Fate/Grand Order 朱槍と弟子   作:ラグ0109

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#35

形ある島への冒険と首都ローマへの凱旋。

藤丸 立香さんはそれらを見事にこなしただけでなく、敵勢力である連合ローマ帝国の首都…その正確な座標を手に入れる事に成功した。

その場所はマッシリアよりさらに南西…現代で言えば、スペインに位置する山間の中に隠されていた。

シバによる観測でも、ローマに酷似した外観の都がうっすらとではあるけど確認できたことからほぼ間違いないと言えるだろう。

その報せを受けた僕達は、最低限の部隊をガリアに残してネロ率いる首都攻略部隊と合流。

首都攻略のための戦力温存のために、後方へと配置される運びとなった。

立香さんとは通信で2、3言葉を交わしたに留まっている。

蟠りを抱えたままの状態に僕は一抹の不安を覚えつつ、2騎のバーサーカー達と進軍を続けていた。

スパルタクスは笑みを絶やさず目指すべき圧政者へと歩みを止めず、そしてもう1騎のバーサーカーである三国志にてその名を轟かせた乱世の梟雄『呂布奉先』はその身に闘気を漲らせて1歩1歩大地を踏みしめる様に黙々と歩いている。

この2騎はこれから首都を攻略する上で重要となる、攻城兵器としての役割が強い。

しかし、狂化の特性上敵を見つけたら一直線に追いかけてしまう為に、進軍中の散発的な戦闘にはあまり使用したくない。

故に後方に配置し、最終的な武力による手綱を握るために僕とお師匠達が配置されることとなった。

 

「カモフラージュを施しているとは言え、こうも暇ではな」

「お師匠、首都着いたら存分に暴れてもらって結構ですんで…」

「お主…私をバーサーカーか何かと勘違いしておらんか?」

 

先陣を切っているネロと立香さんの部隊は、散発的な連合ローマ帝国軍との戦闘が起こっているものの、いずれも雑兵ばかりで大きな損害が出る事もなく順調に進軍している。

勿論、何か問題があれば所長達に連絡してもらってすっ飛んでいくつもりではある。

お師匠は僕の言葉に心外だと言わんばかりにスッと目を細めて冷ややかな視線を送ってくる。

 

「いや、自分よりも強い奴に会いに行くって言ってレイシフトしてるくらいですし…バトルジャンキーなのは間違いないのでは?」

「ますたぁのばぁさぁかぁは、この清姫だけで充分でございます」

「バーサーカーってなんだっけ…」

 

僕がお師匠に反論をすると、清姫は僕の腕に抱き着いて頬を膨らませながらお師匠へと嫉妬の視線を向ける。

清姫のパッシブスキル『狂化』のランクはEX。

対して呂布のランクはA…スパルタクスはEX。

呂布は言葉による意思疎通は出来ない。

試したのだけれど、『ウオー』としか叫ばなかった。

スパルタクスは流暢に言葉を発することができるのだけれど、会話として成り立つことは殆どない。

しかし、清姫の場合は僕の事を安珍の生まれ変わりとして見ていると言う点以外は普通に会話は成り立つし、振舞いは恋する少女のソレだ。

曇り切っていない曇った瞳なのが本当に怖いんだけど。

とりあえず、人としてイかれていたらバーサーカーと言う括りにされてしまうんだろうか…。

 

「女子のばぁさぁかぁと言えばこの、清姫にございます。故に!ばぁさぁかぁは、わたくし1人で充分なのです!」

「愛されているな、良太?」

「ソウデスネー」

 

お師匠はニヤニヤとした笑みを浮かべて僕を揶揄ってくる。

それに対して僕は、がっくりと肩を落として深いため息を吐き出すだけだ。

清姫は兎に角、推しが強い。

恋する乙女と言うものは、皆こんな風に猪突猛進なのだろうか?

それとも、狂化によって助長でもされているのだろうか?

どこか気の抜けたかのような漫談に、後ろを歩いていたクー・フーリンが呆れた様な声を出す。

 

「なにやってんだかねぇ。もうちっと気を引き締めた方が良いんじゃねぇか?」

「いや、ほんと…目立った戦闘がないからどうにも牧歌的ですね」

「デカブツ2体居なきゃもっと気が抜けてたんだろうが…」

 

クー・フーリンがヘラヘラとした態度でため息を吐きだした瞬間に、猟犬を思わせる鋭い視線へと変貌する。

クー・フーリンの眼差しが変化した瞬間に、僕達の傍らで唐突に爆発音が響き渡る。

 

「――――!!!!!!!!!!」

 

大地を砕き、その手に持つは中国世界でも有数の武具『方天画戟』。

乱世の梟雄、無双の豪傑であるバーサーカー・呂布奉先が戦の匂いを敏感に察知し、駆け出した為だ。

その威容、その体躯からは想像もできないその速さは、まるで重戦車が風の如き速さで走っているのかと錯覚してしまう。

呂布を制御できる荊軻は現在、前線で負傷した兵を後方に下げる為の護衛任務に就いてしまっている。

 

「キチンとマスター契約結んでないから…!師匠、追いかけますよ!」

「良いだろう。しかし、スパルタクスはどうする?お前が此処を離れてしまうと言う事は、セタンタも清姫もお主について行くと言う事だぞ?」

「スパルタクスにもついてきてもらいます!」

「おぉ、ついに圧政者が私の前に現れたと言うのだな?」

 

スパルタクスが僕の言葉を耳に入れると、全身の筋肉を撓ませながら不気味な微笑みを浮かべてその手に持つ巨大なグラディウスを天高く掲げる。

僕は概念礼装であるゲイ・ボルクをその手に持ち、穂先を呂布が駆け出した方角へと差し向ける。

 

「あっちに圧政者だ!!!」

「おぉ!彼方にこそ圧政者あり!フハハハハ!今、我が叛逆をお見せしよう!征くぞォッ!!!」

「随分扱いが上手になりましたね、ますたぁ?」

「とりあえず敵を圧政者認定すれば勝手に進んでくれるから…」

 

スパルタクスの追い求めるモノ…要は圧政者と言う名の人参を鼻先にぶら下げてしまえば良い。

それで大体の進行方向を絞ることが出来る。

彼もまた戦火の匂いには敏感だろうし、敵兵を見つければ勝手に殲滅してくれるはずだ。

 

『あ~もう、滅茶苦茶じゃないか!』

「呂布とスパルタクスを動かしたんで僕らも行きます。立香さん達も一旦下がらせてください。敵部隊を挟撃します!」

『もうそっちには動いてもらっているよ。東雲君も急いでくれ!』

 

Dr.ロマンのボヤきに心中で同調しつつも、僕は両足にルーン魔術による強化術式を施して陸上競技におけるクラウチングスタートのポーズを取る。

 

「行きます!!」

 

呂布程では無いものの、大地を踏み砕く勢いで足を踏み出せば、一気に戦場に向かって跳躍する。

身体能力を強化術式で人体が耐えられる限界ギリギリまで補強し、僕は戦場を俯瞰する為に文字通りジャンプしたのだ。

勿論、着地はお師匠任せだ。

さすがに長時間強化術式で肉体を補強し続けると、自滅してしまう可能性がある。

 

「いっ…!!」

 

両足に走る痛みに歯を食い縛りながら僕は視力をルーン魔術で補強して、敵部隊の進軍位置を把握する。

僕達が進む道は隠れる場所の少ない平野だ。

しかし、部隊に魔術師が伴っていた場合、認識を阻害する魔術を使って待ち伏せをしていた可能性がある。

前衛が行っていた散発的な遭遇戦は、偶然を装った必然である可能性が高い。

もし仮にレフが裏で絡んでいるのだとしたら、僕達…とりわけケルト最高峰の戦士であるお師匠とクー・フーリンを警戒する筈。

それに以前のガリアでの戦闘で、こちらの戦闘能力を思い切り見せつけてやったのだ。

分断するにしてももう少し上手く此方を分断しなければ、返り討ちに合う事は目に見えている筈なのに…。

 

「待ち伏せ…何も無いところから?単騎が突出してる…お師匠、着地お願いします!」

「やれやれ…跳躍の免許皆伝とはいかんな…?」

「いや、普通の人間がやれるようなもんじゃないでしょぉぉぉぉぉぉ…!!??」

 

跳躍の最高到達点に着いたことで一瞬の浮遊感を得た後に、重力と言う名の魔の手が僕の肉体をつかみ取って一気に地面まで落下していく。

本来であれば僕自身で着地すべきところではあるのだけれど、先ほど言った通り長時間の身体強化は身体に毒。

故に僕はすぐに強化術式を解いてしまっているので、今この空中に放り出されている状況では生身の人間も同然。

つまり、地面に着地しようとすれば、漏れなく地面を汚す赤い染みになると言う事だ。

突き進むスパルタクスの頭上を優に飛び越えた僕は、背中と膝裏を抱えられる…所謂お姫様抱っこの状態でお師匠に抱きかかえられ、難なく大地に着地する。

一切の衝撃を感じさせずに着地する辺り、跳躍の奥義を会得出来るのはまだまだ先の話になりそうだ…。

僕はそのままお師匠に抱きかかえられたまま、目と鼻の先にある戦場…中でも単騎で此方に向かってきている存在へと突き進んでいく。

 

「セタンタ、清姫…準備は良いか?」

「ありゃぁ…英霊だな」

「ますたぁの邪魔をするのであれば…逃しません…」

 

まだ距離は開いている…だと言うのにあの黒馬の出す蹄音が、地響きを伴って此方へと伝わってくる。

それはまさにすべてを蹂躙し蹴散らすかのような力強さ…その覇気はびりびりと空気を振るわせていく。

 

「先生、それじゃぁ手筈通り宜しく!」

「仰せのままに…ライダー」

 

黒馬の背に跨る長い赤い髪を三つ編みにした美少年と呼べる顔立ちの整った英霊…ライダーと先生と呼ばれた黒い長髪の顰め面の男――恐らくこちらも英霊だろう――が確認できた瞬間、黒馬が天高く跳躍して此方へと迫ってくる。

クー・フーリンと清姫は相手を迎撃しようとするが、お師匠がすぐさま声を張り上げる。

 

「散開しろ!潰されるぞ!!」

「征くよ!是こそは、いずれ彼方へ至る我が覇道!『始まりの蹂躙制覇(ブケファラス)』!!!」

 

ただの跳躍からの踏み潰し…その筈だった黒馬の一撃は、着地点を中心に全てを圧し潰す一撃となって僕達の頭上から襲い掛かって来た。

しかし、お師匠の掛け声のお陰ですぐさま離脱することが出来た僕達は、着地後そのまま動かない敵ライダーを三方から取り囲む。

 

「フハハハハ!おぉ、君こそが私の求める圧政者!!我が愛を受け取りたまえ!!」

「思っていたよりも早い合流か…だが、問題は無い」

 

お師匠から漸く降ろしてもらうと同時に、遅れてやって来たスパルタクスがグラディウスを掲げながらライダー目掛けて襲い掛かろうとする。

しかしライダーの後ろに居た男から急激な魔力反応を見せつけ、()()を展開する。

 

「これぞ大軍師の究極陣地…!『石兵八陣(かえらずのじん)』!!!」

 

上空から巨石の柱が僕達を取り囲む様に上空の雲を突き破って降り立ち、陰陽図の描かれた天板が屋根の様に爆音と共に設置される。

その瞬間巨石で作られた陣内部に強烈な閃光と負荷が掛かり始める。

石兵八陣…三国志に名を連ねる蜀の大軍師、諸葛亮 孔明…それが仕掛けた罠だったっけ…?

オルレアンの時、ジャンヌ・オルタと対を成す様に竜殺しにまつわる英雄たちが呼ばれていた。

恐らく目の前の男はそうなのだろう…()()()()()()()()()()召喚された英霊、諸葛亮 孔明なのだろう。

 

「僕にも今の事態がどういう状態なのか理解しているつもりだ。だけど、僕は敢えて君たちに敵対させてもらう」

「くっ…力が…」

 

ライダーの少年は陣の中心に居ながら、特に堪えた様子もなく非常に申し訳なさそうな声音で首を横に振る。

スパルタクスを含め、僕達は全身に重圧がかかったかのような倦怠感に襲われ、その上で何らかの拘束術式がかかっているのか指先1つ動かすのも困難な状態になっている。

 

「然程時間は取らせないからさ、そこで大人しくして居てくれると嬉しい。僕はただ彼女と話をしてみたいだけからね」

「そう言う事だ。全て終わればその陣を解く。だが、邪魔をしたければそれはそれで構わない。破れるものならばな」

『待ちなさい』

 

ライダーが手綱を握り陣から出る為に馬を動かし始めると、砂嵐交じりの不鮮明な音声が響き渡る。

その声は、不鮮明でありながらも聞き覚えのある声なのか、孔明の眉根がピクリと上がる。

 

『時計塔のロードである貴方が、何故そこにいるのかしら?』

「その声…オルガマリー・アニムスフィアか」

「先生、知り合い?」

「あぁ…」

 

時計塔…それは英国に拠点を置く魔術協会における一大勢力の1つだ。

カルデアの運営にも大きく関わっていて、僕としては関わりたくない組織の1つである。

ほら、ホルマリン漬け宣言を所長から受けてるからね…。

 

「私にその問いを応える義務はあるのか?」

『大いに。人理が焼き尽くされようとしている今、何故私たちと敵対するのかしら?是非ともお聞かせ願いたいわね』

 

同じ魔術協会の人間であるならば、敵対するのはおかしい…協会と言う1つの組織の歯車であるならば、同じ目的に向かって進むべきと言う事なのだろう。

だけど、組織の歯車である以前に人間だ。

人間である以上個人がある。

個人である以上優先すべきものがる。

だからこそ、彼は今こうして敵対しているのではないだろうか?

 

「なに、私には何よりも優先すべきことがある。そして、私が頭を垂れるのは何時だって『王』のみだ。そちらの言い分は理解しているが、今回はそちらに従う気は毛頭ない」

『あなた…それでも!!』

「そうだ、それでも私はロード・エルメロイ2世だ。行くぞライダー、そろそろ客がここまで来る頃合いだ」

 

話は終わりだ、と言わんばかりに孔明…ロード・エルメロイ2世が顔を背けると、ライダーは難なく陣をすり抜けて外へと脱出していく。

僕は、それを黙って見過ごすことしかできず、起動可能な魔術回路をフルに動員して単純な魔術による身体強化を行って指先で地面をゆっくりとだが、着実になぞっていく。

全身の痺れと言うものは徐々に薄れてきてはいるものの、呪いは着実にお師匠達を含めてダメージを与えていく…。

そのダメージを少しでも軽減する為に霊体化してもらう事で、僕に対する負担を減らしてもらい、ダメージの回復に務めてもらう。

問題は、スパルタクス。

先ほどからダメージを受けている所為か、僅かずつではあるものの筋肉が膨張しはじめているのが分かる。

しかし、この陣を脱出するためにはスパルタクスの協力が不可欠だと思う。

お師匠を使えば、難なく潜り抜けられそうだけど、今後の戦闘で支障が出てしまう可能性がある。

それ程までに絶妙なさじ加減で、この陣が形成されているのだ。

つまり、人間は死ににくく、しかし、英霊を動かすには魔力を多大に消費せざるを得ないと言う状況だ。

その点、スパルタクスは契約をしていないので、僕の魔力を食う事は無い…制御できないんだけどね。

 

「圧政者よ!待ちたまえ!我が愛を!我が叛逆ヲォォ!!」

「こんなところで、宝具開帳されたら、死ぬ…!!」

 

僕は必死に地面をなぞってルーン文字を書き込み終えるとそれを解放して、スパルタクスに強固に纏わりつく拘束術式を僅かでも緩める。

するとスパルタクスは、まるで獣の様な唸り声をあげて立ち上がりよろよろとした足取りで巨石へと向かって歩き出す。

 

「圧政には叛逆を…圧政者には我が愛を…ヲヲヲヲヲヲッ!!」

 

巨石へと近づいたスパルタクスは、その手に持つグラディウスを高く掲げて乱暴に巨石に向かって叩きつけ始める。

本来であれば、ライダー達の姿を追って陣から出て行ってしまうはず…にも拘らず、スパルタクスは脇目も振らず巨石を破壊しようとグラディウスを鈍器の様に振り回すのだ。

 

「今!圧政に虐げられし民が居る!今!圧政者によって死に至ろうとする民がいる!ならば!私は突き進もう!圧政に叛逆する為に!我が愛を証明するために!!フハハ!フハハハハハ!!!」

 

スパルタクスの青白い筋骨隆々の肉体が一層撓み、グラディウスが巨石に深々と差し込まれると全身から強烈な魔力の放電が行われ、巨石を通してこの石兵八陣を形成するオブジェクト全体に紫電が奔り始める。

 

「これこそが!我が愛!我が愛は()()()()()()!!!」

「へ…???」

 

猛烈に嫌な予感がした瞬間、スパルタクスの全身が青白く発光し…僕の意識を刈り取った。




熱中症…皆さん気を付けてくださいね…(トオイメ

中々書く時間が取れない中FGO無常の水着イベ
変形するバベッジ…流暢に喋るフランちゃん、そして子煩悩と化すアラフィフ(独身)
今年もカオスや…


次回
「爆発ヲチなんて最低ー!」
「生きているだけ良いではないか…生きているだけな」

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