Fate/Grand Order 朱槍と弟子   作:ラグ0109

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フランスを巡っての遊撃作戦は、結局のところ効果を見せる事無く僅か1日で頓挫することになってしまった。

聖女マルタに襲撃された町『ラ・シャリテ』を出た翌日、立香さんの前に敵の首魁が現れたためだ。

敵の名は竜の魔女ジャンヌ・ダルク…言うまでも無くサーヴァントで、クラスはエクストラクラスと呼ばれる特殊な例外に該当するルーラー…つまりは裁定者だ。

ルーラークラスの英霊は特殊なスキルにより、その時代に存在している英霊の数や位置を正確に知ることが出来るのだと言う。

つまり、僕とお師匠がどれだけ派手に暴れて目眩ましをしても、立香さん達の存在は相手方に知れ渡っていたことになる。

流石にお師匠もそこまで『千里眼』で見通していた訳ではなかったらしく、その話を立香さんから通信で聞いたときは互いに仏頂面になってしまったものだ。

いや、お師匠の場合は『どうして此方に仕掛けてこなかったのか?』と言う不満だった気がするけれど。

立香さん達の目の前に現れた英霊はジャンヌ・ダルクを含めて3騎…ジャンヌを除いた二騎に関しては、どちらも狂化を付与された英霊だったらしい。

ご丁寧に名乗りまで上げてくれたそうで、どちらも真名は判明している。

『ヴラド・ツェペシュ』と『カーミラ』…いずれもこのヨーロッパにおける知名度は最高の英霊で、所謂反英霊と呼ばれる存在だ。

反英霊は恐れるべき怪物としての側面を持つ存在だ。

英雄とは程遠い、暗君や怪物等が該当する。

もっとも、ヴラド公が反英霊に属するのはいまいちピンと来ない気もするけど…。

だって、彼は国の民を守るために非情に徹した、護国の英雄としての側面があるのだから。

僕の見解と世界の見解の相違かもしれない。

そんな最悪な状況下でも、少しだけ幸運な事があった。

1つは、時代における知名度の相違…ヴラド公は()()産まれる予定で英雄としての名を挙げておらず、カーミラに至っては後世の存在…よって、この時代における知名度は両者共に最低クラス。

聖杯によるバックアップはあるのだろうけど…この差は中々に大きい。

そしてもう1つ…それは、()()()サーヴァントの存在だ。

この特異点は一応聖杯戦争の形式をとった物であり、聖杯を巡る戦いとして英霊が召喚されている。

しかし、どの英霊も竜の魔女の支配下に置かれており、正しく聖杯戦争が機能しなくなっている。

そこで円滑な聖杯戦争を行うために、聖杯は新たに7騎を独自に召喚したそうだ。

7騎対7騎の聖杯戦争…この形式を聖杯大戦と呼称されるとお師匠が教えてくれた。

ジャンヌ達に追い詰められた立香さん達を助けてくれたはぐれ英霊は3騎。

キャスター『ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト』。

ライダー『マリー・アントワネット』。

そして…()()()()()()()()()()()()』。

後世の存在…しかし、世界的な知名度を誇る音楽家と悲劇の王妃はまだいい。

ルーラーがもう1騎存在していると言うこの事実は、僕達を混乱させるには充分な状況だった。

とは言え、この3騎が居なければ立香さん達がジリ貧だったのは間違いなく、命からがら撤退することができたそうだ。

僕たちは今後の方針を詰める為に一度合流することを決め、『ティエール』と言う山間の町で合流することにしたのだけれど…。

 

「うふふ…ま・す・たぁ(旦那様)…」

「ヒェッ…マスター呼びなのに別の呼び方に聞こえるっ」

「お主、余程好かれているようだな…何か特別な縁がある様にも思えんが」

「日本人ってだけじゃないですかね…」

 

はぐれ英霊に会いました。

えぇ、僕の目から見ても美少女だと言う事はハッキリと分かります…目が死んでなければ。

白く美しい絹の着物に身を包んだ白雪の様な繊細な肌を持つ少女は、このティエールの町にある広場に1人で佇んでいた。

近かった事もあり、僕たちが一番乗りでこの場所にやってきたわけなのだけれど、この少女と僕の視線が合った瞬間に白い頬にさっと朱が差したと思ったら、まるで恋人か何かの様に『安珍様~』なんて声を上げて此方に駆け寄り抱き着かれ…今に至る。

些かお師匠の機嫌が悪いような気がする…あぁ、柔らかいなぁ…僕より年下に見えるけど、発育は大変宜しい。

青少年だから、反応しないようにするだけで手いっぱいです。 美少女だから、反応しないようにするだけで手一杯てです。

 

「あらやだ、わたくしったら名乗り上げもしないで…」

「アッハイ」

「声が小さいぞ良太?」

「アッハイ」

 

何でだろう…何で僕は針の筵の上に立っているのだろう?

お師匠は腕を組んで僕と死んだ目をした英霊を見つめ、僕は返答に声を詰まらせ、英霊は英霊で頬を赤く染めたまま僕から離れて目の前に立つ。

 

「くらす・ばぁさぁかぁ、清姫でございます。安珍様、思い出していただけましたか?」

『清姫…安珍清姫伝説の龍になった少女か!』

「知っているのか、ロマン!?」

『知ってるも何も日本人の君なら知ってるんじゃないのかい!?』

 

安珍清姫伝説…僕には馴染みのない所謂民間伝承の一つだそうな。

ざっくばらんに言うと、安珍と言う美貌の僧侶に一目ぼれした清姫が裏切られて悲恋に終わる、よくある物語…清姫が龍に変化して安珍を蒸し焼きにすると言う点を除いて。

逃げる安珍を追いかけるうちに執念で龍へと変化したらしい。

良太知ってる、これストーカーって言うんだよね?

しかも、僕はその安珍と言う人間とは縁も所縁も無いのだけれど…目の前の清姫は僕がその生まれ変わりだと信じて疑っていない。

 

「ん?良かったな良太…お主に春とやらが来たようだ」

「いいえ、よくありませんお師匠。っていうか人の気持ち知っててそれ言ってるんだったら、相当性格悪いっすよ」

「はてさて何のことやらな?」

 

お師匠は僕から顔を背けて揶揄う様に笑みを浮かべる。

清姫はそんなお師匠の態度を気にかける事もなく、再び僕の腕に抱き着いてくる。

なんていうか、雛鳥のすり込みに近い反応な気がする…初めて出会ったマスターを安珍認定して溺愛する雛鳥ならぬ雛龍。

…ん、これ立香さんだったらどうなっていたんだろう?

なんて考えていたら、広場に聞き知った声が響き渡る。

 

「あーっ!!美少女と美女とイチャイチャしてるぅっ!!」

「ゴカイデスカンベンシテクダサイゴメンナサイ」

「だから声が小さいと言っておろうに…」

「まぁ、ますたぁとわたくしが相思相愛だなんて…ぽっ」

 

どうやら立香さん達も到着したようで、此方に駆け寄って立香さんは力強く僕達を指差してニヤニヤとした笑みを浮かべている。

命の危機に晒されていたと言うのに何というバイタリティ…オリハルコンメンタルは見習いたいなぁ。

こういう状況でも狼狽えない鋼の心が欲しいです。

 

「東雲さん、最低です。見損ないました」

「まぁまぁ…マシュ、恋は素晴らしいものなのだから応援しなくては駄目よ?」

「いや、マリー…あれは恋と言うには微妙なところだと思うんだけどね」

 

後からマシュと大きな帽子が特徴的な少女、黒い衣服に身を包んだ青年、そして紺色の衣服を鎧で包んだ女性がやってくる。

恐らく、帽子の少女がマリー・アントワネット、青年がヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト…そして、最後の女性がジャンヌ・ダルクだろう。

ジャンヌは浮かない表情をしていて、マリー達の会話に加わろうという気配が無い。

それもそうだろう…自分と同じ存在が守ろうとした国を滅ぼそうとしているのだから。

 

「なんであれ東雲さんとスカサハさんが無事で良かったですよ」

「立香さんが襲撃されたって聞いたときは肝が縮んだけどね」

 

マシュからの辛辣な視線と離れようとしない清姫を意識から外し、にまにまとした笑みを浮かべている立香さんと再会を喜ぶ。

誰も欠けておらずはぐれ英霊を4騎味方に加えられたのは心強い。

残り3騎が襲撃されていなければ、見つけるのも時間の問題だろう。

 

「レイシフトの事故の原因は後々詰めるとして…今後の方針に関してなんだけど…」

『現状の戦力だけでも充分じゃないかしら?』

「所長、時間は限られていますが無い訳ではありません。石橋を叩いて渡る方向で行こうと思うのですが」

 

ロマンの代わりに通信に出た所長に、僕は部隊を二手に分ける案を提案する。

僕とお師匠、クー・フーリン、清姫の偵察によるオルレアン襲撃隊と立香さん、マシュ、エミヤを中心とした英霊捜索隊による戦力の集結だ。

敵の7騎を僕達で受け持つのは荷が重いけれど、戦働きに定評のある兄さんと最大戦力であるお師匠による散発的な攻撃は、相手方の戦力を此方にくぎ付けにするには充分なはず。

その間に立香さん達には英霊を集めてもらい、合流。

一気にオルレアンを陥落させると言う流れだ。

詳細な部分は戦力が集結したときに詰めるべきだろうが、作戦の第一段階は中々良い感じだと思う。

 

「と、まぁこんな感じで竜の魔女さんにはワイバーンが千切っては投げ、千切っては投げされるのを見てもらおうかと」

『時々、貴方性格悪くなるわよね…?』

「やだなぁ、敵に情けなんてかける必要ないじゃないですかー」

「うわぁ、東雲さん良い笑顔…」

 

にこり…いや、にたりと笑みを浮かべると、立香さんは若干引き攣った様な笑みを浮かべる。

 

「良太君、と言ったわね?そうすると貴方の負担が凄い事になると思うのだけれど…」

「王妃、切れる手札は切っていかなければ切り札にならない訳ですよ。僕たちは現状我儘を言えるほど手札がある訳ではない。だからこそ、多少の無理は押し通ります」

「それは…」

 

マリーは僕の身を案ずるように声をかけてくるけど、さっき言ったように切れる手札が無い。

実際問題相手はじわりじわりと領土を侵すだけで特異点を維持できるわけなのだから、僕たちは常に追い詰められているわけだ。

ならばこそ、切り札を切る…余裕ぶっこいていられるのも今の内だレなんとかさんと『王』とやら。

 

「…東雲 良太さん。あの竜の魔女との決着は私が合流するまで待ってはいただけないでしょうか?」

「ジャンヌ・ダルク、救国の聖女…きっと、竜の魔女との決着は貴方自身が着けなくちゃならない事だと思います」

「ありがと――」

「けれども」

 

僕はジャンヌの言葉を遮って、言葉を続ける。

切り札を切るのだから、僕は悠長なことをするつもりはない。

 

「首級を取る時は取ります。特異点を解決すれば起きたことは無かった事になり、死んだ人間すらも正しい時代に乗って生き返る。けれども、今のこの時間の流れにいる人間が苦しんでいい道理はない。だから、取れるときは取ります。…僕はね…他人の命を弄ぶやつが――」

 

――憎くて仕方がない。

 

広場に静寂が満ちる。

お師匠は涼しい顔をし、清姫は頬を赤らめて此方を見上げているけども…どうも相当な表情をしていたようで、皆息を吞む。

 

「まぁでも、竜の魔女を討つには至らないとは思うかな?」

「ほう…それは私が居ても、か?」

「はい」

 

お師匠の目がスッと細められて些か不機嫌そうな声をあげられるけど、僕は臆することなく力強く頷く。

 

「相手は確実に聖杯を得ている状況でしょう。お師匠が一騎当千…無双の境地に居たとしても無限に湧き出る雑兵相手に手間取るのは必定ですから。こればっかりは僕の魔力総量と英霊としての器の限界に由来してるんですけどね」

 

お師匠はカルデアからの魔力的なバックアップを受けていない。

ほぼ、僕からの魔力提供で現界を保っている。

短期決戦であれば、フル稼働させることもできるかもしれないけど、今回は持久戦が主だったものになる。

また、英霊の器と言うものはクー・フーリンの様に特殊な召喚でもない限り、クラスに定められたスキルに依ってしまう。

出来る筈なのに、クラスが邪魔をして出来ないことがあるのだ。

そうなると本来の実力を十全に発揮することが難しくなる…以前、本気ではないとお師匠が言っていたのはこれが原因だ。

聖杯戦争による召喚システムの制限なので文句は言えないけど…。

更に相手の数を考えると、確実にこちらがスタミナ切れを起こすだろう。

よって、首魁が姿を現しても僕達だけでは対応しきれなくなるわけだ。

 

「ふむ…事実なので認めなければならんか」

「…あんなに強いのに…」

 

お師匠は僕の事を褒める様に頭を撫で、立香さんは立香さんで以前の訓練を思い出したのかゲンナリとした顔でお師匠を見ている。

そうだね、クー・フーリンとエミヤが居たのに追い詰められたからね…気持ちは分からんでもない。

 

『わかりました。では、その作戦で行くことにしましょう。マシュ、ベースキャンプを設置しなさい。そちらに必要な物資と英霊の補充を行います』

「はい、わかりました」

 

所長は作戦を了承し、マシュにベースキャンプの設置を指示する。

兄さんが傍らに来てくれると言うのは本当に安心する…僕にもあんな兄弟が居たらなぁと思わずには居られないほどに。

親戚の叔父さんは良い人なんだけどね…。

なんて、考え込んでいるとバッサバッサと羽ばたく音が耳元に届く。

 

「あら、こんなにオーディエンスが居るなんて。アイドルと言う存在は本当…罪ね~」

 

マシュがベースキャンプを設置しようとした瞬間、空からとんでもないものが舞い降りた。




報告いたします。
イシュタ凛、無事に招くことが出来ました。
なお、友人は少額で五凸してて目を剥きました、まる

次回
ドラゴンガール・デンジャーギグ

「とびっきりのナンバーでイかせてあげるわ!」

「デスメタじゃねーか!何がアイドルだ!!」

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