君の名は・失われた刻(とき)を求めて   作:JALBAS

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どうも、第二話です。
今回は三葉側、
邂逅の後の彼女の葛藤、記憶を探る話です。

前回の瀧同様、同僚が出てきますがあえて名前を付けませんでした。
本編に出てきた出演者以外は、極力キャラを増やしたくないので。




《 第二話 》

 

“……たきくん!”

 

心の中で、呼び続ける……

 

“……たきくん!”

“……たきくん!”

 

でも、いくら呼んでも彼は私に気付かない。集中して、単語帳を読んでいる。目の前で見詰めていても、心の声は届かない。私は勇気を出して、声を出して呼びかける。

「たきくん!」

「え?!」

はっとして我に返ると、目の前にはきょとんとした同僚の顔があった。今は昼休みで、私達は食堂で迎え合わせで昼食を取っていた。その最中、私は一人トリップしてしまっていたようだ。

「誰?“たきくん”って?」

「え……い……いや……あの……」

私は、言葉に詰まる。自分では見えないが、多分顔は真っ赤だろう。

「はは~ん……三葉にも、ついに春が来たのかな?」

彼女は、最高の獲物を見つけたような笑みを浮かべ、私に顔を近づけて来た。

「で、どんな人?お仕事は、何してるの?何処に住んでんの?いつ出逢ったの?」

いきなり、マシンガンのような質問の嵐。

「い……いや……だから……あのね……」

私はたじろいで、満足に言葉を返せない。でも、そうでなくても、彼女の質問には殆ど答えられない。だって、まだ彼のことを何も知らないのだから。

 

何処に住んでいるのか?お仕事は、何をしているのか?

どんな人なのか……いや、それは知っている……筈だ。でも、思い出せない……

 

と、その時、私のスマホの着信音が鳴った。

 

た……助かった!

 

正に天の助けだと思い、私は立ち上がる。

「ご……ごめん電話や!た……たぶん四葉やと思う……こ……この話は、また今度ね!」

そう言って、私は駆け足で食堂を後にする。ただ、あまりに慌てていたため、つい方言が出てしまっていた。

食堂を出て、直ぐにスマホを取り出して着信表示を見る。

 

“?!”

 

驚きで、一瞬足が止まる。そこに表示されているのは、

『―― 立花瀧 ――』

「た……瀧くん?!」

いきなりの電話に、動揺する私。

 

連絡をくれるとは言っていたけど、まさか直接電話をくれるなんて……

ま……まだ、心の準備が……で……でも、早く出ないと……

 

そう思いながら、辺りを見回す。昼休みなので、人の行き来が激しい。

 

ここじゃまずい!

 

少し移動して、目についた会議室の中に飛び込んで、急いでドアを閉め、カギを掛ける。

そして、被り付くように電話に出る。

「は……はい!み……宮水です!」

『あ……た……立花です。いきなりすみません。えっと……今、時間大丈夫ですか?』

「はい!だ……大丈夫です!」

興奮して、少し声が上ずってしまっている。

『こ……今夜のことなんですが、み……宮水さん、退社は何時頃になるでしょうか?』

「は……はい!えっと……定時は5時ですので、その時間には終われます。はい!」

結局、その後は待ち合わせの場所を決めるだけで、会話は終わった。本当は、せっかく電話を掛けてくれたのだから、もっといろいろなことを聞きたかった。でも、言葉が出なかった。彼もそうみたいで、用件だけ済んだら、直ぐに電話を切ってしまった。

私は、しばらく会議室のドアにもたれかかったまま、既に会話の終わったスマホの画面を見つめていた。

 

もっと、知りたいな……彼のこと、瀧くんのことを……

 

 

午後の仕事は、瀧くんのことが気になって、殆ど手につかなかった。しかし、呆けて彼のことを考えていることもできなかった。同僚が、隙あらばさっきのことを追及しようと、終止目を光らせていた。私はそれを避ける為、見かけだけでも忙しくて、手が離せない様に振る舞わなければならなかった。

 

定時終了のチャイムが鳴った。

私は、大急ぎでデスクを片付け、バッグを持って事務所を駆け出す。

「ちょっと、三葉?」

同僚が、私を呼び止める。

「ご……ごめん、四葉と約束があるの。い……急ぐから……」

当然嘘だが、その場はそれで逃げ切った。

ロッカーで超特急で着替えを済ませ、慌てて会社を飛び出す。その後は、駆け足で駅に向かう。駅に着いても足は止めずに、改札を抜け、ホームに駆け上がる。そして、今にも発車しようというタイミングの電車に飛び乗った。

そこで、ようやくほっと息をつく。ここまで来れば、誰に呼び止められることもない。

帰宅時間のため電車は満員だが、急いで来たのでまだラッシュのピークには達していない。座席は空いていないが、朝のぎゅうぎゅう詰め状態では無く、立っている人達の間にかなり余裕がある。

私は乗った側と反対側のドアの方に寄って、座席の横の手すりに摑まる。目の前には、中学生と思われる男の子が立っていて、必死に単語帳を見ている。

私はまた、瀧くんのことを考え始める。

 

確かに、私は以前に彼に逢っていると思う……でも、どうしても思い出せない……

どこで?どうやって、出逢ったの?

 

その時、電車が大きく揺れて、私はバランスを崩した。よろけて、目の前に居た男の子にぶつかりそうになったが、逆にその子が私の肩に手をあてて支えてくれた。

「ご……ごめんなさい!」

「い……いえ、大丈夫ですか?」

その子は、優しく声を掛けてくれた。私はもう一度お詫びとお礼を言って、ちょっと恥ずかしかったので、少し離れて座席の方へ行き吊り革に摑まった。

その時、突然頭の中に、何故かずっと忘れていた光景が思い浮かんで来た。

 

『覚えて……ない?』

『誰?お前?』

 

……あ……あの時の……あの男の子が、瀧くん?

 






ということで、今回はここまで。
二人の記憶が戻るとき、まず何から最初に思い出すのかなと考えて、やはり初めて直接顔を合わせたときの記憶が蘇るのではないかと思いました。

でも、これだけ思い出してもとうてい運命の人とは思えませんよね。
さて、二人はどうやって記憶を取り戻していくのか……次回に続きます。

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