ギルモア・レポート 黒い幽霊団の実態   作:ヤン・ヒューリック

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第二十章 ガモ再び 後編

ミュートス・サイボーグのなかでも異色の存在と言えるのが、エスパーとしての力を有した「ヘラ」であるが、彼女の存在はガイアがガモを従えることに成功した証とも言える。

 

ミュータントを産み出すことに没頭していたガモは当時、研究資金について悩んでいた。「非合法な科学実験のアウトソーシング」はすでに彼のもとになく、ミュータント部門は大幅に縮小されており、試験管ひとつ購入するだけでも許可を得なければならないほどであった。

 

そういう意味からすれば、ガイアの協力要請はある意味渡りに船ともいうべき行為であった。過去の遺恨なども流す形でガイアはガモをオブザーバーとしており、名目だけ立場を上にするなど彼に気を使っていた。

 

もちろん彼にガモを尊敬する気持ちなど欠片もなく、さらに言えば彼はガモのミュータント計画を影で嘲笑していたほどである。

 

「ガイアがガモをオブザーバーとした時、私はガイアが徹底した戦略家であることを理解した」

 

そうコメントしたのはガイアの同僚であったウラノス博士であるが、ガイアはウラノス博士に対しては徹底首尾上から目線であったが、ガモに対しては決して上からではなくしたからへりくだる形で提案していたという。

 

無論、そうするだけの理由がガイアにはあった。それは、唯一00ナンバーサイボーグの中で、エスパーとしての素質を持つ001、イワン・ウイスキー氏についてである。

 

後期型サイボーグをはじめとする強靭なサイボーグや、サイボーグマンやブラックゴーストの兵器を打ち倒してきた中で、彼の持つ超能力についてガイアは脅威を抱いていた。ミュータントという存在と、ミュータント計画そのものは徹底してバカにしてはいたが、唯一の成功体でありイレギュラーともいうべき001という存在について、ガイアは徹底して分析をおこなっていた。

 

圧倒的なスペックを持つミュートス・サイボーグ達ではあるが「神格化」という人格と拒絶反応の対処により、00ナンバーサイボーグに比べて連携力が弱いという欠点を持っていた。

 

00ナンバーサイボーグが勝利してきた理由のひとつである団結力、徹底したチームプレイと高度な連携は自分達よりもハイスペックであるサイボーグ達を打ち破る原動力となり得たが、ガイアはミュートス・サイボーグをより完璧な兵器群にするため、そして00ナンバーサイボーグ唯一のエスパーであるヘラを開発することを決めた。

 

その共同開発の中で生まれたのが「ヘラ」であるが、彼女は他のミュートス・サイボーグ以上に機械化が行われている。また、人格そのものを消去されていたことがウラノス博士のインタビューから判明している。

 

「ガモはこの時、人為的な欠損を行うことで脳を超能力発生装置として機能させ、容易にミュータント化するという狂気に満ちた研究成果を産み出していた。だがこれはガイアが描いていた「神格化」をより完璧に出来る処理であった」

 

やや沈鬱な口調でウラノス博士は我々のインタビューに対してそう回答して頂いたが、ガモはより簡単にサイコキネシスやテレポートなどの超能力を発生させるノウハウに関して、脳の人体実験から産み出すことに成功していた。

 

まだCTもMRIも無い時代ではあったが、生きた人間の脳を自由に研究できるブラックゴーストでは、21世紀において判明した脳の仕組みにたどり着いていた。そして、この人格を消失させ、人格をも調整することで脳を超能力発生装置とし、身体は機械化するという、言うなればミュートス・サイボーグならぬ、ミュータント・サイボーグをガモはガイアと共同研究することで産み出すことに成功した。

 

そして、その結果ガモはこの結果から再びミュータント部門の拡大に向けて活動を開始したが、それは淡い夢と消えてしまった。

 

なぜならば、ミュートス・サイボーグは00ナンバーサイボーグ達によって敗北したからである。そしてこれ以後、彼が二度と表舞台にも裏舞台にも立つことはなかった。


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