ナメック星人奮闘記   作:シムCM

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15話 無謀なる挑戦

描写ってやつがオレは嫌いだ。

 

アニメ版のドラゴンボールとか、木々が揺れ、風が吹いて雲が渦巻き、衝撃波が周囲を襲う。陳腐化されるような描写だ。どんなときの描写か。そりゃ、巨大な力が激突するときの描写だな。

 

そして現在、オレは海中を気を使わずに、泳いでいる。

というか、海中フリークライム?

泳ぐなんてできないんだよ。雲が逆巻くような超自然災害が起こっている海中なんだぞ。海流とか、もう洗濯機の中みたいな感じだし、衝撃波って空中マップで起こったからって水中マップでキャンセルしてくれないんだよ。

激突の衝撃波が来るたびに、崩れる海底にしがみつき、海流にもまれながら力技で前に進む。

砕けた岩にあたるわ、激流にもまれるわ、吹き飛ばされるわ。

素の身体能力が常識はずれに上がっているので、通常の物理攻撃くらいなんでもないのだが、衝撃波の余波がきつい。

さらに、近づけば近づくほど威力が増すわけで、どんな苦行だよ。

 

さて、俺がこんな苦労をしている理由は、なんと言うことはない。フリーザが、ナメック星破壊デスボールを放つ瞬間に、それをはじき返そうという作戦なのだ。

 

無謀だな。

 

自覚はある。だが、この短時間でできる事なんてこの程度しか残されていなかった。超サイヤ人時の悟空は戦闘力は上がっているが、初期はうっかり属性が付与されている。原作のナメック星破壊デスボールに、ポルンガを前に先に願い事を言われちゃう二連続「しまったー!」だ。

 

この計画の最初の難関。それは、あいつらの戦闘が、天下一武闘大会のリングみたいに決まった大きさじゃない事だ。当然威力が上がれば吹っ飛ぶ大きさも変わってくるわけで、広大な領域を縦横無尽に突っ込むわけだ。

オレは、気を消して高速移動ではなく、通常移動(物理)でベストタイミングに、フリーザの下にスタンバイする必要があるわけだ。

 

だが、一つだけ優位な点があった。さっきの高速移動中に聞こえたベジータ達の会話。

別に会話の内容が重要なわけではない。ナメック星人の人間離れした感覚だ。

フリーザ様も実はロマンチストなのか、ナメック星を壊す前に会話をする流れになるはずだ。いくら戦闘力が上がってスピードが増しても、会話速度まで速くなるわけではない。

つまり、そのわずかな会話のときに、フリーザの真下に移動する。

そして、デスボールを弾き飛ばす。

これしかない。

 

これしかないんだよなぁ…

 

そして次の難題が、やはりオレの戦闘力。というか気のコントロールだ。

オレは急激に戦闘力を増したインチキみたいな方法で、この力を得ている。戦闘型に作り替えられた自分の持つ気の力を完全にコントロールしているわけではない。

フリーザと戦った時も、暴走気味に全力投球しているだけだ。

それで、ある程度対抗できたのだからすごいのだが、短期間に一気に戦闘力をマックスまで跳ね上げるようなZ戦士みたいな事はできない。

 

移動しながらゆっくりと体の中に気を貯める。

上空で戦う孫悟空に感知され、気を散らさない様に、完全に隠せるようにコントロールできる気を隠しながら貯めていく。

 

【よいか、急ぐ必要はない。結果は同じなのだ。どう進もうと、到達する事に変わりはない。自分にできる事。それを見定めなければ、到達する結果しか残らん。過程と努力がないがしろになる】

 

仲間たちと車座になって気のコントロールをしていたころのムーリ長老の言葉が頭に浮かぶ。その教えの通りに、コントロールできる気を貯めて、少しずつ大きくしていく。

 

【急ぐなルンガ。急げば雫がこぼれるぞ。焦ればより多く零れる。先が長いから急がねばらならぬのはお前の中での話。確実に進むめば必ず目的には近づく。その時お前の持つ水はどうなっておる?お前のするべきことは何だ?】

 

水を運ぶときにツーノ長老が言った言葉。

ああ、なんてことはない。二人は最も基本的なところで同じなんだな。

 

冷たい水の中で、体の中が少し暖かくなる。雫一つ漏らさぬコントロールの元、自分のできる最大限を見極めて、時間をかけて、体の中の気がゆっくり、だが確実に大きくなっていく。

 

 

オレの頭上で二つの巨大なプレッシャーが止まった。

そして、最後にして最大の難関。

 

巨大な光が降ってきた。

 


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