マインドクラッシュは勘弁な!   作:あぱしー

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??? VS ??? ダイジェスト版+αです。


ですが、その前に今後についてのご報告を――

バトルシティ編の予選にて
あまりに展開が遅かった事態を受け、この先はどうにかせねば! と色々考えた結果――


アクターもしくは神崎のデュエル
そして「このデュエルだけはどうしても書いておきたい」デュエル

以外のデュエルはダイジェスト版、もしくは1シーン版にすることで

少しでも展開の遅さを改善していく方向に舵を取ることにしました。


キチンと全ての展開をお書き出来ず申し訳ございません。

代わりと言っては何ですが、ダイジェスト版であっても読み応えのあるデュエルになるよう頑張る所存です。




では続きをどうぞ!




前回のあらすじ
遊戯「生きる事から逃げちゃダメだ! マリク! 君、自身の言葉(想い)を聞かせて!!」

マリク「ボクは……ボクは……(腕を引っ張られているから肩がもの凄く痛いなんて言えない)」

城之内「お前がッ! 助かるまでッ! (デュエルアンカーを)引くのをやめねぇッ!」

本田「ファイトー!!」

牛尾「いっぱーつ!!」

ゼンマイラビット「あの人、あのままだと腕が千切れちゃうんじゃ……」

レベッカ「大丈夫よ! ジーニアスな私の計算上は問題ないわ!」




第118話 本戦トーナメントの始まり始まり~

 

 

 闇マリクの騒動が収束した後、事態の収拾を行っていた牛尾はマリクに確認するように問いかける。

 

「じゃぁ、この『ラーの翼神竜』のカードは俺が預かっときゃいいのか? んで、『バトルシティの優勝者に渡す』と」

 

「はい、お願いします。それと千年ロッドについてなんですが――」

 

 周囲を見渡しながら地面に転がっているであろう千年ロッドを探すマリクだったが――

 

「ふぅん、これの事か」

 

「海馬 瀬人!?」

 

 海馬が千年ロッド片手に歩み出ていた。その反対側の腕は誰かの頭を押しているようだ。

 

「このオカルトグッズは俺が預かっておいてやろう――さっきから鬱陶しいぞ、貴様!」

 

「研究させてくれてもイイじゃないですか! ケチですね! KCの発展の為ですぞ!」

 

 その相手は勿論ツバインシュタイン博士。千年ロッドを何とか確保しようと足掻いていた。

 

 だがこれでも相手が所属する組織のトップという件も相まって、抑え目である。いつもはもっと鬱陶しい。

 

「奴の狙いに態々乗ってやる義理などないわ!」

 

 しかし海馬からすれば今の段階で十分に鬱陶しいので目障りなことこの上なかった。

 

「まぁまぁ喧嘩しねぇで、いい加減トーナメント会場に戻りやしょうぜ――磯野さんも待ってるでしょうし」

 

 そんな牛尾の声に一同は磯野が待つ、天空デュエル場へと戻っていき――

 

 

 

 

 

 

「では本戦、第1試合を始めさせて貰いましょう! 対戦カードは、城之内 克也VSリッチー・マーセッド!! デュエル開始ィイイイイ!!」

 

 あれやこれやと舞台を整えた後、磯野のその宣言でようやくバトルシティのトーナメントが開催された。本当にようやくである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、海の上で黒い思念を蠢かせていた海の上に立つ神崎。

 

 

 だが、海面に映る神崎の影が囁いた――なら、お前は誰なのだと。

 

 

 その声の主は冥界の王。

 

 

 そんな神崎の影越しに語り掛けてきた冥界の王の姿に神崎は言葉を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何故このタイミングで私に語り掛けた?

 

 揺らいでいたアクターの精神は突然に出てきた冥界の王に対して警戒心で染まる。

 

 

 冥界の王は神崎に取り込まれた後は基本的に全く表に出てこない。例外的に表に出てきたのはイシズとのデュエルの時だけだった。

 

 

 ゆえにアクターは冥界の王に対して強い警戒を持ち、現在の状況を鑑みて思案する。

 

 

 そんな考え込んだアクターに向けて、やれ「力が欲しいか」だの「その悩みから解放してやろう」だの語り掛けている冥界の王を余所にアクターは1つの結論を出す。

 

――此方が精神的に弱っていると判断し、懐柔しようとしたのか?

 

 そう考えたアクターは冥界の王からの甘言を放っておき、自身の状態を顧みる。

 

 過去の嫌な思い出(死の記憶)を思い出させるような一件に加えて、命懸けのデュエルの連続。

 

 さらに遊戯の命のピンチなど様々な問題が立て続けに起こったことを振り返り、アクターはふと思い至る。

 

――今、思えば…………いや、今はそれどころではないか。

 

 そう結論付けたアクターは未だ色々語り掛けている冥界の王に向けて返す――「あ、そういうのはいいんで」と。

 

 

 アレな対応に苛立ち気な声を上げる冥界の王を余所にアクターは無駄に限界を超えた肉体を駆使して宙を蹴り上げ、雲に紛れて空を駆ける。

 

 

 アクターこと神崎にとってマリクの暴走を止めた後処理の方が忙しい為、あまりノンビリしている訳にもいかない――ゆえにその足取りは自然と早まり突き進む。

 

 

 

 

 

 

 

 向き合うべきだった過去を置き去りにして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなアクターの向かうKC本社の様子は――

 

 バトルシティの大会本部ことKC本社から重い足取りで出てきた3人組の青年はやがて近くのベンチに腰掛け、1人の青年が大きく溜息を吐く。

 

「ハァ~~~~、厳重注意で助かったゾ~」

 

 その青年はゴースト骨塚、何時ぞやに霊園にて竜崎とアレコレやり取りしたデュエリストである。

 

「……このとき程、こんな怖い顔で生まれて良かったと感じたときはないゾ」

 

 竜崎に背を押され、KCにて事情を話した骨塚だったが大事にならなかったようだ。

 

 ゆえに肩を落とす骨塚に佐竹がそのガタイの良い身体を小さくしながら頭をかきつつ返す。

 

「いや、悪かったって……」

 

「この後、何か奢ってやるから元気だせよ」

 

 そう佐竹に続いた小さいサングラスをかけた線の細い男、高井戸の謝罪に骨塚は息を吐く。

 

「……でも世の中には俺よりおっかねぇ顔した人がいたんだなぁ……」

 

 その骨塚の言葉にウンウンと頷く佐竹と高井戸。

 

 彼らが結果的に起こした何とも言えないラインの事件――お化け扱いされた骨塚とのデュエル事件。

 

 被害者の全員がバトルシティのイベントの一環だと判断しており、厳密な被害者がいなかったこと、骨塚たちに悪気がなかったことなどが鑑みられ厳重注意という名のお説教で済んだ。

 

 しかし、そのお説教が問題だった。

 

 そのお説教を担当したのはかなりの大男であるアヌビス。おまけに眼光も鋭い。

 

 そんな物理的に圧のあるアヌビスと骨塚たちは1人ずつ順番に狭い室内で向かい合い全力で言葉なく威圧してくる姿は骨塚たちを震え上がらせるに十分な威力を有していた。

 

「やっぱ、KCってヤバい仕事してんだよ――絶対そうだって!」

 

 サングラスを光らせながらそう語る高井戸の言葉に佐竹も頷きながら同意する。

 

「あれは堅気じゃねぇわ……」

 

「もう止めようぜ――今日は高井戸のおごりで飯食って解散するゾ」

 

「あ~、そうだな! ごっつぁんです!」

 

 やがて二度と変なことはしないと誓った3人を代表した骨塚の提案に佐竹は高井戸の背を叩きつつ、近場のファミリーレストランへと歩を進めた。

 

「いや、俺は佐竹にまで奢るとは言ってねぇぞ!」

 

 そう高井戸は先の衝撃でずれたサングラスを直しながら、骨塚と佐竹の後を追う。

 

 

 3人組は今日も平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに同時刻、KCにて――

 

「大まかな手続きは此方で済ませておいた。後、明日はお前の休養日にしてある――時間は十分に取れるだろう」

 

「ホンマにありがとうございます!」

 

 ギースの言葉と共に差し出された資料を深々と頭を下げて受け取る竜崎の姿があった。

 

 

 やがて軽く手を振って去っていたギースを見送った竜崎は、弟たちを家に帰した後でKCに待機していたエスパー絽場の元に走り寄る。

 

 

「よっしゃ! 明日は忙しなるで、絽場!」

 

 そんな竜崎が握り拳を作る姿にエスパー絽場は小さく呟く。

 

「何で……」

 

「何でもなにも、やったことのケジメは付けなアカンやろ? 詫びはいれるべきや」

 

 直ぐさまそう返した竜崎は「事前に話したではないか」と首を傾げた。

 

 そう、竜崎がギースに頼み込んだのは、エスパー絽場のイカサマを受けた被害者たちとの会合の場だった。

 

 

 彼らがエスパー絽場にイカサマされ、負けた際に被った被害は存外馬鹿にはならない。

 

 大会で受け取る筈の賞金や、名声。さらにはバトルシティの参加権の為のデュエリストレベル等々、様々な問題も起こってくる。

 

 特に大会での結果はプロデュエリストなどの将来、デュエルに関わる仕事を目指すデュエリストにとっては致命的だ。

 

 下手をすれば、「イカサマを見抜けないデュエリスト」というマイナスなレッテルを貼られかねない。

 

 デュエルの比重が圧倒的に重い「遊戯王ワールド」特有の問題だった。

 

 

 ゆえに誠意を見せるのは当然と断ずる竜崎だったが、エスパー絽場が知りたかったことは其方ではない。

 

「違う! 何でボクに此処までしてくれる!」

 

 その絽場の叫びから察せられるように、絽場と竜崎は仲が良かった――という訳では決してない。

 

 お互いに名前を知る程度で面識も大してなく、ハッキリ言って赤の他人レベルの関係性だった。

 

 にも関わらずエスパー絽場の罪が少しでも軽くなるようにと、奔走する竜崎の姿は理解できないと示す絽場に竜崎は此処ではない遠くを眺めながら零す。

 

「そっちかいな……まぁ、お前とは特に仲良かったわけやないし、ワイに兄弟もおらんし、イジメられとった訳でもない」

 

「だったら何で――」

 

 竜崎の言葉に絽場が返す前に竜崎は先を続ける。

 

「でも、お前の感じてた焦りみたいなモンはワイにも覚えがあるんや――何とかせなアカンと思って、余裕なくなって、視野狭なって、アホやらかす」

 

 絽場がイカサマに奔り、デュエリストの誇りを捨てたように竜崎も一度、己を見失ったことがある。

 

 大好きな恐竜カードで頂点を目指すと誓ったことも忘れ、高額なレアカード(真紅眼の黒竜)があれば勝てると安易な方へと流れた過去。

 

 

 形は違えど、どちらも心の弱さが招いた事象。

 

「せやから……なんや他人事のような気がせえへんのや」

 

 ゆえにそう言いながら竜崎は小さく息を吐いた。

 

「竜崎……」

 

「まぁ、お前に比べればワイの方は大したことあらへんけどな――ただ全財産が消し飛んだだけや」

 

 揺れる絽場の瞳に竜崎はそう言いながら軽く笑った。

 

「ワイのカード……いや、もうアイツのカードか……ソイツは今、一体どうなっとるんやろうなぁ」

 

 竜崎を変えるきっかけとなった1枚のカード、《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》。

 

 その現在の所持者がいるであろうバトルシップの飛ぶ方向へと視線を向ける竜崎の姿は絽場には酷く遠くに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》の所持者はペガサスミニオンのリッチー・マーセッドを相手に苦戦を強いられていた。

 

 リッチーのフィールドに並ぶのは――

 

 如何にもな西部のガンマン風の青年が銃を持つ腕を悪魔のソレに変えながら城之内に狙いを定め、

 

魔弾(まだん)の射手 ザ・キッド》

星3 光属性 悪魔族

攻1600 守 200

 

 両腕と両肩に装備した重火器を持ったドレッドヘアーの大男が城之内をジッと見つめ、

 

《魔弾の射手 ワイルド》

星4 光属性 悪魔族

攻1700 守 900

 

 目元を赤いドクロの仮面で隠した紳士風の悪魔が大きな銃を両手に、赤い翼を広げて笑みを広げていた。

 

《魔弾の悪魔 ザミエル》

星8 光属性 悪魔族

攻2500 守2500

 

 

 対する城之内のフィールドにはセットカードが1枚に永続魔法《未来融合-フューチャー・フュージョン》とその効果でこのターンに融合召喚された――

 

 レッドアイズの可能性の一つの姿、赤く脈動する紫の巨体でフィールドに佇む《メテオ・ブラック・ドラゴン》の姿。

 

《メテオ・ブラック・ドラゴン》

星8 炎属性 ドラゴン族

攻3500 守2000

 

 そして妹、静香の力――《心眼の女神》の助力を得て導き出したレッドアイズの更なる姿、《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》が悪魔の骨を全身に鎧のように纏った雄々しい姿を見せ、

 

《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》

星9 闇属性 ドラゴン族

攻3200 守2500

 

 最後に赤い鎧に青い衣、そして赤き大剣を持つ、城之内の相棒ことフェイバリットカード《炎の剣士》が大剣を相手に向けて構えていた。

 

《炎の剣士》

星5 炎属性 戦士族

攻1800 守1600

 

 しかし、レッドアイズの可能性はこれだけではないと城之内は三度、カードを発動させる。

 

「まだまだ行くぜ! 俺はフィールドの《炎の剣士》と手札の《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》を融合!」

 

 《炎の剣士》の大剣から昇る炎が手札の《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》を包んでいく。

 

「レッドアイズの黒き鱗は、剣士の猛る炎で研鑽され! より強靭さを増す!!」

 

 やがてその炎は鋭さを増していき、《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》の新たな可能性を導き始め――

 

「その黒き輝きは(つるぎ)の如く! 融合召喚! 切り進め! 《真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)》!!」

 

 やがて炎の中から飛翔したのはその全身が刃のような鋭き鱗に覆われた《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》の姿。

 

 新たなる姿の名は《真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)》。

 

 その両腕から伸びる刃はあらゆる障害を両断し、その尾の先に延びる剣は全てを貫かん輝きを示していた。

 

真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)

星7 闇属性 ドラゴン族

攻2800 守2400

 

 このターンの始めは空っぽだった筈の城之内のフィールドに瞬く間に揃った3体の黒き竜の姿に観客の遊戯は拳を握り、声援を送る。

 

「これで城之内くんのフィールドには3体のレッドアイズの進化系が勢揃いだ!」

 

「いいぞー! 城之内ー! そのまま一気に逆転だー!!」

 

「行けー! 城之内ー!!」

 

 続く本田と杏子の応援に城之内はガッツポーズで返す。

 

「おう! 任せときな!」

 

――奴のフィールドのセットカードは今や0! 一気に行くぜ!

 

 長らく苦しめられていたリッチーのセットカードもない今、城之内は一気に攻勢に出る。

 

「バトル!! 《真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)》で《魔弾の射手 ザ・キッド》を攻撃!」

 

 《真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)》が額の3つ目の瞳と関節を炎の熱で赤く染めながら、《魔弾の射手 ザ・キッド》の元へと強襲をかける。

 

「そして、この瞬間、スラッシュドラゴンの効果発動! 『レッドアイズ』モンスターの攻撃時に俺の墓地の戦士族モンスター1体を攻撃力200アップの装備カード扱いとして自身に装備する!」

 

 迎撃として《魔弾の射手 ザ・キッド》の二丁の拳銃から放たれる銃弾も物ともせず突き進む《真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)》の腕の刃に炎が灯っていく。

 

「俺は《炎の剣士》を装備!! 行っけぇ! ダーク・メテオ・スラッシュ!!」

 

 それは《炎の剣士》の炎。

 

 その炎が《真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)》の更なる力となり、敵を切り裂く。

 

真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)

攻2800 守2400

攻  0 守  0

 

 筈だった。

 

 突如として《真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)》の腕の刃に宿った炎は霧散し、その身に宿る力が抜けたように墜落した《真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)》は地面を転がる。

 

「なにっ!?」

 

 《魔弾の射手 ザ・キッド》の少し前で地面に横たわる《真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)》に驚きの声を上げる城之内だったが、リッチーが手札のカードを1枚見せつつ返す。

 

「俺はコイツを『手札から』発動させて貰ったぜ! 速攻魔法《魔弾-クロス・ドミネーター》!!」

 

「俺のターンに、手札から速攻魔法だと!? それにそのカードは!!」

 

 驚く城之内に間違いはない。速攻魔法を手札から発動できるのは原則として自身のターンにのみ。

 

 しかし何事にも例外がある。

 

「『魔弾』モンスターの効果だ――コイツらが俺のフィールドにいるとき、俺は手札から『魔弾』魔法・罠カードを発動できる!」

 

「そんなこと出来んなら、何で今までセットして――いや!?」

 

 リッチーの説明に納得しつつも新たな疑問が浮かぶ城之内。なら今まで態々セットしていたのは何故なのかと。

 

 しかし城之内はすぐさま気付く。そう――

 

「そうさ! この状況を生み出す為だよ!」

 

 城之内がリッチーのセットカードが途切れ、攻めのチャンスだと誤認した今の状況が全てを物語っていた。

 

「《真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)》は速攻魔法《魔弾-クロス・ドミネーター》の効果を受け、攻・守が0になり、効果も無効化!」

 

 倒れ伏した《真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)》は城之内の為にと必死に起き上がろうとするが、その意思に反して身体は思う様には動かない。

 

「《真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)》には自身に装備されたカードを墓地に送ることで対象を取る効果を無効化し破壊する効果に――」

 

 リッチーの口から語られる《真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)》の効果に城之内は言葉を失う。

 

「自身が破壊された時に装備されたモンスターを蘇生させる効果――どっちも厄介だ。使わせる訳にはいかねぇな」

 

「知ってやがったのか……」

 

 このバトルシティの中で初めて――否、城之内がデュエルで初めて使ったカードだったにも関わらず見抜かれていた現実に歯噛みする城之内。

 

 だがリッチーからすれば――

 

「ペガサス様のお力になる為なら、これくらいは出来て当然だよ」

 

 これ程度はペガサスミニオンにとって「出来て当然」だった。

 

 

 I2社のデザイナー側の人間ではあっても、カードへの深い理解が不可欠である。

 

 自身のカードすら把握できていないなど論外――そして様々なカードへの理解を深めることなど、やっていて当たり前。

 

 そんな当たり前をこなせる中での更にトップの一握り――それこそがリッチー・マーセッドのいる頂き。

 

 

 城之内の前に立つ男は、ただの苦労人ではないのだ。

 

 

 やがて城之内の反撃の切っ先を制したリッチーは声を張る。

 

「さらに《魔弾の射手 ザ・キッド》の効果! このカードと同じ縦列で魔法・罠カードが発動した場合、手札の『魔弾』カード1枚を捨て、デッキから2枚ドローする!」

 

 自身の銃に再度、弾を込めていた《魔弾の射手 ザ・キッド》は空の薬莢をリッチーへと放り、

 

「俺は手札の永続罠《魔弾-デビルズ・ディール》を捨て、2枚ドロー!」

 

 それにリッチーの手札1枚が交差し、新たな弾丸となって補充された。

 

「もはやバトルは止まらねぇ」

 

 ゆっくりと歩み出た《魔弾の射手 ザ・キッド》は右手の銃を構え直し、倒れ伏す《真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)》にほぼゼロ距離で引き金を引いた。

 

 そして相棒たるカードと託されたエースの想いを継いだ《真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)》が爆散し、その衝撃が城之内を襲う。

 

「俺のスラッシュドラゴンがッ!!」

 

城之内LP:3300 → 1700

 

 相手に一杯食わされたと悔しさに燃える城之内はリッチーの手札を把握するべく頭を回すが――

 

――奴の手札に後何枚『魔弾』カードがあるんだ? クロスなんとか、なんちゃらディールに……あーッ!! 全部『魔弾-なんちゃら』だから、どれがどれだか分かんねぇ!!

 

 目まぐるしく変わるリッチーの手札に城之内の頭は全く追いついていない。

 

「《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》で《魔弾の射手 ザ・キッド》を攻撃だ!!」

 

「バカ、城之内! 奴の手札には!」

 

 先程痛い目を見たにも関わらず無謀に見える攻撃を敢行する城之内の姿に本田が慌てた様子で叫ぶが――

 

「今攻撃しなきゃ、どのみち次のターンで使われちまうだけだ! それに『魔弾』魔法・罠カードは1ターンに同じカードは1度しか使えなかった筈!!」

 

 城之内とて何の考えもない訳ではない。

 

「その通りだ! 俺はダメージ計算時『魔弾』モンスターの効果で『手札から』速攻魔法《魔弾-ネバー・エンドルフィン》を発動!」

 

 そしてそんな城之内に更なる迎撃を見せるリッチー。

 

「俺の『魔弾』モンスター1体の攻・守をターンの終わりまで元々の数値の倍にする! もっとも倍になる代わりにソイツでダイレクトアタックは出来なくなるがな!」

 

 悪魔の弾丸の力のよってその両腕を異形の悪魔の元へと変質させた《魔弾の射手 ザ・キッド》は脈動し始める二丁の拳銃で《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》を狙い打つ。

 

《魔弾の射手 ザ・キッド》

攻1600 守 200

攻3200 守 400

 

 さらにリッチーの一手はこれだけではない。

 

「そしてこの瞬間! 俺のフィールドの《魔弾の射手 ワイルド》の効果発動! コイツと同じ縦列で魔法・罠カードが発動したとき、墓地の『魔弾』カード3枚をデッキに戻し、デッキから1枚ドローする!」

 

 《魔弾の射手 ワイルド》がその大男っぷりに偽りのないような獣のような咆哮を上げ、地面に向けてランチャーの1発を放つ。

 

「俺は墓地の《魔弾-クロス・ドミネーター》・《魔弾-ネバー・エンドルフィン》・《魔弾-デッドマンズ・バースト》をデッキに戻して1枚ドロー!」

 

 そのランチャーによって爆散した地面から飛び散った墓地に眠る悪魔の弾丸――『魔弾』がリッチーのデッキに戻っていき、やがて1枚のカードが新たに手札に加わった。

 

 

 リッチーの手札が増えたということは当然、手札から突如として強襲する魔弾の脅威が増えたと同義。

 

 しかし城之内は怯まない。

 

「だが攻撃力は互角! 粉砕しろ! 《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》! メテオフレア!!」

 

 《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》から悪魔の力が籠った獄炎が放たれ、

 

「なら迎撃しろ! 《魔弾の射手 ザ・キッド》! クイック・デスペラード!!」

 

 《魔弾の射手 ザ・キッド》の二丁拳銃から悪魔の力が宿る弾丸が連射される。

 

 やがてぶつかり合い、弾丸は炎を突き抜け《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》を打ち抜いたが、その炎は勢いを留める事なく突き進み《魔弾の射手 ザ・キッド》を燃やし尽くした。

 

「済まねぇ、《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》! だが、お陰でヤツの手札を削れたぜ!」

 

 犠牲となった《ブラック・デーモンズ・ドラゴン》に詫びつつ、その犠牲は無駄にはしないと突き進む城之内。

 

 リッチーの使う「魔弾」カードは同名カードを1ターンに1度しか使えない。つまりリッチーはそろそろ城之内の攻撃を防ぐ手段が少なくなってきている。

 

「仇討といくぜ! 《メテオ・ブラック・ドラゴン》! 《魔弾の悪魔 ザミエル》を攻撃! メテオ・ダイブ!!」

 

 その事実に背を押された城之内の気迫に応えるように《メテオ・ブラック・ドラゴン》はその身を炎で包みながら《魔弾の悪魔 ザミエル》に向けて突撃する。

 

「まだだ! 『魔弾』モンスターの効果で手札から罠カード《魔弾-デスペラード》を発動! 俺のフィールドに『魔弾』モンスターがいるとき! フィールドの表側表示のカードを1枚破壊する!」

 

 だがその隣に立つ《魔弾の射手 ワイルド》が新たに担いだ巨大な大砲のような重火器が火を噴いた。

 

「《メテオ・ブラック・ドラゴン》には消えて貰うぜ!」

 

 その弾丸というにはあまりに巨大な一撃を受け、断末魔を上げる《メテオ・ブラック・ドラゴン》。

 

 

 そして煙が晴れた先にあるのは倒れ伏した《メテオ・ブラック・ドラゴン》の姿。

 

 

 ではなく、雄々しく翼を広げる黒き竜――《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》が赤い眼光を光らせていた。

 

真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)

星7 闇属性 ドラゴン族

攻2400 守2000

 

「なにっ!?」

 

「俺はチェーンしてコイツを発動させて貰ったぜ! 罠カード《メタバース》! この効果でデッキからフィールド魔法1枚を発動したのさ!」

 

 デジタルデータのようなものが城之内の背後で集まっていき――

 

「フィールド魔法《遠心分離フィールド》か!」

 

 リッチーの宣言を肯定するかのように《融合》のような渦が浮かんでいた。

 

「ご名答! コイツは融合モンスターがカード効果で破壊された時、その融合モンスターに記された素材モンスター1体を蘇生させる!」

 

 竜崎とのデュエルから学び取った城之内の一手がリッチーの想定を僅かに上回った瞬間であった。

 

「さぁ! 残りの手札で止めてみな! 行けっ! レッドアイズ!! 《魔弾の射手 ワイルド》を攻撃! 黒・炎・弾!」

 

 重火器を乱射する《魔弾の射手 ワイルド》に向けて《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》の黒き炎が降り注ぐ。

 

 そして火薬類に誘爆したのか巨大な爆発が《魔弾の射手 ワイルド》を覆った。

 

リッチーLP:4000 → 3300

 

「ぐぁっ!? くっ……少しばかりモンスターを減らされちまったな……」

 

「俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ! どんなもんよ!!」

 

 リッチーの布陣を一部砕いた城之内が最後の手札を伏せ、此処から逆転だと息巻いた。

 

「だが、そのエンドフェイズに《魔弾の悪魔 ザミエル》の効果が発動される!」

 

 しかしそう簡単に超えられる程にペガサスミニオンの壁は、リッチーの壁は低くはない。

 

「相手のエンドフェイズにそのターン俺が発動した『魔弾』魔法・罠カードの数だけ、デッキからドローする!」

 

 魔弾の力を授けていた《魔弾の悪魔 ザミエル》はその力の代償を取り立てるように高笑いと共に手を天にかざす。

 

「俺がこのターン使った『魔弾』魔法・罠カードは3枚!! よってデッキから3枚のカードをドロー!!」

 

 そして手により降り注いだ悪魔の光がリッチーの手札を一気に潤した。

 

「くっ……奴の手札が全然減らねぇ!?」

 

 

 城之内がギャンブルカードでリスクを取ってまでリターンを得ようとしているにも関わらず、リッチーとのアドバンテージの差は縮まる所か広げられていく一方だ。

 

 

「そして俺のターンだ。ドロー! 《魔弾の射手 スター》を通常召喚」

 

 《魔弾の悪魔 ザミエル》の隣にスッと降り立つのは踊り子のような衣装を纏う女ガンマン。

 

《魔弾の射手 スター》

星4 光属性 悪魔族

攻1300 守1700

 

「手札から速攻魔法《魔弾-ネバー・エンドルフィン》を発動! 《魔弾の悪魔 ザミエル》の力は倍増!!」

 

 《魔弾の悪魔 ザミエル》が持つ銃が禍々しさを増していく。

 

《魔弾の悪魔 ザミエル》

攻2500 守2500

攻5000 守5000

 

「さらに《魔弾の射手 スター》と同じ縦列で魔法・罠カードが発動したことで効果発動――デッキからレベル4以下の『魔弾』モンスター1体を守備表示で呼び出す」

 

 《魔弾の射手 スター》が踊り子のような衣装をクルリと翻した後に現れたのは――

 

「来いっ! 《魔弾の射手 カスパール》!」

 

 金髪を逆立てたマントの青年が異形の右腕で悪魔によって授けられた銃を握る。

 

《魔弾の射手 カスパール》

星3 光属性 悪魔族

攻1200 守2000

 

「お前の剛運もこれまでだ! やれ! 《魔弾の悪魔 ザミエル》! レッドアイズを攻撃しろ!!」

 

 《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》へと向けて銃を構える《魔弾の悪魔 ザミエル》。

 

「待ちな! その攻撃時、速攻魔法《ルーレット・スパイダー》を発動!」

 

 だったが、毒針が矢印になっているおもちゃのような蜘蛛が互いのフィールドに蜘蛛の巣代わりのルーレットを広げていく。

 

「ソイツが最後の一手か!」

 

「そうだ! 俺はサイコロを1つ振り、出た目によって効果を適用するぜ!」

 

 その効果は――

 

 1が出れば、城之内のライフを半減。相手の攻撃は止まらず城之内の敗北。

 

 2が出れば、城之内が直接その攻撃を受け、残りライフを守れない。

 

 3が出れば、自身の他のモンスターに攻撃対象を移すが、今の城之内のモンスターは1体――意味はない。

 

 4が出れば、相手の別のモンスターと戦闘させ、大ダメージを与えられ、

 

 5が出れば、その攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える一発逆転の一撃になり、

 

 6が出れば、その攻撃モンスター《魔弾の悪魔 ザミエル》を破壊し、この窮地を乗り越えられる。

 

 

 実質2分の1のギャンブル――そこまで分の悪い賭けではない。

 

「最後の大博打だ!!」

 

 その城之内の声と共に《魔弾の悪魔 ザミエル》の顔目掛けて《ルーレット・スパイダー》が飛んでいく。

 

 

 だが城之内の耳に銃声が届いた。

 

 

 そして眉間を打ち抜かれた《ルーレット・スパイダー》は地面に落下し、その動きを止める。

 

「カウンター罠《魔弾-デッドマンズ・バースト》発動――残念だがその博打には乗れねぇな」

 

 先の銃声の正体は《魔弾の射手 カスパール》が放った1発の銃弾。

 

「コイツの効果は『魔弾』モンスターが存在するとき、相手の魔法・罠の発動を無効にして破壊する」

 

 その銃弾が《ルーレット・スパイダー》を打ち抜き、その効果を無効化していた。

 

「なん……だと!?」

 

 驚愕に目を見開く城之内を余所に《魔弾の射手 カスパール》に打ち抜かれた《ルーレット・スパイダー》は光となって新たな銃弾――魔弾へと姿を変える。

 

「そして《魔弾の射手 カスパール》と同じ縦列で魔法・罠カードが発動したことでコイツの効果によりデッキから発動したカードと名の違う『魔弾』を手札に加える――俺は《魔弾-デスペラード》を手札に」

 

 その魔弾は当然リッチーの手札に舞い込んだ。

 

「あばよ、城之内――お前とのデュエル、中々にスリリングだったぜ」

 

 そのリッチーの言葉を合図に《魔弾の悪魔 ザミエル》の放った魔弾は《真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)》を容易く打ち抜き城之内を貫く。

 

「ちっくしょぉおおお!!」

 

城之内LP:1700 → 0

 

 最後に一人のデュエリストの悔し気な咆哮が天空デュエル場に響き渡った。

 

 

 






真紅眼の(レッドアイズ・)黒刃竜(スラッシュドラゴン)「自分、初の出番だったんですよ。城之内さんを象徴する2つの力が合わさり、華麗な活躍を見せると思ってたんですよ――なのに効果すら使わせて貰えないって(涙)」

魔弾の射手 カラミティ「出番があっただけ断然マシだろうがよォ!!」

魔弾の射手 ドクトル「その通りです! 出番のない我々の前で言う話ではない!!」


遊戯王Rでのリッチーのデッキはガンマン風デッキ――だったのですが、
漫画で使用したガンマンが1枚もOCG化されていなかったので

今作では無難に「魔弾」になりました(´・ω・`)ショボーン

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