俺たちの冒険の書No.001〜ロトの血を引きし者〜   作:アドライデ

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番外:世界を救う勇者を救う者達。

 

「間に合わなんだか」

 預言者ムツヘタ、いや、精霊ルビスに選ばれし賢者は、ルビスの言葉に従い里を駆けていた。ルビスと契約し、己の時を操り無限の生を得た身でも、身体能力は人とそう変わらない。歩む速度がこれ程までに遅く歯がゆいと思ったことはない。

 一瞬で色んな場所に行けるルーラがあれど、イメージできる場所は限定される。そこは既に朽ちており、ルーラで戻ることができなくなっていたのだ。

その時から、嫌な予感はあった。

 

 魔物から町を護ろうしたと思われる形跡はある。しかし、邪悪なるモノの前に力及ばず、辺りは毒沼に覆われ朽ちていた。

「赤子の泣き声?」

 落胆していた時、微かな音が風に乗って耳を擽る。その音に導かれるように走る。そこには大事そうに何かを握る赤子が一人、元気に泣き叫んでいた。

 

 

「私めがですか?」

 仕事部屋で荷物を纏めていると入って来た老人が唐突に赤子を騎士に差し出した。

「お前は独り身だろう?」

 ほれと言われても、おいそれと受け取るわけにはいかない。赤子は寝入っているが、起きて泣かれても厄介である。

しかし、断ると言うのも難しい。何せこの老人はどう言うわけか、国王から強い信頼を得ている男で、その王に使えている騎士にとって、扱い難い相手なのである。

「いやまあ、そうですが」

「引退後は、どうするつもりだ?」

 濁していると、既に情報を入手しているとばかりに、『本日付で騎士を引退する』ところまで聞きつけて来たと言うのか。

「いや、騎士としては引退といえど、王の命令により新たな町を作るつもりです」

 なので子育てする余裕などないと、説得を試みる。断固拒否ができないのであれば、難しい理由を並べて、相手に引かせる他ない。

「そうかそうか、この子も一緒に連れてってやれ」

 暖簾に腕押しか、目を細めて更に一歩迫られる。

「子どもなんぞ育てたことがないのに、無茶です!」

「お前ならできる」

 豪快に笑い無理やり渡される。王に使えてこの方、剣一筋で生きてきた身にとって、目の前の赤子の抱き方すら分からず、あたふたしているというのになんたる仕打ち。

 

「いずれ分かるだろう。この子がどんな運命を持っているか」

「………わかりました。いつも強引なんですから」

 歴戦の戦士は腹を括ったと言うように、一度大きく息を吐き、了承する。その覚悟を見て、賢者も目を細める。

「鍛えてやってくれ」

「ええ」

 そして、赤子はひっそりと育てられることとなる。

 

 

 ラダトーム城の最上階。二つの玉座が置かれている謁見の間。その一つに腰を下ろした王は力無く溜息をつく。

「やはりダメか」

 我こそはロトの血を引きし者と豪語する輩と連絡が取れなくなった。手元には主人をなくした帰還の御守りが鎮座している。これで何十人目だろう。これ以上犠牲になるだけの兵を出すことももはや叶わぬ。やはり、本人の進言のみで証拠すら揃わぬ一般人には無理があったのだ。

王は途方にくれたように空を見上げる。竜王がこの地を闇に覆い、どれぐらいの年月がたったであろう。王の唯一の心の支えであった美しきローラ姫。

ああ、愛しき姫や、手を拱いているうちに【ドラゴン】により連れ去られてしまった。

 

 

 日の光の入らない人工的な洞窟。肩を寄せ合い二人の老人は語らう。

「本当にそうなのか?」

「…わかりません」

 ここは城の外れにある密会の場所。地下に聖なる結界が施され、魔物や人々には気付かれにくいのである。

「とうとう、来てしまったのじゃな」

 そうでなければ良い、そう思い続けて万が一を考え人目の付かぬ場所に追いやった。当時、赤子だった一人の青年。

「我々のルビスのお告げが正しければですが」

「あれから声が聴こえんのじゃろう?」

「………ええ」

 あのドムドーラの町が襲われてからルビスのお告げは途絶えた。何を思い精霊は姿を消したのか、はたまた闇に飲み込まれてしまったというのだろうか。

「今度は選択を誤らないようにせねばな」

 辛そうに歪む表情。勇者ロトが姿を消して、あれからどれぐらいの月日が経ったのだろう。遥か昔、果てしない記憶の海の底。それでも尚、忘れられない過去がある。

「大丈夫じゃ、今度は上手くいく」

 そう信じなければ、崩れてしまう。勇者が勇者がである限り、逃れられない宿命と言うのなら、その血を受け継いだ彼の者を悪に取られてはいけない。勇者が世界を救うのなら、その未来で勇者の幸せの為に尽くすのが残された我々の使命。

 

「****」

 呟かれた名は、既に廃れて伝えられていない懐かしい名であった。

 

 

END




一周年記念、補足と言う名の伏線短編。

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