Fate/Gold pirate   作:悪事

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エイプリルフールに間に合ってよかったです。
新サーヴァント登場!真名当てゲーム!
今回出たセイバーは、だーれだ!?


うん、即バレしか想像出来ない。


死霧を斬り祓う銀閃

無骨でどこまでも澄み渡る斬撃が霧に包まれたロンドンに乱舞する。瞬きの間に十や二十を越える斬撃が宙を飛び、街路に溢れ出た寸胴な機巧、後にヘルタースケルターと呼ばれるエネミーたちを駆逐した。しかし、その斬撃を上回る物量のヘルタースケルターたちが一人の刃を振るう老人に突撃を行う。

 

 

 

 

「ーーやれやれ、呼び出された先が未来の地元とは、英霊召喚というのもアジな真似をする」

 

 

顔には老いと積み重ねてきた人生の重みを感じさせる皺、銀に染まった髪と髭を蓄え老人は戦場で穏やかに笑う。宙に銀色の軌跡を残し剣を巧みに操る老人の態度には、現状が何ら特別ではないと言外に表現していた。そう、彼こそ偉大なる海の王が右腕、未来にとこしえ語り継がれる海賊神話の立役者が一人。

 

 

「さて、ひとまず状況は理解した。此れは通常の聖杯戦争ではないのだな。そして、此処は人理から乖離した特異点……ならば、彼女が現れることを考慮せず、剣を取れるらしい。……では、錆び落としに一つ付き合っては貰えないか。君たち」

 

 

老人が納得とも了解とも取れる口ぶりで言葉を切る。それを聞いていたのか、いないのか。ヘルタースケルターたちは鋼鉄に彩られた己の鉄腕で目前の老いぼれを終わらせんと駆動機構を全開にする。その機械特有な無機質の返答を受けた彼は剣を両手で握り、静かに自身の宝具の真名を開帳した。

 

 

「ーーーー銀閃の冥王(シルヴァリオ・レイリー)

 

 

 

銀の光閃が周囲に染み渡る。まるで水に雫を落としたかのように斬撃が空中で波紋を起こし、攻撃に動こうとしていたヘルタースケルターもろともロンドンを覆う死の濃霧が斬り祓われた。綺麗に上と下に切り分けられたヘルタースケルターの残骸を踏み越え、彼……いや"セイバー"は戦場を後にする。敵をたった一閃で絶滅させる死の妙技、そして己の絶技を振るった後も変わらない精神力。それはもはや、人でも死神でもない。言葉にするのも躊躇われるが、あえて口にするなら、其れはまさしく死を司る"冥王"そのものだった。

 

 

 

「さぁ……手始めに酒場を探すとするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしたちは帰りたい場所がある。そのためなら、いくらでも殺すし殺さなきゃ、魔力を集める方法がないの。帰りたい、帰らなきゃ早くおかあさんの元に。……霧に身を潜めて曲がり角や路地、屋根の上でも何処からでも、狙った獲物にナイフを突き刺す。ずぅっと前からやっていることだし、今もやっていること。また、一人外を出歩いている。食べものを探すためにこの霧の中に飛び出した勇気ある人。この霧で死なないのはすごいけど、それもここでおしまい。

 

 

 

此よりは地獄……わたしたちはここで産まれてしまった。泥濘と死で満ち溢れるロンドンに。せかいはきっと地獄だ。生きるということは飢えと寒さ、痛みでいっぱい。いや、いや帰りたい帰して。わたしたちのおかあさんのお腹(子宮)の中に。

 

さぁ殺そう。

 

 

 

幼い無垢な殺意の凶刃が今も懸命に生きようとする者に振るわれる。犠牲者となる者は、その殺意に気づいてすらいない。刃が硬質の音を立てて止まる。殺人鬼のナイフは銀に光る剣によって阻止されていた。

 

 

「あなた、だれ?」

 

 

「誰、か。そうだな……素直に名乗るのも芸がない。聖杯戦争でもなし元より知られて困る名でも無いが、これも流儀だ。……わたしはセイバー、ロンドンのセイバーと名乗らせてもらおう」

 

 

「ーーーーロンドンの?セイバー?」

 

 

セイバー、えっと確か……剣のサーヴァントのはず?

 

 

「なんでもいいけど、邪魔しないでよ。もぉ、わたしたちは帰りたいだけなのに」

 

 

「それは失礼、しかし見殺しというのも寝覚めが悪いものだ。此処は大人しく手を引いてもらいたい。……後ろの君、立てるなら今のうちに行くといい。彼女の面倒は私が見ておくのでね」

 

 

あ、後ろの人、行っちゃった。

 

 

「もぉ、どうして邪魔するの!わたしたちはおかあさんの中に帰りたいだけなのに!!」

 

 

「ロンドンの殺人鬼、子供、母に還りたい?……あぁ、君は……"君たち"は……」

 

 

なんでもいい、もうこのおじいちゃんを斬って裂いて、魔力を。

 

 

「君たちは行きたい場所はないのかな?」

 

 

・・・・・・ほぇ?

 

 

「行きたい場所?」

 

 

「そうだとも、君たちはロンドンの景色を知ってはいるが他の場所にいったことはないだろう?いや、サーヴァントとして現界しているのだから知識としては知っているか。例えば、何処までも蒼く広がる大海原や夕景に照らされ炎のように輝く海面を見たいとは思わんかね」

 

 

海、どこまでもどこまでも広い大きな水。ロンドンの運河とは違う澄み渡った蒼い海。知らない、こんな綺麗なところ、わたしたちは知らない行ったこともない。

 

 

「……海、青くて、しょっぱくておっきくて。ううん、わたしたち知らない、見たことない。どうして、知ってるの?」

 

 

「ははっ、聖杯の与える知識というのも便利なものだ。生前の自分では分からないモノや、知らないモノを知ることが出来るのだからな」

 

 

 

……海、わかんない。知ってるけど、自分の目で足で知ってみたい。けど、帰らなくちゃ。おかあさんの中に帰りたいの。だって、此のせかいは……地獄だって知ってるから。

 

 

「……君たちの世界はロンドンで完結している。帰りたいというのも結構、だが其の前にロンドンの外を知ってみるのもいいだろう。例え、死者であろうと君たちは此処にいる。……ならば、君たちは此の世界にも優しさが、暖かさがあるのを知るべきだ」

 

 

 

冥王の託宣は、此処に降った。殺人鬼の残影、死した幼い子供達の亡霊の集合体、生きる者を傷つけることしか出来ない無垢な亡者は銀の冥王によって静穏に裁かれた。母の元に行く(帰る)のではなく、行きたい場所に行け(進め)と。

 

 

「おや、これはちょうど良いところに巡り会わせましたね」

 

 

 

 

 

殺人鬼の少女と銀の冥王が並ぶ時、狙いすましたかのように新たなサーヴァントが出現した。手入れされた長髪、学者然とした白衣を纏い死界魔霧都市において"P"と名乗るキャスターである。

 

 

「召喚されて既に気づいているでしょうが、今回の召喚はイレギュラー中のイレギュラーです。此度は聖杯戦争とも違うもの。マスターのいないはぐれのサーヴァント同士、どうでしょう?我々の目的に協力してはもらえないでしょうか?その見返りに魔力の提供は約束させてもらいますが」

 

 

「えっと、えっと」

 

 

 

 

「……残念だが、君の申し出は断らせてもらおう。こんな幼い子供達まで大人の都合で利用するのはもう十分だろう。彼女たちには好きなことを好きなだけ、我儘を言いたいだけ言わせて守ってやるのが先達として為すべきことだろう」

 

 

「いくら、幼いとはいえサーヴァントとして召喚された英霊、そのような物言いは彼女の実力を侮辱するものではないですか?」

 

 

銀色の刃閃が横一文字に(はし)った。間一髪、キャスターは何とか斬撃を回避した。パラパラと前髪が切られ落ちる。これはキャスターが回避したのではなく、セイバーによって避けさせられたのだ。

 

 

「若い芽を摘むんじゃない。此れから始まるのだよ……彼女たちの人生は」

 

 

 

「サーヴァントとして世界に記録されたものが、此れから人生を始める?理解できない、論理的ではない。貴方は何を言っているのです?」

 

 

「……それが分かれば、君も始められるだろうさ。……では、此処は私に免じて退いてもらいたいが、どうかな?まだ、戦うというならお相手するが」

 

 

「いいでしょう、元より此処で消えるのは私としても本意ではない。此処は退きましょう」

 

 

そう言い残し、長髪のキャスターはロンドンの霧の深くに去って行った。

 

 

「……ねぇ、おじいちゃんはどこに行くの?」

 

 

「そうだな、一先ずは腰を降ろせる場所でも探すとしよう。ゆっくり酒を煽るのに戦場は不似合いだ。酒を飲み、酔って眠って……待つとしようじゃないか、人類最後のマスターとやらを」

 

 

ロンドンのセイバーはそういうと腰につけていた酒瓶から酒を飲み休めるような場所を探し始めた。幼い殺人鬼、アサシンことジャック・ザ・リッパーはキョロキョロと辺りを見渡し少しの葛藤を終え、セイバーの後をついて行く。そんな二人は、何も知らない者から見れば祖父と孫のような光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、来る日も来る日も飽きることなく浴びるように酒を飲んでいるということか?この呑んだくれめ。脳みそまでラム酒に浸かってしまったようだな、老いぼれ海賊」

 

 

青い髪をした少年は、その矮躯(わいく)から信じられないほど低い声を発し悪態を並べる。その悪態を受け取る老人のサーヴァント、セイバーは楽しげに笑いつつ酒をまた(あお)る。

 

 

「そうはいってもな、アンデルセン君。待ち人は未だ現れない、外の鉄人形どもも大元を倒さない限り、倒しても倒しても減らないときた。ならば、魔力の温存と英気を養うのが今できる唯一のことだ。君だって、良い読者が出来たのだから、そう鬱屈とした状況でもなかろう」

 

 

「ハッ!俺は創作作家だ。一度書いた話を何度もリピートして読み聞かせるなど、作家の仕事ではない。それに、あいつらときたら毎日毎日、次の話は次の話は、なんて飢えた子豚のように次の話を要求してくる。毎日が〆切だと、此処(ロンドン)は地獄か!?」

 

 

「ハッハッハ、だいぶ彼女たちに気に入られたようだ。ジャックも"彼女"も君にベッタリとは、これはいわゆるモテ期、という奴じゃないかな?」

 

 

「くたばれ、ポンコツ海賊。俺は生涯、童貞だ。それに童女幼女限定のモテ期だと?そんなの犯罪者予備軍(ロリコンども)くらいしか喜ばんわ。おまけに奴らときたら、バッドエンドの専門家を捕まえて甘い甘いハッピーエンドを要求するだと?幼児体型どもめ、相手を見てからモノを言え」

 

 

 

辛辣(しんらつ)だな、片や貧困と不幸に苦しめられた少女、もう一人は君が名付け親じゃないか。もう少し、甘やかしてもいいんじゃないかな?」

 

 

「よせ!やめろ!全身にジンマシンが出るだろうが。あんな痴女衣装の幼女と童女の形になった本を相手に、何を期待するつもりだ。あいにくと初恋を生涯最後の恋愛と決めている。こんな人格破綻者(バカな物書き)を構うより、あいつら同士で茶会でもしている方がマシだろうさ」

 

 

アンデルセンは、うんざりした口調で二人の少女たちを突き離した。セイバーはそれを保護者のように穏やかな目で見守る。空いた酒瓶をテーブルの上に置き、新たな酒瓶を掴み外を眺める。霧は濃く、どうにも事態に進展はない。セイバーは来るであろう人類史最後のマスターを待つ。

 

 

 

このアパルトメントも、そろそろ敵が襲撃してもおかしくない。それなら、その前にあのキャスターに敵対するサーヴァントたちと合流すべきか。そう考えていると、隣の部屋の扉がバタンと開かれ、二つの小さな人影が飛び出してきた。

 

 

「ねぇねぇ、アンデルセン!今日もお話聞かせて、聞かせて!!」

 

 

「ダメよ、ジャックったら。ほら、顔を拭いて髪もちゃんと()かしなさい。朝ご飯はワタシが用意してあげるから。読書はゆっくり楽しみましょう、アンデルセンは別に逃げたりしないから」

 

 

「なんなら、直ぐにでも逃げ出したいわ!この〆切の鬼どもめ!毎日毎日、ネタを振り絞る作家の気持ちを考えたことはあるのか。しかもバッドエンドを語ろうものなら、即座にナイフを投げるわ、トランプ兵やらジャバウォックを(けしか)けるわ。厭世気質な童話作家をなんだと思ってる!」

 

 

「バッドエンドにしなければ良いだろうに。何度も何度も攻撃されても直さないとは、彼女たちを抑え込む老骨の身にもなってくれ。愛読者の要望に応えるのも作家としての勤めではないか?」

 

 

「そうよそうよ、アンデルセンったら何度もバッドエンドばかり。バッドエンドはもうたくさん、もう読み飽きてしまったわ」

 

 

「うん、だから今日は楽しくて優しいお話を聞かせてね。暖かいベッド、美味しいご飯にお菓子、あとは優しいおかあさん。とびきり幸せであったかいお話、して?」

 

 

愛を知らぬアサシンであるジャックの期待するような目と、童話の集められた本のサーヴァントであるナーサリーの咎めるような目に挟まれ、さしものアンデルセンも二の句が出ない様子。

 

 

「おじいちゃんもアンデルセンにバッドエンドにしないでって言って言ってぇ!」

 

「そうよ、おじ様。アンデルセンったら、幾ら言っても聞かないもの、お酒を置いて説得してちょうだい。早く早く」

 

 

 

「おっと、私に期待されてもな。それに酒を飲むのは、もはや息を吸うようなモノだからなぁ。ハッハッハ、ナーサリー君、朝ご飯を作るならついでに私の分も頼むよ」

 

 

「なら、俺の分も持ってこい。童話作家様直々(じきじき)のグルメレポートを見せてやろう。味次第では、胸焼けしそうなハッピーエンドも考えてやらんこともない」

 

 

ナーサリーは仕方ないという顔で、キッチンに立つ。ウサギやトランプ兵なんかがプリントされたエプロンを出して彼女はオーブンにパンを入れ、フライパンや鍋を動かし、朝食を次から次へと作っていく。出来た朝食をジャックがテーブルに並べ四人のはぐれサーヴァントたちは平和な朝食を始めた。

 

 

「紅茶か、あまりお行儀の良い飲み物は得意ではないんだがね」

 

 

「ふん、英国人の食卓にしてはまぁマシなモノだろうな。紅茶に関してはギリギリ及第点だ。だが、なんだこのスコーンにつけられたバカみたいなジャムは、こんな甘いだけのスコーンなどスコーンではない。おい、(おか)に上がった海賊(役立たず)、スクランブルエッグを取りすぎだ、少し残しておけ」

 

 

「ああ、すまない。しかし、文句を言いながらも結構しっかりと食べているじゃないか」

 

 

「美味しい!!それにぽかぽかしてるあったか〜い!」

 

 

「もうジャック、スクランブルエッグがほっぺに付いているわ。ほらジッとして、ハンカチで取るから……これで綺麗になったわ」

 

 

各々が朝食を味わい終え、アンデルセンはジャックとナーサリーに一つ感情を込めた物語を読み聞かせ始めた。二人は、物語の展開に逐一素直な反応をし続けアンデルセンも憎まれ口を叩きつつも楽しんで話を聞かせている。セイバーは酒瓶を片手に待ち人が来ないか、外を眺める。

 

 

 

「おい、そこの海賊剣士。そうやって日がな一日外をボケた老人のように見ているだけなら、外に行ってネタになりそうなモノでも拾ってこい。もしくはお前自身の冒険譚でも、こいつらに聞かせてやるか?あの世界に名高い海賊船のクルー様だ。さぞかし、面白いお話が出てくるのだろう。というか、それをネタにするのも良いな。……よし、記憶にあることあらいざらい吐け。なんと俺としたことが身近に此れほどネタの宝庫があろうとは、さぁて聞かせてもらおうじゃないか。冥王様の航海の思い出を」

 

 

 

「ふむ、老人の過去語りなど好んで聞くものいないと思っていたが、自分から聞こうとしてくるとは。作家という生き物は随分と物好きだ。まぁ、待ち人が訪れるまでの時間つぶしにはちょうど良いか」

 

 

セイバーは椅子に深く腰掛け直し、自身の生涯でもっとも照り輝いていた瞬間を物語る。途中からジャック、ナーサリーも乱入し、騒ぎを察知したヘルタースケルターによりアパルトメントが盛大に壊されることになるが、それはまた別の話。

 

 

ロンドンの殺人鬼、青い髪の童話作家、黒の童話が綴られた本の少女、そして冥王と呼ばれるセイバーが、人類史最後のマスターと出会い、この特異点を越えていくのも、また別の話。

 

 

 

 

 


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