。
今回の失敗。
よくよく考えてみると、ウォシスがオンヴィタイカヤンとデコイの関係性を利用してクオンたちを跪かせるの、社の外にすべきだったなぁ。
この話を書き始めてから気付いたのですが、修正するのも面ど……もとい、今更な気がしてそのまま続行した結果、なんだかシリアスからコメディな雰囲気に。クオンの渾身の拳……よく生きてたな、ウォシス。
ちなみに、戦闘シーンはまるっとカット。
本当は今回で最後まで書ききるつもりだったのですが、次で締めるつもりです。
早めに終わらせて、LostCodeか別のifかに手を付けたいなぁ。