君の名は・失われた刻(とき)を求めて   作:JALBAS

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まずは、原作映画のエンディングからの続きです。
二人の第二の物語は、ここから始まります。




《 第一話 》

 

通勤電車の中で、並走した電車の窓越しにお互いの姿を見掛けて、探していた何かを見つけたと直感した瀧と三葉。

引き合うように次の駅で電車を降り、走り回ってお互いを探し回る。

そしてようやく、須賀神社の石段の上と下で、二人はお互いの姿を見つける。

瀧は、ゆっくりと階段を登り、三葉は、ゆっくりと階段を降りる。互いに意識し合っているものの中々声が掛けられず、二人はそのまますれ違ってしまう。しかし、階段を登り切ったところで、瀧が、ついに口を開く。

「あ……あの……」

その言葉を待っていたかの如く、三葉は足を止める。

「お……俺、君と何処かで逢ったような……」

振り向いた三葉は、その言葉に、涙を流しながら答える。

「わ……私も……」

瀧の目にも、涙が流れる。

そして、二人同時に問い掛ける。

『君の名前は?』

直後に、瀧が続ける。

「た……瀧……立花瀧です。」

続いて三葉、

「み……三葉……宮水三葉です。」

 

“み・つ・は”……何故だろう、俺は知っている。その名前を知っている。

でも、いつ?どこで聞いた?それに、自分で言ったように、彼女とは以前どこかで会った気がする。いつ?いったい何処で?……思い出せない……

 

“た・き・くん”……知っている。私は、その名前を知っている。

ううん。知っているように思える。でも、いつ?どこで聞いたの?私も、彼に以前どこかで会った気がする。だけど……だめ、思い出せない……

 

ようやく声をかけ、名前を聞くところまでは良かった。しかし、その後俺たちは考え込んでしまった。何か話掛けないとと思うが、言葉が出ない。

 

だいたい、どんな話をすればいいんだ?

知っているような気がするだけで、俺は彼女の事は何も知らない……

 

お互い笑顔で名前を言い合ったのに、いつの間にか、互いの表情も険しくなっていた。

 

何か話さなくっちゃ……

そう思うのだけれど、何を言えばいいの?

私は、彼を知っているような気がする。でも、実際は何も知らない。

何処に住んでいるの?どんな仕事をしているの?どんな事が好きなの?

 

しばらくの間、沈黙が続く。本当の時間ではものの数分だったかもしれないが、俺達にはその沈黙が何時間にも感じられた。

このままでは辛いと思い始めた時、その静寂を、俺のスマホの着信音が打ち破った。

俺は慌ててスマホを取り出す。

 

や……やばい!

 

発信者は、俺の上司だった。

「は……はい!た……立花です。」

『立花!今何処にいる?今日は朝一から大事な会議があるから、10分前には来いと言っておいただろ!』

「も……申し訳ありません!え……えっと……その……わ……忘れ物をしてしまって。い……一旦家に戻ったので……い……今から、直ぐに行きます!」

とりあえず、即興で適当な言い訳をして電話を切った。とにかく今は、急いで会社に行かなければ。そんな慌てふためく滑稽な俺を見て、ようやく彼女の顔が和らいだ。そして俺も、ようやく言葉を発する事ができた。

「み……宮水さん、ごめんなさい!お……俺、直ぐに会社に行かないといけないので……」

その言葉を聞いて、彼女もはっとして言う。

「は……はい!そ……そうですね!私も、会社に行かないと……」

俺は、階段を彼女のところまで駆け下りて、スマホを差し出して言う。

「も……もし宜しければ、連絡先を交換してもらえますか?あ……あと、今日の夜とか、もう一度会えないでしょうか?」

「は……はい!よ……喜んで。」

俺の言葉に、条件反射のように彼女は自分のスマホを差し出した。

俺たちは、赤外線でお互いのアドレスを交わした。そして、夜の予定については後でメールで連絡することを伝えて、その場は別れた。

 

 

 

「はあ~っ!」

目の前に積まれた、山のような資料を眺めながら、俺はため息をついた。

会議に遅れた罰として、今週中にこの資料をまとめて、レポートにして提出しなければならない。だが、資料を見ながら、俺は別のことを考えていた。もちろん、今朝会った彼女、宮水三葉のことを……

 

“み・つ・は”……確かに、この名前を知っている。そして、彼女も知っている……筈だ。

でも、いつ?何処で会ったんだ?何で、今迄思い出すこともできなかったんだろう?……

 

いくら考えても、答えは出て来ない。そうしている内に、だんだん気が遠くなってきた……

 

『……くん……』

『……きくん……』

『……たきくん!』

 

誰かが、俺の名を呼んでいる。

女の声だ……ひどく懐かしく、安らぎを感じるこの声は……誰の声だろう?

 

『覚えて……ない?』

 

“?!”

 

ぼんやりと、声の主の顔が浮かんでくる……しかし、ぼやけていてよく顔が分からない……

『……たきくん!』

『……たきくん!』

「たき!」

「たきーっ!」

 

へ?

 

突然、俺を呼ぶ声が、男のダミ声に代わる。はっすると、目の前に、安らぎを感じることが難しい同僚の顔があった。

「いつまで寝てんだ?もう、チャイム鳴ったぞ。メシ行こうぜ!」

どうやら、考え込んだままうたた寝をしてしまったようだ。

「あ……ああ、もう昼か……」

寝ていたせいか、頭が今ひとつすっきりしない。

「わ……悪い、先行っててくれ。直ぐに、行くから……」

そう言って、俺はひとまずトイレに行って顔を洗った。ハンカチで顔を拭いて、鏡を覗き込む。まだ、頭がすっきりしない。そうしている内に、また眠けが襲って来る。

さっきの続きのように、頭の中に女の子の姿が浮かんで来る。

 

『名前は、“み・つ・は”……』

そう言って、女の子は自分の髪を纏めていた紐を解いて、俺に翳す。

俺は、翳された紐の先を掴む……

 

そこで、はっと我に返る。

 

“み・つ・は”……そうだ!確かあの時……

 






いかがでしたか?
どうも私の個人見解では、出会って直ぐに記憶が戻るというのは納得ができなくて。
また、いくら昔から知っているような気がするからといって、いっぱしの社会人がいきなり初対面の人と、旧知の友のようにずけずけ会話することはできないのではないかと思い、こんな展開になりました。
これは私が意地悪なだけかもしれませんが、簡単には幸せにさせません。(笑)

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