君の名は・失われた刻(とき)を求めて   作:JALBAS

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ずっと、脇役が絡んだドタバタ劇だったので、今回は2人だけで幸せなひと時を……
とは、いかないんですよね!2人には、記憶を取り戻すという大事な使命があるんだから。
後半には、また少しお遊びを入れさせてもらいました。
新海作品を見続けてる方には、分かりますよね?




《 第七話 》

 

今日は、仮病を使って会社を早退した。

三葉を迎えにいくまでの間に、最低限はアパートの中を綺麗にしておくことと、折角三葉を招待するのだから、久しぶりに腕を振るって、イタリアンで持て成してやろうと思った。イタリアンレストランでのバイド時代に、見よう見まねで覚えた、数々のレシピの出番だ。親父と一緒に暮らしている時はよく作ったが、1人暮らしになってからは、張り合いがないので殆ど作っていなかった。

 

掃除と料理の下ごしらえを終え、俺は、駅まで三葉を迎えに来た。

約束の時間までは、まだ1時間程あるが……やはり、改札を抜けて、こちらに駆けて来る人影が……

「瀧くん!」

相変わらずの、1時間前行動だ。

 

三葉を連れ、アパートに戻る。

リビングのテーブルに彼女を座らせ、俺は料理の最終仕上げにに取り掛かる。三葉は手伝うと言ったが、“お客は黙って座ってるもんだ”と言い聞かせた。それと……

「うわあ~っ!すごい!これ、みんな瀧くんが作ったの?」

この声を、聞きたかったというのもある。

「どうぞ、召し上がれ。」

2人で食卓に付き、早速食べ始める。

「いただきます!」

そして、三葉の第一声は、

「お……おいしい!まるで、プロの料理人が作ったみたい!」

思わずニヤけているのが、自分でも分かる。ここまで喜んでもらえると、こちらも時間をかけた甲斐がある。

「つ……次は……私が、瀧くんに料理を作ってあげ……たいな……」

ちょっと恥ずかしそうに、三葉が呟く。

「ん?ああ、た……楽しみにしてるよ!」

「うん!」

楽しい夕食を終え、レモンティーで一服した後、自分の部屋に三葉を案内した。

いつもは服を脱ぎ散らかしているが、今日は、きちんと片付けておいた。Hな本は、クローゼットの奥にしっかり隠して、逆にクローゼットの奥に放置してあった、例のスケッチをまとめたファイルを、机の上に出しておいた。

三葉は、もの珍しそうに、きょろきょろ部屋の中を見渡している。

 

これが、男の人の部屋……私の男友達は、テッシーくらいしかいないし、テッシーの部屋には入ったことはないから、男の人の部屋に入るのは初めて……の筈だけど……何故だろう?前にも、ここに来たことがあるような気がする……

 

呆けていると、瀧くんから、例のファイルを手渡された。私は、渡されたファイルゆっくりと開く。

「わあ~っ!」

思わず、声が出てしまう……そこには、あの頃の糸守があった。

彗星の落ちる前、私達が、毎日あたりまえのように生活していた、あの時間が……

「す……凄い……」

絵がうまいというだけでなく、その糸守の風景には、生命感があった……まるで、自分があの頃の糸守に戻っているような……不思議な感覚だった。

糸守湖、神社の鳥居、宮水神社、糸守高校……それだけでは無い、1日に数本しか電車の通らない踏切や、町のあちこちの風景、テッシー手製の簡易カフェまで……

 

すごい、これみんな瀧くんが描いたの?残された、災害前のわずかな写真から、こんなにもリアルに……え?

次の絵を見て、ページをめくる私の手が止まる。

「こ……これって?……」

そこにあったのは、私の部屋の絵だった。

 

ど……どうして?私の部屋の写真なんて、資料に残ってるわけがない!

まさか?瀧くんが、私の部屋に来たの?いつ?……そういえば、さっきは何気なしにスルーしたけど、テッシー手製の簡易カフェなんて、殆ど、私達しか知らない筈……災害前の、糸守の資料になんて載ってない!

 

「どうかした?」

瀧くんが、心配そうに横から私の顔を覗き込む。

「た……瀧くん?い……いつ、私の部屋に来たの?」

「え?……こ……これ、三葉……さんの部屋なの?」

「そうやよ!……こんなに正確に……実際に見てないと、描けへんやないの?」

「そ……そう……なのかな?」

「うん!……ほ……他の景色も、そうやけど……」

「だ……だけど……覚えてないんだ。どうやって、このスケッチをしたか?何を見て、描いていたのか?」

 

俺は本当に、災害前の写真を見て、この絵を描いたんだろうか?

確かに、あの頃、糸守関係の資料を調べまくったのは確かだけど……わざわざ、その写真を摸写したりするだろうか?

何のために?……それは、このスケッチを頼りに、糸守を探すため……だったら、糸守とは知らずに描いたことになる。以前に行って、見た景色を……

まてよ、知らないなら、行ったことがあるわけがない……堂々巡りだ。

 

「た……瀧くん?」

 

どうしよう……また、瀧くんが固まっちゃった……私が、あんなこと言ったから……

でも、どうして瀧くんが、私の部屋を知ってるのか?すごく、気になるし……

 

「ねえ……瀧くん?」

「……ん?……な……何?」

「瀧くん……本当に、糸守に行ったのは、5年前が初めてやの?」

「え?」

「中学生の頃……私と、電車で初めて逢ったすぐ後に、一度、来てない?」

 

俺が中学生の時に、三葉に逢いに?……

そんな記憶は、全然無い……忘れているだけなのか?

糸守へは、4~5時間もあれば行けるが……

 

俺は、学校が終わった後、大急ぎで駅に向かい、電車に飛び乗った。

まだ秋とはいえ、その日はかなり冷え込んでいた。そのため、岐阜では大雪になっていて、電車は、何度も雪で足止めをくらう……

時間は、無常に過ぎていく……8時半頃には着ける筈だったのに、目的の駅に着いたのは、夜の11時過ぎだった。

もう、彼女は待っていないと思った……でも彼女は、駅の待合室で、達磨ストーブの前で震えながら待っていた……

 

てか、おい!それは、何年か前に見た映画の話だろ!

だいたい、糸守の場所を、その時は知らなかった筈なんだから……

糸守に……もう一度、糸守に行ってみれば、何か思い出せるかも……

 

「なあ?三葉……さん?」

「は……はい?」

「週末に……ふ……2人で、糸守に行かないか?」

「え?!」

 

糸守に?!た……瀧くんと?

ふ……2人で出かけるのは、凄く嬉しいんだけど……い……糸守には……

 

「……」

三葉は、急に黙り込んでしまった。以外だった。記憶を取り戻すため、すんなりと同意してくれると思っていたから。

 

私は、彗星災害で住む家を失ってから、一度も糸守に行っていない。

どうしてか分からないが、行く気になれなかった……あんな目にあったから、その時の辛さを思い出すのが怖かったのか?……違うような気がする、何故か、無意識に糸守を避けているような……

 

「ど……どうしたの?三葉……さん?」

「え?う……うん、わ……わかった。え……ええよ、一緒に行こう!」

 

何か……怖い……

で……でも、やっぱりあの時のことを……知りたい!思い出したい!

それに……怖くても、瀧くんが……瀧くんが、一緒だから……

 






改変された歴史での、瀧の糸守探しの旅までの流れを、少し考えてみました。
彗星落下の歴史は変わらないから、入れ替わりは変わらずに起こりますよね?変わるのは、彗星落下当日から。
そうなると、当日に、入れ替わりが起こらなければいけない。でも、元々この日は入れ替わりは起こらない……となれば、歴史改変後も、御神体に行って瀧が口噛み酒を飲む歴史は変わらない。その時点で、三葉が生きていても……
さて、いよいよ、舞台を糸守に移して……話は、クライマックスへ……

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