「折本──」さて、この後に続く言葉は──   作:時間の無駄使い

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遅くなってしまい申し訳ありません。詳細は後書きに。


02

 * * *

 

 

 

 ──一色いろはサイド──

 

 先輩が今日、クリスマスイベントの会議に初参加するという事で、何となく私は浮かれていた。

 

 まだ先輩に好きとかそんな感情は抱いてないし、恐らくこの先もないと思う。

 

 でもまぁ、なかなかに代わりが効かない人ではあるから、手元に置いておきたい気もする。

 

 HR担任の解散の声に合わせ、直ぐに教室を出る。

 

 仕事がある時に友達から遊びの話を持ってこられたら、いろんな意味でたまったもんじゃないし、下手をすればあの先輩の事だから逃げられるかもしれない。

 

 だから私は、少し急ぎ足で二年生の教室がある階の廊下へと向かった。

 

 

 廊下へ着くと、空いていた窓から入って来た冬の冷たい風が私を出迎える。

 

 身震いしながらもその窓を閉め、廊下の目立たないところに立っていると、十秒しない内に先輩が出て来た。

 

「せんぱーい!」

 

 私が声を掛けると、明らかに表情を曇らせながら気付かないフリをして歩き続ける先輩。

 

 そして、私の横を通り過ぎ──させない。

 

 ガシッと腕を掴んで、グイッと引っ張った。

 

「うおっ!?」

 

 急に引っ張られた事で態勢を崩した先輩が私にもたれかかる様に崩れて来る。

 

「きゃっ!?…何ですか先輩私が引っ張ったのを言い訳にして女子の身体に触れようって作戦ですかやめて下さい正直キモイですってか何でそんなにきれいに胸のところに顔を突っ込んで──っ!?」

 

 いつも通り私が早口でまくし立てて居ると、顔を上げた先輩と目が合った。

 

 ──鼻と鼻が触れそうな、でも絶対に触れない微妙な距離。

 

「わ、悪ぃ!」

 

 状況を察した先輩が飛び退く様に後ろへ下がる。

 

「あ、いえ…。…って言うか今日の件、忘れてないですよね?」

 

 取り敢えず仕事の話題を出して誤魔化すと、先輩も便乗して来た。

 

「あ、ああ。…忘れてないぞ」

 

「そ、そうですか。…それじゃあ行きましょう」

 

 ──という事で、何かを犠牲にしながらも先輩を捕まえ、昇降口へと向かった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 一旦昇降口で先輩と別れ、そしてすぐ合流する。

 

「コミュニティーセンターの場所は分かりますか?」

 

「ああ。大体の場所だが」

 

 私は通学にバスを使っているので、バスでコミュニティーセンターまで行くのだが、先輩は自転車があるという事で、自転車で行く事になった。

 

「先輩、逃げないで下さいよ?」

 

「分かってるよ。…はぁ」

 

「溜め息を付くと幸せが一つ逃げるらしいですよ?」

 

「そうさせてんのはお前だけどな。…んじゃ、取り敢えず先に向かうわ」

 

「はい。後から行きますね」

 

 という事で再び先輩と別れ、現地で合流する事にした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 会場に着いて当たりを見渡すと、入り口の前に先輩は立っていた。

 

「お、来たか」

 

「遅くなりました」

 

「バスだししゃーねぇだろ。取り敢えず中入っていい?寒い…」

 

 そう言う先輩は、本当に寒そうにしてたので殆んど二つ返事で反射的にどうぞと答え、二人して中に入る。

 

「…ってか、寒かったのに何で外で待ってたんですか?」

 

「…お前から見える位置に居ないと帰ったって疑惑付けられそうだったから」

 

 むっ。

 

 …でも、確かに否定は出来ないかも…。

 

 

 そのまま少し歩いて、とある一つのドアの前で止まる。

 

「そこか?」

 

「まぁ、…そうなんですけど。…覚悟、しといた方がいいですよ?」

 

 私は、それだけ言うと混乱する先輩を置いて先に入る。

 

「こんにちは~」

 

 笑顔を作って、それからいつもの、先輩に言わせればあざといと言う声で、あいさつをする。

 

「やぁ、いろはちゃん!」

 

 すると、海浜総合(むこう)の生徒会長が、すぐに反応を返して来た。

 

「少し遅れちゃいました~?」

 

「まだ開始時間まではあるさ。それに僕たちは有意義でユーズィフルネスな会議を行う必要があるからね」

 

「……はぁ」

 

 結局、今日もこの調子だ。

 

 この間も、──と言うか一番最初の会議から、この生徒会長はこんな調子で何言ってるのか分からない言葉を言っている。

 

 しかも、このままだといろんな意味で時間が無い。

 

 それは分かっている。

 

 でも、動けないでいた。

 

「せーんぱいっ!」

「うおっ!?」

 

 相手するのも面倒になり、取り敢えず先輩に逃げる。逃げるが勝ちだ。

 

「…ど、どした」

 

「えーっと、この後の事なんですけど──っ!?」

 

 ──ゾクッ。

 

 先輩の腕に身体を絡める様に抱きついていると、急に冷たい視線を感じる。

 

「お、おい、一色?」

 

「えっ?…あー、な、何でもないです」

 

 先輩から離れて当たりを見回すも、視線の送り主は見当たらなかった。

 

 

 

 * * *

 

 

 そして、事件が起こったのは会議終了後、逃げ帰ろうとする先輩を引き止めた直後の事だった。

 

「あれ?比企谷?」

 

「おう、折本か」

 

 ──見ず知らずのカワイイ系の女子が先輩に話しかけたのだ。

 

 これを事件と言わずしてなんと言う。

 

 しかも先輩は先輩でどこか楽しそうにその女子と会話してるし…。…じゃなくて!

 

「…あ、あの、先輩?…誰ですか?この人…」

 

 思わず指をさして訊いてしまった。

 

 でも、それくらいに衝撃的だった。

 

 だって、雪ノ下先輩や由比ヶ浜先輩と話している時も、独特の雰囲気があって、先輩も無意識なんだろうけど、その雰囲気に落ち着いていたんだと思う。

 

 だから、奉仕部での先輩は、普段の学校生活での先輩よりは自分をさらけ出している。

 

 でも、この人との会話は、なんて言うんだろうか。…互いに隠してない感じ──隠す必要もない、みたいな雰囲気があるし、先輩は本当に楽しそうにしている。…それこそ奉仕部以上に。

 

 

 ──だけど、返って来た返答は、もっと私を驚かせるものだった。

 

「私?私は折本かおり。…えっと、比企谷の親友」

 

 

 

 * * *

 

 

 

「──────は?」

 

 思わず、いつもの可愛い私を貼り付けることすら忘れ、地の──しかも大分低い声で、え?何言ってんの感全開で言ってしまった。

 

 その証拠に、私達に話しかけようとしていた玉なんとかの顔は百面相し、身体は固まっているのに顔だけ表情が変わるという奇妙な図が出来ていた。……いや、冗談抜きに気持ち悪いんでどっか行って下さい。

 

 だって、あれほど何回も何回も何回も友達が居ないって言い続けて来た──豪語していた先輩に、あろうことか親友と名乗る人…しかも女子が居たのに、驚かないわけがない。

 

「先輩友達居ないってあんなに言ってたじゃないですか!?何ですか親友って!?…しかもそれが女子とか聞いてないです!!」

 

「嘘は言ってないだろ……」

 

 ……それはアレですか?先輩。

 

 親友であって友達じゃないからとか言うどうしようもないいい訳じゃないですよね?

 

「……お二人はこのあと時間ありますか?」

 

「まぁ、あるけど…」

「お俺はこの後──」

 

「じゃあ時間ください!納得できません!」

 

 ──という事で、私は先輩と折本さんと一緒に、別の場所へ移動することにした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──その後なんやかんやがあって先輩と折本さんが本当に親友だと言うのを行動から示された私は、終始呆気に取られたまま、結局解散した。

 

 先輩も、折本さんも、何も言ってないのに何かを差し出したり、逆に回収したり。とにかく言葉が必要ない関係だということを、嫌というほど理解させられた。

 

 あんな人が居たのに今まで友達はいないと言い張っていた先輩が本当に謎だけど、恥ずかしかったんだろうと勝手に結論づけてその疑問は忘れることにした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──比企谷八幡サイド──

 

 そんな事があった日の翌日。

 

 今日も平日なのでいつも通りの道をいつもの時間帯に通り、そして学校へと着く。

 

 どんな時間に学校に着いたところで俺に話しかけて来る奴はかろうじて由比ヶ浜くらいなので、基本どの時間に行っても問題ない。

 

 それは朝に限った事ではなく、由比ヶ浜と一色というイレギュラーさえ除けば、基本俺は一人だ。

 

 だから、今日も、いつも通り一人で過ごし、そして放課後にまで辿り着いた。

 

「起立、礼」「ありがとうございました」

 

 特になんの変哲もない最終時限を終えると、三浦たちと話している由比ヶ浜を置いて一人で奉仕部へと向かう。──とは言ったものの、いつも一人で奉仕部へ行くからいつもと変わらないと言えばその通りだ。

 

 特別棟と教室棟をつなぐ渡り廊下を越え、階段を上がり、奉仕部に着く。

 

「……うっす」

 

「あら?比企谷君にしては早いじゃない。どうかしたの?教室に居場所が無かったとか?」

 

「居場所が無いのはいつもだ。今日は寄り道しなかったし一色にも捕まらなかっただけだ」

 

「まぁ、そんな事はどうでもいいのだけれど、由比ヶ浜さんは?」

 

「三浦たちと一緒に居たぞ」

 

 そこまでの簡単なやり取りを終えると、いつもの様に椅子を持って来て座る。

 

 パラッ…パラッ…

 

 本をめくる音だけが部室に鳴り続け、一切の会話すらない。

 

「やっは…ろー…」

 

「あら、由比ヶ浜さん」

 

「相変わらず遅いな、お前」

 

 静かだった雰囲気に呑まれたのだろう。しりすぼみのやっはろーを放ちながら遅れて入って来た奉仕部部員その二(俺の扱いは備品だから奉仕部備品その一らしいぞ?)は、いつもの位置に椅子を持って来て座る。

 

 その後はいつも通り、雪ノ下が由比ヶ浜の雑談に付き合わされるという構図が、しばらく続いていた。

 

 ──彼女が来るまでは。

 

 

 コンコンと言う音が鳴り響き、由比ヶ浜にじゃれつかれていた雪ノ下が、

 

「どうぞ」

 

 と応える。

 

 するとドアがガラガラガラとゆっくり引かれ、奉仕部に久しぶりの依頼者がやって来た。




この間のいろはすの誕生日。
あの日に私もいろはす短編を一話、三十分弱で書き上げた即興で考えたものを投稿させて頂きました。
そして、そのSSを見た方は分かると思うんですが、私自身が三月に卒業し、四月に入学し、新しく環境が変わり…といろいろとありまして、俺ガイルのみならずその他アニメから離れ気味でして、正直執筆に身が入りません。
その為、どんどん更新速度が遅くなっていく可能性があります。
また、以前に前、後書きに書いた様に、作者の身は相変わらず不安定ですから、いつ更新が止まるかも分かりません。

ですので、本編を読んで下さってオリキャラのルートが欲しいと言って下さった皆様には申し訳ありませんが、先に本編のAS(アフターストーリー)を書かせて頂きます。

六月頃までには何とか俺ガイルを執筆できる状態に戻すので、それまでの支援、よろしくお願いします。


因みに、いろはすのSSも無駄使い戦線で検索すれば当たります。
身が入らないのに書いたので稚文も稚文で極まっています。


もう一つお知らせ。

こちらもまた最近進んでいませんが、冴えカノのSSを手始めに書こうと思っています。
と言うか正確に言えば、卒業直後から書き始めて、入学しても書き終わらず、環境が変わって書けなくなってしまい、現在に至ります。

アニメ全般から離れているので、それを引き戻す材料くらいにはなると思っています。投稿したらこっちで報告します。

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