カクヨムコン9の息抜きにペタリ
全盛期と比べて衰えているなぁと思った
いつもと変わらない朝の筈だった。
今日は土曜日で、明日含めてオールでネトゲでもしようと考えていた。母であるかなたが苦言を申し付けてくるかもしれないが、それでもやめられない戦いがそこにある。……レアアイテムは欲しい。
しかし、そんな私の情熱は突然起きたあり得ない事で吹き飛んでしまった。
「ほら、こなた姉さん。休みだからと言って、グータラしないの」
「……え?」
そこに居たのは、自分が唯一リアルで萌える事ができる男の子だった。
番外編「お姉ちゃんはおねむ」
目が覚めたら、親友のドチャクソ萌える弟が自分の弟になっていた件について。
……クソスレでももっとマシなスレを立てるだろう。
そう思える程に、現在私が感じている状況は常軌を脱していた。
「どうしたの? 姉さん」
今は家族四人揃っての朝食中。
私の対面に座っている弟……キョウくんが不思議そうにしてこちらを見ている。青い髪を揺らして。
そう、私の弟となったキョウくんの髪の色が青いのだ。まるで私の弟だという要素を増やす為と言わんばかりに。
それ以外は私の知るキョウくんと変わらない。今のところは。
「未だ寝ぼけているのかしら」
「姉さん、昨日も夜遅くまでゲームしてたみたいだしね」
「もう……あまりゲームのし過ぎはダメよ?」
お母さんとの仲は普通のようだ。それが私に違和感を覚えさせる。
私の普段の生活に物申すところは変わらないけど、キョウくんの前だと若干優しい気がする。
「お父さんも昔はよく夜更かししてたなぁ」
「最近もちょっと寝るの遅いよね」
「うぐ。それはだなぁ……」
「仕事だとしてもあまり無理しないでよ。僕たち体弱いんだから。何かあったら母さんたちが大変」
「ぜ、善処します……」
キョウくんの苦言にお父さんはタジタジになり、目をそらすが彼の言及からは逃れられず……力無く肩を落とした。その光景は、私がいつも見ている母かなたと父そうじろうが繰り広げているものだった。既視感が違和感へと変わる。
それよりも、今の会話で気になることがあった。
「キョウくん、体弱いって……?」
「ん? そうだけど……どうしたの?」
「男の子の体が弱いなんて当たり前じゃないか」
キョウくんが不思議そうに首を傾げて、お父さんも怪訝そうに言う。
私の知っているキョウくんは、かがみと一緒に毎朝走るくらいには体が丈夫だった。でもこのキョウくんは……。
訳がわからず。頭の中がぐるぐるする。そういえば、あまり寝ていなかった。
「大丈夫? 」
ゆえに、気がつかなかった。
「ちょ!?」
「じっとしてて」
突然目の前にキョウくんの顔がドアップで現れ、ピトッと私のオデコとキョウくんのオデコがくっつく。キョウくんの体温が感じ取れて体が熱くなる。さらに、彼の吐息が私を痺れさせた。
呆然とする私を置いて、離れたキョウくんは一言。
「熱はないみたいだね。良かった」
月の光のように儚い微笑をもってそう言って、私はそれを見続ける事しかできなかった。
朝食を終えた私はすぐにかがみに連絡し、キョウくんの事を訪ねた。すると……。
『はいはい。アンタの愛しのキョウくんの素晴らしさは分かったから、休みの朝まで布教しに来るな!』
と素気無く切られてしまった。元々はかがみがブラコンだったのに、私がブラコン扱いされているのは腹が立った。
でも、キョウくん命のかがみがこうだとすると、つかさも同じ反応を示すだろう。以前冗談でキョウくんを弟に、と言っていたけどまさかこんな事になるなんて……。
「ホントどうなってんだろ」
思わずこぼれ出た言葉に、存外自分がこの状況に参っている事に気付いた。
アニメや漫画の主人公だとすぐに順応して恋愛展開なり、バトル展開に移ったりするだろう。
でも、いざ自分が同じ目に合うと……そういった主人公みたいな対応できないね……。
やれやれ困った。夢なら早く覚めてほしい。
「姉さん? 入るよ」
ドアがノックされてキョウくんの声が聞こえたと思ったら、遠慮なく入ってきた。
……って、ちょっと。私まだ入って良いなんて言ってないんだけど。
しかしいつもの……
「……?」
それに対してキョウくんは、怪訝な顔をしてこちらを見てくる。
……いやいや! こっちがそういう顔をしたいところなんだけど!
しかし馬鹿正直にそんな事を言える筈もなく、私は何も言わずにキョウくんを眺めてって──。
「よっこいしょ」
「な、なななな!?」
「……姉さん。どうしたの、本当に?」
変な生き物を見るような目でこちらに視線を送るキョウくんだけど、ぶっちゃけそれどころじゃない。
キョウくんは私のコレクションが詰まっている本棚から、陰キャコミュ障だけどギターが物凄く上手くて、猫背で分かりづらいけど隠れ長身男子が主人公のロックバンド系4コマ漫画を取り出した。
うん、それ面白いよね。アニメ化したときは「この主人公と私似ている」って〇イッターで何度も見かけたくらいには、女子にも男子にも人気だった。キョウくんが読むのも分かる。
でもさ! それを私のベッドに寝転がって読むとかさ! 本当キョウくん漫画から出てきたの!? そんなあざとい弟ムーブを喰らうなんて思っても見なかったよ! しかもへそチラしているしご馳走様です!!!
……おっと、興奮している場合じゃない。クールだ。クールになるんだ泉こなた。
この世界……というよりも夢? とにかくここでは私はお姉ちゃんなんだ。
「な、なんでもないよ?」
「なに、その処女じみた挙動。ちょっときもいよ」
──かはっ!?
私は、あまりにもあんまりなキョウくんのその言葉にノックアウトされそうになる。
これが普通な男子ならスルーすることができた。でもなまじ女の子にほぼ無条件に優しいキョウくんを知っているだけに、この言葉のナイフは急所に当たった。それに効果抜群だった。血反吐吐いてこの部屋をスカーレットにしてしまいそう。
ブルーを通り越してヴァイオレットな顔色になりそうになりながらも、私は気合で持ちこたえる。ま、まだ戦えるで……!
「いやー、そのー、寝不足で調子悪くてさ」
「まったく……だからゲームのし過ぎは良くないって言ったじゃないか」
ぷくりと頬を膨らませて、ジトっとこちらを睨みつけてくるキョウくん。
すみません、萌えます。
やばい……これが、弟萌え……! しっかり者の弟が、ダメダメなお姉ちゃんに怒る弟モノにおける鉄板のシチュエーション!
あかん! あかんでぇ! こっちでは実の弟なのに手を出してしまいそう! かがみやつかさはよく我慢できたなぁ!?
いやでも私とキョウくんは本当は姉弟じゃないし……これ夢だし……アリ、か……?
そんな風に私が混乱していると、キョウくんはため息を一つ吐いてベッドで寝転がしていた体を起こすと──ポンポンと自分の膝を叩く。そして。
「ほら、姉さんこっち来て」
「……へ?」
「──もう。早くっ」
そう言ってキョウくんはグイっと私の手を掴んで引き寄せると──私の頭を自分の膝の上に乗せた。
──ちょっと待って!? これってもしかしてひ、ひひひひひひひっひひざ──膝枕!?
頭の中が真っ白になって思考が定まらない状態で視線を上に向けようとして。
「あまりこっち見んなっ」
しかし目元をキョウくんの手で塞がれてしまう。でも私見ちゃったんだよね、キョウくんが顔を赤くさせて照れているところ。
──ふぉおおおおおおおおお! キョウくん反則すぎるぅううううう!!
弟萌えの破壊力に内心悶えていると、目元の手がそっと頭へと移り、優しく撫でつけてきた。
あっ、あっ、あっ! そ、そんなパパみが深いことされるとおかしくなっちゃううううううう!
「キョウくん……」
「良いから寝てなよ……普段家事とかしてくれているんだからさ。これは日頃のお礼──それ以上でも以下でもないからっ」
──キョウくんのツンデレ、だと。
やはりかがみと同じ血を引く人間──侮れない。
……っと、そんなことを考えていたら本当に眠くなって──。
◆
「こなたさーん? そろそろ帰る時間ですよ?」
ゆさゆさと体を揺らされて、私は目が覚めた。
どうやらテーブルに伏せて寝ていたらしく、顔を上げるとそこにはこちらを呆れた目で見るかがみと苦笑しているつかさとみゆきさん。そして私の肩に手を置いていたキョウくん。
「こなたさん、夜遅くまでゲームしているから寝ちゃうんですよ? 少しは早寝してくださいね?」
「あっ……」
こちらを見るキョウくんの目を見て、私は夢から覚めたのだと気が付いた。
そうだ。確か今日はかがみの家に遊びに来て、キョウくんも居たから五人でゲームをして遊んでいたんだった。
その途中で私は寝ちゃって……。
──ぁぁぁあああ。
「もうちょっと見ていたかったな……」
「?」
不思議そうにコテンと首を傾げるキョウくん。……くそ、こっちのキョウくんもあざと可愛いな。
それにしても。
私は、彼の姉であるかがみとつかさへと視線を向ける。
「なに?」
「こなちゃん?」
ふむ……さっきの夢を見て、キョウくんの姉を体験した私は一つの疑問を抱いていた。それは……。
「ねぇ二人とも。キョウくんにムラッと来たことないの?」
「「「ぶっ──!?」」」
私の質問に柊家の三人は吹き出した。
うわぉ、反応面白い。
みゆきさんは顔を真っ赤にさせて硬直させていた。
それにしても……何やら怪しい反応を見せたねぇ。
「こ、こなたぁ! アンタいきなり何を言って!」
「かがみ姉さん! 反応するとこなたさんの思う壺だよ!」
「ぽ、ぽぽぽぽおぽぽぽぽぽぽ」
「つかさ姉さんは正気に戻って!」
──キョウくんが弟、か。
あの夢から覚めて私は勿体ない。もう少し見ていたかったと思った。
でもよくよく考えて……キョウくんが私の実の弟になるのは、やっぱりいいや。むしろならない方が良いと思った。
だって私は──ソッチ系のエロゲの趣味はないからね。
私はいまだにてんやわんやしている三人を見て、その反応を堪能させて貰った。
うんうん。やっぱりこっちの方がいいや。
「かがみん。一日だけキョウくん貸して?」
「死にたいなら初めからそう言いなさい」
でも……あの体験をもう一度と思うのは、オタクの性なのカナ?
今Youtubeでらき☆すたオープニングノンクレジットバージョンがアップされているらしい。流石令和。はよ三十路こなたの情報来てくれ