ギルモア・レポート 黒い幽霊団の実態 作:ヤン・ヒューリック
ミュートスサイボーグは敗れた。
00ナンバーサイボーグは無論のこと、この時点でブラックゴーストが作り上げたあらゆる兵器よりも強力だったはずにもかかわらずである。
結論を先に述べれば、ガイアが考えた「神格化」には致命的な弱点が存在したからに他ならない。
人間としての人間ではない神とすることで、より心理的なストレスを軽減させ、同時にシンクロ率を向上させるのが「神格化」である。
そのメリットにより、ミュートスサイボーグは超常的な力と共に、柔軟な思考による高度な戦闘能力を両立させていた。
ガイアがガモと協力することで生み出したこの「神格化」だが、その実態はつまるところ洗脳に他ならない。
これはガイアと共にミュートスサイボーグを生み出したウラヌス博士からの証言により判明している。
「ガイアは彼ら(ミュートスサイボーグ)に常々口にしていたのは、君たちは人を超え、機械をも超えた神であるということだ。人でもなければ機械でもない、サイボーグという概念ではなく神であることを何度も言い聞かせ、彼らをサイボーグとして扱うようなことはしなかった。私が彼らと接する時、当初彼らはまだ人間としての親しみがあったが、次第に彼らはガイアと接するにつれて、人間らしさが失われていったのを今でも覚えている」
ガイアはミュートスサイボーグに対して、超常的存在である神であることを言い含めていたという。
それはこうしたコミュニケーションにもとどまらず、ガモの協力により脳を弄ることで人間らしさを失わせつつ、神であることを無理やりな形で刷り込んでいたほどである。
だが、神格化は諸刃の剣であった。神であるからこそ、超常的な力が使えるということは、神でなければ超常的な力を使えないという副作用をもたらしていた。
人とは違う体と能力による精神への負担は我々が想像する以上の負担を与える。
ガイアはミュートスサイボーグを生み出す過程で、何体かのプロトタイプを生み出したが、彼らは自分たちが単なるサイボーグであることを知った瞬間に自らの能力が使用不能となった。
中には自分が単なる化け物であると認識し、精神が崩壊し、自殺してしまった者までいたという。
強い力は何のリスクもなく、無条件で使えることはないという事例であるが、ある意味彼らは最強であるとともに脆弱であったのだ。
ガモとの協力により、かろうじてその脆弱さをカバーすることはできたが、根本的な改善には至らなかった。
結果として、その隙を突かれることで、ミュートスサイボーグ達は00ナンバーサイボーグ達に敗れたのである。
「私がミュートスサイボーグ達と関わったのは途中までだった。あとはすべてガイアとガモが彼らを生み出した。だが、彼らを死に追いやったのは私の責任でもある。ガイアの口車に乗せられ、彼らを改造した結果、彼らは死んでしまった。彼らは神などではなく、ましてや化け物でもない、人間だった。その人間らしさが弱点となってしまったのであれば、彼らをそのような存在にしてしまった時点で私は彼らを殺したも同然だ」
このインタビューを受けたウラヌス博士は、最後にこう述べている。
余談になるが、ウラヌス博士はこの後ギルモア博士によってボツワナへと亡命し、現在ではボツワナは無論のこと、アフリカに蔓延するマラリアやエイズの対策に尽力されている。
今でも博士は、自らが生み出した彼らを神にしてしまったことへの罪悪感を忘れることなく、人間として扱われなかった彼らに対する贖罪を行っている。