Fate/Grand Order 朱槍と弟子 作:ラグ0109
「ドクター!一体何があったんです!?」
「しっ東雲君!?君今日ファーストミッションだったろう!?」
「…え、明日って聞いてたんですけど?」
ロマニ・アーキマン…通称Dr.ロマンと少女の2人に追いついた僕は、慌てて声をかける。
通路では引っ切り無しに警報が鳴り響き、緊急事態を告げるアナウンスが告げられる。
曰く――中央ブロック管制室及び、カルデアの大部分の電力を賄っている発電所で火災が発生。
魔術と科学が複雑に絡み合い、そして細心の注意を払っている筈のカルデアで、こんな大規模な事故が起こるなんてことは考え難い気がする。
可能性としては、この事故は人為的に仕組まれたもの…つまり、このカルデア内部にテロリストが潜んでいる可能性だ。
もっとも、ここは標高6000メートルの天然の要塞…脱出するのも一苦労な筈。
犯人捜しはゆっくりできるものとして…。
どうやら、僕はまた意地悪をされていたらしい。
なに、魔術師ってこんな陰険なやつらの集まりなの…?
「と、とにかく君が無事でよかった…!管制室が爆弾でも爆発したみたいになってて…」
「ドクター、急ぎましょう!マシュが心配なの!」
「ああもう!君はまだ訓練だって受けてないのに!」
「僕が彼女の面倒を見ますから、急ぎましょう!!」
ロマンに食って掛かる少女は、テコでも動かないと言わんばかりの芯の太さを見せる。
おそらく、一般公募で選ばれた適正者最後の1人だろう…肝が据わっているのかそれとも浮世離れしているのかは分からない。
分からないけども、非常事態において人手が必要なのはハッキリしている。
で、あれば彼女にも働いてもらう必要があるだろう。
「東雲君…頼んだよ?」
「任せてください。これでも訓練じゃまともな成績残してるんですから」
「急ぎましょう!」
少女に促され、ロマンと顔を見合わせて頷けば、中央ブロックにある管制室へと向かう。
今日ファーストミッションが行われると言う事は、ファーストミッション及びセカンドミッションを担当するA班とB班のメンバーが事故に巻き込まれていると言う事になる。
普段の行いが行いなので因果応報と思わなくはないが、それはそれ…命は大事にすべきだし、仮に死んでしまっても笑う事は無い。
悲しみもしないけれど。
中央ブロック管制室へとやって来ると、内部で凄まじい爆発が起きたのか内側から扉がひしゃげて開ける事が出来なくなってしまっている。
「そんな…!?」
「これじゃ、中に入ることができない!」
ロマンと少女が呆然と立ち尽くして扉を睨み付けているのを横目に、僕は2人の前に立って手をかざす。
お師匠には人前で使うなと言われたけれど、場合が場合…非常時だし大目に見てくれるはず。
「破壊するから2人とも下がって!」
「東雲君!その扉は対魔術用の結界術式が施されているんだよ!?」
「ドクター、手が無いんだから言うとおりにしよ!」
少女がロマンの体を後ろへと押しやったタイミングで、僕は体内に走る魔術回路を全て開放する。
右手の人差し指と中指をそろえて立て、左から右へと素早く払うように腕を振るう。
すると空中に魔力で描かれた三つのルーン文字が光り輝き、ふよふよと浮かび上がる。
「13番、9番、2番起動!行け!」
13番のルーン文字『ユル』は根本的な変化…そして腐れ縁を
9番のルーン文字『ハガル』は
それら三つを順繰りに起動し扉に思い切り叩き込むことで、ユルは綻びが生じた結界を容易く断ち切り、無防備になった扉に向かってハガルより生じた巨大な雹がウルによって強化され扉に叩き込まれる。
それらは僕の目論見通りに互いに作用し、インパクトの瞬間にユルとハガルの引き起こす変化によって扉だけを破壊して爆風を起こすことなく掻き消えていく。
根本的な変化と破壊を伴う変革…それらを利用して扉のみを破壊するように仕向けたのだ。
瓦礫すら吹き飛ぶ事無く地面にそのまま落ちていく様は、まるでCGの様で摩訶不思議な光景に見受けられる。
どっと体に掛かる負荷に深くため息を吐いて構えを解き、管制室へと入っていく。
純粋に破壊するだけならまだしも、管制室内の生存者や背後のロマン達を考慮しての高レベルの魔術行使は、生身では今までやったことが無かった為に無駄に魔力を消費してしまったようだ。
「し、東雲君…君本当に一般人なの!?」
「魔術使える人が一般人なわけないでしょ!」
「御尤も過ぎる!!」
ルーン魔術による破壊力の凄まじさに舌を巻くロマンを他所に、僕は未だ炎が燻る管制室を見渡す。
管制室に整然と並んでいる筈のコフィンの大多数は爆発で破壊され、赤い液体が付着している物もある。
オペレーターの詰め所もご丁寧に破壊してあり、恐らく――
「マシュー!誰かー!!返事をして!!」
少女は声を張り上げて、瓦礫を掘り起こして生存者を探し続ける。
ロマンは僕の肩に手を置いて、耳元に口を寄せる。
「恐らく…この状況では絶望的だ…僕はこれから地下の発電所に行って非常電源に切り替える。カルデアの火を絶やす訳にはいかないんだ…」
「無駄かもしれませんけど、此処で彼女と一緒に生存者を探してみます」
「後少しで隔壁が降りてしまう。そうなると脱出は不可能になるからね?」
僕は静かに頷き、ロマンと別れて横倒しになっているコフィンを起こそうとしている少女へと駆け寄る。
けたたましいアラームと焦げ臭さと血の匂いは、正しく地獄と言うに相応しい。
アラームに交じってコフィン内に設置されているスピーカーから一斉にアナウンスが発せられる。
『システム レイシフト最終段階へ移行します。座標―西暦2004年1月30日―日本―冬木。ラプラスによる転移保護…成立。特異点への因子追加枠…確保。アンサモンプログラム―セット。カルデア所属のマスターは、最終調整に入ってください。繰り返します―――』
どうやら、レイシフトのシステム自体は生きているらしく、レイシフト最終段階と言うタイミングで爆破されたようだ。
…魔術師の中には科学を毛嫌いしている人がいるって聞いたことがある。
もしかしたら…でもそんな人間が爆弾なんて科学技術使うのだろうか?
考えても仕方がないと踏んで、僕は意識を切り替えて少女に手を貸し、コフィンをずらす様にして退かす。
「――ぁ…せん、ぱ…」
「マシュ!!」
退かしたコフィンの下からか細い声が聞こえてくる。
少女は安心したようにマシュの手を握り締め、安堵の涙を流す。
だけど、マシュの下半身は瓦礫が覆っていて、とてもじゃないけど…。
「せん、ぱい…それに、しののめ、さん…わたしのことは…」
「駄目だよ!マシュ!今、助けるから!東雲さんも」
「今、手を貸すよ!」
情けない話だなぁ…僕はここにきて生存者を見捨てようとしてしまった。
どうせ助からないならば、見捨ててしまおうと…これでは他の魔術師と一緒じゃないか。
少女に鼓舞されるように気合を入れ直し、慎重に瓦礫を押しのけていく。
ルーン魔術による破壊も考えたけれど、マシュの身体がどうなっているか分からない以上下手に放つわけにもいかない。
「ぁ…」
マシュが気の抜けた声を上げると、管制室の中央に鎮座している地球環境モデル『カルデアス』がまるで業火に包まれたかのように赤く発光し始める。
カルデアスは地球を模して作られた写身…この地球が赤くなると言う事は、これから先の未来、地球がこのカルデアスと同じになることを証明している。
『観測スタッフに警告。観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを書き換えます。近未来百年までの地球において、人類の痕跡は発見できません。人類の生存は確認できません。人類の未来は保証できません』
「…カルデアスが赤くなっちゃいました…」
「マシュ、喋らない方が良いよ!」
「いいんです、助かり、ませんから…でも…」
マシュはガッカリするように、諦めてしまうように口元に笑みを浮かべ、じわりと涙を貯める。
僕は瓦礫撤去の手を止めて、少女の手を取りマシュの手を握らせる。
『中央ブロック隔壁封鎖。館内洗浄開始まで後180秒です』
「もう、外に…でれ、ません…ごめんなさい…ごめん、なさい…」
「僕はね、お師匠からいつも教わっていた事があるんだ」
そう、いつだって厳しい…けれども優しい僕の憧れ。
両親が居なくなった後だって、変わらずに接してくれた美しい人。
その人の姿を業火に包まれるカルデアスの中に幻視しながら、マシュを…少女を鼓舞するように言葉を続ける。
「どんな逆境でも、跳ね除けられないものはないって事。きっとなんとかなるし…なんとかするよ」
「そう、そうだよ…諦めるのは死んでからだって…できるんだから!」
僕はありったけの魔術回路を総動員し、再び腕を払ってルーン文字を起動していく。
そう諦めたくない…未来が無くなるなんて訳が分からない事言われて、流されるままに此処に来て、そのまま死ぬなんて許せない。
簡単に死んでしまったら、お師匠をがっかりさせてしまう…だから!
『コフィン内マスターのバイタル、基準値に達していません。レイシフト定員に達していません。該当マスターを検索中・・・・発見しました。適応番号38番東雲 良太、適応番号48番藤丸 立香をマスターとして再設定します』
通常、レイシフトはコフィン内に入ることで可能になる非常にデリケートな技術だ…と言う話を講習会で耳にタコができる程言い聞かされた。
これから行われるはずだったミッションは難しいものだと言う認識はそれだけで否応にも高まったし、死にたくなかった僕は必死に訓練に励んできた。
そして、そのレイシフトがコフィン内に収まっていないにも関わらず、行われようとしている。
十中八九、システムの暴走です勘弁してください。
僕は急いで形成した1番と3番のルーン文字を展開しようとする。
『アンサモンプログラムスタート。霊子変換を開始します。レイシフト開始まで――』
ついにレイシフトが始まり、僕の練り上げた魔力は霧散していき指先から徐々に光へと変化していく。
嫌な予感がする。
彼女達に触れていないと、いけない気が…。
『全工程完了。ファーストオーダー実証を開始します』
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「まったく、お主と言う男はワシの言う事が聞けんのか?ん?」
「いや、本当に滅相もないですお師匠…」
どうやらレイシフト自体は現在進行形で進んでいるらしい…どう見ても今いる場所はお師匠の居る門の前なので、レイシフト中に気絶してしまったようだ。
恐らく、きちんとした手順を踏まなかったが故の事故のようなものだろう…レイシフト先がどうなっているか分からないので、目覚めたら詰んでました…なんてなりそうだけど。
僕は門の前で正座してお師匠にくどくどと説教を受けていた。
理由は言うまでもなく、ルーン魔術を行使したことに関してだ。
「とはいえ、お主に降りかかる試練はこれから…この影の国も消滅を免れんからな」
「人理が焼却されるからでしょうか?」
「然り。この影の国はお主の生きる世界と表裏一体。光なき所に影は生まれん道理と同じだ」
「そ、それは嫌な話ですよ、お師匠…」
影の国の消滅…それは、心許している存在が居なくなってしまう事と同義だ。
どんなに厳しくとも、僕にとってお師匠の存在は非常に大きい。
「はっはっは、私とて肩の荷が下りる…と言いたいところだが、死ぬのであれば戦の中で死にたいのでな。少しばかり反抗してやろうと思っている」
「それは…どういう…」
「何、リョータ…貴様に褒美をやると言って渡さなかったからな。それを手に持ち龍脈に赴け」
お師匠はそう言うと、僕の目の前に1本の槍を突き立てる。
その槍はお師匠が持つ槍に酷似し、しかしどうみても出来立てと言わんばかりに新品のような光沢を放っている。
「これをお主の魂に格納し、概念礼装として定着させる。私が手ずから作ったゲイ・ボルク…クリードを討ち破ったお主ならば持つに相応しかろう」
「…お師匠、ガチ聖遺物じゃないっすかね?」
「うむ、ガチだな」
「…まぁ、もらえるなら有り難くいただきますけど…」
僕は正座したまま突き立てられたゲイ・ボルクを手に持つ。
ゲイ・ボルク…一刺一殺の呪いの朱槍…海獣クリードの骨格より作られたこの槍は冷たく、軽く、なによりも熱かった。
クリードの怒りか、それともお師匠から下賜されたからなのかは分からない。
「よいか、龍脈だ。場所はその槍が必ず示すであろう…必ず向かうのだぞ?」
「分かりました…それでは暫しのお別れです」
ゆっくりと立ち上がり、ゲイボルクを概念礼装として僕の魂へと格納する。
こうすることでレイシフト先でも、僕自身の魔術礼装として取り出すことが出来るはずだ。
…近接戦闘しかける魔術師ってどうなんだろうって思わないでもないけど…。
ともかく自衛手段が増える事は大変喜ばしい。
魔術ばかりでは、いずれ底が尽きてしまうかもしれないからだ。
「うむ。お主の声を待っておるぞ」
お師匠はフッと笑い、一足飛びで門の上へと飛び上がる。
きっと、消滅するその時までそうして門番として在り続けるのだろう。
僕は両頬を叩いて気合を入れ直し、ゆっくりと目を閉じた。
東雲 良太、藤丸 立花はそれぞれぐだおとぐだこに外見を変換していただければと思います。
魔術関連に関する突っ込みはあれです…ご容赦を
独自設定と思って諦めてね
次回序章
…ここどこ…?
追記:FGOアニメ化に伴いぐだおの名前が藤丸 立花でしたので、当SSのぐだ子の名前は藤丸 立香に変更します(キリッ
アニメたのしみ~~!