キースVSペガサス 後編です
前回のあらすじ
トゥーン・デーモン「ん? トゥーン・ワールドは?」
トゥーン・キングダム「ヤツは置いてきた。ハッキリ言ってこの戦いにはついてこれそうもない」
トゥーン・ワールド「!?」
お互いに戦闘ダメージが上手く通らない。
戦闘を主な戦術とするキースはどうにかして《トゥーン・キングダム》を突破する必要がある。
だがペガサスの「トゥーン」たちにそんな縛りなどなかった。
「ワタシのターン、ワタシの今の手札が0枚なので永続罠《破滅へのクイックドロー》の効果が適用されドローカードは2枚デース! さらに《強欲なカケラ》に2つめのカウンターが乗りマース!」
強欲カウンター:1 → 2
実質、毎ターン2枚のドロー。
手札の数が可能性の数と言われるデュエルにおいてかなりの脅威である。
「そしてスタンバイフェイズ時に《タイムカプセル》のカウンターが進みマース!」
《タイムカプセル》:1ターン目のスタンバイフェイズ
「早速《強欲なカケラ》を墓地に送り2枚ドローデース!」
増えた手札の1枚を取り出し指揮者のように《トゥーン・ブラック・マジシャン》を差す。
「ワタシは《トゥーン・ブラック・マジシャン》のもう一つの効果を発動! 手札の『トゥーン』カード《トゥーン・マーメイド》を捨て、デッキから『トゥーン』カードを手札に加えマース!」
《トゥーン・ブラック・マジシャン》が《トゥーン・キングダム》に杖をかざす。
すると本の新たなページがめくられ、不気味なほどに薄暗い廃墟のページが開かれ、黒いゴーストがペガサスの手札にするりと加わる。
「ワタシが手札に加えるのは《シャドー・トゥーン》! そして発動!」
黒いゴーストの不気味な笑い声が木霊する。
「ワタシのフィールドに『トゥーン・ワールド』が存在する時! 相手モンスター1体の攻撃力分のダメージを相手に与えマース! 《スピリットバリア》で防げるのは戦闘ダメージのみ! 効果ダメージは防げマセーン! GO!」
ペガサスの号令と共に黒いゴーストはケタケタと笑いながら《可変機獣 ガンナードラゴン》をすり抜け、その攻撃力2800分のダメージをキースに与える。
「ぐぉおおおお!!」
キースLP:4000 → 1200
「これでもう一度《シャドー・トゥーン》を使えばフィニッシュですが、このカードは1ターンに1枚しか発動できないのデース……ですが攻めの手を休めるつもりはありマセーン! 装備魔法《コミックハンド》を《リボルバー・ドラゴン》を対象に発動デース!」
《トゥーン・キングダム》から伸縮アームが伸び、先端に取り付けられた白い手袋のような手が《リボルバー・ドラゴン》を捉え、その手の中に覆い隠す。
「クッ、今度は何だ……」
「このカードはワタシのフィールドに《トゥーン・ワールド》が存在するとき発動可能デース。その効果により装備モンスターのコントロールをGETしマース!」
ペガサスの《トゥーン・キングダム》は《トゥーン・ワールド》として扱うカードであり、条件は満たしている。
伸縮アームが縮み、白い手に包まれた《リボルバー・ドラゴン》がペガサスのフィールドに回収された。
「なんだと!」
その強力な効果に驚くキース。だがペガサスはそれだけではないと続ける。
「さらにそのコントロールを得たモンスターを『トゥーン』モンスターとして扱いマース!」
白い手が開かれると《リボルバー・ドラゴン》はデフォルメされていた――その姿は前のターンにリリースした《トゥーン・リボルバー・ドラゴン》そのもの。
「そして《リボルバー・ドラゴン》の効果を発動させてもらいマース! ロシアン・ルーレット!」
抵抗する《リボルバー・ドラゴン》を《コミックハンド》の白い手は銃部分を押さえ、引き金を引かせ、銃弾が放たれる。
「Wow! 当たりデース! 《可変機獣 ガンナードラゴン》を撃破デース!」
味方の弾丸に沈む《可変機獣 ガンナードラゴン》――その姿はどこか悔しげだ。
「モンスターが破壊されたことで《補給部隊》の効果で1枚ドローだ。クッ、待ってな《リボルバー・ドラゴン》……」
キースは己の奪われた相棒に誓いを立てる。
だがペガサスの攻めの手は止まらない。
「さらに魔法カード《トゥーン・ロールバック》を《ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン》に発動! これで《ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン》は2回攻撃できマース!」
《トゥーン・キングダム》からカメラが現れ《ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン》がそれに向けポージングを取っている――周りのトゥーンたちもカメラに映ろうと奮闘していた。
「さぁバトルデース! 《ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン》で《可変機獣 ガンナードラゴン》を攻撃しますが、《ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン》は攻撃するのに500のライフコストを必要としマース」
ペガサスLP:4350 → 3850
「行きなサーイ《ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン》 滅びのトゥーンバースト!!」
《ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン》の頭が尻尾に当たるほど胸を反らし、仲間の無念を晴らすべくキャタピラを唸らせる《可変機獣 ガンナードラゴン》をブレスで焼き払う。
《可変機獣 ガンナードラゴン》の歩みは止まらない――だが《ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン》の目前で倒れ伏した。
《ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン》はその覇気にプルプルと震える。
「だがモンスターが破壊されたことで《機甲部隊の最前線》の効果を発動! 《機動要犀トリケライナー》を守備表示で特殊召喚だ!」
《可変機獣 ガンナードラゴン》の残骸からキースを守るように地響きと共に立ち塞がる《機動要犀トリケライナー》。
その瞳には覚悟が籠っていた。
《機動要犀トリケライナー》
星6 闇属性 機械族
攻1600 守2800
守備力2800、ペガサスのフィールドではすでに攻撃を終えた《ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン》でしか突破できない壁。だが――
「ですが《ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン》は《トゥーン・ロールバック》の効果で2回目の攻撃を行えマース! ライフコストを再び払い《機動要犀トリケライナー》を攻撃!!」
ペガサスLP3850 → 3350
《機動要犀トリケライナー》に向かって片手を上げて突き進む《ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン》。
その拳は強固な装甲を打ち破り、《機動要犀トリケライナー》を沈黙させる。
《機甲部隊の最前線》による増援はこのターンもう望めない。
「そして《トゥーン・ヂェミナイ・エルフ》で《ツインバレル・ドラゴン》を攻撃!」
《トゥーン・ヂェミナイ・エルフ》の姉妹が《ツインバレル・ドラゴン》の前後に陣取り、息を合わせたラリアットを首筋に叩きこむ。
轟音と共に変形した《ツインバレル・ドラゴン》の首はあらぬ方へと向き、そのままフラフラと倒れ伏した。
「これでアナタのフィールドはがら空きデース! 《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》でダイレクトアタックでゲームエンドといきマース!! 黒・炎・弾!!」
残りライフ1200のキースに対し攻撃力2400の《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》の球体のブレスが迫る。
だがキースはフィールドのカードに手をかざし力強く宣言する――まだ終わるわけにはいかない。
「ここまで来てそう簡単に終われるかよっ! テメェの攻撃宣言時、罠カード《ピンポイント・ガード》を発動!」
球体のブレスと巨大な岩の握りこぶしが衝突し炎を散らす。
「コイツの効果で墓地の《ツインバレル・ドラゴン》を蘇生! そして特殊召喚時、効果を発動! 狙うのは《コミック・ハンド》だ!」
巨大な岩の握りこぶしの影から飛び出した《ツインバレル・ドラゴン》が仲間の拘束を解こうと引き金を引く。
《ツインバレル・ドラゴン》
星4 闇属性 機械族
攻1700 守 200
だが気の抜けた「ポスッ」という音が響くだけで弾は出ない――ハズレだ。
「チッ! やっぱり持ってやがるな……」
キースはペガサスの勝負強さに舌を巻く――カードに愛されているが故だ。
「新たにモンスターを呼ぼうとも《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》の攻撃は止まりマセーン! 《ツインバレル・ドラゴン》を攻撃しなサーイ!」
球体のブレス、黒炎弾は巨大な岩のこぶしに弾かれたが、《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》は空中で一回転し、その勢いのままで《ツインバレル・ドラゴン》を尻尾ではたく。
だがその尻尾は巨大な岩のこぶしに受け止められていた。
「無駄だ! 《ピンポイント・ガード》で呼んだモンスターはこのターンのみ破壊されねぇ!」
《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》が必死に尻尾をパタパタと振ると巨大な岩のこぶしはその手を離す。
そして急に手を離された《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》はそのまま宙を舞い、仲間のトゥーンたちを下敷きにしながら着地した。
トゥーンたちの怒りの抗議に《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》はタジタジである。
「堅い守りデスネ――ならば《リボルバー・ドラゴン》と《トゥーン・ヂェミナイ・エルフ》をリリースしアドバンス召喚! 今こそ目覚めるのデース!
《リボルバー・ドラゴン》と《トゥーン・ヂェミナイ・エルフ》が《トゥーン・キングダム》に吸い込まれ、本が生き物のように蠢く。
そして新たに開かれたページは歯車がひしめき合い周囲を壁に囲まれた古代の街並み。
その壁に手を掛け「ヌッ」と《トゥーン・アンティーク・ギアゴーレム》が蒸気を吹かせながら顔を覗かせる。
《トゥーン・アンティーク・ギアゴーレム》
星8 地属性 機械族
攻3000 守3000
「ワタシはこれでターンエンドデース。エンド時に《破滅へのクイックドロー》の維持コストを支払いマース」
ペガサスLP:3350 → 2650
なんとかペガサスの攻撃を防ぎ切ったキースだが旗色はすこぶる悪かった。
攻撃の的にしていた比較的攻撃力の低い《トゥーン・ヂェミナイ・エルフ》は引っ込み、新たな3000打点のトゥーンが並び立っている。
それらを突破しペガサスから勝利をもぎ取るためには《トゥーン・キングダム》の攻略が不可欠だ。
そしてその攻略は水面下で進められている――あと少し、キースのデッキにかける手の力が強まる。
「まだまだ終わらねぇぜ! 俺様のターン、ドロー! 魔法カード《オーバーロード・フュージョン》を発動! 墓地の《リボルバー・ドラゴン》と《ブローバック・ドラゴン》を除外し融合召喚! 幻想を薙ぎ払え! 《ガトリング・ドラゴン》!!」
主に銃を向けてしまった《リボルバー・ドラゴン》の無念を包み、より強靱な姿となってフィールドに現れる機械龍。
猛る想いが3つの首から咆哮となって響く。
《ガトリング・ドラゴン》
星8 闇属性 機械族
攻2600 守1200
「切り札を切ってきたようデスネ――ですがカードが除外されたことで《魂吸収》の効果でライフを回復しマース!」
ペガサスLP:2650 → 3650
《魂吸収》の効果はキースがカードを除外したときであっても適用される――むやみな除外はペガサスのライフを回復させるだけだ。
「好きなだけ回復してな! だが《ガトリング・ドラゴン》の効果は対象を取る効果じゃねぇ――《トゥーン・キングダム》でも防げねぇぜ! コイントス!」
キースの言うとおり《ガトリング・ドラゴン》の効果は3枚のコインの表の数だけモンスターを破壊する効果――特定のモンスターを狙ったものではない。
そしてペガサスのフィールドに的は溢れていた。
コイントスの結果として《ガトリング・ドラゴン》の1つの頭の安全装置が解除される。
「チッ、コインの表は1枚! よって1体のモンスターを破壊する! 《トゥーン・アンティーク・ギアゴーレム》を破壊だ!」
《トゥーン・アンティーク・ギアゴーレム》をハチの巣にせんと銃弾が迫るが当然――
ペガサスは代わりにデッキの上から1枚除外し、《魂吸収》によりライフを回復する。
すると特に狙われていないトゥーンたちも合わせて1列に並び、正面を向いて立つ。
するとその場で1体ずつ順番に右回りに大きく円を描くように上半身を動かし攻撃をかわした。
そして最後は両腕を重ならないように広げキメポーズをとる――満足気である。
「ですが《トゥーン・キングダム》の効果で代わりに除外して《魂吸収》の効果でライフを回復しマース!」
ペガサスLP:3650 → 4150
「複数体、同時に破壊しようとしたようですが、どのみち《トゥーン・キングダム》の前では無駄なことデース!」
「なら《死者蘇生》で墓地のモンスターを蘇生させる! もう一仕事してもらうぜ! 《可変機獣 ガンナードラゴン》!」
大地を割りながら《可変機獣 ガンナードラゴン》が姿を現し、装甲に付いた土を身体をブンブンと振って飛ばす。
飛んできた土にトゥーンたちは「ワー!キャー!」と騒いでいる。
《可変機獣 ガンナードラゴン》
星7 闇属性 機械族
攻2800 守2000
「バトルだ! 《ガトリング・ドラゴン》で《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》を攻撃!」
命中した弾丸は鱗の前に弾き飛ばされたがその衝撃により《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》は目を回している。
弾き飛ばされた弾丸はペガサスの足元に落ち爆発――ペガサスはその煙に咳き込む。
ペガサスLP:4150 → 3950
「No! ですが《トゥーン・キングダム》の効果で代わりに除外して《魂吸収》の効果でライフを回復しマース! その程度のダメージは逆効果デース!」
ペガサスLP:3950 → 4450
「なら次だ! 《可変機獣 ガンナードラゴン》で《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》を攻撃!」
《可変機獣 ガンナードラゴン》の突進に《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》は「また俺かよ!」と言いたげな顔で頭突きで返すが、金属の塊を相手にすればどうなるかは再び目を回している姿を見れば分かる。
ペガサスLP:4450 → 4050
「無駄デース! 《トゥーン・キングダム》の効果で代わりに除外して《魂吸収》の効果でライフを回復しマース! 何度繰り返そうとも同じことデース!」
ペガサスLP:4050 → 4550
自棄になったとしか思えないキースの攻撃――その程度のダメージでは相手のライフを回復させる手伝いをするだけになる。
「俺様はカードを1枚伏せてターンエンドだ……」
だがペガサスにはキースの仕掛けた策が手に取るように分かる――カードの創造主であるが故に。
「ワタシのターン、ワタシの今の手札が0枚なので永続罠《破滅へのクイックドロー》の効果が適用されドローカードは2枚デース!」
ペガサスのフィールドの《タイムカプセル》がゴゴゴと蠢く。
「そしてこのスタンバイフェイズに《タイムカプセル》は破壊され、その効果で裏側で除外したカードを手札に加えマース!」
ペガサスは《タイムカプセル》で手札に加えたカードに目を落としながら静かに語る。
「キース、アナタの攻撃によってワタシのデッキは残り後1枚。このターンのワタシの攻撃を防げば、次のターンワタシのデッキは尽きる――これがアナタの策デスネ……」
一見やみくもに攻撃していたように見えたキースの攻撃はペガサスの
キースがトゥーンモンスターを突破できないと考え、デッキ切れによる勝利へと戦術を変えたことなどペガサスはとうに見抜いている。
さらにキースの度重なる連続攻撃によりデッキは削れ、バーンダメージを与える《シャドウ・トゥーン》は品切れ。だが、この程度の展開は創造主たるペガサスを揺るがすには至らない。
「アナタの狙いなどワタシにはお見通しデース! そして今! その最後の策を破りマース! 《ネクロフェイス》を召喚!」
人形の頭がゴロリと転がり。そこから肉腫とでも言うべき塊が人形の顔を砕きその部分に収まる。
その姿は今までの『トゥーン』のファンシーな見た目から一線を画す不気味なモンスターだ。
《ネクロフェイス》
星4 闇属性 アンデット族
攻1200 守1800
「召喚された《ネクロフェイス》の効果によりゲームから除外されているカード全てをデッキに戻し、その数だけ攻撃力を100ポイントアップさせマース!」
除外されたペガサスのカードがデッキに戻ればキースの策は崩れる――今のキースにもう一度デッキを削り切るだけの余力はない。
「ワタシのデッキ切れを狙っていたようですが、これでアナタのデッキ破壊はリセットデース!」
《ネクロフェイス》が怪しげに光る。
それはキースに敗北を届ける光。
「――
キースはこの時を待っていた。
「俺様はその効果にチェーンして永続罠《スキルドレイン》をライフを1000払って発動する!!」
キースLP:1200 → 200
「!? What! 何故そのカードを!」
《スキルドレイン》フィールドの全てのモンスターの効果を封じる永続罠。
キースのデッキはそこまでモンスター効果をメインに据えたデッキではないが代名詞である機械龍の効果は使用できなくなってしまう――若干デッキに合わないと言えるカードだ。
だがそれよりもペガサスが気になる点は――
「イエ、それよりもそのカードは2ターン目から伏せられていた筈デース! そんなカードを伏せているのなら何故もっと早くに発動しなかったのデスカ! そうすればもっと有利に――まさか!?」
《スキルドレイン》はペガサスがモンスターの効果を使う前から伏せられていた。
ゆえに《トゥーン・ブラック・マジシャン》などの効果を防いでいれば『トゥーンモンスター』が大量に展開されるのを防ぐことができ、キースはもっと有利に立ち回れたはずであった。
だが「創造主」としての知識がこのタイミングで発動させたキースの真意を理解してしまう。
「――ワタシの《ネクロフェイス》を読んでいたのデスカ……」
ペガサスはこのカードをこれまでのデュエルで一度たりとも使ったことはない。
そしてキースとの自身のデッキを使ったデュエルはこれが初――にも関わらずキースは読み切った。
キースは静かに語りだす。
「まさか俺様が手ぶらで来たと思ってたわけじゃねぇだろ? 読んでたさ――って言えればよかったんだがな……こいつは僅かに得られた情報『トゥーン』対策に入れたカードだ」
ペガサスとの再戦を誓った日からキースはいつかの再戦の時の為にあらゆる情報を集めていた。
表舞台で己のデッキでデュエルしないペガサスの情報――得られたのは「『トゥーン』カードを使う」ただそれだけだった。
そしてペガサスがコミックを好んでいることから「トゥーンモンスター」だと予測したにすぎない――その対策である《スキルドレイン》。
「強力な効果を持ったカード群だったが、このデュエル中に《トゥーン・キングダム》の効果を知って予定を変更させてもらったのさ」
デッキのカードを除外して「トゥーンモンスター」を守る《トゥーン・キングダム》の特性上、デッキ切れの可能性は常に付いて回る。
そして「除外」という回収手段が限られる中、一度にデッキに回収できるカード――その手段は限られる。
それゆえの策。
「なるほど――ですがワタシのモンスターの一斉攻撃でアナタは終わりデース!」
ペガサスの言うとおりキースのフィールドにいるのは攻撃力2800と2600のモンスターのみ、《機甲部隊の最前線》の効果を加味してもキースの残り200のライフを削れる目算が高かった。
「バトル! 《トゥーン・アンティーク・ギアゴーレム》で《ガトリング・ドラゴン》を攻撃しマース! アルティメット・パウンド!」
《トゥーン・アンティーク・ギアゴーレム》が腕をグルグル回しながら迫り、《ガトリング・ドラゴン》に鉄拳を繰り出す。
その鉄拳は《ガトリング・ドラゴン》の装甲を容易く打ち抜くが、《トゥーン・アンティーク・ギアゴーレム》は打ち抜いた腕が《ガトリング・ドラゴン》から抜けずに焦っていた。
「モンスターが破壊されたことで《補給部隊》の効果で1枚ドロー! そして《機甲部隊の最前線》の効果で《強化支援メカ・ヘビーウェポン》を守備表示で特殊召喚だ!」
もがく《トゥーン・アンティーク・ギアゴーレム》を余所に《ガトリング・ドラゴン》の残骸から《強化支援メカ・ヘビーウェポン》がスッと飛び立つ。
《強化支援メカ・ヘビーウェポン》
星3 闇属性 機械族
攻 500 守 500
攻撃力2600以下のモンスターを呼べるにも拘らず呼び出したのは攻撃力500のモンスター。
キースのデッキにモンスターが残っていない可能性もあったがペガサスはそれは違うとどこか確信している。
闇属性・機械族の攻撃力500のモンスター。
ペガサスは「創造主」としての知識から理解できてしまう――それは闇属性にのみ与えられた無慈悲なる侵蝕。
「気付いたみてぇだな……なら夢の時間は終わらせてもらうぜ! 俺様のフィールドの攻撃力1000以下の闇属性モンスター《強化支援メカ・ヘビーウェポン》をリリースし罠カード《死のデッキ破壊ウイルス》を発動!」
《強化支援メカ・ヘビーウェポン》が黒ずんでいき「死」の文字が浮かんだウイルスとなって宙に漂う。
「相手フィールドのモンスター及び相手の手札を全て確認し、その中の攻撃力1500以上のモンスターを全て破壊する! 消えな! 無敵の生命体さんよぉ!」
そのウイルスがトゥーンたちに迫りその身を同じように黒く染める。
「ワタシのフィールドのトゥーンたちは全て攻撃力1500以上……」
ペガサスの手札の攻撃力2200の《トゥーン・ドラゴン・エッガー》も《死のデッキ破壊ウイルス》の侵蝕を受ける。
「《トゥーン・キングダム》の効果は――くっ、発動できマセーン」
4体のトゥーンたちの身体は死のウイルスに浸食され苦しそうに呻き声を上げる――その姿はペガサスには痛ましいものだ。
「やっぱりな、ペガサス、テメェの《トゥーン・キングダム》は複数体のトゥーンモンスターが同時に破壊されるとき、その破壊から守るにはその複数体分のカードを除外する必要のある効果のようだな……」
キースの《死のデッキ破壊ウイルス》から4体の『トゥーンモンスター』たちを破壊から守るためには《トゥーン・キングダム》でデッキの上からカードを4枚除外しなければならない。
だが、ペガサスのデッキは僅か1枚――これでは効果を発動できない。
「デッキを除外しすぎてしまいマシタ……ネ」
《ネクロフェイス》の存在から『トゥーンモンスター』を守るためにデッキの除外を惜しまなかった故の一瞬の隙。
その一瞬の隙を作るために払った代償は大きかったがキースは強気に笑う。
「ククッ、自分が有利だと思い込んでるヤツほど乗せやすいもんはねぇからな」
そして死のウイルスにより苦しみから倒れ伏し、縋るようにペガサスに視線を向けるトゥーンたち、だが今のペガサスに助ける手立てはない。
黒く染まったトゥーンたちの身体は砂のように崩れていった。
「Oh! No! ワタシのトゥーンたちが……」
「その後、ペガサス! テメェはデッキから攻撃力1500以上のモンスターを3体まで選んで破壊できる――がどうするよ?」
《死のデッキ破壊ウイルス》のもう一つの効果、相手のデッキ圧縮。
基本的に相手に有利に働くことが多い効果だが今のペガサスにはメリットになりえない――デッキが1枚しか残っていないのだから。
しかしキースのデッキもまた余裕があるわけではない――悠長にはしていられなかった。
「――ワタシはデッキからカードを墓地に送りマセーン」
そして今のペガサスは苦しげに最後に残った手札を伏せる。そう、まだ手は残されていた。
「カードを1枚伏せてターンエンドデース。エンド時に《破滅へのクイックドロー》の維持コストを支払いマ……ス」
ペガサスLP:4550 → 3850
ペガサスの愛すべきトゥーンたちは全て消えさった。残ったのは住人のいなくなった《トゥーン・キングダム》のみ。
だがペガサスは諦めない。愛する人の目の前で膝を突ける筈もない。
そしてペガサスには1ターンの猶予があった。
《死のデッキ破壊ウイルス》を受けたプレイヤーはそのカードの発動後、次のターンの終了時まで相手から受ける全てのダメージは0になるゆえに……
「俺様のターン、ドロー! だが次のターンまでダメージはねぇがそのモンスターは片付けさせてもらうぜ! 《可変機獣 ガンナードラゴン》で《ネクロフェイス》を攻撃!」
首を地面に叩きつけ跳躍した《可変機獣 ガンナードラゴン》が《ネクロフェイス》を踏み潰しキャタピラをギャリギャリと動かし破壊する。
「俺様はモンスターを1体セットし、カードを1枚伏せてターンエンドだ」
大きな動きもなく終了したキースのターン。この間をペガサスは逃すわけにはいかない。
ペガサスは一縷の望みを賭けてカードを発動させる。
「ワタシはまだ終わりマセーン! アナタのエンド時に罠カード《貪欲な
金品を散りばめて顔を作られた壺が舌を出しながら不気味に笑う。
「墓地の《コミックハンド》、《シャドー・トゥーン》、《トゥーン・ヂェミナイ・エルフ》、《ネクロフェイス》、《トゥーン・ロールバック》の5枚をデッキに戻し1枚ドローデース!」
5枚のカードがデッキに戻ったことでペガサスの残りデッキの枚数が6枚と若干の余裕が生まれる。
そしてここで《シャドー・トゥーン》を引くことができればキースの残りライフを削り切ることができる。確率6分の1――いや、通常ドローを合わせれば3分の1のギャンブル。
そうして罠カード《貪欲な瓶》の効果で1枚のドローがなされるも、望んだカード《シャドー・トゥーン》ではない。
残るドローのチャンスは恐らく最後となるであろうペガサスのターンの通常ドローの1回のみ、その手に力がこもる。
「さすがデース。キース……ですがワタシにもデュエリストとしての意地がありマース……ワタシのラストターン! シンディア……力を貸してくだサーイ……ドローッ!」
デッキはペガサスに応えた。
「ワタシは――」
ペガサスの心に《シャドー・トゥーン》の笑い声が木霊する――それは勝利の福音となる声。
だがフィールドにプカプカと浮かぶ「闇」の文字が書かれたダニのような紫の気泡が目に入る。
ペガサスにはそれがなんなのかすぐに理解できた――できてしまった。
「待ちな! テメェのドローフェイズに俺様のフィールドの攻撃力2500以上の闇属性モンスター《可変機獣 ガンナードラゴン》をリリースし罠カード《闇のデッキ破壊ウイルス》を発動!」
そのキースの宣言と共に《可変機獣 ガンナードラゴン》が崩れ周囲が前述した気泡で溢れかえった。
「この効果により
ダニのようなウイルスがペガサスの《フィールドバリア》と《魂吸収》を破壊。
そしてペガサスの2枚の手札――《コピーキャット》と《シャドー・トゥーン》を侵蝕し破壊した。
全ての手札を失ったペガサスはもはや何もできない。
「……ターンエンドデース。エンド時に《破滅へのクイックドロー》の維持コストを支払いマース」
ペガサスLP:3850 → 3150
ライフはまだ残っているものの、キースの攻撃を止められそうにはなかった。
ペガサスは昔に思いをはせる。
――何時からだろう、「創造主」などと呼ばれ、デュエルする機会がめっきり減ったのは
――何時からだろう、ペガサスミニオンたちの成長を見守るだけで満足している自分を感じたのは
だが今はペガサスの想定を超えたキースの存在に楽しくて仕方がない――ペガサスはこんなワクワクした気持ちは久々であった。
「俺様のターン、ドロー! まずはセットモンスターを反転召喚 《スフィア・ボム 球体時限爆弾》!」
セットモンスターがクルリと反転し赤い球体に4方に爪の付いた「地雷」モンスターが慣れない攻撃姿勢を取る。
《スフィア・ボム 球体時限爆弾》
星4 闇属性 機械族
攻1400 守1400
「そして俺様は手札を1枚捨て、装備魔法《
次元が歪み、そこから常にキースを支えてきた相棒たる黒き機械龍が地響きと共に姿を現す。
《リボルバー・ドラゴン》
星7 闇属性 機械族
攻2600 守2200
「これで終わりだな……2体のモンスターでダイレクトアタック!」
《スフィア・ボム 球体時限爆弾》がペガサスに体当たりし、その後、《リボルバー・ドラゴン》の一撃がその身を貫いた。
ペガサスはその攻撃を静かに受けいれた。
ペガサスLP:3150 → 1750 → 0
ネクロフェイス
「しかし笑えますねぇ、シンディア様の一件であなたたちは
サクリファイス「俺達がいないってことはペガサス様が闇に落ちてないってことだろ?」
サウザンド・アイズ・サクリファイス「あの人が幸せならそれ以上のことはない」
ネクロフェイス「……グフッ!」