……顔文字ってむずいよ。
使い方間違っていたら教えてください。
ボーダーの戦闘員の平均年齢は若い。
大切な事なのでもう一度言う。平均年齢は非常に若い。
前線で活躍している戦闘員の大半は思春期を謳歌している学生がほとんどである。
故に彼ら彼女らは色恋沙汰などの噂話は大好物である。一度情報が拡散すると井戸端会議の主婦界以上の伝播速度で広がっていくのだ。
その証拠に……。
柿崎:おい、比企谷(・3・)∂"
柿崎:言いたい事は色々とあるが、まずはこれだけ言っておく。
柿崎:俺より先に彼女を作るとか生意気だぞ(  ̄3)o┳□□□□
佐鳥:((= ̄ε ̄=;))ナ、ナント!!
佐鳥:ちょっ、比企谷先輩。エイプリルフールにはまだ早すぎますよ。
佐鳥:え、ウソですよね。嘘と言ってよハチえもん(≧◇≦)
時枝:おめでとうございます、比企谷先輩。
時枝:これで念願の主夫になれますね(* ̄3 ̄)/゚・:*【祝】*:・゚\( ̄ε ̄*)
時枝:祝い品はマッ缶一ダースで良いですか?
嵐山:(」゚ロ゚)」おぉ(。ロ。)おぉΣ(゚ロ゚」)」おぉ「(。ロ。「)おぉ~
嵐山:(」゚ロ゚)」おぉ(。ロ。)おぉΣ(゚ロ゚」)」おぉ「(。ロ。「)おぉ~
嵐山:ヘ(≧3≦)ヘ)ヘ)ヘ)ヘ)ヘ)ヘ)ヘ...バタバタバタ
玉狛第一、木崎隊のリークによって八幡の私用の携帯電話は今までに見た事のないほど多数のLineの通知を知らせ続けた。
最初に反応したのは旧嵐山隊の人達であった。恐らく小南から嵐山のホットラインによって伝えられ、そこから柿崎、時枝、佐鳥へと拡散されたのだろう。
三人とも小南の言葉を疑っていない様子。そうでなければ、これほどまで祝福の言葉を送ってくる事など難しい。隊長の嵐山なんて、驚きと喜びのあまり顔文字だけで文面が一切ないのだから。最後にどこかへ走り去ったのは非常に気になる所だが。
東:久しいな、比企谷。
東:二宮から聞いたけど、彼女が出来たんだって?
東:いい人が出来てよかったよ。今度、何か奢らせろ。祝ってやるから。
影浦:天変地異の前触れか?
影浦:お前に彼女が出来るとか、よっぽどの物好きなんだなそいつは。
影浦:当然、そいつもマックス教の一人なんだろうな?
まさかのお二人からも祝福の言葉を頂く事になりました。八幡の記憶ではお二人にLineのIDは教えていなかったはずなのだが、なぜか連絡が来ていた。
この二人の文面を視た八幡は滝の様に冷や汗を流す事になる。
一言で例えるならば、絶体絶命。これ以上、被害が拡散したら取り返しのつかない事になってしまう。
もしも、こんな事が氷の女王様であらせられる雪ノ下に知られたらどうなるか。考えただけでおぞましい。きっと、自身は生きて帰って来れないだろう。
「お前ら……。この状況、どうしてくれるんだよ」
送られた祝福のLineの内容を拡散した犯人、烏丸と小南に見せて問い詰める。二人は送られてきた人間とその文面を見て苦笑いをせずにいられなかった。もはや、後戻りができないと分かってしまったからだ。
「あんな会話をしていれば、誤解するのは当たり前でしょ!」
最もだと言いたげにその場にいた全員が大きく頷いて同意を示す。
純真無垢な小南でなくても、先ほどの会話は女性を誘う口説き文句にしか聞こえなかった。
「そうですよ、比企谷先輩。いつも言っているじゃないですか。既に解は出ているんですから、いっそのこと事実にしちゃいましょう」
自分で種をばら撒いたのにも関わらず、かなり無茶な提案を挙げる烏丸に八幡の拳が唸る。しかし、鉄拳制裁に気付いた烏丸が回避した事で命中させる事は出来なかったが。
「アホか。お前、小南に「小南先輩と付き合う事になりました」と友達にウソを言ったから、付き合ってくれと言えるのか!?」
「できますよ」
即答された。八幡がツッコミをするよりも早く「証拠を見せましょうか」と続けた烏丸は小南がいる方向に身体を向ける。
当然、思いがけない火の粉を浴びた小南はその状況に困惑するだけだった。
「ちょ、とりまる。冗談よね。お得意のウソだよね」
「冗談ではありません、小南せん……。いや、桐絵。俺がいつもウソを言い続けているのは桐絵の事が可愛すぎて仕方がないからですよ」
「え、え? そうなの?」
「当たり前じゃないですか。こんな可愛い人、桐絵以外に見た事がありません」
詰め寄る烏丸。小南も満更ではないようで、一向に逃げる素振りを見せない。烏丸はどこぞの少女漫画の様に顎をクイッと持ち上げる。
「桐絵。結婚を前提に付き合おう」
「ちょ、そんなこと急に言われても……。私達、まだ学生だし、けど……けど」
「――と、こんな感じでよろしいですか?」
小南の顎を添えていた手を話し、クルリと身を翻して八幡達の方へ振り向く。
『お、おぉぉ』
一部始終見ていた八幡達は烏丸の演技力に思わず拍手を贈ってしまった。そこで、自分が良い様にからかわれたと知ったのだろう。小南の顔は見る見るうちに赤く染まり、わなわなと体全体を震わせた。
乙女心を弄んだもっさりイケメンを粛正する為に、小南は烏丸に跳び付いてご自慢のヘッドロックを敢行したのだった。
「あ、あはは……。相変わらずだな、あのお二人は」
いつもの烏丸小南コンビの夫婦漫才を目の当たりにして苦笑する三雲は、呆然と見守る空閑に耳打ちをする。
「あの二人はいつもあんな感じなんだ。騙されて激昂しているのが小南先輩。ヘッドロックを受けているのが烏丸先輩だ」
「ほぅほぅ。こなみ先輩とからすま先輩ね。……なぁなぁ、オサム」
「ん? なんだ?」
「さっきのからすま先輩の言葉、俺のサイドエフェクトに引っ掛からなかったんだが……」
「……え?」
空閑のサイドエフェクトは発言者のウソを見抜く事が可能な副作用である。その空閑のサイドエフェクトが反応しないと言う事は逆説的に烏丸が言った言葉は全て本当であることを意味する。
その考えに思い至った三雲は大きく目を見開き、未だにいちゃつく二人を見やる。
「く、空閑」
「おう」
「とりあえず、今のは僕と空閑だけの秘密にしよう」
「……了解だ、親友」
なぜだ、と問い質したい所であるが親友の三雲が言うならば反対する理由はなかった。親友の言葉に従い、頷き返す空閑であった。
「しかし、いつまで経っても本題にいけなさそうだな。まだ、空閑の紹介すら終わっていないのに」
かれこれ三雲達が玉狛支部に到着してからそこそこの時間が経過しているのにも関わらず、ほとんど雑談で時間を費やしている。迅が戻ってきたとき、一旦仕切り直してシリアス的展開になったのだが、先の『八幡、彼女が出来ておめでとう』類のLineのせいであっという間にシリアス空気が払拭されてしまったのであった。
そんな時――。
「おうおう、随分とにぎやかだな。何かいい事でもあったのか?」
新たに玉狛支部に入室するものがいた。其の口調と声色を聞いて、誰が返って来たのか察しがついたのだろう。一斉に振り向いてその者を歓迎する。
「あ、林藤さん。お帰りなさい」
「おう、いま帰ったぞ。今日は大活躍だったな修」
「あ、はい」
「初陣にしては中々なデキだったぞ。特訓の成果が出てよかったな」
「ありがとうございます」
無造作に三雲の頭頂部に手を置き、ワシワシと撫で回す。支部長である林藤も三雲の頑張りをずっと応援していた者の一人だ。其の三雲が初陣で活躍したと聞けば嬉しくないわけがない。
「それで……」
次に空閑へ視線を向ける。
「はじめまして、俺は林藤匠だ。ここ、玉狛支部の支部長を任せられている。お前さんの名を聞かせてくれないか?」
「これはこれはご丁寧にどうも。俺の名前は空閑遊真と言います」
「……くが?」
林藤の表情が一変する。ひどく驚いた様子の林藤に「どうしました?」と三雲が伺うよりも早く、空閑の肩を掴み彼に詰め寄る。
「お前さんの親父さんは、もしかして空閑有吾と言わないか?」
「おや? 林藤さん、親父の事を知っているの?」
「知っているも何も、あの人は旧ボーダーの創設に関わった一人。最初期のメンバーの一人なんだ。俺にとって先輩にあたる」
「そうだったのか。……そいつは知らなかった」
父親が玄界の出身である事は本人から聞いていた。けれど、話しのほとんどが自身の武勇伝であった。玄界のボーダーに所属していた事実など全く持って聞かされていなかったのだ。
「……レプリカ。お前は知っていたのか?」
呼ばれて参上するレプリカ。
「あぁ、知っていた。その前に……。初めまして、私の名はレプリカ。ユーマのお目付け役であり、ユーゴに作られた多目的トリオン兵だ」
「ほぉ。多目的トリオン兵とは、相変わらず有吾さんは凄まじいモノを作るな。……そんで、レプリカと言ったか? 有吾さんはどうしてる?」
「残念ながら、既に亡くなっている」
「……そうか。惜しい人を亡くしたものだ」
林藤にとって空閑遊真の父親、空閑有吾は尊敬に値する人間であった。憧れていたと言っても過言ではない。こうして第三勢力玉狛派と言われている玉狛の支部長に着任したのも彼の志を継ぎたいと思ったからである。
「話しは迅から聞いている。俺は幾度も空閑さんに世話になった。それ故に恩も数え知れないほどある。その恩を返したいと思っている」
いずれ返す、と本人に何度も伝えた事があるが、結局のところ一度も恩を返す事が出来なかった。そんな自分に恩人の息子が目の前に現れた。これは運命と言っても過言ではないだろう。
「お前さんの事情はよく知らないが、こうして修と一緒に支部へ来てくれたのも何かの縁だ。……どうだ? 玉狛支部に来ないか?」
「いいの? 迅さんから聞いたなら俺がオサムの学校を襲った張本人である事も知っているんでしょ。そんな危険人物を招いても」
「その敵が修と協力して変異体のイルガーを倒してくれたんだろ? 少なくとも修の事は信頼しているはずだ。俺はそれに賭けるよ」
サイドエフェクトに全くと言っていいほど引っ掛からなかった。林藤は本気で自分を招いてくれる。何も迷う事はない。そもそも空閑は三雲に誘われて玉狛支部に来たのだから。返答は一つしかない。
「……ボス、と呼んだ方がいいかな?」
「なんなら、アニキでも可だぞ」
空閑から差し出されて手を取り合って握手を交わす二人。経緯はどうあれ、空閑が無事に玉狛支部の仲間入りした事に安心したのだろう。大きく息を吸って胸を撫で下ろす三雲の姿があった。
「ところで修」
「あ、はい。なんでしょうか?」
「あいつらは何時までバカ騒ぎしているつもりだ?」
未だにバカ騒ぎしている先輩達を指差す。未だに林藤が戻ってきた事に気付いていなかったのだろうか。気付けば宇佐美を除いた玉狛第一のメンバーは八幡を囲み、情報を引き出そうと尋問を行っていた。
***
「いやぁ。笑った笑った」
八幡彼女が出来たよ、の案件でばか笑いをし続けていた迅は誰にも見られない様に支部から飛び出し、ある人物が来るのを待っていた。
暗躍するなら今しかなかった。ちょうどボスである林藤が戻って来たから三雲と空閑に気付かれない様に外出する事が出来た。後は来る人物を待って、先ほど見た未来を伝える必要がある。
「……おっ。キタキタ」
屋根から屋根へと飛び移る人影を見やり、自分の待ち人が来た事を確認する。
「迅殿?」
迅が待っていた人物――材木座はトリオン体を解除して、支部の前で待機していた迅に声を掛ける。
「やぁ、中二君。こんばんは」
「こんばんは。……支部の前でどうしたんですか? 誰かを待っていたとか」
「おっ。察しが良くて助かるよ。俺はキミを待っていたんだ」
「我を?」
「そうそう、キミを。単刀直入に言わせてもらうと、明後日からキミは本部技術部へ転属させられる。俺のサイドエフェクトがそう言っているんだ」
「……へ?」
唐突の迅の告白に材木座は素っ頓狂な声を上げるしか出来なかった。
何気に33話も出たとか、よく続いたな。
ちなみに、お知らせです。
次の話でとある募集をかけたいと思います。
内容はその時にも……。
まぁ、これを読んでいる人が入ればの話ですが。