ムーリ長老の的確な指導で修業がはかどるとはいえ、正真正銘ツーノ長老の村の住人であり肉体労働従事者である以上、オレにはツーノ長老の命令に従う義務が生じる。
3日に1回はムーリ長老の村に遊びに行っているのだが、まあ、大目に見てくれているようだ。まあ、そんなわけで貯まった肉体労働の仕事を、文字道り腕力で解決していく。
植林しようとする場所の大岩を動かす。実際は転がした方が楽なのだが、修行の一環として持ち上げて運ぶ。
ドボン!
海に放り投げる。
「はあ、はあ、はあ…」
さすがにキツかった。気の強化無し。筋力オンリーで運ぶには限界がある。というかこれは岩じゃなくて小さな丘じゃん?水に沈みきれずそのまま小島になってるものを見ながら、エネルギー補給に水を飲む。海水だけど塩味はしない。
水面に映る自分を見る。
どうみてもナメック星人(太)です。
いや、そりゃ緑のナメクジ人間だから美形とか無理なのはわかるけどよ。ピッコロさんとか(こっちではネイルか?)的な、スリム系を希望しちゃだめかね?
まあ、太いせいか力もあるし、細くなるから筋力はボッシュートとか言われると嫌だけど。修行してさらにデカくなっているせいか、今に顎が割れるんじゃないだろうか?
まあ、この世界は「ただしイケメンに限る」による優劣はないからな。なんせ、性別は男オンリーでソロで生む卵で増える植物人間だしな。
あれ?もしかして、オシベとメシベもないから植物ですらないのか?
休憩を終え、次の仕事の為に村に戻ると、そこにツーノ長老がいた。
「おお、帰ってきたか。ルンガ。少し手伝ってくれるか?」
「おう。なにをすればいいんだ?」
休憩なしだが最近はもう慣れた。ツーノ長老もそれが正しいと思っている。あれ?これって段階的なサービス残業増加フラグか?ブラックビレッジの出来上がりか。
「水を引くための水路を掘ってほしいんじゃ」
「ため池からでいいのか?」
「うむ」
とりあえずため池まで飛んで、そこからエネルギー波(超手加減)で、地面に穴をあける。そして、そのままエネルギー波を出しながら移動して15分程度で水路(おおざっぱ)ができた。
「…」
呆然とそれを見るツーノ長老。
なんだ、横着したのを怒ったのか?別に、手で堀ったって変わらないだろ?
「…ルンガ。見事な気の使い方だな」
「え?ああ、どうも」
なんだろう。なんか、すっごい久しぶりにツーノ長老に褒められた気がする。
「ムーリの指導か。あ奴め…」
なにか思案気なツーノ長老。なになに?嫉妬?嫉妬か?若い才能を開花させるのが、自分じゃなくて他人だとムカムカ怒りがわいてきますか?
ポカリ!
痛てぇ。長老様。武器は反則ですよ。
「ルンガ。座れ」
とりあえず、言われたように座る。長老も隣に座ると、薄オレンジ色をした空を見上げながら遠い目をする。
「よいか。このナメック星は緑あふれる命豊かな星だった」
知っているよ。もう耳にタコができるよ。
この星にタコいないけど。ちなみに、カエルはいる。将来のギニュー君だ。
「だが、この星は避けえぬ脅威にさらされた。それは、ドラゴンボールを持つナメック星人が避けられない脅威であったのだ」
言われてみれば、ドラゴンボールがあるのに、対処できない災厄ってなんだろう?「私の力を超えている」とかなんとかって、もうどんな願いもかなえるの定義が崩れているような…
「それはな。ルンガ。罰だからじゃ。繁栄した我々ナメック星人は、傲慢と欲という悪にとらわれた。多くのナメック星人の心に悪が生じたのだ。我々は災厄を前にした時、それに気が付いた。故に、災厄を受け入れる事を選んだのだ」
そういえば、ピッコロ(神)も悪の心で大魔王作っていたしな。まあ、最後は正式名称マジュニアで悪の心(笑)になったけど。
「僅かなナメック星人は災厄の時、宇宙に避難した。あるいは、別の星へと旅立った。しかし、多くのナメック星人は、この星にとどまり災厄を受け入れる事を選んだのだ」
そして、長老は己の両手を見る。皺だらけの、干からびたような、細い手だ。
「よいかルンガ。力は、たやすく悪の心を植え付ける。今のこのナメック星に、力なぞ必要ない。それが、わしの考えじゃ。ムーリなどは、昔の活気あるナメック星を望んでいるのだろう。それが正しいか間違っているかはわからん。もしかしたら、ワシの方が間違っているのかもしれん」
そして、眉間に皺を寄せたまま目を閉じる。なにを苦しんでいるか俺にはわからなかったが、それでも、ツーノ長老はそのまましばらく何かを韜晦していた。
「最長老様は高齢だ。いずれ、この世を去る時が来る。そうなった時、次の最長老はわれらの誰かから選ばれるだろう。ワシか、ムーリか、あるいはほかの誰かか。その時、わしらの意見は分かれるかもしれん。その時はルンガよ…」
ツーの長老は目を開き、肩に手を置いて、正面からオレの目を見る。
「お前は、選ばなければならん」
「…」
「力は安易でわかりやすい解決方法だ。お前が望まなくとも、誰かがその解決法を選んだ時、力を持つものは、いやおうなく選ばねばならなくなるのだ」
お説教の時のような、苦い顔ではない。何か思い出したくない事を思い出しているような、愁いの浮かんだ瞳にオレは返事もできなかった。
「安易に選択すれば、それを後悔する時がくる。いや、どれを選んでも最後は後悔するのかもしれん。しかし、自分で選ばなければ、他の何かに責任を委ねようとする。それは心の弱さ。その弱さが悪を呼ぶのだ」
「なぜ、オレにそんな話を?」
「お前が最長老様の子であり、われ等の年若き弟であり…」
そこで、ツーノ長老は言葉を切った。しばし思案の後、ツーノ長老は俺を見て言葉を続ける。
「かつて悪の心を持ち、それ故に命を奪わねばならなくなった兄弟の名を持っておるからだ」