八雲立つ出雲の開闢者(仮)   作:alche777

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024:完璧超人キン肉マン

 木崎レイジの加入により劣勢であった戦況が一気に引っ繰り返った。

 二体のモールモッドを瞬殺したレイジは、ガトリング型のアステロイドを生成してユーゴに撃ち放つ。けど、どれほど強力な弾丸の嵐でもユーゴに傷一つつける事は出来なかった。

 

 

「師匠、敵は黒トリガーです。相手の死角を突かない限り、全て防がれてしまいます」

 

「らしいな……。要は不意を突けばいいだけだ。お前の十八番だろ?」

 

「援護を希望しても?」

 

「そのために来た。やれるな、八幡」

 

「比企谷、了解」

 

 

 ガトリングを撃ち放つレイジの前に出るや、八幡はトリオンキューブを生み出しながらユーゴに吶喊する。それに合わせてレイジもガトリング型アステロイドを投げ捨て――。

 

 

「メテオラっ!」

 

 

 炸裂弾を生み出してユーゴへぶっ放す。

 

 

「たとえ、援軍が来ようともその程度の攻撃――」

 

 

 ご自慢の体術でレイジのメテオラを撃ち落とそうと体勢を整えるのだが、メテオラの軌道はユーゴから逸れていた。前方側面後方、ユーゴの周囲に着弾したメテオラの白煙によって視界が封じられてしまう。

 

 

「アステロイドっ!」

 

 

 レイジの援護を受けた八幡は速度重視の通常弾を放出する。合計二十七発の通常弾は白煙の中へ吸い込まれていく。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 白煙の奥からユーゴの悲鳴が耳に届く。視界を封じてからの一撃が功を奏したらしい。

 数的有利から完全に流れが傾きつつある。更に追撃を掛けるべきなのだが、片腕では満足に攻撃する手段は限られている。

 そんな八幡が考えている中、レイジが白煙の中に突撃していった。両手に何も持っていないところを見ると、ユーゴに肉弾戦を仕掛けるのだろう。師の動きを確認して、八幡も次の行動を移す。生き残っている左腕にレイガストを握りしめ、ユーゴの背後に回り込むのであった。

 

 

「……っ。あの男をどうにかしないと――」

 

 

 反撃を試みたユーゴの視界を拳が埋め尽くす。それが敵の打撃である事を察知したユーゴは咄嗟にその腕を掴み、一本背負いの要領で後方に放り投げる。

 しかし、レイジは八幡と違って放り投げた直後に体を捻らせて着地する。直ぐ様にスラスターを起動させてご自慢の一撃、高速の拳撃をおみまいする。アッパーの要領で下から突き上げる様に放ったレイジの拳はユーゴの下顎手前で急停止させられる。

 

 

「ハチマンの言葉を聞いていなかったのか? この程度の攻撃は俺には通用しないぞ」

 

「だろうな。だが、これはあくまで囮だ」

 

「なに?」

 

 

 

 ――スラスター・オン

 

 

 

 ユーゴの頭上からレイガストが降り注ぐ。スラスターによる推進力を得たブレードモードのレイガストはユーゴの右腕を切り裂き、地面に突き刺さる。

 右腕を失ったユーゴは慌てて後方に跳んで距離を空ける。レイガストが突き刺さった地に八幡が降り立ち、それを引き抜いてレイジと肩を並べる。

 

 

「減点だ八幡。今の状況で敵の身体を真っ二つに出来ないなら、A級と胸を張って名乗れないぞ。戻ったら久方振りに相手をしないといけないみたいだな」

 

「え!? マジですか……。ほら、俺には三雲の訓練がありますから……」

 

「かまわん。なんなら、修も呼んで構わないぞ」

 

 

 師匠の特訓に付き合せたら確実に死んじゃうぞ、と反論したい所であったが言ったら何を言い返されるか分からなかったので、今の台詞は胸の内に秘める事にした。

 

 

『そうそう。その修くんだけど、近くにいるみたいだけど連れて来たの?』

 

「……なに?」

 

 

 宇佐美の言葉で初めて三雲が現場にいる事を知る。

 

 

「何の問題もないだろう。あいつもB級。正規の隊員だ。なら、現場を目撃したら急行するのは当たり前だ。例え、黒トリガーと戦った後でもな」

 

「しかし、師匠」

 

「八幡。今は余計な事は考えるな。俺達がこいつらを倒せば何の問題もない」

 

「……っ。確かに、その通りでした。すいません」

 

「よし。敵は手傷を負っているとはいえ、油断するな」

 

「了解です」

 

 

 指示に従い、再び連携を取るためにレイジの背中に身を隠す。

 レイジは両方ともレイガストをシールドモードに変化させ、俄然に立ち尽くす敵に伝える。

 

 

「八幡も言ったと思うが、撤退するなら今だぞ。ここから先は遠慮なく捻じ伏せてもらう!」

 

「……悪いが、それは出来ない相談だ」

 

「了解した。……スラスター・オンっ!!」

 

 

 二つのレイガストをスラスターでぶっ放し、その後に続いてレイジも突っ込む。突撃銃型アステロイドを生み出し、後方に続く八幡に命令する。

 

 

「やれると思ったら、一気に叩け」

 

「了解っ!!」

 

 

 先と同じ様にトリオンキューブを作り、周囲にばら撒く。レイジが大勢を崩したら一気にアステロイドを起動させて叩く戦法だ。

 

 

「……まいったな。まさか、奥の手を使う羽目となるとは」

 

 

 レイジの参入で手が付けられなくなってきているのだろう。劣勢である事を冷静に受け止め、ユーゴは残していた手札を切らざるを得ない状況にまで陥ってしまった。

 本来ならば使いたくない能力であるが、そうは言ってはいられない。

 

 

「アイギス。……イージス・システムを起動せよ」

 

 

 己の黒トリガーの能力を解放させる。全身に黒衣のローブを羽織ったユーゴは待ちの態勢を崩して近づいてくるレイジ目掛けて突っ込む。その前にレイジが放ったレイガストが二つ存在するのだが、ユーゴの身体がレイガストに触れると明後日の方角へ勝手に進路を変更したのだった。その異様な光景に訝しむレイジであるが、敵は目前。考えている余裕などなかった為、突撃銃型のアステロイドをぶっ放し様子をうかがう。

 

 

「跳ね返せ。アイギスっ!!」

 

 

 黒衣のローブをひらめかせる。さながら闘牛士が使うムレータの様に。

 すると驚くべき事にレイジが放ったアステロイドの弾丸が全て跳ね返されたではないか。これにはレイジも予想外であり、咄嗟に横に跳んで身を躱すのだが数発ほど弾丸が貫かれたのかトリオンが僅かながら漏れ出していた。

 

 

「(ちっ。まだ、あんな奥の手があったのかよ)アステロイドっ!!」

 

 

 敵が未だに切札を隠し持っていたことに嘆いている暇はなかった。直ぐに反撃の一手を打つ八幡だったが、拡散した通常弾もあっけなく全て逸らされてしまう。

 

 

「……比企谷、どう見る?」

 

「反則ですね、あれ。ですが、恐らく追加効果を得ただけで特性までは変わっていないはずです。牽制の仕方を変えましょう」

 

「よし。なら、敵を撹乱させて隙を作るぞ。手筈を整えるぞ」

 

「しかし、ぐずぐずしている暇はありません。早くしないと――」

 

「その点は安心しろ。そっちにはうちの斧姫が行っている」

 

「斧姫?」

 

 

 斧と聞いて思い浮かぶ人物は一人のみ。

 

 

「なんで、アイツが?」

 

「俺が一人で来たと思ったか? イルガーには小南を行かせた。念の為に迅の所にも烏丸を向かわせたから、心配するな。お前は目の前の敵に集中しろ」

 

 

 最強部隊とまで言われた玉狛支部玉狛第一木崎隊の総員が現場にいる。それは八幡にとって数万の味方を得たにも等しい。

 

 

「……分かりました。まずは、目の前の敵を何とかしましょう」

 

 

 もはや心配の種はない。八幡は全神経を目の前の敵に向けて、戦いに集中する事にした。

 

 

 

***

 

 

 

 一方、その頃。

 迅とジン。風の刃を操る二人は激戦を繰り広げていた。まるでお互いに競い合うかの如く放った遠隔斬撃を撃ち落とし、返しの刃を放つ。

 二人の器量は全く持って同程度。未来のサイドエフェクトを使って先読みの攻撃を放っても、まるでその攻撃が分かっていたかの如く防がれてしまう。

 迅はまるで鏡と戦っている様な錯覚を覚える。どんな攻撃を放っても全く当たる気がしないのだ。だが、戦いの最中に弱音は吐けない。自分はまだまだ余裕だぞ、と言いたげに笑みを繕って切り結ぶ相手に話しかける。

 

 

「お前さん方の目的は、黒トリガー使いの白チビか?」

 

「……」

 

「だんまりときたか。なら、せめてこの戦いの目的を言ったらどうだい。もしかしたら、交渉の余地があるかも知れないよ」

 

「そのつもり、サラサラもないくせによく言う」

 

「そうか? 互いに利害が合致したら、案外スムーズに行くかも知れないぞ?」

 

「なら、教えてやる。俺の目的はお前の首だ! 迅悠一」

 

「ありゃ。それは随分と壮大な要求なことで。俺、お前さんに恨まれること、何かしたか?」

 

「お前が存在する限り、シュウは……。世界を破滅へ導く。お前の未来を視るサイドエフェクトが破滅を誘う!!」

 

「世界を破滅、ね。それは随分と壮大なお話しな事で。だが、生憎。俺のサイドエフェクトはそこまで凄いものじゃないよ」

 

「だが、貴様の行動次第で未来は変わる。ユーマの時もそうやって裏から手を引いたんだろうが!」

 

「当たり前だ。俺達の大切なメガネ君が危機に陥ると分かって、何もしない訳ないだろうが」

 

「その選択が! シュウをいばらの道へと誘うんだ!!」

 

「まさか、シュウと言うのは……」

 

 

 

 ――砕け、大地の咆哮

 

 

 

 二人の間にバリケードが生み出される。エスクードと思われるトリガーの出現に迅は【風刃】を使って一刀両断するのだが、その先にジンの姿はなかった。

 周囲に視線を走らせるが、ジンの姿は見当たらない。……と、思いきや己の身体に影が差した。慌てて上空に視線を向けると【鎌風】を振り降ろさんとするジンの姿を発見する。

 

 

 

 斬

 

 

 

 力一杯に振り降ろされた【鎌風】をどうにか【風刃】で受け止める事に成功する。

 

 

「……聞かせろ。お前が言うシュウとはメガネ君……。三雲修の事か!?」

 

「だったら、何だ」

 

「お前とメガネ君はどう言った関係だ。お前は一体何者なんだ。答えろ!!」

 

「言うと思うか、迅悠一。お得意のサイドエフェクトで見て見るんだな」

 

 

 そうしたいのは山々であるが、迅のサイドエフェクトは相手の顔と名前が分からなくては発揮できない。例え、視えたとしても自分が欲する答えは得られる可能性は高くないだろう。

 

 

「ああ、そうさせてもらおうか。……京介っ!!」

 

 

 

 ――了解。

 

 

 

 通信機越しから、後輩の声が響く。

 待っていたかと言わんばかりに、両者の間にエスクードが出現する。

 

 

「ちっ。迅悠一、お前! 俺達の戦いに無関係者を引き入れたな!」

 

「当たり前でしょ。お前さん方、どう見ても厄介そうだったしね。俺達だけでどうにかなると思いたかったが、保険はかけておくべきでしょ?」

 

 

 もっとも、三雲の学校が襲われると知った木崎隊は緊急事態に備えて玉狛支部に待機していた。三人とも実力は乏しいが根性がある弟子の事を大層可愛がっている。迅が頼むまでもなく彼らは率先して動いてくれたのだ。

 

 

「迅さん。なんですか、このいかにも危なそうな人は。迅さんの御知り合いですか?」

 

「生憎、俺の知り合いにあんな危ないお友達はいなかったな。気を付けろよ、京介。奴は【風刃】と似た特製の黒トリガーを持っている。厄介だぞ」

 

「みたいですね。けど、負けるわけにはいきません。修もこの現場にいるみたいですし、さっさと倒して迎えに行きましょう」

 

「なら、全力で当てにするからな。……やるぞ、京介」

 

「烏丸、了解です」

 

 

 眼前にエスクードを出現させ、迎撃態勢を整える烏丸であった。


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