マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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静香VS城之内 前編です


前回のあらすじ
孔雀舞さんは年齢的に「乙女」にはカテゴリーはされな(ここからは血で汚れていて読めない)




第75話 さいしょはグー

 先攻は静香。

 

 静香は一度深呼吸してからデッキに手をかけ、カードを引き抜く。

 

「私の先攻! ドロー!」

 

 そして引いたカードと己の手札を見比べた静香は城之内に視線を向け、その第一手を繰り出す。

 

「私は手札から魔法カード《天空の宝札》を発動! 手札の光属性・天使族の《ジェルエンデュオ》を除外して2枚ドロー!」

 

 静香の背後に厳かな石造りの塔がそびえ立ち、その塔を緑の丸い顔を持った小さな妖精がその丸い身体に天使の輪を浮き輪のようにつけ、もう1体のピンクのハート形の顔以外は同じ妖精と昇り、共に光となって静香に降り注ぐ。

 

 

 初めのターンから手札により良いカードを揃えられるドローカードを使えた静香に少し離れた場所で観戦者として見守る本田は声を上げる。

 

「ドローカードか! 幸先いいじゃねぇか!」

 

 だがそんな本田の意見に牛尾は顎に手を当て渋い顔で返す。

 

「いや、どうだろうな。あのカードは発動したターンに特殊召喚とバトルが出来なくなるデメリットがあった筈……」

 

「ほうほう、それで解説の牛尾さん、その辺りがどのように今後に響いてくるのでしょうか?」

 

 その牛尾の意見にフムフムと返すポニーテールの女性。

 

「いや、誰が解説だ」

 

 そう突っ込みをいれる牛尾を余所に杏子はポニーテールの女性に驚きを示す。

 

「いやそれよりも牛尾くん! 何でミホがここに!?」

 

 その杏子の驚く姿にいつのまにやら会話に参加していたポニーテールの女性ことバトルシティのキャンペーンガール、野坂ミホは不敵な笑みを浮かべる。

 

「ふっふっふー、名勝負の予感があるところに私の姿ありなのぉん!」

 

 そして自身のピンマイクが音を拾わないように手で覆った後でボソリと呟く。

 

「――それに良い感じに成果を上げた子が本戦の席をゲット出来る……他の子には負けてられないわぁん!」

 

 明らかに悪い顔をしながら語る野坂ミホの姿に呆れ顔の杏子。

 

 牛尾も期間限定とはいえ同僚の為、苦言を呈す。

 

「情報発信の顔がゲスい顔するもんじゃねぇぞー」

 

 このバトルシティでは犯罪組織であるグールズたちを捕縛する側面も持つ為、一般の参加者などにグールズから目を逸らさせる為にBIG5のペンギン大好きの人こと大瀧が発案したプラン。

 

 一般の参加者のデュエルの中からより注目を集めるものをピックアップして取り上げ意識を誘導し、裏で行う捕縛劇を速やかに行うためのもの。

 

 

 その内容の大まかな中身は聞いているゆえの牛尾の苦言だったが、野坂ミホは太陽のような笑みを咲かせる。

 

「大・丈・夫! カメラからは死角だからぁん!」

 

 撮影機材を持ったスタッフの位置を正確に野坂ミホは把握しているようだ。

 

 その野坂ミホの花咲く笑顔に牛尾は「女って怖ぇなぁ」などと思いながら遠くを見つめる。その際、視界の端に恋のダメージから蹲る本田の姿があったがスルーした。

 

「それで解説の牛尾さん的にはここからどう動くと思いますかぁ?」

 

 カメラを意識した野坂ミホの言葉に牛尾はこれも仕事だと、口を開こうとするが――

 

 それより先にカメラにピースする双六が答える。

 

「そうじゃのう……今はデュエルの最初のターンじゃ――バトルはともかく、特殊召喚が出来ないのは痛いところじゃの。じゃからこのターンは消極的なものになるじゃろうな」

 

「へー! そうなんだぁ! 1枚のカードからこのターンのことまで分かるなんて、遊戯のおじいさんってスゴイんですねッ!」

 

「ほっほー! いや~それ程でも――あるのう!」

 

 野坂ミホに誉めそやされ、満更でもないように笑う双六。

 

 

 そんな双六の姿を余所に牛尾の意識は城之内たちのデュエルに移る。

 

 静香が交換した手札から取るべき手を決めたようだ。

 

「え~と、次もこれ! 2枚目の魔法カード《天空の宝札》を発動! 手札の光属性・天使族の《アテナ》を除外して2枚ドロー!」

 

 白き衣を身に纏った三又の矛と銀の盾を持った女神が白銀の長髪を棚引かせ、塔へ昇っていき、静香の手札に恵みをもたらす。

 

「その次はこれ! 3枚目の魔法カード《天空の宝札》を発動! 今度は手札の光属性・天使族の《光神(こうしん)テテュス》を除外して2枚ドロー!」

 

 再び静香の背後に現れた塔に、白い天使の翼を広げて飛び立つのは鎧で胴体部分を覆った白い衣を纏った女神。

 

 その光は静香の手札にキーカードを引き込んだ。

 

「よし、これなら! 私はモンスターをセット。それとカードを2枚セットしてターンエンド!」

 

 静香のフィールドに現れる3つのカード。

 

 スタンダードな待ちの姿勢に見えるその布陣を城之内は見つつ、デッキに手をかける。

 

「おっ、セットモンスターにリバースカード2枚か! どう攻めるかな! 俺のターン! ドロー!」

 

 今の城之内の手札は決して悪くない。

 

「よぉし! デュエリストの本当の姿ってヤツを見せてやるぜ!」

 

 そう、意気込みを見せて己が切り札を呼ぶべくカードを切る。

 

「魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動! 手札のモンスターを1体墓地に送って、デッキからレベル1のモンスターを呼び出すぜ! 来いっ! 《伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)》!!」

 

 城之内のフィールドから黒い卵が現れる。

 

 その黒い卵は内側から薄っすらと赤い光が灯っており、新たな命が脈々と鼓動を打っていた。

 

伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)

星1 闇属性 ドラゴン族

攻 0 守 0

 

「早速《伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)》の効果を発動だ! このカードをリリースしてデッキからレベル7以下の『レッドアイズ』モンスターを呼び出すぜ!」

 

 その《伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)》にヒビが入り殻が崩れると、そこから輝かんばかりの赤い光が周囲を覆う。

 

「俺が呼ぶのは当然! 《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》!!」

 

 その赤い光が立ち消えると共に現れるのは城之内の切り札、《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》がその黒き身体で悠然に空を舞い、赤き瞳で相手を見据える。

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)

星7 闇属性 ドラゴン族

攻2400 守2000

 

「凄い……これがお兄ちゃんのレッドアイズ……」

 

 《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》の雄姿に感嘆の声を上げる静香。

 

「スゲェだろ! しかも《伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)》は墓地のレッドアイズをデッキに戻して墓地から手札に加えられるんだぜ! まぁ2つの効果は1ターンの内にどっちかしか使えねぇけどな」

 

 だが城之内は《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》を素早く呼べた事実に驚いていると考え、その助けとなった《伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)》を自慢するように胸を張る。

 

「そんでもって墓地の《カーボネドン》の効果を発動だ! 墓地のコイツを除外することでデッキからレベル7以下のドラゴン族通常モンスターを守備表示で特殊召喚する!」

 

 先程の《ワン・フォー・ワン》の時に墓地に送られていた黒い機械的な甲殻を持つ恐竜、《カーボネドン》にヒビが入り、その内側から新たなドラゴンが飛び立つ。

 

「次はコイツだ! 《メテオ・ドラゴン》!!」

 

 そのドラゴンの隕石のような丸い身体が宙に浮かび、そこから紫の頭と2本の腕と翼、そして尾が亀のように伸びる。

 

《メテオ・ドラゴン》

星6 地属性 ドラゴン族

攻1800 守2000

 

 これで《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》を更なる高みへと至らせる力は揃ったが――

 

――融合! と行きてぇが今の俺の手札に《融合》のカードはねぇ。なら!

 

 肝心のカードが手札にないことを歯痒く思う城之内。

 

「魔法カード《馬の骨の対価》で通常モンスターの《メテオ・ドラゴン》を墓地に送って2枚ドローだ!」

 

 その《メテオ・ドラゴン》は城之内の手札に飛び込み炎となって手札を潤す。

 

「んでもって手札から《リトル・ウィンガード》を通常召喚!!」

 

 青を基調にした装備で全身を覆う小柄な戦士が剣と盾を構える。

 

 だがその素顔は装備で覆われ、僅かな隙間から除く黄色の丸い目が2つ光る。

 

《リトル・ウィンガード》

星4 風属性 戦士族

攻1400 守1800

 

「行くぜ静香! 俺の攻撃を受けきれるか? バトルだ! レッドアイズ!! セットモンスターをぶっ飛ばせ! (こく)(えん)(だん)ッ!」

 

 《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》から放たれる黒い炎の砲弾が静香のセットモンスターに迫るが――

 

「させない! お兄ちゃんの攻撃宣言時に罠カード《次元幽閉》を発動!」

 

 静香のセットモンスターの前の空間が歪み薄暗い異次元へのゲートが開かれる。

 

「これで攻撃してきたお兄ちゃんのレッドアイズを除外!」

 

「へっ?」

 

 その異次元へと黒い炎の砲弾は吸い込まれていき、さらに《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》をも呑み込んでいく。

 

 やがて獲物を呑み込んだ異次元へのゲートは徐々に小さくなっていき、まるで最初からそんなものはなかったかのようにスッと消えた。

 

「お、俺のレッドアイズが~!!」

 

 いきなり自身の切り札たるモンスターを失い嘆く城之内に、ここは盛り上げ時だと野坂ミホは力を入れて実況を加える。

 

「おおっとぉー!! 城之内選手! いきなりエースのレッドアイズを失ってしまったぞー!!」

 

 野坂ミホに続くように本田もヤジを飛ばす。

 

「なにやってんだ! 城之内ィー! ちゃんと真面目にやれー!」

 

 本田のヤジにいつものように返そうとした城之内だったが、その前に聞こえた野坂ミホの声と撮影機材の存在に気付き、慌てて襟を正し何とか言葉を捻りだす。

 

「い、今のは静香を――た、試したんだよ!」

 

「もの凄く苦しい言い訳だぁー!! 城之内選手はここから挽回できるのかー!?」

 

 その苦し紛れな城之内の言葉にも野坂ミホは容赦なく追求する。

 

 そんな野坂ミホの口撃に晒される城之内を見つつ杏子は溜息を吐いた。

 

「はぁ、どうせ『兄の威厳を見せる』とか考えてたんでしょ……」

 

 ジトっと見やる杏子の呆れた視線から城之内は逃げるように声を張る。 

 

 

「リ、《リトル・ウィンガード》で今度こそセットモンスターに攻撃だ!!」

 

 小さな身体で飛び掛かりセットモンスターを切り裂く《リトル・ウィンガード》。

 

 そして剣を振るった後は隠れた顔をさらに隠す様に三角帽子を深くかぶりなおす。

 

 その切り裂かれたセットモンスターはクリスマスに飾るリースに天使の羽を付けたモンスター《コーリング・ノヴァ》。

 

《コーリング・ノヴァ》

星4 光属性 天使族

攻1400 守 800

 

「よっしっ!! 先制攻撃は決まったぜ!」

 

 まずまずの成果に握りこぶしを作る城之内。

 

 そんな城之内の姿に静香は内心で城之内の胆力に舌を巻く。

 

――攻撃力1400、そんなに高いとは言えないのに反射ダメージに怯まず攻撃してくるなんて! さすがお兄ちゃん!

 

 兄の勇敢な姿を尊敬の眼差しで見つめる静香だが、ただではやらせないとカードの効果を発動させる。

 

「でも戦闘で破壊された《コーリング・ノヴァ》の効果を発動! 私のデッキから攻撃力1500以下の光属性の天使族を1体、特殊召喚!」

 

 切り裂かれた《コーリング・ノヴァ》が光のリースとなってデッキから仲間を呼び寄せる。

 

「来て! 《フェアリー・アーチャー》!」

 

 現れたのは赤い蝶のような羽を持った妖精。その手に魔法の弓矢を携え宙を舞う。

 

《フェアリー・アーチャー》

星3 光属性 天使族

攻1400 守 600

 

「ほうほう、ちゃんと後に続くカードを残してるんだな! 感心、感心!」

 

 自身のモンスターを途切れさせない静香の姿に城之内は満足気に頷く――妹の成長が兄として嬉しいのだろう。

 

「俺は残りの手札を全て伏せてターンエンドだ! そしてエンドフェイズに《リトル・ウィンガード》の効果を発動! 自身の表示形式を変更出来るぜ! 守備表示に変更!」

 

 盾を前に出し、その後ろに隠れるようにしゃがむ《リトル・ウィンガード》。

 

 

 手札の4枚のカードを全て伏せた城之内。

 

 それには、例え妹であっても全力で倒さんとする城之内の意思が垣間見えた。

 

 だがそんな城之内に静香の待ったがかかる。

 

「待って、お兄ちゃん! そのエンドフェイズ時に永続罠《奇跡の光臨》を発動! その効果で除外されている私の天使族モンスター1体をフィールドに帰還!」

 

 静香の頭上の空から光が落ちる。

 

「来てっ! 恵みをもたらす女神様! 《光神(こうしん)テテュス》!!」

 

 そして空からその光を通ってゆっくりと舞い降りるのは白き女神、《光神(こうしん)テテュス》。

 

 その翼は宙に浮いているにも関わらずその《光神(こうしん)テテュス》を空に留めていた。

 

光神(こうしん)テテュス》

星5 光属性 天使族

攻2400 守1800

 

「スゲェじゃねぇか、静香! こんなポンポンモンスターを呼び出すなんてよ!」

 

 現れた上級モンスターの姿に兄の贔屓目がふんだんに込められた賞賛の声を静香に送る城之内――少々、兄バカな姿だ。

 

「えへへ……ありがとう、お兄ちゃん」

 

 そんな城之内の賞賛に照れつつ静香はデュエルを続ける。

 

「それじゃぁ私のターン、ドロー! この時、《光神(こうしん)テテュス》の効果を発動!」

 

 《光神(こうしん)テテュス》の翼が光を放つ。

 

「私がドローしたカードが天使族モンスターだった場合、そのカードを見せてもう1枚ドローできるの! 今引いたのは――」

 

 その効果と静香の言葉にどこか既視感を覚える観客となった城之内たち。

 

 そう、これはまるで――

 

「《心眼の女神》! 天使族だから更にドロー!

《翼を織りなす者》 天使族! 更にドロー!

《慈悲深き修道女》 天使族! 更にドロー!

《コーリング・ノヴァ》 天使族! 更にドロー!」

 

 過去の城之内の《凡骨の意地》での脅威の連続ドローを連想させる。

 

 だが《コーリング・ノヴァ》の後に引かれたカードは天使族ではなかったようだ。

 

 それゆえにドローフェイズを終えようとする静香。だが今度は城之内が待ったをかける。

 

「おぉっと、待ちな! 罠カード《ギャンブル》を発動させて貰うぜ! こいつは相手の手札が6枚以上で俺の手札が2枚以下の場合に発動できる!」

 

 中々に厳しい発動条件だが今の静香の手札は8枚、城之内の手札は0――よってその条件は満たされていた。

 

「1度コイントスをして俺はその裏表を当てる! 当たれば俺は手札が5枚になるようにドロー! ハズレれば次の俺のターンをスキップだ!」

 

 まだデュエルが始まったばばかりにも関わらずギャンブル効果――リスクを恐れない、文字通りの攻めの姿勢だ。

 

 そしてコインが宙を舞い――

 

 表側が天を差した。

 

「うぉっしゃー! 当たりだぜ!  俺は手札が5枚になるようドロー!!」

 

 一気に増えた城之内の手札に静香は警戒を強めつつも、勇敢な兄の背に追いつくために突き進む。

 

「なら私は魔法カード《七星(しちせい)宝刀(ほうとう)》を発動! 手札のレベル7の《翼を織りなす者》を除外して2枚ドロー!」

 

 黄金の剣が振るわれ、黄色い法衣を纏った6枚の翼を持つ天使が光となって静香の手札を照らす。

 

 しかし引いたカードに天使族はいなかったのか《光神(こうしん)テテュス》の追加ドローは起こらない。

 

「これなら! まずは手札から《融合》を発動! 手札の《慈悲深き修道女》と融合素材の代わりになれる《心眼の女神》を融合! 」

 

 祈りを捧げるシスターの老婆と額に第三の目を持つ緑のローブを纏った女神が空に浮かぶ渦によって今一つとなる。

 

「エクストラデッキから融合召喚! 神託を受けし戦乙女! 《聖女ジャンヌ》!!」

 

 《融合》の渦の中から光と共に降り立ったのは軽装の鎧を纏った古代の英雄。

 

 短く切りそろえられた金糸の髪から覗く目には強い意志が垣間見えた。

 

《聖女ジャンヌ》

星7 光属性 天使族

攻2800 守2000

 

「そして2体目の《コーリング・ノヴァ》を召喚!」

 

 再び現れるクリスマスの飾り、リースの天使、《コーリング・ノヴァ》がクルクルと回る。

 

《コーリング・ノヴァ》

星4 光属性 天使族

攻1400 守 800

 

「最後にフィールド魔法《天空の聖域》を発動して――」

 

 静香の背後の宙に白を基調にした聖なる神殿が浮かぶ。その周囲は薄っすらと雲で覆われ神聖なオーラを放っていた。

 

「バトル! 《光神(こうしん)テテュス》で守備表示の《リトル・ウィンガード》を攻撃! お願い!」

 

 《光神(こうしん)テテュス》のその掌から聖水が集まり槍のように形作られ、《リトル・ウィンガード》に向けて投擲されるが――

 

「おっと! タダじゃ通さねぇぜ! リバースカードオープン! 永続罠カード《ラッキーパンチ》を発動!!」

 

 その槍が《リトル・ウィンガード》を貫く前に城之内の前に3つのコインが現れる。

 

「《ラッキーパンチ》の効果で静香! お前が攻撃宣言した時! 1ターンに1度、コイントスを3回行うぜ! そして3回とも表だった場合、俺はデッキからカードを3枚ドローする!!」

 

「3枚も!?」

 

 運の要素が絡むとはいえ、何度でも3枚のドローのチャンスが得られるカード。

 

 だがそれ相応のリスクはある。

 

「おうよ! だがデメリットもある――逆に3回とも裏だった時にはこのカードを破壊! さらにこのカードが破壊されたときには6000ものライフを失っちまうぜ!」

 

 初期ライフ4000が容易く消し飛ぶリスク。

 

 さらに6000の「ダメージを受ける」ではなく6000の「ライフを失う」ゆえにダメージを無効にする類のカードは意味をなさない。

 

「まぁ3枚表なんて早々でねぇし、その逆もまたしかりだぜ! コイントス!!」

 

 そんな若干楽観的な考えのもと3枚のコインが順番に天を舞う。

 

「裏! 裏ァ!? 表ぇー! あ、危ねぇ……」

 

 落ちた3枚のコインの結果に冷や汗を流す城之内――最後が裏であれば危うく6000のライフを失い敗北するところであった。

 

 

 城之内と共にコイントスに一喜一憂していた《リトル・ウィンガード》は投擲された聖水の槍を回避できずに頭に突き刺さる。

 

 槍が刺さった《リトル・ウィンガード》の姿に思わず「あっ」と小さく声を出す城之内。

 

 だが静香の攻撃は止まらない。

 

「次は《聖女ジャンヌ》でお兄ちゃんにダイレクトアタック!」

 

 《聖女ジャンヌ》が剣を抜き、上段から城之内に振り下ろす。

 

 しかし城之内もただではやられない。

 

「そう簡単にダメージは通さねぇぜ! 罠カード発動《ヒーロー見参》!!」

 

 城之内と《聖女ジャンヌ》の間の空間に突如スポットライトが照らされる。

 

「相手の攻撃宣言時に俺の手札をランダムに1枚選ぶ! もしそれがモンスターカードだったとき俺のフィールドに特殊召喚するぜ!」

 

「違ったら?」

 

 そう首を傾げて問いかける静香――このデュエルで城之内の発動したカードの傾向からデメリットがあると見ているのだろう。

 

「そのまま墓地に送られる!」

 

 その予想は当たりだ。キチンとデメリット要素もある。

 

 

 その事実に野坂ミホはここぞと声を張る。

 

「城之内選手!! 決闘者の王国(デュエリストキングダム)からデッキを新調した模様!? でもさっきからギャンブルカードばっかりだぁーッ!」

 

 

 その野坂ミホの言葉と同様に観客の心も一つだ――「またギャンブルカードかよ!?」と。

 

 

 そして攻撃を遮るように《聖女ジャンヌ》の前に現れる城之内の5枚の手札。

 

 その5枚のカードの内の1枚に《聖女ジャンヌ》は剣を振り下ろす。

 

「選ばれたカードは――」

 

 《聖女ジャンヌ》の剣は何かに受け止められる――それは長大な大剣だった。

 

 やがてその大剣を持つ筋肉質な剛腕が見え、その腕によって振るわれた大剣。

 

 《聖女ジャンヌ》はその力を利用し距離を取る。

 

「モンスターカード!! イナズマの戦士!! 《ギルフォード・ザ・ライトニング》!!」

 

 《聖女ジャンヌ》の剣を受け止めた大剣の持ち主は橙色のマントをはためかせる上半身と頭部を軽く覆った鎧を身に纏った戦士

 

 その鎧の隙間から見える肉体は鋼のように鍛え抜かれている。

 

《ギルフォード・ザ・ライトニング》

星8 光属性 戦士族

攻2800 守1400

 

「えっと、こういう時は攻撃の巻き戻しが起きる?」

 

 攻撃宣言の後に城之内のフィールドに新たなモンスターが現れた為、静香は教わった「この状態での選択肢」を確かめるように城之内に尋ねた。

 

「おうよ! そのまま攻撃するか、止めとくかが選べるぜ!」

 

 それに対し「俺も最近通った道だ」と自信を持って返す城之内。

 

 《聖女ジャンヌ》と《ギルフォード・ザ・ライトニング》の攻撃力は互いに2800と互角。相打ちには出来るが――

 

「う~ん、なら《聖女ジャンヌ》の攻撃はキャンセル!」

 

 城之内に残された最後の4枚目のセットカードを視界に入れ、攻撃しない選択を取る静香。

 

 その決定に従い、剣を納めて静香の隣に戻る《聖女ジャンヌ》。

 

「代わりに速攻魔法《次元誘爆》を発動!」

 

 《聖女ジャンヌ》が空に剣を掲げ、祈るように目を閉じた。

 

「《次元誘爆》の効果で私のフィールドの表側の融合モンスター1体をエクストラデッキに戻す!」

 

 やがて《聖女ジャンヌ》は徐々に光と共に天に昇っていく。

 

「なっ! 折角呼んだのに勿体ねぇな……」

 

 そんな言葉とは裏腹に城之内にあるのは静香が己がエースを失ってまで発動された速攻魔法の効果への警戒の眼差しのみ。

 

「でも代わりにゲームから除外されたモンスターを2体まで特殊召喚できるの!」

 

 やがて天に昇った《聖女ジャンヌ》は光となって静香のフィールドを照らした。

 

「天より舞い降りて! 《アテナ》! 《翼を織りなす者》!」

 

 その光の中から三又の矛と銀の盾を持ち、白き衣を身に纏った女神が静かに降り立つ。

 

《アテナ》

星7 光属性 天使族

攻2600 守 800

 

 さらに黄色い法衣を纏った天使がその6枚の翼を広げて天に佇む。

 

《翼を織りなす者》

星7 光属性 天使族

攻2750 守2400

 

「なんだとッ!?」

 

 城之内は自身の《ギルフォード・ザ・ライトニング》を上回る攻撃力を持ったカードはいないものの、静香のフィールドに新たに2体並び、合計5体になった天使たちに吃驚を見せる。

 

「あっ、でもお兄ちゃんの除外されてるモンスターも2体まで特殊召喚しなきゃだけど……」

 

 その静香の言葉に我に返った城之内はモンスターを呼び込むべくフィールドに手をかざす。

 

「そうか! なら俺は《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》と《カーボネドン》を守備表示で特殊召喚するぜ!」

 

 異次元を砕き舞い降りるのは一番槍を務めたものの除外された《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》。

 

 その赤い瞳はリベンジに燃えている――だが守備表示だ。

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)

星7 闇属性 ドラゴン族

攻2400 守2000

 

 その後に続く黒い機械的なフォルムを持った恐竜、《カーボネドン》が二本の足で立ち、その両腕を交差して身体を小さく丸め衝撃に備えていた。

 

《カーボネドン》

星3 地属性 恐竜族

攻 800 守 600

 

「《翼を織りなす者》で《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》を攻撃!」

 

 《翼を織りなす者》の6枚の翼から放たれる羽が空を舞い攻撃を回避する《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》を貫き地に落とす。

 

「次は《アテナ》で《カーボネドン》を攻撃!」

 

 丸まっていた《カーボネドン》だったが《アテナ》の槍にあっさりと貫かれ、その身を聖なる力で焼き払われた。

 

「うおっ! だがどっちも守備表示! 俺にダメージはねぇぜ!」

 

 次々と静香の天使たちに屠られていく城之内のモンスター。だが今の城之内には頼りになる戦士、《ギルフォード・ザ・ライトニング》の背中が見える。

 

「しかも今の静香のフィールドの天使じゃぁ俺の《ギルフォード・ザ・ライトニング》は超えられねぇぜ! 《聖女ジャンヌ》をフィールドから離しちまったのは失敗だったなッ!」

 

 そう得意気に胸を張る城之内――先程は内心で冷や汗を流していたのは秘密だ。

 

「ううん、これで良いの――《コーリング・ノヴァ》で《ギルフォード・ザ・ライトニング》を攻撃!」

 

 その無謀ともとれる静香の命令にも《コーリング・ノヴァ》は迷いを見せずに《ギルフォード・ザ・ライトニング》に突っ込む。

 

 だが当然そのまま《ギルフォード・ザ・ライトニング》の大剣に切り伏せられた。

 

「《コーリング・ノヴァ》は破壊されちゃうけどフィールド魔法《天空の聖域》の効果で天使族モンスターの戦闘では私のダメージは0になる!」

 

 しかし《コーリング・ノヴァ》を通じて届く静香への戦闘ダメージは《天空の聖域》が光を放ち、その加護によって打ち消された。

 

「おいおい、静香――攻撃力の低いモンスターで攻撃してもやられちまうだけだぞ? モンスターを無駄死にさせちまうようじゃぁデュエリスト失格だぜ!」

 

 城之内の目に静香を咎めるような色が浮かぶ――例え妹であっても、いや妹だからこそカードと真摯に向き合って貰いたい城之内の兄心があった。

 

「えっと、こういう時は『それはどうかな?』って言うんだよね?」

 

 はにかみながらそう返す静香。

 

 城之内の言うような「カードと向き合う心構え」は静香とて師匠たちに教わっている。

 

 しかしそのセリフを教えたのは誰なのか。

 

「戦闘で破壊された《コーリング・ノヴァ》の効果でデッキから攻撃力1500以下の光属性の天使族、3体目の《コーリング・ノヴァ》をデッキから特殊召喚!」

 

 3度現れる《コーリング・ノヴァ》。

 

 己が役目を悟ってなお、やる気に満ちていることを示すようにクルクルと回る。

 

《コーリング・ノヴァ》

星4 光属性 天使族

攻1400 守 800

 

「わざわざ同じモンスターを? なんでだ?」

 

 このタイミングで《コーリング・ノヴァ》を再び呼び出した意味が分からない城之内。

 

 しかしその静香の狙いは直ぐに分かる。

 

「そして天使族モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚されたことで私のフィールドの《アテナ》の効果を発動!」

 

 《アテナ》がその手に持つ槍を天に掲げる。

 

「お兄ちゃんに600ポイントのダメージを与える! お願い、《アテナ》!」

 

 すると空から雷が城之内を目掛けて降り注いだ。

 

「うぉっ!」

 

城之内LP:4000 → 3400

 

 たたらを踏む城之内を余所に静香は再び《ギルフォード・ザ・ライトニング》を目標に定め宣言する。

 

「もう1度お願い! 《コーリング・ノヴァ》! 《ギルフォード・ザ・ライトニング》を攻撃!」

 

 再び特攻する《コーリング・ノヴァ》。

 

 その狂信的とも見える姿に《ギルフォード・ザ・ライトニング》は戸惑いながらも剣を振りかぶる。

 

 しかし静香の狙いに気付いた城之内の判断はその剣が振り下ろされるよりも早かった。

 

「ちょぉっと! 待ぁったぁー! 俺は罠カード《ダメージ・ダイエット》を発動ォ! これで俺が受けるこのターンのあらゆるダメージは全部半分になるぜ!」

 

 ゆえに被害を最小限にとどめるべくカードを切る。

 

 そして寸での差で《ギルフォード・ザ・ライトニング》に切り裂かれる《コーリング・ノヴァ》。

 

「戦闘で破壊された《コーリング・ノヴァ》の効果でデッキから攻撃力1500以下の光属性の天使族、《慈悲深き修道女》をデッキから特殊召喚!」

 

 祈りを捧げるシスターの老婆。

 

 だが己が攻撃表示で呼び出されたことに気付くと、すっと立ち上がり右腕をガードするように、左腕をダラリと下げて構え、その左腕をリズミカルに振り子のように左右に揺らす。

 

《慈悲深き修道女》

星4 光属性 天使族

攻 850 守2000

 

「そして天使族モンスターが特殊召喚されたことで《アテナ》の効果で600のダメージ、だけど《ダメージ・ダイエット》の効果で半分になるから300のダメージ!」

 

 再び城之内に落とされる天の裁き、だが今度はその雷を《ギルフォード・ザ・ライトニング》が剣で切り払う。

 

 だが完全には切り払えずに小さくなった余波が城之内を襲った。

 

「ぐっ、だがこれで《コーリング・ノヴァ》はもういねぇぜ!」

 

城之内LP:3400 → 3100

 

 同じカードは原則として3枚しかデッキには入れられない為、《コーリング・ノヴァ》を繰り返し呼ばれることが止み、《アテナ》によるダメージはこれで終わりだと安堵する城之内。

 

 

 だが、何勘違いしているんだ、城之内。

 

 まだまだ天使たちのバーン攻撃は終わっちゃいないぜ!

 

 

「バトルフェイズを終了して《フェアリー・アーチャー》の効果を発動!」

 

 静香の宣言を聞きとげ、その手の弓を構えて城之内に狙いを定める《フェアリー・アーチャー》。

 

「私のフィールドの光属性のモンスターの数×400ポイントのダメージ! 私のフィールドの光属性モンスターの数は5体だからそのダメージは2000ポイント!!」

 

 その矢に周囲の天使たちの聖なる力が集まっていき、城之内を仕留めるべく矢が射られた。

 

「だが《ダメージ・ダイエット》の効果でダメージは半減だ!」

 

 その矢を縦に真っ二つに切り裂く《ギルフォード・ザ・ライトニング》。

 

 しかしその矢の半分は城之内に命中する。

 

「くっ、もうライフが半分かよ……」

 

城之内LP:3100 → 2100

 

 しかし《ダメージ・ダイエット》を発動していなければ、そのダメージはもっと大きかっただろう。ゆえに自身の読みは正しかったのだと内心で自分を褒める城之内。

 

 

 だが言ったはずだぜ! まだまだバーン攻撃は終わっちゃいないと!

 

 

「そして《アテナ》のもう一つの効果を発動!」

 

 《アテナ》の銀の盾が淡く光を発する。

 

「1ターンに1度、《アテナ》以外の自分フィールドの表側の天使族モンスターを1体墓地に送って、墓地の《アテナ》以外の天使族を復活させることが出来るの!」

 

 その盾を向けた先のフィールドに陣が現れ――

 

「私は天使族の《フェアリー・アーチャー》を墓地に送って、天使族の《コーリング・ノヴァ》を復活!」

 

 その陣の上を舞う《フェアリー・アーチャー》が光となって墓地に眠る天使とその位置を入れ替え、《コーリング・ノヴァ》がここに帰還した。

 

《コーリング・ノヴァ》

星4 光属性 天使族

攻1400 守 800

 

「天使族のモンスターが特殊召喚されたことで《アテナ》の効果でお兄ちゃんにさらにダメージ!」

 

 天から絶え間なく城之内に降り注ぐ裁きの雷を懸命に防がんと切り払う《ギルフォード・ザ・ライトニング》。

 

城之内LP:2100 → 1800

 

 だが着実に城之内のライフは削れていく。

 

「まだまだ行くわ! 魔法カード《融合回収(フュージョン・リカバリー)》を発動! その効果で私の墓地の《融合》1枚と融合召喚に使用したカード1枚、《心眼の女神》を手札に!」

 

 再び静香の手札に舞い戻る《心眼の女神》――そしてフィールドには《慈悲深き修道女》。

 

 これにて融合の条件は再び揃う。

 

「そしてもう1度《融合》を発動! フィールドの《慈悲深き修道女》と手札の《心眼の女神》を融合! 融合召喚! また力を貸してください! 《聖女ジャンヌ》!!」

 

 再びフィールドに舞い戻る《聖女ジャンヌ》。

 

 その身体を静香を守るように陣取り、その剣は《ギルフォード・ザ・ライトニング》に向けられていた。

 

《聖女ジャンヌ》

星7 光属性 天使族

攻2800 守2000

 

「特殊召喚された《聖女ジャンヌ》は天使族! 《アテナ》の効果でお兄ちゃんに更にダメージ!」

 

 最後の一撃と言わんばかりに天から落ちた大きな雷を、力を振り絞って切り払う《ギルフォード・ザ・ライトニング》。

 

城之内LP:1800 → 1500

 

「カードを1枚セットしてターンエンド!」

 

 そう元気よくターンを終えた静香。

 

 しかし城之内はその背に嫌な汗が流れる――《ダメージ・ダイエット》がなければこのターンで終わっていたと。

 

 

 そんな城之内を《コーリング・ノヴァ》・《光神(こうしん)テテュス》・《アテナ》・《翼を織りなす者》・《聖女ジャンヌ》の5体の天使族モンスターが威圧感タップリに見下ろしていた。

 

 

 

 




シャインエンジェル「何故我々を呼ばなかったんだ! 《アテナ》でのダメージをもっと追加出来たのに!」

堕天使マリー「このデッキに野郎と可愛くないものは不要だ」

心眼の女神「光属性・天使族でないものも不要です。《聖女ジャンヌ》への融合は私にお任せを《堕天使マリー》」(輝く笑顔)

堕天使マリー(闇属性・悪魔族)「!?」

デーモン・テイマー(地属性・戦士族)「ドンマイ!! 涙吹けよ!」

女豹の傭兵(レディパンサー)(地属性・獣戦士族)「ドンマイ!! 仲良くやろうぜ!」


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