Fate/Grand Order 朱槍と弟子 作:ラグ0109
「―――!!!!!」
爆音――中庭の石畳を粉砕し、その鋼鉄の戦車を思わせる威容が空より舞い降りた。
浅黒く、これ以上無いほどに鍛え上げられた筋肉。
荒々しく、鋼のような長い黒髪は猛り狂う様にうねっている。
圧倒的な威圧感は、どうにかなると思っていた僕の心を急速に冷えさせ、じわりじわりと僕の心を冷たい奈落の底に引きずり込む。
――あれは、相対すること自体が間違っている…!!
「セイバーの野郎、一網打尽にする気だな!!」
「ヒッ、な、なんなのよ!なんなのよ!!なんで私ばかりが!!??」
「せ、先輩!先輩は下がって!!」
「こ、こんなの…勝てる訳がない…!!」
獣の唸り声をあげたソレは煌々と赤く輝く瞳で僕たちを睨み付け、猛り狂うままに咆哮を上げて岩盤を削りだしたかのような荒々しい斧剣を片手で振り上げてそのまま地面に叩きつける。
「ぐぅぅぅ!!!やらせ、ません!!」
ただの衝撃波であるにも関わらず、マシュの盾がビリビリと軋みを訴える。
恐らく、バーサーカーの英霊…狂い猛らせることでステータスを跳ね上げている為にその攻撃力は、一撃一撃がミサイルの様に強力なのだろう。
クー・フーリンは樫の杖を手に持ち、ルーン魔術の展開を始め大声を上げる。
「良太!召喚を早く進めろ!こっちはこっちで何とか押し留めてやる!」
「わ、分かりました!!所長!!」
「無理よ、無理…勝てる訳がない…助けて、助けてよ…レフ…!!!」
所長はバーサーカーの威容、暴威に足を竦ませてへたり込み、自分の身体を抱きしめる様にして必死に震えを抑えている。
所長はあくまでも魔術師…言ってしまえば学者なのだ。
そんな人間が目の前に現れた猛獣と言う名の災害を前にして、怯えない方がおかしい。
それでも、今はその恐怖が僕たちを死へと近づけていく。
「マシュ!全力でサポートするから、あの英霊を押しのけて!!所長、しっかりしてください!!!」
そんな恐怖の最中いち早く動き出す人間…立香さんが素早くマシュに指示を送り込み、所長の肩を抱き寄せ揺さぶる。
この娘は…怖くないのか…!?
「所長、いない人間に助けを求めたって仕方ないでしょう!?このまま成すべきことを成さないで死ぬわけにはいかないんです!」
「ぁ…」
立香は所長の胸倉を掴むと声を張り上げて奮い立たせようとする。
そう、成すべきことを成さずに死ぬことなんて許されるわけがない。
そんなことをしてしまえば、今まで積み重ねてきたことが全て無駄になってしまうのだから。
「チィッ!こいつカテェ!!」
クー・フーリンはルーン魔術による火炎弾を次々と放ちバーサーカーへと攻撃を加えていくが、バーサーカーは視界を塞いでしまうような攻撃のみを斧剣で斬り払い、その巨躯に見合わない速度でクー・フーリンへと肉薄していく。
「筋肉ダルマが!!」
「クー・フーリンさん、下がって!!」
「マシュ!その一撃は受けるな!ラウンドシールドの曲面を活かして逸らすんだ!!」
マシュがクー・フーリンの前に立ち、振り上げられた斧剣を受け止めようとする。
あんな一撃、毎度毎度受け続ける事なんてできる筈がない。
僕はマシュにアドバイスを送り、果たしてマシュはアドバイス通りにバーサーカーの一撃を正面から受けずに逸らし、地面へと落とす。
「つぅっ!!」
「お嬢ちゃん、少し時間稼いでくれ!宝具を展開する!!」
クー・フーリンはマシュから離れ、樫の杖を地面に突き立て魔力を高速で練り上げていく。
お師匠の…スカサハから授けられし原初のルーンを発現させる。
マシュは食い下がる様にヘラクレスの前に立ち続け、ビリビリと痺れるであろう腕に必死に力を込め、時に魔力放出を行いながら防御に専念し続ける。
「――――!!!!」
逸らし続けるならば逸らせなくなるまで攻撃するまで…そう言わんばかりにバーサーカーは全身の筋肉を撓ませて暴風の様な連続攻撃を浴びせようとする。
しかし、その直前に立香さんは令呪の刻まれた右手を天高く掲げ、高らかに宣言する。
「
「はぁぁぁっ!!!」
令呪…英霊と契約することができるマスターに3画だけ配布される絶対命令権。
令呪による命令は英霊を精神的、肉体的に拘束し確実にその命令を遂行させる。
しかし、令呪には別側面の使い方が存在している。
それが立香さんが使用したスキルとしての使用…令呪が内包する莫大な魔力を英霊に付与し、ブーストスキルとして使用する。
バーサーカーは目にも止まらぬ神速の連撃を叩き込むが、令呪によるブーストがかかったマシュはそれらを軽業師の様に紙一重で回避していく。
「下がりな嬢ちゃん!!『焼き尽くせ木々の巨人――
クー・フーリンの声に合わせてマシュは大きく跳躍してヘラクレスから離れると、礼拝堂から突然爆炎が巻き起こる。
その爆炎から現れたものは、無数の細木で構成された木々の巨人…神々への生贄を奉げる為に存在する巨人ウィッカーマンだ。
ウィッカーマンは神々の生贄と見定めたバーサーカーを見下ろし、全身を業火に包み家屋を粉砕しながら歩き、腕を伸ばす。
バーサーカーは掴まれまいと素早く後退し斧剣を構え、ウィッカーマンの拳へと叩き込み力比べを始める。
「やりやがるな、ギリシャの大英雄!だが、これならどうだぁっ!!!」
クー・フーリンはありったけの魔力を総動員して、ウィッカーマンに力を送り込みその膂力、火力を爆発的に増大させる。
すると、バーサーカーの身体が徐々に押され始め、ジリジリと後退を始める。
「所長、みんな戦ってます。必死にこの特異点を正そうと戦っているんです。だから、所長も立ち上がりましょう。
「わ、わかってるわ…わかってるわよ!けれども、怖いのよ!!」
「戦うのは僕たちなんです。だから、所長は僕たちが戦えるように助けてください」
立香さんに支えられながら立ち上がった所長は、足を小鹿の様に震わせ、目じりに涙を貯める。
こんなはずじゃなかった、こんな事になるとは思わなかった。
そういう思いが胸を渦巻いているのだと思う。
けれども、だからこそ立ち向かわなくてはならない時がある。
逃げる事は、最早許されないのだから。
バーサーカーとの力比べはウィッカーマンが制し、ウィッカーマンは両腕でバーサーカーの…ギリシャ最大の英雄ヘラクレスを掴みあげてその胴体へと格納。
全身を一気に燃え上がらせて崩れ落ちていく。
「はぁ…いい?これから、詠唱を行うのできちんと復唱するように」
意を決した所長は目元の涙を拭って目つきを鋭くさせる。
僕は小さく頷き、再び召喚陣に向き直り手を翳す。
『素には銀と鉄。礎に石と契約の大公。我が手に持つは砕けぬ朱槍。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ』
「やったんですか?」
「いや、まだだ!あの野郎、まだ『
マシュは崩れ落ちていくウィッカーマンを見て勝利を確信するが、クー・フーリンは更に魔力を練り上げて原初のルーン18文字の起動準備へと入る。
崩れ落ちるウィッカーマンの爆炎から激昂する咆哮がビリビリと響き渡る。
『
ヘラクレスは爆炎を物ともせず、しかし全身に負った大火傷を超高速で再生させながら斧剣を振り上げながら僕に向かって突撃する。
しかし、横合いからマシュが盾を構えて突撃してその小柄な体からは想像できない膂力を発揮してバーサーカーのバランスを崩す。
バランスを崩したバーサーカーは軽業師の様に石畳に拳を叩き込んで体を跳ね上げさせ、空中でマシュに向かって回し蹴りを叩き込んで跳ね飛ばす。
「うあっ!!」
「ナイスガッツだ!喰らいな大英雄…スカサハより学んだルーン魔術、その神髄ってやつを!!!!」
『汝の身は我が下に。我が命運は汝の
ヘラクレスの周囲に18のルーン文字が一斉に展開され起動。
空間が歪みを上げ捻じれ狂う。
「『
北欧の大神オーディンの力が一時的に現界し、ヘラクレスを中心に魔力の暴風が巻き起こる。
空間すらも捩じ切り断つようなその宝具は、ヘラクレスを幾度も殺し尽し――しかし、足りない。
宝具効果範囲外へと無理矢理突撃したヘラクレスは、進行方向に居るクー・フーリンへ赫怒の咆哮をあげ、ボロボロになった左腕で薙ぎ払う。
『誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者』
「マシュ!!」
「負けない…負けてなるもんか!!!」
クー・フーリンは礼拝堂の残った瓦礫まで弾き飛ばされ、内臓にダメージを受けたのか口元から血を吐き出す。
それでも手に持った樫の杖から火炎弾を放ち続け、ヘラクレスの行動を阻害しようとする。
だが、ヘラクレスの突撃は最早その程度では収まらず、遂に僕の元へと辿り着く。
立香さんの叫びに反応するように、マシュは最後の砦となる様に僕の前に立ってヘラクレスへと立ち向かう。
「――――!!!!」
「うわぁぁぁぁ!!!!」
僕を殺し尽すのに十分すぎるほどに引き絞られた死の一撃…しかし、それは僕の元へと届かなかった。
マシュが、手に持った盾を地面に突き立て
強大な守護結界が発生し、ヘラクレスの一撃と拮抗する。
『汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!!!』
ヘラクレスの剛撃による猛攻により、マシュの防御結界がまるでガラスの様に砕け散りマシュは斧剣の一撃を盾ごと受けて弾き飛ばされ――光の爆発が巻き起こる。
「まったく、遅かったな馬鹿弟子」
眩いばかりの光の中、10年…共にあった声が耳元に響いた瞬間、ヘラクレスの身体が5本の朱槍で貫かれる。
眉間、喉仏、肺、心臓、股間…いずれも見紛うことなくゲイ・ボルクが突き刺さっている。
その衝撃は凄まじく、ヘラクレスの身体を容易く弾き飛ばして僕との距離を開けさせる。
「サーヴァント・ランサー、影の国より罷り越した。マスター…と呼べば良いのかな、お主の事を…」
僕はその背を見上げていた、僕はその声を聞いてきた、僕は彼女と共にあった。
いつしか憧れ、いつしか恋い焦がれ、いつしか到達すべきと思っていたその背を魅せ、お師匠…スカサハは夢で出会った時とは異なる姿を見せていた。
ボディースーツに革鎧は変わらないものの、肩の鎧は銀ではなく鈍い金となり、薄いヴェールを被った姿は正に女王と呼ぶに相応しい。
僕が呆けていると、お師匠は呆れたように肩を竦める。
「ほれ、しゃきっとせんか。闘いはまだ終わってないのだぞ?」
「お、応ッ!!!」
「よろしい。では、大英雄ヘラクレスよ…お主を影の国へと連れて行こう。お主ほどの勇士であれば、他の弟子たちも奮起するに違いない」
ヘラクレスが蘇生を果たし、ゲイ・ボルクを引き抜くと前傾姿勢で地面に片手を置き、両足に力を込める。
それはまさしく一撃必殺を狙っていると言わんばかりだ。
対してお師匠は薄く笑みを浮かべて、両手にゲイ・ボルクを持つ。
左手に持っているものは僕のものと同じ形状だが、右手のものはより暗い赤で使い込まれているように見える。
燃え盛る礼拝堂の残骸が崩れた瞬間、両者が飛び出す。
先手を打つのはヘラクレス…速度の乗った斬撃を真っ向唐竹割でお師匠に向かって叩き込むも、その場所にはすでにお師匠の姿はない。
爆音と共に中庭に残っていた石畳が粉砕され、その上空に莫大な魔力反応が発せられる。
「刺し穿ち、突き穿つ――」
上空に跳躍していたお師匠は、まず左手に持ったゲイ・ボルクを地上にいるヘラクレスへと投擲。
紅蓮の流星は無数の光となって降り注ぎ、ヘラクレスの四肢を地面へ…空間に縫い付ける。
それを見たお師匠はすかさず右手に持ったゲイ・ボルクへと魔力を一極集中させる。
「『
魔力が収束されたゲイ・ボルクの真名を開放し、全力投擲。
紅蓮の彗星と化したゲイ・ボルクは、一直線にヘラクレスの心臓へと突き進み直撃、縫い付けた空間をも粉砕し、地面に小規模のクレーターを発生させながらヘラクレスを霞の様に消滅させた。
地上に降り立ったお師匠は、手元に戻って来た二本のゲイ・ボルクを弄ぶように回転させてから掴み、薄く笑みを浮かべる。
「私を殺せる者はどこだ?…フッ、いる筈もないか」
独自設定、呪文改変でございます。あぁっ突っ込まないでぇえっ!(丸まり怯える)
お師匠、ハッスルしすぎてレベルマフォウマスキルマ5凸状態で登場。
ソロモンは速やかに逃げる事をお勧めします。
けれども聖杯は大量に置いていくべき、僕たちマスターが有効利用してあげる。