マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
実はアクターはデュエリストじゃなかったんだよ!!



第85話 互いの道は交わらない

 マイコ・カトウが見抜いたアクターというデュエリストの本質。

 

 デュエリストとして長年研鑽を積んできたマイコ・カトウの言葉はそれ相応の重みを持つ。

 

 さらにこれだけ言いたい放題に言われているにも関わらずアクターは何の反応も示さない。

 

 それら全ての状況がマイコ・カトウの推論を裏付けているように感じ、傍に控えるテッド・バニアスは言葉を失っていた。

 

 今の今まで遥か高みに見えたアクターの姿もマイコ・カトウの「(から)っぽ」との言葉を聞くと酷く虚ろに見える。

 

 

 

 

 

 しかし、いつもと変わらぬ声が響く。

 

 

「それがどうかしたのか?」

 

 

 何の感情も感慨も浮かんではいない唯々機械的な役者(アクター)の声が。

 

 

 

 

 

 

「……ッ!! ク、フフフ……アハハハハハハッ!!」

 

 老婆は笑う。笑う。笑う。

 

 その笑い声は天に届くのではないのかと思える程に。

 

 そんなマイコ・カトウの豹変振りにテッド・バニアスは声が出ない。

 

 

「…………うね」

 

 ボソリと呟かれたマイコ・カトウの言葉はやがて防波堤が決壊したかのように溢れ出す。

 

「そうね! そうよね! そうなるわよねぇ!!」

 

 マイコ・カトウの穏やかな老婆の皮が剥がれていく。

 

 マイコ・カトウはアクターからのメッセージを受け取った――実際にそんなものはないが「受け取った」。

 

 このメッセージを受けてシラフでいられるものはいまいとマイコ・カトウは自身でも驚くほどの感情を溢れさせる。

 

「――貴方からすれば私の言葉は『() () () () ()』でしかないものねぇ! デュエリストなら己の信念はデュエルで示さなきゃならない!!」

 

 たった一言、たった一言でマイコ・カトウのこれまでのデュエリストとしての「全て」を否定した。貶めた。侮蔑した。

 

 ただ問いかけた。弱者が、敗者が、負け犬が、何か言っている――だから『どうした』と問いかけた。

 

 

 そしてマイコ・カトウの溢れ出た感情が収束していく。

 

「フフフ……貴方とのデュエルは本当に私の中で眠っていたものを呼び覚ましてくれるわ……」

 

 その結果、マイコ・カトウは己がカードたちと共にただ勝利を求める修羅となる。

 

「――バトルフェイズと行きましょうか」

 

 一見すれば怒りが収まったように見えるマイコ・カトウの声色。だがその身から溢れんばかりの闘志から、その怒りが何一つ収まっていないことが見て取れる。

 

 

 そんなマイコ・カトウの豹変振りにアクターは内心でビビりつつも唯々疑問だった。そして思う。

 

――いや、大変興味深い話だったんだが……「(から)っぽ」ではどう問題があるのかを是非とも知りたかった。

 

 あのマイコ・カトウの講義に「『(から)っぽ』であった場合どうなるのか?」と質問しただけで何故あれ程までに怒っているのだろうと疑問に思うアクターこと神崎。

 

 

 見事なまでの言葉のドッジボール――致命的なまでに両者は噛み合っていなかった。

 

 

 そして両者はすれ違いながらデュエルが続行される。

 

「この一斉攻撃を受け止めてみなさいな!! さぁ! 一番槍よ! 行きなさい! 《森の番人グリーン・バブーン》! ダイレクトアタックよ!!」

 

 その棍棒を振りかぶり、アクターに振り下ろす《森の番人グリーン・バブーン》だが――

 

「相手の直接攻撃宣言時に墓地の罠カード《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル》の効果を発動。このカードをモンスター扱いとして守備表示で特殊召喚する」

 

 馬のいななきと共に颯爽と現れた鬼火を身に宿した金色の鎧を纏った黒馬と、それに跨る赤い剣を持つ亡霊の騎士がその攻撃の間に立つ。

 

幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル》

星4 闇属性 戦士族

攻 0 守 300

 

「構わないわ! そのままおやりなさい! グリーン・バブーン! ハンマークラブ・デス!!」

 

 颯爽と現れた《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル》だったが《森の番人グリーン・バブーン》の巨大な棍棒に殴り飛ばされ、キラリと空のお星様へと姿を変えた。

 

「自身の効果で特殊召喚された《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル》はフィールドを離れた際は除外される――が、永続罠《王宮の鉄壁》の効果で除外されず、再び墓地に戻る」

 

 しかし亡霊は朽ちることはないと言いたげにその鬼火の残火は残り続ける。

 

「つまり私はダイレクトアタックを封じられた訳か――守りは万全ってわけだね……」

 

 そのマイコ・カトウの認識通り、《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル》が墓地に眠る限り、マイコ・カトウの獣たちの牙はアクターには届かない。

 

「バトルを終了してカードを1枚伏せてターンエンドさせて貰うよ――だけどね。そのカードじゃあ、永続魔法《エクトプラズマー》のバーンは防げないだろう!」

 

 再び《森の番人グリーン・バブーン》は(あるじ)の勝利の為に、その身の全エネルギーをアクターへぶつけるべく唸り声を上げる。

 

「エンドフェイズ時に永続魔法《エクトプラズマー》の効果で《森の番人グリーン・バブーン》を射出!!」

 

 己が魂の一撃をアクターに喰らわせた《森の番人グリーン・バブーン》はマイコ・カトウに看取られつつ、何度でも墓地で次の出番を待つ。

 

アクターLP:2700 → 1400

 

「最後に召喚された《金華猫(きんかびょう)》はそのターンの終わりに手札に戻るわ」

 

 最後に黒い大猫の影が引いていき、白い子猫の《金華猫(きんかびょう)》はマイコ・カトウの手札に戻っていった。

 

 

 互いのライフ差はそこまで大きいものではない。だがフィールドアドバンテージは確実にマイコ・カトウの方へと傾きつつある。

 

 このままではアクターはそのまま押し切られる目算が大きい。

 

 そのアクター自身も《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル》の効果でいつまでも耐えきれるとは思ってはいない。

 

「私のターン、ドロー」

 

 しかしアクターに動揺はない――気合をいれようが、全力をいれようがドローするカードに大差はないのだから、と。

 

「スタンバイフェイズに永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》の効果を発動」

 

 近未来的なビル群が人工的な光を放つ。

 

「このカードの発動の1度目のスタンバイフェイズに自身のエクストラデッキの融合モンスターを公開し、そのモンスターの決められた融合素材モンスターを自身のデッキから墓地に送る」

 

 するとビル群の頂上付近に異次元のゲートが顔を覗かせ――

 

「私はエクストラデッキの融合モンスター《キメラテック・オーバー・ドラゴン》を公開」

 

 そのゲートに薄っすらと映るのは《サイバー・ドラゴン》系統の首が幾重にも生えたまさに「キメラ」と呼ぶに相応しい様相を持つ異形の機械竜の姿。

 

「その融合素材である《サイバー・ドラゴン》と1体以上の任意の数の機械族モンスターをデッキから墓地に送る」

 

 しかし直ぐにその姿は消え、代わりに大量の機械族モンスターが地に落ちて墓地に送られ、やがて異次元のゲートも収束していく。

 

「墓地に送られた《人造人間-サイコ・リターナー》の効果を発動。このカードが墓地に送られた時、自身の墓地の《人造人間-サイコ・ショッカー》1体を特殊召喚」

 

 その地に落ちた一体の小さな《人造人間-サイコ・ショッカー》といっていい姿の《人造人間-サイコ・リターナー》がその身をスパークさせ、真の姿を現す――

 

「させないわ! 罠カード《転生の予言》!! この効果で互いの墓地のカードから合計2枚のカードを持ち主のデッキに戻すわ!!」

 

 筈だったがローブを纏った占い師のような風貌の老婆が手をかざすと墓地に眠るカードが淡い光を放つ。

 

「私が選ぶのは《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル》と《人造人間-サイコ・ショッカー》!!」

 

 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル》の黒馬に相乗りする《人造人間-サイコ・ショッカー》はアクターへ向けて馬を走らせ、やがてデッキに戻っていった。

 

「さぁ、これで《人造人間-サイコ・リターナー》の効果は不発よ――それとも貴方の墓地に2枚目の《人造人間-サイコ・ショッカー》があるのかしら?」

 

 《人造人間-サイコ・リターナー》はアクターを振り返り、「おい、どうすんだ!」と言わんばかりにスコープ越しに見つめてくるが――

 

「墓地の《マシンナーズ・フォートレス》は手札から機械族モンスターをそのレベルが8以上になるように捨てることで特殊召喚出来る」

 

 無視して別のカード効果を発動し始めたアクターの姿に《人造人間-サイコ・リターナー》は膝を突いて地面を叩く。

 

「手札のレベル9、《古代の機械熱核竜(アンティーク・ギア・リアクター・ドラゴン)》を墓地に送り、墓地の《マシンナーズ・フォートレス》を特殊召喚」

 

 再び出番があるかと思ったら手札コストだったことを嘆く《古代の機械熱核竜(アンティーク・ギア・リアクター・ドラゴン)》の駆動音と共に墓地に戻る《人造人間-サイコ・リターナー》。

 

 

 そんな色んな想いを乗せて現れるのは3つのキャタピラで地面を滑るように駆け抜ける水色の澄んだ色合いの戦車風のロボット。

 

 その左右のキャタピラから伸びるアームで頭の横の左肩辺りのキャノン砲の位置を修正している。

 

《マシンナーズ・フォートレス》

星7 地属性 機械族

攻2500 守1600

 

「前のターンセットした魔法カード《貪欲な壺》を発動。墓地の《サイバー・ドラゴン》2体と《人造人間-サイコ・リターナー》・《マシンナーズ・ギアフレーム》・《古代の機械熱核竜(アンティーク・ギア・リアクター・ドラゴン)》の計5体のモンスターをデッキに戻し、カードを2枚ドロー」

 

 欲に呑まれた顔の壺に嫌々ながら入っていく5体のモンスター。やがて壺は割れ、2枚のカードをアクターに最後の力で飛ばす《貪欲な壺》。

 

 しかしアクターはバトルフェイズへ移行する――状況を打開できるカードではなかったようだ。

 

「バトルフェイズ。《マシンナーズ・フォートレス》で《キング・オブ・ビースト》を攻撃」

 

 《マシンナーズ・フォートレス》のキャノン砲が火を噴く。だがその一撃は《キング・オブ・ビースト》の黒い体毛を燃やすに留まった。

 

「迎撃しなさい! 《キング・オブ・ビースト》!!」

 

 しかし《キング・オブ・ビースト》の多脚は止まらない、次弾装填を試みる《マシンナーズ・フォートレス》に体当たりをかまし、燃える自身の身体など気にした様子もなく半狂乱で手足を水色の装甲にぶつけ続ける。

 

 やがて《マシンナーズ・フォートレス》の火器系統に炎が燃え移った為か、《マシンナーズ・フォートレス》と共に《キング・オブ・ビースト》は大爆発の只中に消えた。

 

 

 その爆炎の中から生還する影はない。

 

「《マシンナーズ・フォートレス》の効果を発動」

 

 かに思われた。

 

 その爆炎の只中から飛び出したのは《マシンナーズ・フォートレス》の頭部と最低限のパーツで構成された2頭身ボディの小さな姿。

 

「ならその効果にチェーンして私の永続魔法《補給部隊》の効果を発動! そしてさらにチェーンして《エンシェント・クリムゾン・エイプ》の効果を!

最後にそれにチェーンして墓地の《異界の棘紫獣(きょくしじゅう)》の効果も発動よ!!」

 

 そして最後に発動された効果から逆に処理される。

 

「そして逆順処理よ! 破壊され、墓地に送られたモンスターの意思を継ぎ! 蘇りなさい! 《異界の棘紫獣(きょくしじゅう)》!!」

 

 《異界の棘紫獣(きょくしじゅう)》が体中の棘を震わせながら怒りに燃えるも、既に仇と呼べる相手はフィールドにはいない。

 

《異界の棘紫獣(きょくしじゅう)

星5 闇属性 獣族

攻1100 守2200

 

「次に《エンシェント・クリムゾン・エイプ》の効果でライフを1000回復!」

 

 飛ばされてくる《マシンナーズ・フォートレス》を余所に《エンシェント・クリムゾン・エイプ》は槍をマイコ・カトウへ向け光を放つ。

 

マイコ・カトウLP:2350 → 3350

 

「そして永続魔法《補給部隊》の効果により1枚ドローさせて貰うわ」

 

 マイコ・カトウの効果の発動を確認し終えたアクターは自身のチェーンに移る。

 

「戦闘破壊され墓地に送られた《マシンナーズ・フォートレス》の効果を適用。相手フィールドのカードを1枚破壊する――《エンシェント・クリムゾン・エイプ》を破壊」

 

 キャノン砲の加速を受けて速度を出したその2頭身の身体はその小さな体中に巻き付けた爆薬と共に《エンシェント・クリムゾン・エイプ》に向かう。

 

 だが《エンシェント・クリムゾン・エイプ》の正確無比な槍が爆薬を避けて頭パーツを貫かれ、ブラリとぶら下がる――頭さえ潰せば動けるものなどいない。

 

 しかし、機械の身体にその理屈は無意味だと言わんばかりに頭パーツをパージして《エンシェント・クリムゾン・エイプ》にしがみ付いた1頭身ボディはその命をとして一人でも多くの敵を道連れにすべく起爆装置を作動させ、再び大爆発が起こる。

 

 黒焦げになりながら倒れ伏す《エンシェント・クリムゾン・エイプ》を余所に機械の残骸だけが一足先にと地面に転がった。

 

 

 モンスターが多少減ったと言えどマイコ・カトウのフィールドのモンスターは途切れない。

 

 そしてアクターのフィールドはまたしても空になる。

 

「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2へ移行。モンスターをセット、カードをセットしてターンエンド」

 

 しかしアクターはどこ吹く風――最後の頼みの綱だとセットされたモンスターを眺めるアクター。結構後がないのだが、その胸中はリラックスさ全開である。

 

 何も賭けないデュエルはアクターに非常に精神的な余裕を与えていた。

 

「そのエンドフェイズ時に私の永続魔法《エクトプラズマー》の効果が発動されるけど、貴方のフィールドに表側のモンスターはいないわね」

 

 しかし森の三賢人が一人《森の狩人イエロー・バブーン》はマイコ・カトウに力強く呼びかける――何度でも残りの2人も立ち上がる、と。

 

「でもこっちの効果は発動させて貰うわ! 墓地の《デーモン・イーター》の効果発動! 私のフィールドの《異界の棘紫獣(きょくしじゅう)》を破壊し、墓地の《デーモン・イーター》を特殊召喚!!」

 

 そんな《森の狩人イエロー・バブーン》の気持ちを汲むようにマイコ・カトウは《デーモン・イーター》を呼び起こす。

 

《デーモン・イーター》

星4 地属性 獣族

攻1500 守 200

 

 これにて条件は整った。

 

「さらに! 《デーモン・イーター》の効果で獣族が破壊されたわ! よってライフを1000払い! 何度でも蘇るのよ!! 《森の番人グリーン・バブーン》!!」

 

マイコ・カトウLP:3350 → 2350

 

 マイコ・カトウのライフ()を糧に《森の番人グリーン・バブーン》は仲間の為に何度でも舞い戻る。

 

《森の番人グリーン・バブーン》

星7 地属性 獣族

攻2600 守1800

 

 

 2体の森の賢人の雄叫びに背を押されながらマイコ・カトウはカードを引き抜く。

 

「私のターン! ドロー!」

 

 アクターのLPはのこり1400――攻撃の一つでいとも容易く消し飛ぶライフだ。

 

 だがマイコ・カトウは警戒を途切れさせない。

 

「私は手札の《金華猫(きんかびょう)》を通常召喚!!」

 

 再び現れる白い猫。そして前の時を繰り返す様に黒い影の大猫が現れる。

 

金華猫(きんかびょう)

星1 闇属性 獣族

攻 400 守 200

 

「このカードの召喚時に私の墓地のレベル1のモンスター1体を蘇生させる――墓地の《モジャ》を蘇生!!」

 

 先のターンの焼き増しの如く現れるモンスターたち。

 

 しかし《モジャ》の顔には気合が入っていた。(あるじ)の勝利が目前なのだから。

 

《モジャ》

星1 地属性 獣族

攻 100 守 100

 

「後はもうお分かりね――フィールドの《モジャ》をリリースして墓地から《キング・オブ・ビースト》を蘇生!!」

 

 そのやる気を漲らせた《モジャ》の小さな身体は何度でも巨大化し、目に映る敵をなぎ倒さんと大地を踏みしめる。

 

《キング・オブ・ビースト》

星7 地属性 獣族

攻2500 守 800

 

「お次に私は魔法カード《二重召喚(デュアルサモン)》を発動! これで私はこのターン2度目の通常召喚を行える!!」

 

 マイコ・カトウのフィールドの獣たちがそれぞれ咆哮を上げる――新たな力の到来を予感させるかのように。

 

「《デーモン・イーター》と《金華猫(きんかびょう)》の2体をリリースしてアドバンス召喚!! 大地の支配者!! 《百獣王(アニマル・キング)ベヒーモス》

 

 2体の贄を喰らい、雄叫びを上げるのは紫の巨獣――《百獣王(アニマル・キング)ベヒーモス》。

 

 その《百獣王(アニマル・キング)ベヒーモス》は自身の四足を踏み鳴らし、大地を震わせた。

 

百獣王(アニマル・キング)ベヒーモス》

星7 地属性 獣族

攻2700 守1500

 

「2体のリリースでのアドバンス召喚の成功により永続魔法《冥界の宝札》の効果を発動し、その効果に《百獣王(アニマル・キング)ベヒーモス》の効果をチェーン!!」

 

百獣王(アニマル・キング)ベヒーモス》の背中から顔を出す影が2つ。

 

「そしてすぐさま逆順処理! 《百獣王(アニマル・キング)ベヒーモス》の効果! 自身を召喚する為にリリースしたモンスターの数だけ、私の墓地の獣族モンスターを手札に戻す!!」

 

 リリースしたモンスターは2体。よって――

 

「墓地の獣族――《森の聖獣 ユニフォリア》と《金華猫(きんかびょう)》を手札に! その後、永続魔法《冥界の宝札》の効果で2枚ドロー!」

 

 《百獣王(アニマル・キング)ベヒーモス》の背中の2つの影の正体である《森の聖獣 ユニフォリア》と《金華猫(きんかびょう)》はそのままマイコ・カトウの手札に戻っていった。

 

「まだよ! さらに魔法カード《エアーズロック・サンライズ》を発動! 私の墓地の獣族モンスター1体を特殊召喚! 何度でも並び立つのよ! 森の三賢人の長! 《エンシェント・クリムゾン・エイプ》!!」

 

 夕日をバックに森の聖なる力が秘められた槍を肩に担いで歩み出るのは《エンシェント・クリムゾン・エイプ》。

 

 《エンシェント・クリムゾン・エイプ》は森の猛者たちが勢ぞろいする姿に満足気に頷く。

 

《エンシェント・クリムゾン・エイプ》

星7 光属性 獣族

攻2600 守1800

 

「そして《エアーズロック・サンライズ》のもう一つの効果で貴方のフィールドのモンスターの攻撃力をこのターンの終わりまで、私の墓地の獣族・鳥獣族・植物族モンスターの数×200ダウンするわ」

 

 その夕日の光がアクターのフィールドを照らすが――

 

「でも貴方のフィールドにこの効果を受ける表側のモンスターがいないわ――よってないようなものね」

 

 照らすべき表側のモンスターは誰一人としていない。

 

「さぁ! ラストバトルと行きましょうか!! 《森の狩人イエロー・バブーン》でセットモンスターを攻撃!! メガトン・アロー!!」

 

 《森の狩人イエロー・バブーン》の丸太のような腕から放たれる矢と言うよりも巨大なバリスタとも言うべきものが強靭な弓を弾き絞り、放たれる。

 

 その一撃はセットモンスターを容易く消し飛ばす勢いで迫るが――

 

「永続罠《強制終了》を発動。自分フィールド上のこのカード以外のカード1枚を墓地に送り、バトルフェイズを終了させる――永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》を墓地に」

 

 永続罠《強制終了》の力により《未来融合-フューチャー・フュージョン》の近未来的なビル群が崩れ、矢の目標を眩ませる。

 

 そうして崩れ落ちたビル群の残骸がマイコ・カトウのフィールドの5体の獣たちの行く手を塞ぎ、このターンのこれ以上の侵攻が続行できなくなったことでバトルフェイズが終了された。

 

「あら、つれないわね……ならカードを2枚伏せてターンエンドよ」

 

 一向にバトルらしいバトルをしないアクターの姿勢にマイコ・カトウはそんな挑発をかけつつ、《森の番人グリーン・バブーン》へと目配せする。

 

「そしてエンドフェイズ時に永続魔法《エクトプラズマー》の効果で《森の番人グリーン・バブーン》を射出!!」

 

 そのマイコ・カトウの意をくみ取り、《森の番人グリーン・バブーン》は何度でもアクターを倒すべく、文字通り己が魂の一撃をアクターへとぶつけた。

 

アクターLP:1400 → 100

 

 アクターの残りのライフはたった100――後一度の攻防で吹けば飛ぶ数値だ。

 

 マイコ・カトウは確実に追い詰めていた。裏の王者たる役者(アクター)を――なお結構色んなデュエリストにアクターは追い詰められているが、詮無きことである。

 

「さぁ、もう後がないわよ?」

 

 ゆえにこの状況からどう動くのかとアクターを見やるマイコ・カトウ。

 

 その瞳には直前に迫った勝利を見据えるかのような色が垣間見える。

 

 

 

 だが追い詰められた筈のアクターに大した動揺は見られない。

 

 当然だ。

 

 アクターにとってライフがギリギリまで追い詰められることなど「いつものこと」なのだから――悲しいまでにいつまでたってもギリギリの戦いが多い。

 

 アクターのデュエルではライフが豊富に残る方が稀である。

 

 さらにアクターは勝利の為にデュエルを進めているが、今回のデュエルにおいては根っこの部分では勝敗をそこまで気にしてはいないことも加わり動揺は皆無だった。

 

 だがアクターとて負けるつもりは毛頭ない。

 

「私のターン、ドロー」

 

 引いたカードに内心で眉を顰めるアクターを余所にマイコ・カトウの声が響く。

 

「ちょっと待って頂戴な――リバースカードオープン! 罠カード《デストラクト・ポーション》を発動!」

 

 その声と共に大地から紫色のオーラが噴出し、やがて天へと広がっていく。

 

「私のモンスターを1体破壊して、そのモンスターの攻撃力分のライフを回復させて貰うわ! 私は《百獣王(アニマル・キング)ベヒーモス》を破壊して、その攻撃力2700ポイント分のライフを回復!!」

 

 そして天に広がったオーラが《百獣王(アニマル・キング)ベヒーモス》を包み込み、エネルギーに変換し、マイコ・カトウの元へと還元されていく。

 

マイコ・カトウLP:2350 → 5050

 

 大幅にライフを回復したマイコ・カトウだが、それだけでは終わらない。

 

「獣族モンスターが効果で破壊されたわ――永続魔法《補給部隊》の効果に、《エンシェント・クリムゾン・エイプ》の効果、そして私のライフを1000払い《森の番人グリーン・バブーン》の効果を発動し、この順番にチェーンを組むわ!」

 

マイコ・カトウLP:5050 → 4050

 

「《森の番人グリーン・バブーン》の効果にチェーンして私は手札を1枚捨てることでセットされた速攻魔法《ツインツイスター》を発動。フィールドの魔法・罠カードを2枚まで破壊する」

 

 アクターのフィールドに2つの竜巻が渦巻いていく。

 

「先程伏せられた最後のセットカードと永続魔法《補給部隊》を選択」

 

「あら残念ね――その効果にチェーンして最後のセットカード、罠カード《ダメージ・ダイエット》を発動させて貰うわ。そしてチェーンの逆順処理よ」

 

 チェーンが逆順処理が始まり、最後に発動された《ダメージ・ダイエット》の効果でこのターンのマイコ・カトウへのダメージは半分になる。

 

「速攻魔法《ツインツイスター》の効果でセットカードと永続魔法《補給部隊》を破壊」

 

 その2つの竜巻がうねりを上げながらマイコ・カトウの最後のセットカードと永続魔法《補給部隊》に襲い掛かるが、チェーンして先んじてセットカードが発動された為、《ツインツイスター》の効果は半減したと言ってもいい結果に終わる。

 

 そして次にマイコ・カトウのライフを糧に舞い戻るは――

 

「お次は墓地に眠る自身の効果で甦れ! 《森の番人グリーン・バブーン》!!」

 

 長年の相棒たる《森の番人グリーン・バブーン》。

 

 止めの永続魔法《エクトプラズマー》の射出も任せろと言わんばかりに自身の胸を力強く叩く。

 

《森の番人グリーン・バブーン》

星7 地属性 獣族

攻2600 守1800

 

「次に《エンシェント・クリムゾン・エイプ》の効果でライフを1000回復!」

 

 そんな《森の番人グリーン・バブーン》の奮起に呼応するように《エンシェント・クリムゾン・エイプ》も己の槍を天に掲げ、癒しの力を放つ。

 

マイコ・カトウLP:4050 → 5050

 

「最後に永続魔法《補給部隊》の効果により1枚ドローしたいけど、破壊されちゃったから無理ね」

 

 そう残念そうに話すマイコ・カトウの姿をアクターは見つつ、このタイミングで《デストラクト・ポーション》を発動したマイコ・カトウに内心で溜息を吐く。

 

――直感的に避けてきた……か。これだから「デュエリスト」は厄介だ。

 

 アクターの《ツインツイスター》の発動のタイミングでマイコ・カトウが《デストラクト・ポーション》を発動してた場合は、タイミングを逃す為に《森の番人グリーン・バブーン》の効果は発動できなかった。

 

 

 それゆえに先に《デストラクト・ポーション》を発動していたマイコ・カトウの決断――その長い経験に裏打ちされた直感によるものだ。

 

 アクターは内心で感嘆せざるを得ない――マイコ・カトウの持つ技はどれもアクターが持っていない。否、持つことが出来ないものゆえに。

 

「セットされた《メタモルポット》を反転召喚。そのリバース効果により互いは手札を全て捨て、新たに5枚ドローする」

 

 ゴロリと表替えった青い壺の中から除く一つ目の魔物の笑い声が木霊し、お互いのデッキからカードを呼び寄せる。

 

《メタモルポット》

星2 地属性 岩石族

攻 700 守 600

 

 新たに引いた5枚のカードの最後のカードを視界に入れたアクターは仮面の奥の目を見開く。

 

――やっと揃った。

 

 待ちに待ったキーカードの到来である。

 

 

 

「手札から《アマゾネスの射手(アマゾネスアーチャー)》を通常召喚」

 

 スッと空から着地したのは始まりのアマゾネスの戦士。

 

 軽装の装備に簡素な弓と矢の武装は対峙する4体の獣たち相手には頼りないようにすら見える。

 

 だが、《アマゾネスの射手(アマゾネスアーチャー)》は気にした様子もなく、その切れ長の目でマイコ・カトウを見やる。

 

アマゾネスの射手(アマゾネスアーチャー)

星4 地属性 戦士族

攻1400 守1000

 

 アクターのフィールドに降り立った一人の戦士族モンスターにマイコ・カトウが抱く違和感は大きい。

 

――戦士族? それにあのカードは確か「アマゾネス」のカテゴリーのカードの筈……何故……

 

 今の今まで「機械族」のカードを繰り出していたアクターのフィールドの「戦士族」にマイコ・カトウは「何故」と思考を重ねるが答えは出ない。

 

 しかしアクターは気にした様子もなくただデュエルを続ける。

 

「手札を1枚墓地に送り、墓地の《ジェット・シンクロン》の効果を発動。自身を特殊召喚」

 

 ジェット機のエンジン部分に小さな翼と手足、そして顔を付けたロボット、《ジェット・シンクロン》が頭の後ろのバーニアを噴かし、空を飛ぶ。

 

《ジェット・シンクロン》

星1 炎属性 機械族

攻 500 守 0

 

「自分フィールドにチューナーモンスターがいるとき、墓地の《ボルト・ヘッジホッグ》は特殊召喚出来る」

 

 淡々と言葉を並べるように続くアクターのデュエル。

 

 だがマイコ・カトウの耳に「チューナー」との言葉が引っ掛かる。

 

――「チューナー」? 確か……新しいカテゴリーのカード……まだ世に出て大して経っていないだろうに随分と躊躇いのないことだねぇ……

 

 新たなカードの「チューナー」はカテゴリー化されてはいるが肝心のチューナー間でのシナジーは合う合わないが大きく、「まだ先があるのではないか」と様子見のデュエリストが多い。

 

 そんな中でバトルシティでの大事な一戦にも関わらず、躊躇なく使用するアクターの姿にマイコ・カトウは高揚を隠し切れない――裏の伝説をそこまで追い詰めたのだと。

 

 

 アクターにとってこのデュエルが大した意味を持たないとも知らずに。

 

 

「私のフィールドにはチューナーモンスター《ジェット・シンクロン》がいる為、墓地の2体の《ボルト・ヘッジホッグ》を特殊召喚」

 

 背中に大量のボルトが生えたオレンジのネズミが2匹現れ、キリッとした瞳で鏡合わせのように並び立つ。

 

《ボルト・ヘッジホッグ》×2

星2 地属性 機械族

攻 800 守 800

 

「《アマゾネスの射手(アマゾネスアーチャー)》の効果を発動。自分フィールドのモンスター2体をリリースし、相手に1200ポイントのダメージを与える」

 

 そんな2体の《ボルト・ヘッジホッグ》を絡めとるように《アマゾネスの射手(アマゾネスアーチャー)》の持つ矢から黒いオーラが伸びていく。

 

 やがて2体の《ボルト・ヘッジホッグ》が消えると共にその矢が不気味に脈動した。

 

「2体の《ボルト・ヘッジホッグ》をリリース」

 

 そして1本の矢がマイコ・カトウに向け、放たれる。

 

「ここでバーン効果? でもこのターンは《ダメージ・ダイエット》の効果でこのターンの私へのあらゆるダメージが半分になるわ」

 

 マイコ・カトウに迫る矢を《森の番人グリーン・バブーン》はその大きな手で掴み、圧し折る。

 

 (あるじ)には手を出させない、と。

 

マイコ・カトウLP:5050 → 4450

 

 

 このデュエルを通してマイコ・カトウはアクターのデュエルに肩透かしを感じている。

 

 アクターの攻撃にどこか精細さがない。それはやる気があるのか疑問に思える程だ。

 

「この程度のダメージでどうするのかしら? これが最後の足掻きじゃないことを――」

 

「自身の効果で特殊召喚された《ボルト・ヘッジホッグ》はフィールドを離れる際、除外される」

 

 その「期待を裏切らないでくれ」とのマイコ・カトウの言葉を遮るようにアクターはデュエルを進行させる――どこまでも対戦相手に興味のない姿だった。

 

「――しかし《王宮の鉄壁》の効果でカードは除外されない」

 

 そのアクターの言葉と共に再び墓地に戻る《ボルト・ヘッジホッグ》。そしてフィールドのチューナーモンスター《ジェット・シンクロン》の存在。

 

 

 () () () () () () にマイコ・カトウの瞳がゆっくりと見開かれる。

 

 今、自身が置かれている状況を正しく理解した故に。

 

「ま、まさか!」

 

「自分フィールドにチューナーモンスターがいる為、墓地の2体の《ボルト・ヘッジホッグ》を特殊召喚」

 

 先程の焼き増しのようにフィールドに現れる2体の《ボルト・ヘッジホッグ》。

 

 やがて《アマゾネスの射手(アマゾネスアーチャー)》の方へ向き、自身の身体を差し出す様に小さな両腕を広げる。

 

《ボルト・ヘッジホッグ》×2

星2 地属性 機械族

攻 800 守 800

 

「《アマゾネスの射手(アマゾネスアーチャー)》の効果を発動。自分フィールドの《ボルト・ヘッジホッグ》2体をリリースし、相手に1200ポイントのダメージを与える」

 

 《ボルト・ヘッジホッグ》の命を喰らった矢が《アマゾネスの射手(アマゾネスアーチャー)》によりマイコ・カトウに放たれる。

 

 

 その矢を今度は棍棒で弾く《森の番人グリーン・バブーン》。その瞳に動揺の色が見えるのは気のせいなのか。

 

マイコ・カトウLP:4450 → 3850

 

 そして三度、墓地に戻る《ボルト・ヘッジホッグ》。そしてフィールドのチューナーモンスター《ジェット・シンクロン》の存在。

 

 

 そう、これは――

 

「――無限ループ!!」

 

 瞠目するマイコ・カトウを余所に数多の《ボルト・ヘッジホッグ》の命を喰らった矢が《アマゾネスの射手(アマゾネスアーチャー)》の弓によって天へと放たれる。

 

「あ、貴方はずっとこれを狙って――」

 

 

 やがて天へと放たれた矢は空を埋め尽くし、その全てがマイコ・カトウを射殺さんと殺到した。

 

 

 




キメラテック・オーバー・ドラゴン「……えっ? 俺の出番じゃないの!?」



そして皆様方、何故「《アマゾネスの射手(アマゾネスアーチャー)》?」とお思いだろう。それは――

キャノン・ソルジャー「墓地でスタンバってました!」

トゥーン・キャノン・ソルジャー「ワタシは世界で1枚のカードなのデース! ペガサス様以外には使えまセーン! 《トゥーンのもくじ》も同様デース!(煽り)」

メガキャノン・ソルジャー「じ、自分……上級なもんで……そ、その通常召喚にはリリースが……(目そらし)」

つまり――
4枚目以降の《キャノン・ソルジャー》ポジションだよぉ!!
(それプラス、飛んできた矢を掴んで握りつぶす《森の番人グリーン・バブーン》の姿が描写したかった……(小声))

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