マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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前回のあらすじ
Q:大門が本気を出すと、どうなるの?

A:稼いだライフをリリーだけでなく、神に(神の〇告カウンター)寄付し(の発動ライフコストにし)始める。

――洗礼のお時間だ!!






第252話 情報収集

 

 

 KCでおっさん(大門)に敗北した早乙女レイは、両親から提案されたデュエルアカデミア初等部の編入試験――を受ける条件として、「学費の減額がなされる成績優良者枠を獲得する」ことを約束し、恋する乙女の再出立チャレンジを獲得。

 

 

 そうして、筆記試験を突破したレイはKCのおひざ元たる町の付近に建つデュエルアカデミア初等部の学内――のデュエル場へと、オールバックの眼鏡の長身の男性教員「龍牙(りゅうが)」によって案内されていた。

 

「今回の試験を取り仕切らせてもらうアカデミア初等部の教員『龍牙』だ。とはいえ、対戦相手は学園からキミと同年代の相手を用意している――そう気負うことはない」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

 やがて、その道中にて龍牙から手早く自己紹介と実技試験の内容が説明される中、正真正銘最後のチャンスゆえの緊張かレイの声は思わず上ずる。

 

 だが、目的地に辿り着いた以上、「待った」はない。そして龍牙からデュエル場にて待つ対戦相手の紹介がなされれば――

 

「彼女は、キミの対戦相手『黒田(くろだ) 月子(つきこ)』、採点準備を終える間、自己紹介を済ませるといい」

 

 レイの視界に薄黄緑の長髪を左右に丸い二重丸の飾りのついたカチューシャをつけた薄水色のゴスロリドレスの少女――『黒田(くろだ) 月子(つきこ)』こと月子の姿が映る。

 

 そして龍牙が諸々の準備の最終確認の為に場を離れたと同時に、月子は、細い腕が伸びた丸くて白いゆるキャラ擬き《ホワイトポータン》のぬいぐるみを両手で抱え、レイへ温和な笑みを向けた。

 

「『早乙女ちゃん』……でいいのかな? 今日はデュエルよろしくね」

 

「ボクのことは『レイ』で構わないよ」

 

「じゃあ『レイちゃん』って呼ぶね? わたしのことも『月子』で良いよ」

 

「なら月子ちゃんで! お互い悔いのないデュエルにしよう!」

 

――亮様のリスペクトデュエルみたいに!

 

「えへへ、うん――良いデュエルにしようね、レイちゃん」

 

 そんなこんなで、はにかむ月子の大人しめな雰囲気と自分と同年代なことも相まって心的距離が縮まり、レイの緊張もほぐれた頃――最終確認を終えた龍牙が戻り、実技試験が開始される。

 

「双方デュエル場へ――先攻、後攻は受験側の早乙女くんに決定権がある。好きな方を選びたまえ」

 

「なら、後攻でお願いします!」

 

「じゃあ、わたしが先攻」

 

「では、実技試験を開始する。勝敗は合否に直結しない為、最後まで奮闘するように」

 

 やがて《ホワイトポータン》のぬいぐるみの口からデュエルディスクとデッキを取り出した月子の様子を見届けた龍牙からの最終確認するようなお題目が唱えられた後――

 

「デュエル開始!」

 

「デュエル!」

 

「でゅぅエルゥ!!」

 

 デュエル場に立った二人の少女は生まれたばかりの友情の元、和やかな雰囲気が流れる中でデュエルが開始された。

 

 

 

 

 

 

「ひゃぁっっはぁあぁッ! わたしのタァアァン!! ドロォオオォオ!!」

 

 そんなものは幻想だった。

 

「つ、月子ちゃん!?」

 

「わたしは魔法カード《融合派兵》を発ゥ動ォ!! エクストラデッキの《ヒューマノイド・ドレイク》を公開し、デッキから記された融合素材――《ワームドレイク》を特殊召ォ喚ンッ!!」

 

 先攻の月子が先兵として繰り出したのは、黄金のリングで覆った緑の鱗の蛇。その《ワームドレイク》は口内にある目玉でレイを興味深そうに身体を揺らしながら見やる。

 

《ワームドレイク》 守備表示

星4 地属性 爬虫類族

攻1400 守1500

 

 だが、レイはそれどころではない。

 

 急に「エキサイティング!」し始めた月子の瞳をギョロリと大きく見開いたいわゆる「顔芸」がなされる豹変ぷりについていけず、レイは思わず採点を担当している龍牙へと助けを求めるように視線を向けるが――

 

「あ、あの、龍牙先生!? こ、これって!?」

 

「どうした? チェーンの確認かね?」

 

――まさかのスルー!? なら、これが月子ちゃんの普段なの!?

 

 完全に月子の豹変を「当たり前のこと」と流す龍牙の様子に、レイの混乱は増すばかりだ。

 

 とはいえ、ハンドルを握ると性格が変わる人もいる以上、デュエル時にヒャッハーする程度、大したことではない。

 

「そして、このカードは爬虫類族の『ワーム』1体でアドバンス召喚が可能ォ!! 《ワームドレイク》を食い破り、来ぉぉおぉおぉい!! ワァアァアァアムッ! キンングッッ!!」

 

 そんなレイを置き去りに、《ワームドレイク》を内側から食い破った黄色い体色をした四本腕に四本脚のケンタウロス染みた異界からの化け物が骨盤にあるもう一つの大きな口から雄たけびを轟かせた。

 

《ワーム・キング》 攻撃表示

星8 光属性 爬虫類族

攻2700 守1100

 

 

 1ターン目で早速エースモンスターを呼び出した月子を余所に、未だ混乱から立ち直れていないレイの意識をデュエルへ戻すべく、龍牙はわざとらしく今思い出したように情報を投げる。

 

「言い忘れていたが彼女は新生アカデミア初等部、その5年生の中で最強のデュエリストだ――心して挑みたまえ」

 

「くひひ、どぉーしたのー、レーイちゃぁーん――そっちのターンだよぉー」

 

 そんな中、フィールド魔法《溟界の淵源》を発動し、カードを3枚セットしてターンを終えた月子の豹変っぷり(サティスファクション)に、レイは何とか戸惑いから脱しようとするが――

 

 

 

 

 

 

「既にデュエルが開始されて!? だが、安心しろ月子! お兄ちゃんが応援に来たぞ!!」

 

 此処に来て新たなる乱入者が登場。

 

 跳ねた前髪だけが紫の白髪で左目を隠し、黒を基調とした服装を纏う少年が、青いマフラーをたなびかせ、デュエル場の客席に右足を乗せて決めポーズ取っていた。

 

 

 

 

――こ、今度は誰!?

 

「黒田くん、授業はどうしたんだね」

 

「あんなもの――深淵を覗きし我が左目の呪眼の前では児戯に等しい」

 

 やがてレイの内心の声を余所に放たれた、眼鏡の位置を直しつつ龍牙が問いかければ、少年は黒のレザーバングルを巻いた腕を組みつつ黒い革手袋の手で左目を押さえるポーズを取って返す。

 

 

 この少年の名は「黒田 夜魅(やみ)」、月子の1歳上の兄であり、ダーク黒田を自称する見ての通りの重度の厨二病患者だ。

 

 

 だが、そんな問題児の奇行も慣れた様子で龍牙は黒田の首根っこを掴み、教師としての職務を全うするべく動く。

 

「つまり『サボった』と。教室に戻りたまえ」

 

「はなせ!! オレはお兄ちゃんだぞ!!」

 

「レ~イちゃ~ん、はーやーくー」

 

 かくして、状況は混沌(カオス)へと加速し続ける。

 

 現在進行形でヒャッハーしている対戦相手、

 

 そのヒャッハーの兄が、妹の応援は譲れないと客席の一つにしがみ付く光景と、

 

 それを摘まみだそうとする教師。

 

 

 レイが苛まれる混乱は、まさに終着点(ゴール)の見えぬ迷宮(ラビリンス)に迷い込んだかの如く。

 

――こ、これも亮様に会う為のし、試練! 恋する乙女にふ、不可能なんてないんだから!

 

「ボ、ボクのターン、ドロー!」

 

 しかし、そんなデュエルアカデミア初等部のサティスファクションな面々を前に――今、恋する乙女の挑戦が始まる。

 

 

 不可能など飛び越えて行け。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――それが黒蠍盗掘団!!」

 

 此処で時と場所こと舞台は変わり、精霊世界の暗黒界にある暗黒海にて、釣竿を垂らす影が2つ。

 

「……急にどうなされたんですか?」

 

「いや、なに……言っておかねばならない気がしてな」

 

 その影の1つたるローブで全身を覆った《異次元の案内人》に扮した神崎から向けられる怪訝な視線に、急に名乗りを上げた黒蠍盗掘団のリーダー「ザルーグ」は満足気に顎をさするも、直ぐに話題を戻した。

 

「其方の言う通り『セブンスターズ』のことは存じている――だが、なにぶん私は潜入していた期間の方が長くてな。つまり他のメンバーとの面識がない!」

 

 そう、今回の神崎の目的は「セブンスターズの情報収集」である。いまいち影丸の行動を信用できないゆえ、情報を求めてのことだったが――

 

「7人の内の誰の顔もですか?」

 

「ああ、その通りだ!」

 

――影丸とアムナエルも「計画実行までは各々潜伏」との方針から「居場所は知らない」との話だった。(バー)の様子を見ても嘘がない以上、信頼できる情報になるが……

 

 自信満々に「知らない」と胸を張るザルーグの姿を見れば、神崎に出来るのは現時点での情報から予想が精々である。

 

 恐らく、七星門の鍵をかけた勝負がスタートした段階で各々の意思で集まるシステムなのだろう、と。

 

「とはいえ、私も含め7人もいて話題にも出ないと思えば……実の所そんなに集まっていなかったのかもしれないな!」

 

「それは流石に楽観が過ぎるかと」

 

 しかし、ザルーグの方は「セブンスターズ、7人いない説」を唱えるなど、深刻さとは無縁の様子。

 

 だが、それに対し神崎は口でたしなめつつも、否定できない現実に頭を押さえて思案にふける。

 

 

――とはいえ、ダークネス吹雪と、タイタンは除外されて……そこから黒蠍の面々とアムナエルを抜けば、残りはカミューラ、タニヤ、アビドス三世の3人か。

 

 なにせ、現時点で原作の半数以上の面々が脱落しているのだ。ザルーグの仮説も「ありえない」とは少々言い切れないところ。

 

――原作にいないメンバーの可能性を鑑みれば、出来る限りその3人から情報を得たいが……

 

「情報提供感謝します」

 

「なぁに気にするな! 黒蠍盗掘団の頭として、アムナエルの暴走は目に余ったからな!」

 

 やがて、次なる情報源を見定めた神崎が礼を告げつつ去る旨を伝えれば、ザルーグも快活な様子で見送ってみせる。

 

 仲間を売るのはザルーグのポリシーに反するが、誤った道を進んだ仲間を止めるのは、仲間の務めなのだと。

 

「アムナエルさんに伝言くらいなら叶いますが、どうなされますか?」

 

――取り敢えず、タニヤの情報が得られそうな《アマゾネスの里》に向かってみるか。アビドス三世は本体のミイラの所在を探れば、足取りは掴める筈。

 

 やがて去り際に「仲間」を気にするザルーグへ、一つばかり思案混じりに提案する神崎だが――

 

「気持ちだけ受け取っておこう! 我ら黒蠍盗掘団は暫く物質次元(人間の世界)へ関わらぬよう、三騎士の方々に沙汰をくだされた身だからな!」

 

「そうでしたか。では、そのように」

 

 いつの間にかヒットした釣竿と格闘し始めていたザルーグの元気の良い返答に、神崎は最後にもう一度会釈してその場を後にする。

 

 

――アテのないカミューラは……《ヴァンパイア帝国(エンパイア)》で情報を仕入れよう。

 

 そして移動しながら変わらず考えを巡らせる神崎の耳に。海になにかが落ちる音がした――気がするも、駆けだしたその足は止まることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わってデュエルアカデミアのレッド寮にて就寝時間が迫る中、取巻は未だになにやら作業している逆立てた茶髪の青年――元万丈目の取り巻き仲間――「慕谷(したいたに) 雷蔵(らいぞう)」へ問いかけた。

 

「まだ起きてたのかよ、慕谷(したいたに)……って、なにしてんだ?」

 

「今日の授業の復習と、明日の授業の予習」

 

「はぁ? そんな初歩的な内容で何やってんだよ。授業、受けてれば必要ないだろ」

 

 だが、返って来た思わぬ発言に取巻は面食らう。なにせオシリス・レッドのデュエル授業は初歩・基礎ばかりが主な内容の必要とは思えない代物。

 

「いや、今の教員は、あのクロノス教諭だろ? こうした方がポイント(贔屓が)稼げると思ってさ」

 

 しかし慕谷の狙いは「予習・復習」自体にはなかった。「頑張ってるアピール」こそが重要なのだと。

 

 クロノスは気に入った生徒に便宜を図ることで有名だった情報が、中等部時代から流れており、その「気に入った生徒枠」を狙い慕谷は昇格せんとしているのだ――まぁ、クロノスが「そうだった」のは過去の話だったりするのだが。

 

「どうせ分かり切った初歩的・基礎的な部分なんだし、大した手間じゃないだろ?」

 

「そんなの――いや、確かに言われて見ればそうだよな……このくらいでレッドからオサラバ出来るなら安いもんか」

 

 やがて、一瞬の逡巡を見せるも取巻は慕谷の姑息な作戦に便乗し、勉強道具をゴソゴソと引っ張り出し始める。

 

 だが、そんな2人へ翔は冷やかな視線を向けざるを得ない。

 

――また、あの人(元ブルー生)たちは……もう、そういうの(贔屓)が通じないって、なんで分かんないスかね……

 

 学園側に容赦なくレッドまで叩き落された現実を鑑みれば、2人の姑息な作戦が通じる訳がないことなど明白。

 

 ゆえに、翔は呆れた溜息をついた後、一足先に夢の世界へ旅立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日を改め、デュエルアカデミアの学内にて、物陰から団子な兄弟よろしく頭を覗かせる長女、次女、三女――ではなく、原麗華、雪乃、レイン、各々は隠れて明日香の様子を伺っていた。

 

「(明日香さん、一人で大丈夫でしょうか……万丈目さんは気難しそうな方ですし、余計な衝突が起きなければ良いんですけど)」

 

「(麗華は心配性ね。明日香にも中等部で肩を並べた相手への矜持があるのよ)」

 

「(……対象の接敵を……確認……)」

 

 いつもの4人から1人引いて小声で話しつつ見守る姿勢を取っているのは、明日香が万丈目へのデュエルを挑む場に同行者を許さなかったからだ。

 

 雪乃に「取り巻き云々」言われたことを気にしているらしい。

 

 

 

 しかし、傍から見た万丈目は何時も難しい顔をして近づきがたい印象が強い為、そこへ気の強い明日香が行くとなれば原麗華は「喧嘩にならないだろうか?」と気が気ではない。

 

 だが、レインの声に2人の意識が万丈目と明日香の会合に注視すれば――

 

 

「――つまり、そう言う訳なの。万丈目くん、私の挑戦受けてくれるかしら?」

 

「そういう話ならば」

 

 フロアの一角で話す2人の会話は思いのほかスムーズに進んでいる様子が見て取れた。

 

 

 やがて、かつて中等部の二大デュエリストと呼ばれた2人が今、時をこえ衝突することとなる。

 

 

 

 

「――断らせて貰う」

 

「さぁ、デュエルと行き――こ、断るの!? どうして!?」

 

 かと思いきや、そんなことはなかった。そうして予想外だったのか大仰する明日香へ、万丈目は努めて平静に事情を明かす。

 

「俺がデュエルしてもキミを満足させる結果を提供できない。気の抜けたデュエルでは天上院くんの時間を無為にするだけだ」

 

「……つまり、なにが言いたいのかしら?」

 

とはいえ、語られる内容は明日香を納得させるには程遠い様子。しかし並々ならぬ気迫を見せる今の明日香だからこそ、万丈目はデュエルの申し出を二つ返事で受けないのだ。

 

「……どうにも俺は天上院くんが相手だと、調子が出なくてな」

 

 なにせ、明日香とデュエルすると、万丈目は平時のデュエルが出来ないのだから――それゆえ、中等部でもデュエルを避けて来た。

 

 これが原因で、明日香はデュエルへの意識の差を把握できなかった面もあったりするのだが……今は関係ない話の為、割愛させて貰おう。

 

 

「私じゃ力不足って言いたいの?」

 

「そうじゃない。これは俺の問題だ」

 

「だったら――」

 

 

 やがて水掛け論に発展していく2人の会話の温度差が激しくヒートアップし始める光景に物陰から様子を窺う原麗華は問題の核に気づき始める。

 

「(雪乃さん、『コレ』って……ひょっとしなくとも『アレ』なのでは?)」

 

「(明日香は『デュエルに恋している』から、他に目がいかないのよ。ふふっ、お子ちゃまみたいで甘酸っぱいわね)」

 

「(理解……不能……情報提供……求む)」

 

 やがて小声でクスクス笑う雪乃を余所に、完全に理解の及ばぬ表情を見せるレイン。

 

 

 

 だが、そんな混沌とし始める場の雰囲気を打ち崩す救世主が現れる。

 

「やぁ、明日香くんじゃないか! 聞いたよ、対戦相手を探しているんだって? なら、この3年オベリスク・ブルー所属! 丸藤 亮の宿命のライバルたる『綾小路(あやのこうじ) ミツル』が立候補しよう!」

 

 そんな茶髪のスポーツ刈りのテニスウェアの青年「綾小路(あやのこうじ) ミツル」の乱入により、万丈目との水掛け論を止めた明日香は遠慮の言葉を述べるが――

 

「すみません、綾小路先輩――」

 

「『ミツル』と呼んでくれたまえ!」

 

「綾小路先輩――」

 

「『ミッチー』でも構わないよ!」

 

「綾小路先――」

 

「『ミーくん』でも可だ!」

 

 爽やかな第一印象とはかけはなれた面倒臭さに、明日香は強い既視感を覚えた。忘れる筈もない。なにせ――

 

――この先輩、兄さんと同じタイプだわ……

 

 圧倒的なまでに己の(吹雪)の類友の気配。

 

 だが、あの吹雪と最も長い付き合いの明日香からすれば逆に「慣れたもの」とばかりに封殺に入る。

 

「……ミツル先輩、私は今、自分の土台を見つめ直す為に、実力の近しい同学年の相手を探しているところなんです。ですから、3年のミツル先輩は――」

 

「なら、僕が紹介しよう――なにしろ、万丈目くんを含めオベリスク・ブルー1年はみんな顔見知りだからね!」

 

 しかし、思いのほか建設的なことを提案する綾小路に明日香は再び面食らう。先程の面倒な印象とは雲泥の差だ。その落差に思わず万丈目を頼る明日香だが――

 

「そ、そうなの、万丈目くん?」

 

「ああ、俺も綾小路先輩には、ハンデ戦で度々世話になっている」

 

――ハンデ戦……本当にデュエル漬けなのね、万丈目くん……

 

 思いのほか広い交友関係を構築していた万丈目の姿に明日香の脳裏に雪乃から告げられた言葉が木霊する。

 

 

本当の強者(カイザー)たちから背を向けて”

 

“貴方の心は、果たして十全と言えるのかしら?”

 

 

 しかし、そうして過去の言葉に取られていた意識は綾小路の言葉によって引き上げられた。

 

「同学年、そしていつもの1年ブルー女子ではなく男子生徒となれば――武田くんはどうかな?」

 

――武田? ……誰かしら。

 

 しかし、急に「武田」とか言われても読者も明日香も「誰?」とならざるを得ない。

 

「俺の同期の炎属性デッキの使い手になる――実力もブルーに残れただけあって折り紙付きだ」

 

「彼の熱いデッキには、僕の熱血ハートも呼応しっぱなしさ!」

 

 武田――彼は原作のGXの2年次に開催される大会「ジェネックス」にて、最後の最後に敗北を喫するも、あの三沢を追い詰めた実力を持つデュエリストである。

 

 

 

 

 かくして、明日香は万丈目と綾小路の案内の元、「誰かよく知らないけどブルー生徒2人が認める『武田』」なる人物との一戦に向け、進み始める。

 

「(あっ、綾小路先輩に連れられて明日香さん、行っちゃいますよ!? どうなっちゃうんでしょう!?)」

 

「(万丈目のボウヤも同行するみたいね――修羅場かしら? ゾクゾクしちゃう)」

 

「(修羅……場? 否定……険悪な雰囲気は……見られない)」

 

 そんな明日香たちの歩みに、物陰の三人衆も慌てた様子で追いかけていった。

 

 

 そうして彼、彼女らは思い知ることとなる。

 

 

 武田の力を。

 

 

 

 

 

 

 

 ……「武田の力」って、なんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処で舞台は大きく変わり、どこかの国のどこかの荒野にて、真夜中にも拘わらず神崎は手作業でせっせと土を掘っていた。「急にどうしたんだ」とお思いかもしれないが、これも神崎にとって必要なことである。

 

 そう、今神崎が人間削岩機している場所はセブンスターズの1人「アビドス三世」と所縁のあるとされる遺跡――との情報がある場所なのだ。

 

 

「この遺跡は…………流石に、アビドス三世とは無関係か」

 

 違った。

 

 無駄に綺麗に掘り起こされた一つの遺跡を神崎が把握した限り、残念ながらガセ情報だった模様。

 

 とはいえ、情報源が不透明であった為、神崎にさしたる落胆は見られない。やがて引き続き遺跡に記された文字を神崎が確認していけば――

 

――しかし冥界の王の立場のお陰か古代の文字が読めるのは、ありがたい。

 

「決闘神官……陰陽祭……地錠覇王、天錠覇王……天空城セイバル、そして解錠覇王?」

 

――これは確か漫画版の5D’sの話だった筈だが……漫画版の5000年前のゴドウィン兄弟と、アニメ版の未来のゴドウィン兄弟が(イコール)で結ばれない以上、起こりえない問題の筈。

 

 あり得る筈のない情報の羅列に神崎は首を傾げる他ない。簡単に言ってしまえば――

 

 赤き竜が最終回近くまで「味方してくれる」のがアニメ版であり、

 

 赤き竜が最終回近くまで「封じられている」のがコミック版である。

 

 

 超融合編にて、赤き竜タクシーで(の力を借りた)遊星が未来から助けに来た以上、後述に類する情報が現存していては矛盾が生じるのだ。

 

「しかし遺跡は存在する」

 

 なのだが、その矛盾を他ならぬ神崎が掘り当てた。

 

「この場合5000年前の背景はどうなっているんだ? 此処には儀礼的なことしか記されていないようだが……」

 

――古代の文字が読めても、歴史を紐解き真実を導き出すことが出来る訳じゃないからな……

 

 その為、頭痛をこらえるように頭に手を当て悩む神崎だが、頭脳労働は一会社員レベルの彼に解き明かせる筈もない。

 

――まぁ、どちらにせよ、儀式に必須なシグナーの龍(シンクロモンスター)が生まれるのは遥か先(GX終了時)だろうし、現時点では問題になり得ないな。

 

「よし、ホプキンス教授に話を持ち掛けてみよう」

 

 ゆえに神崎は、問題の棚上げ+専門家への丸投げを敢行するべく、携帯端末を片手にボタンをプッシュしようとするも、その指がピタリと止まった。

 

 

 

 やがて遺跡の床に手を置き耳を澄ませた神崎は――

 

――馬のひづめの音……現地の人間か? 正式な手続きを得ずこの場にいる立場上、人に会うのは拙い。

 

 単身馬を走らせる何者かの気配を避けるように夜の闇の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな不審者ムーヴは置いておき、再び舞台をデュエルアカデミアに向ければ――

 

『あの佐藤とか言う教員、中々教えるのが上手かったね』

 

「この調子で筆記の成績が上がれば、ブルー昇格も夢じゃないぜ!」

 

 教員の一人に勉強法を相談した十代が、ユベルと共にイエロー寮の自室に戻っていた。

 

『まぁ、教わった勉強法が三日坊主にならなければ――の話だけど』

 

「…………が、頑張りマス」

 

 しかしユベルからの厳しい指摘に十代は表情をカチコチに固めながら自室の扉を開けば、そこには留守の筈の同室の人間――三沢がデスクに向かう姿が目に入り、十代は驚いた声を上げる。

 

「――って、戻ってたのか、三沢!」

 

『くっ、ボクと十代の二人っきりの時間が……!』

 

「ん? 十代か。お帰り」

 

「おう、ただいま! でも、いつもこの時間はドローの訓練してたのに……どうしたんだ? 調子でも悪いのか?」

 

 なにせ、日々の訓練を規則的に行う三沢が、急にそのサイクルを崩したとなれば心配にもなろう。

 

「ああ、アレは止めた」

 

「えっ、やめちまったのか!?」

 

『真面目な三沢らしくないね』

 

 だが、返って来た解答に益々心配気な表情を浮かばせる十代と、不審そうに見やるユベル。

 

「大山先輩と相談してな。先輩の『ドロー訓練(ジャングルダイブ)』はあくまで『先輩が己を知る為に適した方法』だろう? なら、俺は自分に適した『己を知る方法』を模索してみることにしたんだ」

 

 しかし、その決断は三沢なりの考えあっての代物だった。誰がどう考えても大山の修行スタイルが「全人類に適しているか?」と問われれば「否」を返す他あるまい。

 

「やはり俺には数式を組み上げている方が性に合っている――さしずめ『自分』という『問い』への『解』を導き出す具合だ」

 

「へぇー、色々考えてんだなー」

 

「ドローはオカルトの領域の話だからな。既存の方法に囚われていては俺が目指すデュエル理論は花開かない」

 

 感心する声を漏らす十代だが、三沢からすれば「十代の引き」を間近で見続けて来た身ゆえ、己の殻を破る方法の模索は欠かせないのだ。

 

「ドローって、そんなオカルトな話なのか?」

 

『そういえば斎王も「運命力」とか似たようなことを言っていたね』

 

「ああ、普通に考えれば確率的な説明がつく筈だと言うのに、科学では解明できない領域が多く存在しているんだ」

 

 なにせ、十代の疑問に答えた三沢の言葉通り、デュエルにおける「引き」は既存の科学的な常識では計り知れないものが多々ある。

 

 人はそれを『ディスティニードロー』や『運命のいたずら』と評し偶然で片づけようとするが、優れたデュエリスト程、その確率の偏りを支配しているかのような結果を生み出している現実があるのだ。

 

 三沢も「それ」を十代という一例を以て思い知らされた身である。

 

「ああ、そうだ。オカルトで思い出したんだが……いや、止めておこう。完全な立証の出来ていない話をするものでもない」

 

「なんだよ、三沢。そこまで聞くと気になるじゃんかー! なっ、教えてくれよ!」

 

「期待しているところ悪いが、本当に大した話じゃないんだ」

 

 しかし、会話の箸休めに――しようとした話題を「突拍子過ぎる」と思わず引っ込めた三沢へ、十代が興味が刺激されたように食いつく姿におずおずと語り始める。

 

「最初は些細な違和感程度のことだったんだ」

 

「違和感?」

 

「ああ――十代、時折お前の視線が虚空をさまよう機会を目にしてな。最初はなんとなしに宙を見ているだけだと思ったんだが……」

 

 それは寮の同室になったゆえに必然的に増えた交流が引き起こしたイレギュラーだった。

 

「ふと、その視線の方向と凡その距離を計算した結果 どうにも『それ』が『個人』のようだと分かったんだ」

 

 そして過去の三沢は浮かんだ疑問に答えを求めるように、その違和感の解明に乗り出せば不思議な次元で明瞭にその違和感は「個」となって導き出される。

 

 やがてピシリと固まり無言になった十代から反応が返ってこないことすら気にも留めず、三沢は立ち上がって手振り身振りを交えて探求者の本能のままに導き出した答えを披露していくが――

 

「このくらいの背丈の相手を認識していることが分かった。後は翼が生えている――なんて、まるで悪魔のような……悪魔、悪魔……そうだな。一番近いのはお前が受験の時に見せたユベ――ぐっ!?」

 

 突如として三沢が文字通り「宙に浮いた」。

 

 いや、「見えない何かに首を掴まれ宙吊りにされた」と評した方が正確だろう。

 

『正直、()()の頭脳を侮ってたよ』

 

 その正体であるユベルの右腕が三沢の首を掴んで宙吊りする中、ユベルの脳裏を占めるのは過去のKCで斎王に告げられた忠告。

 

エンプレス(ユベル)――今の時代、人は精霊の存在を受け入れる土壌が存在しない。ゆえに正体を吹聴する真似は運命が満ちるまでは控えるべきだ。キミとて十代が孤独に打ちのめされる姿は本意ではないだろう?”

 

 原作では凡そ好意的に受け入れられていた精霊だが、「それ」は「気心が知れた仲だった」ことが大きい。

 

 なにせ「精霊が見えない人間」からすれば、「己が知覚できない人と変わらぬ意思を持つ相手(精霊)」など恐怖の対象だ。「透明人間がどれだけの悪事を働けるか?」と考えれば、子供ですらその危険性が十二分に理解できよう。

 

 ゆえに、ユベルは十代に嫌われるかもしれない可能性を受け入れつつ、三沢の口を封じに動く。

 

「なに……が……? ……まさ、か……『いる』……のか?」

 

「――やめろ、ユベル!! 三沢は言いふらすような奴じゃない!」

 

『安心してよ、十代。少し怖い夢を見て貰うだけさ。明日になれば綺麗サッパリ「悪夢だった」と忘れて貰う為にね』

 

 とはいえ、息も絶え絶えな三沢をこのまま絞め殺す――なんて、ことはしない。奪うのは三沢の「現実感」、ユベルの一撃ナイトメア(悪夢の)ペイン(痛み)を以て忌避感を植え付け、十代への興味を失わせるだけだ。

 

「よ……した方が良い……」

 

『命乞いかい? まぁ、ボクの声は聞こえてないんだろうけど、流石に「何かされる」くらいは察するか』

 

「離してやれ、ユベル! なぁ!」

 

 やがて三沢の口から零れるだけの言葉を無視し、縋りつく愛しい十代の懇願を苦渋の決断で振り切りながらユベルは首を掴む右腕に魔力(ヘカ)を練り上げる。

 

「俺が気付く程度……のことを……学園が……把握して……ないと……思う……の……」

 

 だが、三沢の意識が遠のき途切れる寸前で零れた内容に、アカデミアのオーナーである海馬が擁するKCに()()()()()()()()()が脳裏に過り、思わずユベルの腕から力は抜けた。

 

「――ぐっ、ゲホッゲホッ……!」

 

「大丈夫か、三沢!」

 

「……ああ、問題……ない」

 

「ユベル!」

 

 当然、宙吊りの基点を失った三沢は宙に投げ出される形で落下して地面に転がり、ようやく得たまともな呼吸の機会にせき込む三沢に駆けよった十代はユベルに非難の声を飛ばすが――

 

『十代……そんなに怖い顔をしないでおくれよ。斎王や神崎にも言われただろう? 「精霊が見える」なんて噂が立てば余計なトラブルに巻き込まれるって』

 

「だからって――」

 

「いや、『これ』は俺が悪いんだ、十代」

 

 それはユベルだけでなく、宙吊りにされた三沢からも制される。

 

「な、なに言ってんだよ!」

 

「違う。本当に俺が悪い――確証も、覚悟もなしに興味本位で踏み込むべき話題じゃなかった」

 

 しかし、これに関しては三沢の不注意ゆえの自業自得である。

 

 それを三沢は身に染みて理解しているゆえに、ユベルがいるであろう場所を見やり思わず呟く。

 

「精霊……予想外だったな。まさか、これ程までに近くにいるとは……」

 

――やっぱり三沢には見えてない。なのに……

 

「三沢は、精霊のこと信じてたのか?」

 

「信じるというより、疑う余地がない」

 

 しかし十代は、ユベルがいない見当違いの方向を見る三沢が、精霊が見えていない三沢が、「精霊を信じていた」とはにわかには信じられなかった。

 

 なにせKCで精霊が見える人間以外、大半の人間が信じなかった話なのだから。

 

 しかし、そんな十代の視線を感じてか三沢は、ハッキリと断言を返した。

 

「手記や記録、伝承、壁画、絵画――世界中にて精霊の影は様々な形で現在まで形を残している。歴史を見れば『確実にいる』事実は疑いようがない。俺の尊敬する教授の一人も『そう』結論づけている節が見られた」

 

 なにせ、世界中にて神話の類は数あれど「全く同じもの」が描かれたケースは非情にレアだ。

 

 だというのに、現代の世界の裏側まで情報がすぐ届く時代ならまだしも、遥か遠方の情報伝達が叶わぬ古代の時代に「同じもの(精霊)」の目撃情報が様々な記録で残されている。

 

 これで「精霊はいない」と断言するのは難しい話。

 

「だが、その情報は大々的には広まっていない。何故だと思う?」

 

 しかし、今の時代において「精霊」など「おとぎ話の産物」という認識が世界に広まっている。当然、これにも理由があった。

 

「……誰かが『隠してる』とか? って、違うよな」

 

「いや、その通りだ」

 

 そう、十代の言う通り、古代を生きた誰かが「隠した」――いや、「認めることが出来なくなった」と言うべきか。

 

「切っ掛けまでは分からないが、人と精霊の間に亀裂の入る大きな事件があったんだろう」

 

 その原因は現代になっても判明してはいない。

 

 古代の伝説の都アトランティスの(ダーツ)でもいれば、その辺りも表に出たやもしれないが、残念ながら人知れず消えた為、詮無き話。

 

 しかし、「亀裂の入る事件」の正体は不明でも、「その影響」は世界の各地の歴史でみられているのだと三沢は語る。

 

「そして、それを境に人は精霊を恐れ始めた。中世の魔女狩りのように疑わしきすら罰する攻撃的な形になる次元で」

 

『十代、斎王が心配していた部分も「この辺り」のことだと思うよ。彼も特異な力のせいで苦労した口らしいからさ』

 

「時に天変地異すら起こす精霊の怒りを恐れれば、時の権力者が全てを闇に葬る(隠蔽する)ことは自明の理だろう」

 

 そうして、人は長い歴史をかけて「精霊の情報」を排除しつくした。臭い物に蓋をするように、全ての人類から、自分たちの記憶から「全てはまやかしだったのだ」と消し去ってしまう程に。

 

 ゆえに精霊も人から離れていったのだと。

 

「それと同時に精霊側も、過度な干渉をしないようになったのだと俺は()()している」

 

 とはいえ、此処まで語った三沢だが、歴史的な証明は何一つ叶わない。あくまで「否定はできない」証明が限度だ。

 

「だというのに、俺はそんな彼らが争わない為に用意した境界線を不用意に踏んでしまったんだ――だから『これ』は全面的に俺が悪い」

 

 しかし、今まで語った話を知った上での行動だった為、どう考えても己の探求心に負けた三沢が悪い為、謝罪を示す他ない。

 

「そうなのか、ユベル!?」

 

『ボクは他の精霊とは出自がかなり違うから、流石に細かい部分は分からないよ。まぁ、「吹聴するものじゃない」の部分は全面的に同意かな』

 

「彼女が何を言っているかは俺には分からないが……十代は、もう少し周囲に『どう見えるか』を考えた方が良いように思う。俺でよければ力になるが……まずは二人で今一度相談してみたらどうだ?」

 

『そうだね。これも良い機会だ。三沢の今後も含めて話し合おう――十代、三沢にヘッドフォンで大音量の音楽でも聞くように言ってくれないか?』

 

「お、おう」

 

 やがて十代とユベルの会話に水を差す形で、三沢から「己の二の舞」を防ぐ提案がなされ、ユベルの同意の元、今一度普段の行動を顧みることになった十代。

 

 

――俺、結構気を付けてたつもりだったんだけどな……

 

 

 とはいえ、当の十代は「これ以上、どうやって気を付ければ……」と頭を悩ませることになるのだが、此処からは愛する二人(ユベルと十代)だけの話し合いになるゆえ、割愛させて貰おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古めかしい洋館にて、通信端末のコール音が木霊する。その呼びかけに答えた神崎の耳に届くのは――

 

「はい、此方『紹介屋』――お求めは?」

 

『……スゲェ胡散臭い仕事みたいになってるじゃないっすか』

 

 呆れた様子の牛尾の声。神崎が適当に名付けた名義と、当人の風評を思えば妥当な感想だった。

 

 やがて神崎はそんな牛尾へ、洋館のフローリングの床をドンと踏みしめて反響音を確認しつつ、定型文を続けていく。

 

「お客様にピッタリの人間を紹介する仕事ですので分かり易さを追求させて頂きました」

 

()()って……ハァ、牛尾っす。流石に覚えてますよね?』

 

――あっ、「人材」と言い間違えた……が、此処は押し通そう。

 

「牛尾様ですね。存じております」

 

『あー、敬語は――って、いつも敬語か。えー、取り敢えず「お客対応」はやめて貰って良いっすか?』

 

 だが、いまいち徹底できていない対応を余所に、牛尾はかつての上司から届くキッチキチな応対を前に、背中の妙なむず痒さを振り切るべく昔の気安さを求めるが――

 

「『客によって態度を変える』などと揶揄されるリスクは負いたくないのですが」

 

『勘弁してくださいよ、ホント……』

 

 返って来た結構まっとうな言い分に電話口からでも頭を抱える様子が伺えた。

 

「それで牛尾くんの今回の要件は? 態々仕事用の番号にかけて来たんですから、入用なのでしょう?」

 

『まぁ、ちっと面倒な案件任されまして……訳わかんなくて途方に暮れてるとこっす』

 

「その問題を解決する人材をお求めだと」

 

『そんな感じっすね。んで、本題なんすけど――』

 

 やがて神崎の口調が幾分軽くなった中、牛尾は紹介屋(フリーのスカウトマン)への依頼内容を語っていく。

 

 

――隠し部屋は此処……鍵か。仕掛けの類がないなら扉ごと引き抜こう。

 

 かくして洋館の隠し部屋の扉を強引に引き抜いた神崎に依頼されたのは――

 

『――デュエル中のイカサマ見抜くの得意なヤツって、いませんか?』

 

 一風変わった特技を持つ人材を求める声。

 

「詳細を話して貰えないと判断が付かないですね」

 

『やっぱ、そうっすよね……実は――』

 

 そうして、詳しい経緯を話し始める牛尾を余所に、神崎は洋館の隠し部屋にあった棺を開けるも中身は空っぽ。

 

 

――()は空っぽか……影丸理事長を白と言い切るには弱いか。

 

 

 神崎の内には言い得ぬ不穏な気配だけがジクジクと感じられていた。

 

 

 






Q:精霊の見えない三沢が、精霊の存在に気づけるの?

A:原作で同行期間の長い翔が「また兄貴が何もないとこに向かって話してる」と気付くレベルですので、

凡そ同じ条件を与えられれば、三沢なら早い段階で疑問に思うと判断させて貰いました。

ちなみに、この時点の三沢に確証はなかったので、ユベルが先走らなければ「考え過ぎだよな」と流れていたりします。




Q:黒田兄妹って誰? オリキャラ?

A:3DSゲーム「最強カードバトル」に登場する小学生四天王の内の2人です。

今作のレイのアカデミア来訪が「小学校の学内行事」との関係上、レイを単独活動させては不自然な為、同行者を求めた結果――

DM~GX(ギリギリ)を舞台にしており、なおかつ同じ小学五年生年のダーク黒田――にしようとしたのですが……

女性への免疫が低い彼に
異性(レイ)と二人っきりの状況にダーク黒田が耐えられるのか?」
と言う壁が立ちふさがった為、

1歳下のライト月子(黒田 月子)を繰り上げて登場させて頂きました。

よって、今作の現時点でのダーク黒田は小学六年生です。

ちなみに――
TFキャラの年少組は、全体的に幼い印象が強かったので今回は見送らせて頂きました。




Q:黒田兄妹はコミックの「遊戯王OCGストラクチャーズ」にも登場しているみたいだけど……

A:「遊戯王OCGストラクチャーズ」は、「最強カードバトル」の人物関係の一部を引き継いではいるものの、

遊戯王シリーズの世界観ではなく、
リアル(現実)世界寄り(特殊なカード(シグナー龍やナンバーズなど)の制限が一切ない)の世界観のようなので、

遊戯王ワールドの世界観を踏襲している「最強カードバトル」の設定を重視させて頂きました。





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