あべ☆こべ   作:カンさん

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ネタが降ってきたので投下


第五話 変わるモノ/変わらないモノ

 人は変化と密接な関係にあると思う。

 例えば季節。

 少し前までは長袖の服が鬱陶しく感じていたほど暑い日々が続いた夏だが、今はそれも過ぎ去り冷たい風が吹く秋がやってきた。しばらく経ったら冬がやって来て防寒グッズが手放せない日々が続くことは明らか。

 で、何が言いたいかというと、俺も日々変化しているというわけだ。最近牛乳の効果が表れたのか2センチほど伸びていた! そのことをかがみ姉さんに報告したら顔を真っ赤にして怒られた。そして他の人に絶対に言うなとも。

 

 この世界に来てから、前の世界との変化に戸惑い、未だに慣れない日々を過ごしている俺だが、その変化に対応してきた。我ながら適応力が高い人間だと思う。

 

「その辺どう思う?」

「よく分からないけど、調子に乗らない方が良いと思う」

 

 しかしそのことを人に伝える力は無かったようだ。

 

 

 第五話 変わるモノ/変わらないモノ

 

 

「あっ、そう言えば柊さん。今日修学旅行の写真の集金の日だけどちゃんと持ってきた?」

 

 友達の若瀬さんと雑談をしていると、ふと彼女はそんなことを聞いてきた。

 ああ、そう言えば一週間前のことを思い出す。確か放課後に先生たちや写真部の子たちが撮った修学旅行の写真を見て、欲しいのを選んだっけ。で、欲しいヤツだけの分のお金を今日持ってくるという話だった。

 

「うん、持ってきたよ。ほれこの通り」

「おー。柊さんちょっと抜けているところがあるから忘れているかと思った」

 

 心外な。

 笑いながらそう言う若瀬さんに抗議の視線を向けるも「なんなら柊さんの天然ボケエピソード言ってあげよっか?」と言われてしまい引き下がる。

 心当たりがありすぎて言葉では勝てなさそうだからだ。

 話題を変えるべく俺は少し気になったことを言った。

 

「でもさ、正直選ぶの大変だったわ。何・故・か俺の写真がいっぱいあったからねぇ」

 

 特に海での写真が……ね。それも色々と際どい感じのがかなりの数。

 俺がそう言うと写真部であろう女子生徒が肩を大きく揺らして、明後日の方向を見ながら口笛を吹く。比率が6対4ってどういうことだよ。ちなみに6は俺の水着写真、4はその他ね。流石に俺もドン引きしたわ。

 

「ははは……で、でも思い出の写真がたくさんあって良いんじゃない?」

「それでも限度があるよー……それに」

 

 俺は知っている。いや、知ってしまったというべきか。

 俺の水着写真の発注数が滅茶苦茶多いということを。

 明らかに同じ班の人が注文したとは思えないほどの人数が、水着写真を注文したことに。

 被写体が俺だから色々と予想できるが……これがもしこの世界の一般的な男子生徒だったら訴えられる可能性がある。またはトラウマになって転校か不登校に。

 そんな俺の気持ちを読み取ったのか、若瀬さんは一言「どんまい」と慰めてくれた。

 

「でも気持ちは分からないでも無いかなー」

「え? それってどういう意味?」

「好きな人の写真が欲しいっていう気持ち。男女問わずそういう気持ちを抱いている相手だったら手に取っちゃうみたいな?」

 

 なんだかんだと文句を言ってはいたが、前に俺も好きな子の写真を一枚もらった時があった。流石にその子の水着写真を取るようなことはしていないけど、「キモイ」とか「あり得ない」と斬って捨てるには共感している。

 だから我慢するというわけじゃないけど、少しだけ気持ちは分かる、というわけだ。

 

「…………ひ、柊さんもそういう相手居るの?」

 

 そんな風に昔を思い出していると、クラスメイトが話しかけてきた。

 そのクラスメイトは嫌に目がギラギラとしており……いや、よく見ると周りのクラスメイトたちもこちらを凝視していた。

 な、なんだいきなり?

 ちょっとした恐怖を感じながら俺は頷いて答えた。

 

「いや、今は居ないよ」

「あ、そうなんだ。居ない――今は?」

 

 ――その後、何故か男子女子関係なく俺は根掘り葉掘り尋問された。頼みの若瀬さんは機能停止に陥り、結局授業が始まるまで拘束された。

 そしてその日のうちに『柊キョウには昔女が居た』という噂が広まった。

 ……どうしてこうなった!?

 

 

 

 

「それって自業自得じゃない?」

「ばっさり斬りますねこなたさん……」

 

 と、先日起きたちょっとした出来事をこなたさんに話したところ、次のように返ってきた。

 しかし実際言う通りなのでグゥの音も出ない。

 かがみ姉さんにも何をしているんだお前はと呆れられた。

 何気にその反応の方が気になったりする。

 

「で、実際のところどうなの? 逆ハーレム築いていたの?」

「築いていないです」

「でも(おとこ)ゲーだとテンプレなんだけどね。大抵ヒーローに惚れているヒロインたちは嫉妬するよ。キャラによっては病む」

 

 ちなみに(おとこ)ゲーは俺視点で言うと乙女ゲーに当たる。ギャルゲーの場合はボーイゲー。

 異性に対して警戒心の高いこの世界の男性だが、恋愛には興味津々だ。そのせいで噂が瞬く間に広がったんだけどね。

 でもエロに発展するのは意外と少ない。あってもキスくらいまで。

 ……いや意外でも何でもないか。18歳以上になったら男性には結婚の義務が生じる。もし決まらなかったら見合いを何度もさせられ……。

 多分そのストレスの反動が異性に対する過剰な警戒心になっているんだろう。精子提供の義務もそれに拍車がかかっている。

 ……まぁ、自分の知らない所で娘または息子ができているっていうのは少し怖いか。昔はそれによって提供者の元に訪ねて『認知しろ』と殴り込みに行った女性が結構居たとか。今はそういうの無いけど……。やっぱりそういう風になったのは重婚制度のせいかなぁ。全然機能していないけど。

 

「?? どったの?」

「いや、この国の法を考えてまして」

「……なんで漢ゲーの話からそこまで飛躍するの?」

 

 いや、本当ね。

 

「話が逸れましたけど、戻しますよ?」

「うん。確か若瀬さんとやらのようすがおかしいんだっけ?」

「はい。一緒に登下校している時もご飯食べている時も何処か上の空で……」

「……別に放っておけば良いんじゃない? そのエロゲの主人公ちゃん。多分今イベント中なんだよ。ほら、ヒーローとの親密度を上げるための」

「あからさまにやる気削がれないでください。こんなこと姉さんたちには相談できないんです」

 

 ちなみに今かがみ姉さんとつかさ姉さんたちは神社の方に行っている。

 この時間を狙っての相談だったのだが……失敗だったかなー。

 

「いや、現実はクソゲーって言うじゃん? そんなマゾゲーするくらいならリセットした方が良くない?」

「……つまり?」

「リア充爆発しろ。もしくはその主人公埋まれーって感じ?」

「埋まれって何物騒なことを……」

「……」

「……? どうしたんですか?」

「いや、一般人とそうじゃない人種(オタク)の違いを見せつけられたような気が」

 

 どういうことだろうか? 何となく意味は分かるけど、どうやらまだ理解できていない部分があるらしい。……って。

 

『パタンキュー(アナゴボイス)』

『へへっ、実力が違うよ!(某野菜王子ボイス)』

「ああ、また負けた……」

「ふっふっふ。キョウくんも結構良いところまで行っているけど、まだまだだね」

 

 スライム的なぶよっとしたキャラクターを消していくゲームをこなたさんとしていたんだが、これで5連敗。家族の間じゃあ一番強いんだけど……どうやら上には上が居るもんだな……。というかこなたさん本当に強いな。普通にあの子よりも強くないかこれ?

 

「で、話戻すけどさ」

「はい」

「色々言いたいけどさ……キョウくんはかがみんの言う通り凄く変わっていて、それこそ漫画やアニメから出てきたみたいな男の子だよ。無防備で、女の子に対して偏見なくて、オタクな趣味に寛容で、クーデレで、ツッコミ持ちで、脱力系で、良くナンパされてその度にかがみんに助けられる王道も忘れない高性能」

「こ、こなたさん?」

 

 なんか途中からおかしくなっている気がする。

 

「でもさ、そんなキョウくんにも無い属性があるんだよ。だからこそこうやって悩んでいるんだろうねー」

「……嫌な奴ですよね、俺」

「さー、どうだろう。それはそれで魔性の男として私は萌えるけど――キョウくんは別に目指していないんでしょ?」

「……」

「それに、()()()()()()は女からだと思うんだよね。だからさ……待ってあげよう。その友達のことをさ」

 

 俺はコントローラーの操作をする手を止めて、こなたさんの方を見る。

 テレビから激しい光とSEが響いて俺のキャラがボコボコにされていくが、それを気にする余裕は無かった。

 先ほどこなたさんが俺に向かって言った言葉。それが俺の心に強く刻まれて存在感を示していく。

 視線を感じたのか、こなたさんもゲームから目を離してこちらを見る。

 家族以外とはあまり合わせない綺麗な瞳に俺の顔が映る。そして彼女はにっこりと笑う。

 そんなこなたさんを見て俺は――。

 

「――それ、先週見せてくれたアニメの台詞の引用ですよね」

「あ、やっぱりバレた?」

「分かっていて使いましたよね……」

 

 しかも結構的を得ているから困る。少しだけジーンと来てしまってなんだか悔しい。

 何だろう、この感覚。感動を返せと言いたい……。

 

「でも、少しだけ気が楽になりました。アニメの台詞で解決したのがアレですけど……」

「アニメとは、先人の熱き想いが宿った魂なのだよキョ○子!」

「SOS団には入りませんよ。てか性別違うし」

 

 前の世界じゃあ合っていたけど。

 

 

 

 

「へー、やっぱりクサイのねー」

「でも、私はちょっと気に入っていたり……」

「おおっ! つかさって結構渋い趣味してんじゃん!」

 

 かがみ姉さんとつかさ姉さんたちが帰宅し、その後は四人でゲームをして今は休憩している。

 そうやって時間を潰していると、ふと思い出したことがあった。

 確か昨日まつり姉さんに頼まれて作ったアレがあった気がする。

 時間もいい感じで小腹も空いたし、丁度良いかな。

 

「よいっしょっと」

「? どうしたのキョウちゃん?」

「うん。ちょっといい時間だからあれを出そうと思って」

 

 そう言って俺は台所に向かって冷蔵庫から例のモノとジュース、牛乳とコップを持って姉さんたちの元に戻る。すると戻ってきた俺が手に持っていたモノを見た姉さんたちは「なるほど」と納得し、こなたさんは戦慄した表情を浮かべた。……いや、なんでだよ。

 

「キ、キョウさん。それは……」

「いや、普通のクッキーですよ――昨日つかさ姉さんと俺が作った」

 

 ガクブルと俺の持っているクッキーを指さして聞いてくるこなたさんに、俺はつかさ姉さんとの合作だと答えた。

 するとこなたさんの体の震えが徐々に増していき――。

 

「――ヒーローの手作りお菓子イベントキター!」

『!?!?』

 

 突然叫んだ。いや、壊れたというべきか。

 興奮からかこなたさんの頬は赤く染まり、その状態のまま語りだした。

 

「まさかこんなベタかつ誰もが羨ましがったイベントに遭遇できるとは! こりゃあエロゲじゃあ専用CGが用意されて――」

「どっせい!」

「おふっ!?」

 

 ズビシッとかがみ姉さんの鋭い手刀がこなたさんのアホ毛を潰しつつ叩き込まれる。まるで昭和の壊れかけのテレビを直すかのような正確な角度かつ強さで衝撃を与えた。それによって暴走しかけていたこなたさんは強制的に停止した。

 さて、こっちはかがみ姉さんに任せておいてっと。

 

「大事な一人の弟をエロゲネタにしないでもらえる?」

「うー……いやでも女なら誰もが求めるシチュだよ?」

「気持ちは分からんでもないが、アレ見ろアレ」

「アレ……?」

 

 

 

「つかさ姉さん落ち着いて」

「でもねキョウちゃん。今こなたちゃんから危険なにおいがしたんだ。ちょっとお話した方が良いと思う」

「はいはい。これ食べて落ち着いてねー?」

 

 そう言って俺はつかさ姉さんの口にクッキーを放り込む。するとその甘さに顔を綻ばせるも、すぐに瞳に危ない光が灯っていく。……あと三回必要かな?

 

「……」

「何か申し開きは?」

「反省はしている。後悔はしていない!」

「キョウ。つかさ離して良いらしいわよ」

「ちょ、ちょっと待てかがみん! 謝るからユルシテ!」

 

 

 

 ――で。

 

 つかさ姉さんと俺自作のクッキーを皆で食べることに。

 元々俺がまつり姉さんに頼まれて作ったものだが、ちょっと作りすぎてしまって困っていたり……。ちなみになんで作らされたかと言うと、単純に賭けで負けたからというどうでも良い理由だったりする。つかさ姉さんが手伝ってくれたからそこまで負担じゃあなかったけど。

 結構な数があるから無くならないと思っていたけど……どうやら好評なようでどんどん無くなっていく。というか……。

 

「かがみ姉さん。そんなにパクパク食べたら太るよ?」

「毎日走っているから大丈夫よ」

「へー。かがみん走っているんだ」

「まぁね。元々この子(キョウ)に付き合って始めたんだけど、今じゃあ習慣ね」

「……え? キョウくんも走っているの? マジで?」

 

 こなたさんの反応、丸っきり若瀬さんと一緒だ。

 それにしてもやっぱり驚かれるんだな、男が体を鍛えているのって。

 おかげで体育じゃあ大活躍です。周りの男子がもやしなだけのような気がするけど。

 

 ちなみに修学旅行中の時は走っていなかったりする。流石に知らない土地を一人で走る勇気が無かったし……迷子になったら大事だしね。

 でもそのせいで体力と筋肉が一気に落ちてびっくりした。ニ、三日サボっただけであそこまで色々と落ちるとは思わなかった。ダイエットで油断したら一気に体重が増えたような感覚だ。

 

「でも何で走っているの?」

「うーん……やっぱり体力が欲しいから。それと……」

「それと」

「身長を伸ばすためです」

『!?!?』

 

 全ての努力が報われるとは限らない。無駄な努力と色々と言われているが、それでも俺はこの身長を何とかしたいのだ。高所に置いてある物を取るときに、姉さんたちに代わりに取って貰った時のあの屈辱感。つかさ姉さんに「無理しなくて良いんだよー?」と言われた時はガチでへこんだ。悪意が無い分余計に。

 だから俺は今もこうして牛乳を飲んでいる……って何やら姉さんたちのようすがおかしい。何故か顔を真っ赤にさせて口を大きく開いている。かがみ姉さんなんか今にも噴火しそう……。

 ――あっ。やっちまった。

 原因に気づくも時すでに遅し。こなたさんは視線を逸らしてクッキーをモグモグと食べて、つかさ姉さんはわたわたと挙動不審になり、かがみ姉さんは噴火した。

 

「だ・か・ら! そういうことをさらりと言うんじゃないわよ! しかもこなたの前で!」

「いや~、気まずい思いをする主人公の気持ちがよぉく分かったよ……」

 

 ……俺が悪いけどさ、俺は悪くないと思うんだ。てか身長を気にしたらこういう反応されるのは慣れない。前の記憶がある分余計に。

 なんだか理不尽だとかがみ姉さんの説教を聞き入れる。

 ……やっぱり納得いかねぇ。

 

 

 

「それにしてもこのクッキー美味しいね。キョウくんには飯マズ属性は無いようだ」

 

 しばらくして。

 話題を変えるためか、こなたさんはクッキーをパクパク食べつつそう言った。

 褒められるのは悪い気がしないけど……色々と引っかかるな。

 

「ありがとうございます。でも、実際はつかさ姉さんの方が上手なんですよね」

「へー。そう言えばいつもお昼食べている時美味しそうだと思ってたけど、もしかしてアレってつかさが作っているの?」

「うん。そうだよー」

「つかさは将来調理師目指しているしね。その練習も兼ねて作っているのよ」

 

 ちなみに柊家の料理上手いランキングの堂々の一位は父さんだ。母さんと出会ったのも料理がきっかけだったりする。で、二位はその母さんで、その次につかさ姉さん、俺と続いていく。

 逆に一番下手なのは……。

 

「かがみんは料理作ったりしないの?」

「うーん。この子らが居るから別に良いかなって思って」

「ほうほう。かがみんは食べる専門だと」

「んだとこら。そういうあんたはどうなのよ。いっつも菓子パンばっかり食べているじゃない」

「私? 私は人並みにはできるよ? というかうちのお父さんあんまり体強くないから負担掛けられないし」

 

 その言葉にかがみ姉さんは沈黙した。言い負かされるのは珍しいんじゃないだろうか?

 でもまぁかがみ姉さんは作るよりもパクパク食べている方が似合っている気がするけど。

 しかし本当に意外だな。こなたさん料理できるんだ。最近は料理できなくてもコンビニや惣菜で済ませる女性が増えているから、余計に意外に感じる。

 ただ……。

 

「じゃあ今度泊まりの際には何か一品作ってみようよ。こなちゃんの作る料理ってどんな味なのか興味あるし」

「おー、つかさがかつてないほど燃えてる! まるで料理バトルの主人公のように! というわけで今度泊まらせてねかがみん」

「何故そこで私に意見を求める。まっ、お父さんからの許可が下りたらね」

 

 つかさ姉さんも()()()が無かったら料理なんてしなかっただろうなー。

 むしろ父さんや俺の料理を美味しい美味しいって食べるかがみ姉さんみたいになっていただろうに。

 人生の転機というのは思わぬところで訪れるものだ。

 

「――で、話変わるんだけどさ」

『???』

 

 そうシミジミと感慨深く昔を思い出していると、ふとこなたさんが持ってきたカバンをゴソゴソと漁りだした。

 突然の言葉と行動に俺たち三人の頭には疑問符が浮かび上がる。

 そんな俺たちをしり目にこなたさんは三つの長方形の何か――いや、DVDケースを取り出した。

 

「危うく忘れるところだったよー。今日も持ってきたよ。キョウくんの教材」

 

 教材――それは、俺とこなたさんが仲良くなった一つの繋がり。

 しかし、それに対して俺は警戒心を抱いていた。

 あえてそうしているのか、元々そうなのか分からないがパッケージは黒い紙で覆われており中身を察することができない。

 

「じゃあ、今日はこの中から選んで!」

 

 いや、絶対わざとだ。わざと中身見えないようにしてやがる……!

 それぞれABCと書かれており、しかしそれよりも気になることがある。

 俺はそのことをこなたさんに聞くことにした。

 

「こなたさん、今日のは大丈夫ですよね……」

「う~ん……キョウくん次第!」

 

 すごく不安だ。

 ニマニマと笑みを浮かべているこなたさんの顔から、机に並べられた三つの黒い物体へと視線を送る。

 

 俺は、この世界のアニメの良さを理解できない。しかし、世界では楽しんでいる人が居るのは確かで、目の前の先輩は楽しい、面白いと語ってくれた。

 元々興味があったというのもあるけど、俺はこなたさんからアニメ関係について学ぶことにした。

 結果、俺は自分でも楽しめるアニメを見つけることができた。

 多分こなたさんに教えて貰わなかったら、俺は『この世界のアニメなんて』と言って食わず嫌いのままアニメから離れていたと思う。

 特に気に入ったのは、地下で穴を掘って暮らしていた少女が成長していき、最後には銀河を救う英雄になる熱血系アニメや、非日常を求める少年とそれに振り回される少女と未来人、宇宙人、能力者によるライトノベルを原作とした日常系ファンタジーアニメ等々。

 相変わらず女性向けのお色気系アニメは肌に合わないが、それでも俺に合う作品は見つけた。

 だから、俺はこなたさんのことを信じている。おちゃらけているけど、真剣になって厳選してくれたのを感じ取れた、そのことは嬉しい。

 でも――。

 

「……今度は中身間違えていませんよね?」

「こなた。今度同じことしたら出禁だからね? あとつかさを止めないから」

「ちょ!? あれは事故だって言ってんじゃん! つかさもそんな目で見ないでよ!」

 

 以前、とあるアニメを録画してくれたディスクを持ってきてくれたことがあった。

 内容はジ○リ作品のとある作品。

 この世界でも国民的なアニメ作品のようで、前世でもよく見ていたから期待していた。

 しかし実際にテレビに映し出されたのはアダルトなビデオで、付き添いで一緒に見ていたかがみ姉さんとつかさ姉さん、持ってきた張本人のこなたさん、依頼した俺の四人は肌色100%の映像を見せられることとなった。当然その後は大騒ぎになり、こなたさんは以後気を付けるようにとかがみ姉さんから勅令が出された。

 てか、女に囲まれてAV見せられるとかどんな拷問だよ……しかもそのうちの二人は姉なんだから性質が悪い。向こうも同じような気持ちだっただろうけど。

 

 とりあえず、そういう事件があったため俺はこうして毎回警戒しているのだ。

 

「うーん……じゃあAでお願いします」

「オッケー! じゃあ早速これ()()流していこうか」

「から!? もしかして全部見せる気!?」

「ふっふっふ。かがみん、布教は勢いが大事なのだよ」

 

 ――その後、俺は三つの作品を見せられた。

 結局その中で気に入ったのは、ネットでこのアニメは人生だと評される作品だった。

 ……便座カバーネタは、この世界でも変わらないんだなぁ。

 全部を見終わった後、疲れた目を擦りながらそう思った。

 

 




かなたさんどうしよう。

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