ある日突然中世フランスに   作:満足な愚者

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ノリと勢いとノリとノリで書いた。
後悔はしていない。


プロローグ

なぁ、少しだけ話を聞いてくれないか?

 

ある一人の男の少しだけ頭の悪い話だ。

 

……あぁ、悪い。すまん、いきなり、嘘ついてしまった。

 

“少し”ではなく、“かなり”頭の悪い話だった。

 

あぁ、話が少しだけっていうのは間違いないぜ。なんて言っても、三行にも満たない話だからな。

 

まぁ、とりあえず、聞いてくれよ。直ぐに終わる。

 

『ある男が、ふと気づいたらフランスにいた。しかも、過去の』

 

どうだ、短いだろう?

 

そして、非常に頭の悪い話だ。俺だってそう思う。

 

そこの病院に行けって言っているアンタ。それは正解だ。俺だって、そんな話を聞かされたら、そいつの精神状態を疑ったのちに、しかるべき病院に掛かれって言うね。時と場合によっては救急車まで呼ぶかもしれん。ネット上にゴロゴロ転がっている異世界冒険物でも、もう少し手が込んでいるってもんだ。でも、実際問題、事実はこうなのだがら仕方がない。

 

あぁ、勿論ここまで話したら分かると思うが、このある男って言うのは俺のことな。

 

だから、これは俺の体験談ってわけだ。

 

もう少しだけそのことについて語る時間を貰えるんなら少しばかり語っておきたい。別にこの話を信用するか、しないかはこれを聞いているアンタら、次第だ。ちなみに俺なら信用しない。素人が書いた小説でももう少しましなストーリーになるだろう。こんな三流小説以下の話を誰が信用するというのだ。

 

おっと、話が逸れたな。閑話休題、では、話を戻そう。そう、あれはここから言うと未来の極東の国、俺の生まれ故郷である日本のある地方都市から始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別にその日は特筆して語るような日ではなくいつも通りのある日だった。まぁ、もしも何か付け加えるとすれば良く晴れた日の事で、星が良く見えたのを何となく覚えている。

 

そんなある日の夜、ふとコーヒーが飲みたくなった俺はコンビニまで缶コーヒーを買いに行くことにした。そして、首尾よく目当てのブラックコーヒーを買ってコンビニを出ると――

 

――いつの間にか森の中にいた。

 

ん? 意味が分からないって?

 

大丈夫、当人の俺だって未だに意味が分かっていない。だけど、こう言うほかないんだ。

 

コンビニを出るとそこは森の中だったってね。

 

別に強い風が吹いて目を瞑ったとか、流れ星が落ちて来たとかそんなフラグは一切なく、ただ“気付いた”時には森の中だった。

 

ちなみに付け加える必要はないかも知れないが、そのコンビニが森の中にある一風変わったコンビニという訳では無論ない。俺の下宿先から徒歩一分。ベッドタウンで周りはマンションが立ち並ぶ。

 

曲がりなりにも俺の暮らしていた地方は地方都市とは言え、日本でも上から数えたほうが早い位には発展している。森まで行こうと思えば、車で結構な時間を揺られないととてもじゃないが森なんて言うものに辿り着かない。

 

そして右手を見ればコンビニのビニール袋。中身は言うまでも無くブラックコーヒー。

 

回りを見渡せば木、木、木。

 

しかも、可笑しなことにコンビニに向かったのは夜の九時を少し回った所だったと言うのに、何故か日は高く、木々の隙間から日光が差していた。

 

――まぁ、そんなことはどうでもいい。

 

いや、まぁどうでもよくはないが、この時ばかりはもっと別の事が気になっていた。

 

コンビニのレジ袋を確認するついでに、視界に入った服装をもう一度確認する。

 

まぁ、コンビニに行くだけだったのでただの部屋着だ。黒いTシャツに茶色の短パン。

 

服は確かにそのままだ。しかし――。

 

何故か肘までしか無かったTシャツの袖が何故か手首まであるし、そしてシャツの丈が俺のひざ下まであり、まるでワンピースのようだ。そして、ズボンに限ってはその役目を終えたかの様に地面に転がっていた。

 

――可笑しい。明らかにおかしい。

 

周りも可笑しいが俺自身も可笑しい。

 

試しに“大きい”コンビニ袋を持っていない、左手をグーパーと握ったり、開いたりしてみる。

 

うん、いつも通りに動く。動きは問題ではない。問題なのは“大きさ”だ。

 

明らかに“ダボダボ”のシャツに、ウエストが閉まらな過ぎて地面に落ちたズボン。そして、いつもより体の割合に対して“大きすぎる”レジ袋。

 

以上から導き出される結論は――

 

「なんだこれ……」

 

口から出た声は甲高かった。ちなみに俺は日本人男子の平均身長よりも数センチ背は高く、声もどちらかと言うと低い声だ。だから、こんな風にまるで“声変わり”する前の子供のような声は出せない。

 

「なんじゃこりゃあああああああああああああああ!?」

 

日本ではお目にかかれない原生林に甲高いソプラノの声が響き渡る。

 

以上がこのフランスに来ての最初の記憶だ。

 

何の因果か俺は推定(3,4歳)になってこのフランスにやって来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ、それから先、ここまでの事は少しばかり端折って書いていこう。

 

何でって? 別に面白いことも特にないからだ。俺みたいな文才のない人間が特にエピソードもない内容を書くと大抵は時間と紙の無駄で終わってしまう。だからまぁ、なんだ、時間があるときにでも、書くとしよう。

 

あれから、いつの間にか森にいた俺は近くにある村に住む老夫婦に引き取られることになった。

 

あぁ、ちなみに俺がここがフランスだって気が付いたのはその老夫婦に教えて貰ったからだ。最初は何を言っているのかさっぱりだったのだが、一緒に暮らして行くうちにそれが彼らが話している言語がパリに行ったときに聞いたフランス語に似ていると気づき、いつの間にかフランス語が話せるようになった。ついでに、言えばイギリスと戦争をしているおかげで英語も少しは話せる。

 

日本にいた時には考えられなかったが、英語、フランス語そして日本語。合計で三つの言語が話せるようになってしまった。人間死ぬ気でやれば何とかなると言うが、どうやらその言葉は本当のようだ。

 

閑話休題。話が逸れたな。

 

そんなこんなで老夫婦に引き取られた俺なんだが、その老夫婦が非常にいい人だったらしく、俺のような黒髪黒目のよく分からん子供をまるで実の子供の様に可愛がってくれ、そして文字まで教えてくれた。間違いなく俺の命の恩人だ。俺がこの村に馴染めたのも、この老夫婦のおかげで間違いない。

 

そんなこんなで老夫婦の下に引き取られ、5年の歳月がたった。俺も成長して、身長も伸びた。今では10歳程度だろうか? 老夫婦の手伝いで農作業をよくするせいか、体も引き締まり、日本にいた時では考えられないような筋肉質になった。是非この健康体のまま成長していきたい。

 

そして、この村に住み始めて五年。今ではすっかり村の一員として認められ、村の子供たちともよく遊ぶようになった。

 

「おにーちゃんっ!」

 

ノックもなしに急に開けられたドアの音にペンを動かす手を止めた。

 

「どうしたんだ、ガキんちょ?」

 

聞き慣れた声に後ろを振り向けば、見慣れた顔。つい先日五歳の誕生日を迎えたばかりの彼女は勝手知ったる他人の部屋とばかりにトテトテと俺のもとに近づく。

 

この地域では珍しくもない短い金髪に、碧眼。顔はとても整っており今からでも将来が楽しみで、どことなく活発な印象を受ける。ちなみに、その印象は間違ってなく、いつもは大抵畑か森で遊び回って洋服から顔から髪から全てを泥だらけにして、両親に怒られるのが彼女の日常だった。

 

「ガキんちょじゃないもん! ジャンヌだもんっ! そして、私はレディだもんっ!」

 

「はいはい、で、どうしたんだ今日は?」

 

はいはい、と適当に頭を撫でていなしてやれば、ニパァと笑顔になるジャンヌ。

 

どうして隣の家のジャンヌが俺の部屋に来たのか、なんて聞く意味はない。どうせ、うちの親父とお袋がいつも通りニコニコと迎え入れたのだろう。そして、ジャンヌなら二人がいようがいまいが、俺の部屋なら無断で突入する。

 

「うんっ。今日お兄ちゃん手伝いないって言ってたから遊びにさそおーと思って! お兄ちゃんは何してたの?」

 

ジャンヌは背伸びをして俺の机を覗き込む。俺が自作で作ったこの不格好な机はジャンヌの身長だと背伸びをすればどうにか机の上が見えるくらいの高さだった。

 

「うわー、文字がいっぱい……お兄ちゃんが書いたの」

 

「あぁ」

 

「凄いね、お兄ちゃん! もう文字も書けるんだ! 私なんて最近習い始めたばかりで……お兄ちゃんの文字なんて書いてあるか読めないよ」

 

まぁ、それはジャンヌだけでなく、この国の殆ど、いや下手をすると全員が読めない可能性がある。だって、これはフランス語でも英語でもなく、“日本語”だから、な。

 

「まぁ、ガキんちょもこれから勉強すればそのうち読めるようになるさ」

 

「そうかなー……私、勉強大っ嫌いだから」

 

そう言えばコイツ、聞いた話によると勉強が嫌でよく外に逃げて遊んでいるらしいな。

 

まぁ、確かに机に座ってお勉強というよりかは、外で泥団子作っている方が似合っている気はする。

 

「あっ、勉強の話は置いといて! お兄ちゃん、みんな待ってるから早く行くよ!」

 

ジャンヌは待ちきれないとばかりに俺の腕をつかみ、引っ張る。

 

「今日はドンレミの村を冒険だ!」

 

上機嫌で鼻歌まで歌っているジャンヌに引っ張られながら、最初に書き足しとくべきだった言葉を思い浮かべる。帰ったら書き足しとかないと。

 

――ここは、フランス東部の村、ドンレミ。そして、俺の手を引き楽しそうにスキップしているのはジャンヌ。俺の妹分だ。まぁ、今日はそれさえ覚えていってもらえたらそれでいい。

 

 

 

 


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