マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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~前回の遊戯がレベッカの何を問題視したのかを
   作者が上手く伝えきれず勘違させてしまったようなので説明~

そもそも遊戯やホプキンス教授は
レベッカがとった「墓地肥やしの戦術」のことは「否定していない」です
(この点の勘違いが多かった印象です)

あくまで今のレベッカの「カードに敬意を払わない姿勢」を問題視しています

もう1度言いますが
遊戯やホプキンス教授は「戦術批判してる訳じゃない」ですよ!(重要)




前回のあらすじ
魂の解放「オノーレェエエエ!!」
???「( ・´ー・`)ドヤァ……」

ブラック・マジシャン「最近活躍してない気が……」




第47話 「友情」って素敵だよね!

 

 思わぬ形でデュエルが終わったせいか呆然とするレベッカ。だがすぐさま我に返り、遊戯に確認を取るように宣言する。

 

「私の勝ちね!」

 

「うん、ボクの負けだよ」

 

 

 両者はデュエルディスクを所定の位置に戻し、双六の元へ集まった。

 

 レベッカはようやくとの思いで双六に言い放つ。

 

「さぁブルーアイズを返して!」

 

「あのカードは今、海馬君がもっておる」

 

 だが双六の返答はレベッカの望むものではなかった。呆けるレベッカを余所に双六は続ける。

 

「海馬君に『カードの心』を教えるためとはいえ アンティに応じてしまったのは……本当にスマンと思っとる」

 

 申し訳ないと頭を下げる双六。だがそんなものではレベッカの腹の虫は収まらない。

 

「だから返そうとしなかったんだ! キ~ッ! ガッデム! 許せない!!」

 

 すでに手元にないがゆえに誤魔化す意味合いで双六が返却に応じなかったと憤慨するレベッカ。

 

「いや、そういうわけではなかったんじゃが……」

 

 いずれ海馬にデュエルを再度挑み取り返すつもりだったとはいえ、状況的にそう思われても仕方がないゆえに双六も言いよどむ。

 

 だがそんな双六に救いの声が届いた。

 

「待たんか、レベッカ」

 

 温和そうなスーツを着た老人――

 

「おじいちゃん!」

 

 レベッカの祖父、アーサー・ホプキンス教授である。

 

 驚くレベッカを余所に牛尾はデッキを構えつつホプキンス教授に威圧的に問いかける。

 

「ちょっと待て――アンタどうやってココに来た」

 

 ここはKCの研究室の一室。部外者であるホプキンス教授が入ることが決して出来ないエリア――牛尾の気配に剣呑としたものが混ざる。

 

 その気配に冷汗を流すホプキンス教授。だがすぐさま救いの声が届いた。

 

「落ち着け牛尾。私がお連れした」

 

「ギースの旦那ァ!? なんでここに?」

 

 予期せぬ人物の登場に驚きを見せる牛尾――デジャヴ? 気のせいだ。

 

「街でお孫さんを探すホプキンス教授を見かけてな。調べたところココにいると聞いてお連れした」

 

 あくまで偶然会ったと言うギース。

 

――偶然……ねぇ。

 

 そんな牛尾の頭によぎった考えを横に置きながらホプキンス教授に無礼を詫びた。

 

「そうだったんですか! 知らなかったこととはいえ、申し訳ねぇです」

 

「ハハハ……構わないよ」

 

 頭を下げる牛尾を笑って許すホプキンス教授――後の話では寿命が縮むかと思ったらしい。

 

 

 

 誤解が解けた両者。

 

 そしてホプキンス教授は仕切り直すように咳払いを一つした。

 

「オホンッ! レベッカ。今のデュエル――遊戯君の勝ちだ」

 

「えぇ~!? そんなはずないわ! 勝ったのは私よ!」

 

 信じられないといった顔をするレベッカにホプキンス教授は申し訳なさげに遊戯に願い出る。

 

「遊戯君、最後に引いたカードを見せてもらってもいいかな?」

 

「……はい、どうぞ」

 

 遊戯が最後に引いたカード――それはモンスターが虹を描くイラストの緑色の枠の魔法カード。

 

「これは《レインボー・ヴェール》!?」

 

「そうだ、レベッカ。もし最後のターンで遊戯君がこのカードを出していれば――」

 

 装備魔法《レインボー・ヴェール》

 

 装備モンスターが相手モンスターと戦闘を行う場合、

 バトルフェイズの間だけその相手モンスターの効果を無効にするカード。

 

 

 つまり、このカードを《ブラック・マジシャン》に装備して《シャドウ・グール》を攻撃すれば《シャドウ・グール》が自身の効果で攻撃力を4000までアップしていたとしても

 

 その効果が無効にされることで、その攻撃力が元の数値1600に戻る。

 

 よって、そのバトルでレベッカは900ポイントのダメージを受け、残りライフ800のレベッカは敗北していた筈だった。

 

 

「じゃあ遊戯はわざとサレンダーを? なんでそんなことをしたのよ! デュエルは何時だって真剣勝負! 手加減なんかいらないわ!!」

 

 デュエリストにとって勝利が全てだと考えるレベッカには「わざと負けること」など理解できない。ゆえに遊戯に噛み付く。

 

 だがそんなレベッカをホプキンス教授は悲しそうに見つめながら懺悔するように諭す。

 

「遊戯君は双六譲りの心優しい少年だということだ――勝ち負けしか考えられないお前の心を救おうとしたんだよ」

 

「そんなわけないわ! 勝つことが全てよ! だって勝てばみんなが認めてくれるもの!!」

 

 今のレベッカは自身の存在を認めてもらうための「勝利」が何よりも重要だった。

 

 プロの上位陣に負け続けたレベッカへの周囲の落胆の声がその脳裏に思い出される。

 

 そんな「レベッカが負けた時」の祖父を含めた周囲の落胆をレベッカは受け入れられない。

 

 たとえ祖父が「敗北を気にしていなくとも」追い詰められ視野の狭まったレベッカには周囲と同じように見えてしまう。

 

 

 そんな今にも崩れそうなレベッカをホプキンス教授はそっと抱きしめる。

 

「――すまない、レベッカ。私たちの期待がお前を苦しめる結果になってしまって……」

 

 ホプキンス教授は目じりに涙を浮かべ懺悔する。

 

 何故もっと早くに手を差し伸べて上げられなかったのか、何故愛する家族を此処まで苦しめてしまったのか、と。

 

「違うわ! おじいちゃんは悪くない――負けた私が悪いのよ!」

 

 プロの世界はある意味、残酷である。「敗者」に与えられるものは決して多くはない。

 

 その世界に幼いながら浸かってしまったレベッカの心は今にも崩れてしまいそうだった。

 

 そんなレベッカを抱きしめているホプキンス教授の腕に思わず力がこもる。

 

「本当に、本当にすまないレベッカ……」

 

「やめてよ! おじいちゃんは悪くはないわ! ブルーアイズのかかった大事なデュエルで負けちゃった……私が、私が……」

 

 レベッカの心は限界だった。

 

 一室に子供の泣き声が響く。

 

 その声にホプキンス教授も共に涙を流した。

 

 

 

 

 

 暫くして泣き止んだホプキンス両名。

 

 涙をぬぐったレベッカは遊戯に謝罪の言葉を贈る。

 

「ごめんなさい、遊戯。みっともないところ見せちゃって――こんな調子じゃ手加減されてもしょうがないわよね……」

 

 そう言って落ち込むレベッカにホプキンス教授は今こそあの時の真実を話す時だと口を開く。

 

「違うんだよレベッカ。遊戯君がサレンダーしたのは――あのとき双六が私の命を救おうとしたことと同じなんだ」

 

 過去に遺跡の中に閉じ込められた時、衰弱していたホプキンス教授を救うためにその状態に気付いた双六がすぐさま降参し残った水の全てを与えた優しさを思い出しながら語るホプキンス教授。

 

 そんな真っ直ぐな感情に双六は恥ずかしそうに鼻をかく。

 

「《シャドウ・グール》のパワーを最大限発揮するための戦術は確かに私が教えたものだが、ただそこには失われたモノへの敬意がなければならん」

 

 レベッカに諭すように話すホプキンス教授。

 

「デュエルも死者の墓である遺跡を調べる考古学者でも同じこと、デュエリストは『敬意』を忘れてはいかんのだ」

 

 そんな言葉に小さく委縮するレベッカ。

 

「だから私は感謝の気持ちを込めて、いちばん大切にしていたブルーアイズを双六に譲ったんだよ」

 

 ホプキンス教授はそう締めくくった。

 

 双六とホプキンス教授の事情をようやく知ったレベッカだが、その事情ゆえに許せないこともある。

 

「でもそんな大切なカードを双六は……」

 

「すまんアーサー、実は――」

 

 そんな大切なカードのアンティに応じてしまったのだから。

 

 だがホプキンス教授は首を振りつつ双六を労わるように続ける。

 

「良いんだ。キミはそのカードのことをずっと心に留めていてくれた――たとえカードが失われても私たちの友情まで失われることはないのだから」

 

 ペガサス島でのデュエルの放送を見ていたホプキンス教授には海馬瀬人が使う《青眼の白龍》の1枚がかつて自身が双六に託したものだと一目で見抜いている。

 

 だがその《青眼の白龍》の力強く舞う姿に双六にも何かわけがあったことを理解していた。

 

 そしてホプキンス教授にとってなによりも――

 

「それにその海馬君もブルーアイズのカードを大切にしてくれているようだ。なら問題ないさ……」

 

――ブルーアイズが大切にされており、さらに双六がずっとそのカードのことを想っていたことが嬉しかった。

 

 

 

 ホプキンス教授の言葉に思わず涙ぐむ双六。

 

 そしてホプキンス教授はレベッカの肩に手を置き噛み締めるように語る。

 

「いいかいレベッカ。カードはハートなんだ……そして真に素晴らしいデュエルは友情を生むものなんだ」

 

 そしてレベッカのデッキにそっと手を置き続ける。

 

「そして苦しくなったときはカードに手を置くといい。そのカードたちはお前をずっと見守ってくれていたんだよ? 苦しい時こそその絆を思い出すんだ」

 

 そう締めくくったホプキンス教授の言葉にレベッカは顔を上げ――

 

「本当にごめんなさい! 双六、遊戯!」

 

 勢いよく頭を下げるレベッカ。

 

「いいんだ、レベッカ。誤解が解けたのならボクはそれで」

 

 これで仲直りだと照れながら許す遊戯。

 

「ワシも構わんぞい。そもそも今回の一件はアーサーがキチンと事情を話しておらんかったのが始まりじゃしな、のうアーサー?」

 

「おっと、言ってくれるじゃないか双六」

 

 互いを軽く小突きあうホプキンス教授と双六。

 

 双六なりの励ましだった――そこにわだかまりなどない。

 

「サ、サンキュー双六、遊戯」

 

 目じりに涙を浮かべたレベッカ――今度は嬉し泣きだった。

 

「レベッカ、これを」

 

 そんなレベッカを見かねた遊戯が1枚のカードを差し出す。

 

「これって……」

 

 レベッカがカードを手に取り確認するとそのカードは先程のデュエルに出ててきた《カオス・ソルジャー》に似たカード。その鎧は中央で白と黒に分けられている。

 

「うん、受け取って欲しいんだ」

 

 遊戯はそのカードを友情の証としてレベッカに託す――いつかレベッカの助けになってくれるであろうと信じて。

 

「……遊戯! ありがとう!」

 

 そのカードを受け取り握手を交わしたレベッカの視界にふと何かが映る。それは――

 

 

 遊戯の隣で「ウンウン」と涙ながらに握り合った手を見る《エルフの剣士》。

 

 遊戯の頭に乗ってニコニコと笑いながら事の成り行きを見守る《サクリボー》。

 

 遊戯の後ろにそっと寄り添う《ブラック・マジシャン》と先程のデュエルで見られたカードたち。

 

 

 思わず自身の目を疑い、腕で目をこすったレベッカがもう一度遊戯を見やる。だがそのカードたちの姿はなかった。

 

 思わず幻覚だったのかと思うレベッカ。だがそれこそが「カードの心」なのかもしれないとレベッカは自身のデッキに手を置きそっと謝罪と感謝の言葉をつぶやいた。

 

 

 

 そんな新たな友情の芽生えを見守る老人2人。

 

 そしてふと昔の血が騒ぐ。

 

「双六、久しぶりにデュエルといきませんか?」

 

 突如ホプキンス教授は双六にデュエルを挑む――だが視線は最新型のデュエルディスクに注がれている。

 

「うむ! 今度はサレンダーせんぞ!」

 

 快く応じる双六――双六も同じく最新型のデュエルディスクに熱い視線を送っていた。

 

「いや、これ以上無理ですからね」

 

 だが牛尾のその言葉と共におもちゃを取り上げられたような子供の目をした老人2人の目線が牛尾に突き刺さった。

 

 しかし牛尾にもこればかりはどうしようもない。なによりギースの視線が痛い。

 

 一室にみんなの楽しそうな笑い声が広まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして念のために口止めをギースからされた後で解散した一同。

 

 その一同を見送った牛尾はギースに尋ねる。

 

「ギースの旦那。今回の一件、俺にどの程度のペナルティが降るんですかい?」

 

 開発中となっている新型のデュエルディスクを自身の権限で外の人間に公開してしまった牛尾。

 

 最悪の場合の「損失」は牛尾一人でどうこうなるものではない。

 

 だが牛尾は「遊戯のため」を想っての行動ゆえに覚悟はできていた。

 

「さぁな、特にこれといって聞き及んではいない」

 

「何でです? 旦那の来たタイミングから考えて俺の、いや俺らの動きは完全に筒抜けだったんでしょう? まさかこれもあの人の書いたシナリオなんですかい?」

 

 ギースから告げられた「御咎めなし」とも受け取れるような言葉に牛尾は迷わず追及する――ただ許されている方が牛尾には末恐ろしかった。

 

「なんのことだ」

 

「とぼけねぇでくだせい。ホプキンス教授と俺らを探す時間やら何やら考えたら、寄り道せずに直通しなきゃ――とてもじゃねぇがあのタイミングで間に合わねぇでしょうに」

 

 惚けるギースになおも追及する牛尾。そして再度問いただす。

 

「もう一度聞きやす。どこまでですかい?」

 

 しばしの沈黙の後、ギースはゆっくりと言葉を出す。

 

「私はホプキンス教授をお孫さんの元まで連れて行くように命じられただけだ」

 

「つまり迎えに?」

 

「ああ、そうだ。デュエルを挑むと聞いていたのでな、探す場所は自ずと絞られる。そして『情報』による彼女の精神状態から『またの機会』はありえない。なら考えられるのは――」

 

「俺って訳ですかい。俺に許可がおりたのも、いやそれに『情報』って」

 

 ギースの言葉から自身の行動パターンは見切られていると牛尾は考えつつ、気になる単語に関心はシフトする。

 

「ああ、現段階で情報が漏れたとしても もはや大した問題にはならない。最終調整は既に終わっている。せいぜい宣伝の時期が早まる程度だ」

 

 一息に言い終えたギースは考え込む素振りを見せた後、躊躇いがちに話しだす。

 

「ここからは独り言だ。ホプキンス教授は前々からマークされている。あくまで私の私見だが――彼の研究していた学説に興味をもたれているようだ」

 

 ギースは「誰が」とは明言しない。

 

 牛尾も「誰が」などとは言われずとも思い知らされている。

 

「今回の一件はその教授に近づくための口実作りなのかもしれない。だがあくまで『そうかもしれない』程度だ――私にはあの方が何を考えているのか分からん」

 

 ギースはそう締めくくるように独り言を言い終えた。

 

「クッ!」

 

「どこへ行く気だ、牛尾」

 

 そのギースの横を素通りして駆けだす牛尾。その背に確認を取るかのように問いかけるギース。

 

「……俺もさすがに此処まで虚仮にされて黙ってる訳にはいきませんよ」

 

 牛尾は自身が利用される分は許容できた。過去にバカをやった自分に返るモノが返ってきただけなのだと、だが遊戯たちにその手が伸びるのは許容できない。

 

 

 だがそんな牛尾にギースは諭すように言葉を掛ける。

 

「やめておけ、その選択は誰も『幸福』にはならない」

 

「ハァ? 『幸福』?」

 

 牛尾からすれば今、何故その単語が出てくるのかが解らない。だがギースは言葉を続ける。

 

「ああ、『幸福』だ。今回の一件で悩める少女は救われた。それでいいじゃないか」

 

「なに……言ってるんです、か……」

 

 まるで下手な宗教の勧誘文句だ。だが牛尾にはそれが酷く恐ろしいモノに聞こえる。

 

 困惑する牛尾にさらに追い打ちをかける「誰か」の口調を真似るギースの言葉が告げられる。

 

「『ああ、武藤君。牛尾君は情報漏洩の件で少し危険な状態でね。せめてどこから漏れたのかが分かれば手の打ちようもあるのだけれど』」

 

「なんすか、それ……」

 

 牛尾にはギースが何を言っているのかが理解できない。否、理解したくない。

 

「今回の牛尾、お前が『彼らのために行動した事実』を使って出来ることだ」

 

 だが現実を突きつけるようにギースの言葉が届く。

 

「ちょっと止して下さいよ! 遊戯たちに関係は――」

 

「彼らはそう考えるのか?」

 

 たとえ自分たちに落ち度が無くても遊戯たちはそんな風には考えない。

 

 遊戯たちは「自分たちのせいで」から「牛尾君を助けてあげなきゃ」と考える。

 

 

 遊戯たちを想っての牛尾の行動が遊戯たちを窮地に追い込んでいる。

 

 その結果に思わず頭が真っ白になる牛尾。

 

 ギースは牛尾に忠告する。既に牛尾とギースはそれなりのつきあい(友人関係)だ。ゆえに忠告する。

 

「これはお前があの方に与えられたその牙を向けたときに訪れるかもしれない未来の一つだ――お前も今の『幸福』を失いたくないだろう?」

 

 ギースとて友が破滅へと向かうのを黙って見てなどいられない。

 

「抗うなとは言わない。だが最後の一線だけは絶対に越えるな――それが今の私に言える唯一のアドバイスだ」

 

 そのギースの言葉に牛尾は力なくその場にへたり込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある研究機関の一室、椅子に拘束された男にツバインシュタイン博士が声をかける。

 

「『質問』です。グールズのトップは誰ですか?」

 

 青い炎のような身体を持った悪魔が拘束された男の背後に立つ。

 

 だがその男は力なく椅子に座るだけで何も答えない。

 

「『質問』です。グールズの構成員の数は?」

 

 悪魔の赤い目が細められ、その口が歪められる。

 

 だがやはり男は何も答えない。

 

「『質問』です。貴方の名前は?」

 

 青い悪魔の両の手の指先から伸びる糸に操られた小さな継ぎ接ぎの人形が椅子に拘束された男の肩に乗る。

 

 だが男は何の反応も示さなかった。

 

 人造闇のアイテム、精霊の鍵によって構成された《地獄の傀儡魔人》は困ったようにツバインシュタイン博士の方を見る。

 

 椅子に拘束された男の瞳は何も映していない。

 

 

 その姿にツバインシュタイン博士は困ったように髭をさすった。

 

「ふむ、これでもダメでしたか……彼は『グールズ』の構成員であることに間違いはないのですか?」

 

「ええ、ギースの『現行犯で捕えた』との報告を受けているので間違いはない筈です」

 

 今現在椅子に拘束された男はギースによって捕えられたグールズの構成員の一人。

 

 警察組織に引き渡されていたが一般的な施術ではその男のマインドコントロールを解くことができず大した情報が得られなかった。

 

 ゆえにそういったことを得意とするココ(オカルト部門)にお鉢が回ってきたのである。

 

「う~む、しかし精霊の鍵による対価としても情報が得られないとは……」

 

 若干強引にゲームに参加させ、対価を徴収したのだが反応はなし。

 

 精霊の鍵での対価ではたとえ『質問』された本人が質問内容を記憶の底に忘却していたとしても、聞き出すことが可能なことは今までの研究で確定している。

 

 ゆえにグールズの末端の構成員から情報がえられない事実にツバインシュタイン博士は思考を巡らせる。

 

「原因は分かりますか?」

 

 その神崎の言葉にツバインシュタイン博士は確認するように問いかける。

 

「――グールズの構成員は強力なマインドコントロールを受けているのですよね?」

 

「ええ、千年アイテムを所持している可能性があるとの報告があります。恐らくはその力でしょう」

 

 

 すでにその千年アイテムの形状が判明したとの報告ゆえにグールズの総帥マリクが「原作」通りに千年アイテムの一つである「千年ロッド」を所持していることは確定的であった。

 

 勿論マリクの姉、イシズが千年アイテムの「千年タウク」を所持していることも確認済みである。

 

 

「――となると、あくまで仮説になりますが、恐らくその『千年アイテム』の強力な力で『自我』を完全に封じているのかと……思われます」

 

「『自我』ですか」

 

 千年ロッドの「洗脳」の力を独自の視点での解明を図るツバインシュタイン博士の言葉に興味ありげに聞きに徹する神崎。

 

 「原作」にて城之内が洗脳されていた状態を知るゆえに理解は早い。

 

 そして引き続きツバインシュタイン博士は自論を展開する。

 

「人としての『自我』が無いゆえに、人としての『記憶』もされないため――文字通り『何も知らない』状態なのかと考察します」

 

 

 つまり「末端」の人間は与えられた「命令」をこなすだけの存在であり、自身が何をしているのか理解しているかどうかも怪しい状態であるという仮説。

 

 まさに「人形」といって差し支えない状態である――そしてその「自我の拘束」は今もなお続いている。

 

「たしか『グールズ』でしたかな? その組織では末端の人間に『意思』を求めていないのでしょう。さすがに『組織』である以上管理する人間が必要でしょうから、狙うならそこかと」

 

 そう締めくくったツバインシュタイン博士に神崎は面倒なことになったと内心で頭を捻る。

 

 つまり大半のグールズは「人形」と変わらない状態であり、原作にて杏子にコンテナを落とそうとしていた構成員のような「自我」が残されているものでなければ情報を引き出すのは厳しい現状。

 

「『自我』をある程度残された構成員ですか……」

 

 考えを纏めるように言葉を呟く――その点が問題だった。

 

 

 自我が残された構成員

 

 分かりやすいのはパンドラなどを代表する「名持ち」であるが、彼らは一部を除き遊戯をあと一歩まで追い詰める程の高い実力を持っている。

 

 狙うには少々リスクが高かった――所属デュエリストがマリクに「洗脳」されようものなら面倒なことになるのは明白である。

 

 

 だが「名持ち」以外の構成員はみな同じ格好をしており、明確に区別する方法がないのも問題だった。

 

 

 各国で暴れまわっている「グールズ」の中から「自我持ち」を捕縛する方法。

 

 しばらく考えた神崎が出した結論は――

 

 

 

――バトルシティの大会で一網打尽にしよう!

 

 かなり脳筋な手段であった。

 

 だが何の考えもないわけではない。

 

 童美野町という狭い範囲でグールズを留めて置けるバトルシティでなら、問題が起きればカバーもしやすい。

 

 仮にKC所属のデュエリストが敗北したとしても他のデュエリストが敗者の洗脳がなされる前に状況次第では撤退を選ぶこともできる。

 

 さらにKC所属のデュエリストでは倒せない相手が現れたとしても大会参加者の遊戯をその場所へと誘導することも可能だ。

 

 

――理想は各個撃破。だが頭数が心配か。

 

 

「……同程度とまではいかずとも、それなりの『数』を集める必要がありますね」

 

 そう結論づけた神崎にそれは難しいのではとツバインシュタイン博士が疑問を挟む。

 

「しかし『グールズ』はかなり巨大な組織なのでしょう? いくらKCが抱えるデュエリストの数が他より多いとはいえ、『グールズ』の末端を含めた構成員をどうこうできる数は厳しいのでは?」

 

 ツバインシュタイン博士の言うとおり「グールズ」の構成員の数はかなりのものである。

 

 千年ロッドの洗脳の力により手当たり次第に数を増やすことができるのだから。

 

「ええ、そうですね。『KC』だけではさすがに無理があるでしょう――『KC』だけなら」

 

「と言うと?」

 

 手段はあると言いたげな神崎にツバインシュタイン博士は質問を返す。

 

 研究室に篭り切りなツバインシュタイン博士は詳しく知らない話だが「グールズ」は「世界的」に暴れまわる「犯罪組織」である。

 

 被害に遭った人間の数は限りない。つまり――

 

 

「彼らは『敵』を作りすぎた。ただそれだけの話ですよ」

 

 そう話す神崎の姿にツバインシュタイン博士は薄ら寒いものを感じた。

 

 

 





良い(デュエリスト)のみんな~?

バトルシティ編では
ハンティングゲームがはっじまっるよー☆



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