「折本──」さて、この後に続く言葉は──   作:時間の無駄使い

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 お久しぶりです(二連続)。

 今現在無駄使い戦線で調べて頂ければ分かる事ですが、最近暫く艦これを書いていまして、それと同時に相変わらずというかなんというか。書く気が起こりませぬ(ここ重要)。

 よって、(いつもですが)不定期で行きます。



 そしてここから今回の説明。

 去年末から再びこの話を書き始めるに当たって、前に書いた事を思い出す為にASのみを読んで書き始めた訳ですが、今書いている奉仕部編の雪ノ下と比企谷の騒動についてなんですが、どうやら本編の方で簡易的にではあるものの解決していたらしく、その事実に気付いたのが今回の執筆直前で、慌ててその他を確認して、色々と修正しながら、今回の話を書きました。

 これに関係するASの話が既に五話くらいある為、一部を消して書き直すのは現実的では無いと判断し、今までの話を変えずに馴染ませる方向にシフトしました。

 無理矢理なので違和感があるかもですが、もしあればご報告下さい。この一話程度ならば変更は出来るので。


09(36)

 * * *

 

 

 

 ──雪ノ下雪乃サイド──

 

 …私は、一体どうしてしまったのだろうか。

 

 比企谷君とは、簡単な折り合いを付けた筈ではなかったのか。──奉仕部のあの部屋で、互いに納得したのではなかったか。

 

 ──何故、私は姉さんにここまで言わせても尚、こんな状態になっているのだろう。

 

 比企谷君と折り合いを付け、解決した。──筈だったのだ。

 

 比企谷君はそういう人なのだ、という形で納得した筈だ。それなのに…いや、その後からか。私が『狂い始めた』のは。

 

 最初は、比企谷君の事を考えていると、どうしようもなく落ち込んだ。…それが段々と、悪化していって、遂には今に至るまでになってしまった。

 

 もしかしたら、その『折り合い』が原因なのではと、最近思っている。より正確には、『折り合い』によって生まれた『解決』が、原因なのでは、と。

 

 あの時、私と比企谷君の間にあった溝を不自然な形で『解決』したからこそ、私は次の問題──時系列的に言えば、前の問題に気が付いてしまったのだ。

 

 

 ──私が、彼を傷付けたという事実に。

 

 

 これに気付いてしまったからこそ、私は『壊れて』しまった。

 

 そこまで分かっていながら、何も出来ない私に、私は心底苛ついている。

 

 …この間だって、彼に伝えようとしたのだ。……それ以前に、身体が受け付けてくれなかったから、駄目になってしまったけれど。

 

 しかもそれ以降、あの母親が私を外に出さないように手を回しているし、由比ヶ浜さんに連絡を取ろうにも、彼の話題を切り出せずに終わってしまうのがいつもだった。

 

 ──ここまで分かっていて、…この現状が理解できていて、それでも尚動くことが出来ない。

 

 

 端的に言ってしまえば、怖いのだ。

 

 彼に拒絶される事が。

 

 

 奉仕部でのあの時、結局のところ彼は考えを変えてくれはしなかった。…私が折れて、それにより辿り着いた決着。

 

 彼が折れなかったというのは、言い換えれば折れた私とは違うという事。──相違えたという事だ。

 

 そんな違えた(たがえた)相手に拒絶される事が、どうしようもなく最上に怖いのだ。

 

 …彼に、私がそこまで固執する理由も、彼がそこまで魅力的な人間でない事も知っては居るが、それでも尚、私は今動けていない。

 

 ………失敗とは、恐らくはこういう事だ。

 

 折本さんに口論で『敗れ』、恐らくは想いですらも『敗れ』た。そして、大事なものを『失った』。

 

 失ったそれを、友達と呼べるのかという若干の疑問を抱きはするが、他人ではないのは確かだ。…そう、他人ではないのだ。由比ヶ浜さんも然り。姉さんだって、他人ではない。──いつか彼と話した、『周りには他人しか居ない』という事について、彼がどう捉えたかは知らないけれど、少なくとも彼を含め奉仕部付近の人間は全員、赤の他人とは言えないだろう。

 

 そうして失ったものを取り繕うため、行動して、結果としては埋める事に成功した。──埋めたそれを示すならば恐らくは、『言動』という概念だろう。

 

 今までの私の一挙一動をもって、その溝を埋めた。…が、その埋めたものの中にもまた、溝があったのだ。

 

「…ごめん……なさい」

 

 何に対して?──そんなの、彼に対してに決まっている。…そして、今さっき、目の前で激を飛ばしたこの私の姉に対しての意味でもあるけれど。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「…ごめん……なさい」

 

 私がそう言うと、姉は喉を詰まらせたように短く息を吸い、同時に苦い顔をする。

 

「……比企谷君を傷付けて、それを理由に自己嫌悪に浸ってたのは…分かってるわ……。いつの間にか忘れてしまっていたけれども」

 

「…なら、何で動かないのよ。雪乃ちゃんはいつも一人で解決してきたよね。今回も同じじゃない」

 

「…………違うわ。私は一度だって一人で解決した事なんてないのよ。貴女に甘え、比企谷君に煽られて、由比ヶ浜さんに助けられてきただけだもの。でも今回は、その比企谷君が相手だし、私の自己満足に由比ヶ浜さんを巻き込む訳にもいかないもの」

 

「自己満足って、分かってはいるんだね。……どう?満足いくまで自分を嫌悪し続けた気分は」

 

「……………」

 

「貴女に取って言えば、彼との関係を元に戻したい。でも、嫌悪し続けた自分の身体が、意思に関係なく関係なく拒絶するようにまでなっていて、寧ろそっちの方に囚われているのでしょう?──自己満足でそんなにしておいて、再び自己満足の為に今度は周りまで巻き込んでる」

 

「っ……!」

 

「羨ましいよね。どの面下げてるのか知らないけれど、被害者面して、閉じこもってれば周りが守ってくれるんだもの。…まぁでも、守られ過ぎて、出られなくなった挙句コンタクト手段まで失ってるし。それに彼は彼で大迷走してるし」

 

「コンタクト手段はまだ失って無いわ」

 

「残念。私が無意味にそんな事を言ったとでも思ったのかな?──由比ヶ浜ちゃんは勿論、首を突っ込みたがる隼人までもが比企谷君と決別しちゃいました。…これに関しては手は出してないけどね」

 

「なっ…!?」

 

「やっぱり知らなかったんだね。…でも、事実だよ。彼の側に残っているのは、津久井ちゃんと折本ちゃん、後はいろはちゃんって言ったような気がするあの子と、小町ちゃんだけど、小町ちゃんには私がパイプ通してあるから、事実上いろはちゃんだけでしょ?」

 

 ──姉が淡々と説明していくのを聞きながら、私は焦っていた。

 

 刻を置くば置くほど、状況が悪化している。

 

 このままでは、本当に奉仕部が瓦解し兼ねない。…その上、学校へ行っていないこちらとしては、受験期である今、勉強を休む訳にはいかず、行動を極端に制限されている事も重なり、動くことが出来ない。

 

 ──八方塞がりに輪を掛けて、詰みに詰んでいた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──由比ヶ浜サイド──

 

 今目の前に居るこの人は、一体どう答えるだろうか。

 

 奉仕部としての活動は、去年末を最後にほぼ無い。ここのところ五週間位は、全く無かった。

 

 本来なら部活は既に終わっているこの時期。

 

 だから、私の言う部活というのも、正確には部活ではなく、『集まり』という点で指したものだけど、それでもやっぱり変わらず、全く無かった。

 

「俺は…、俺には……、────奉仕部は必要ない」

 

「ちょっ、比企谷!?」

「比企谷君!?」

「…………………………………………………………………は?」

 

 ──それでも、この答えだけは信じていたけれど、

 

 この一言で、私の期待は完璧に打ち砕かれた。

 

 …目の前のこの、マイナス方向に飛び抜けている事を踏まえてどこにでも居ない人は、今確かに、否定した。

 

 私と彼が繋がっていられる、唯一の架け橋を落としたのだ。

 

 それはつまり、私と…そしてゆきのんと関わりたくないという意思表示。問答無用に言い訳の余地なく否定されていた。

 

「…そっか。……分かった」

 

 私はそれだけ言うと、その場を走り去った。

 ヒッキーの横を通り過ぎる時、一瞬折本さんと目が合う。

 歪んだ視界ではよく確認できなかったけれど、微かに途惑いの表情を浮かべていたようだった。

 

 とにかく今は、ここに居たくなかった。

 必死で走って、とにかく逃げた。

 

 認めたくない気持ちと、認めたからこその行動。

 

 矛盾している私自身に気付かない私ではなかったけど、今走っているこの足を止めることを、結局モールを出るまでは出来なかった。

 

 

 ──私は、どこで間違えたのかな。

 

 

 そればかりを考えていた。

 

 ゆきのんと友達で居たかった。

 そして、ヒッキーとも。

 

 それでも今、現状としてこうなってしまった。

 

 少し前から知ってはいたけど、私があのスタバでヒッキーを避けて以来、ゆきのんと話をする事はあっても、ヒッキーと話す事は殆んど無くなっていた。

 

 学校でヒッキーと会えば、それこそ挨拶はするものの、それ以外に会話は無かった。ヒッキーは何か言いたそうにしていたような気もしなくは無いけど、もうそれ以前の問題になってしまった。

 

 …ゆきのんも、こんな感じだったのかな。

 

 『あの時』のゆきのんも意地を張ってこうなってしまった。

 

 ──でも、ゆきのんは私と違って、ちゃんと仲直りしていた。…ヒッキーに拒絶させるまでには、至ってなかった。

 

「……何で…なんだろうなぁ……」

 

 暑い陽射しの中、蒼い空を見上げる視界は歪んでいて、小さく浮かぶ雲の形は、判断出来なかった。


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