あれから少しだけ時間が過ぎた。
俺はあの約束の日から、ほんの少し大人になった。
色んな出会いと別れを繰り返し、今もまだ夢の中にいる。
変わったことばかりだが、それを寂しいとか思う暇もなく今日この日を迎えた。
街は白く染まり、クリスマスムード一色に染まっている。この街に引っ越してきてから何度か見た光景だが、毎年新鮮に思えるのは変わらない。
そんなことを考えながら、少しだけ積もった雪をしっかり踏みしめて歩くと、クリスマスツリーの下に辿り着いた。
去年とは違う彩りを添えられたツリーは、温かな光を放ち、訪れた人々を等しく照らしている。キラキラと輝いた光が雪の白さと混ざり合い、聖夜に魔法をかけていた。
そして、そこには毎年、幸せそうな人も、頬を染める二人組も、疲れた背中も、無関心な通りすがりもいた。
俺もそこに加わり、ぼんやりとツリーのてっぺんを見上げる。
「……こんばんは」
様々な音の隙間をくぐり抜け、背後から明らかに自分に向けられた声が届く。
「……こんばんは」
同じ挨拶を返すと、その声の主は隣に並んだ。
「あなたも誰かを待ってるんですか?」
「……ああ」
「その人はあなたにとってどんな人ですか?」
「……世界一大事な人」
「それは照れますね~」
二人して吹き出し、向かい合う。
そこには、穏やかな笑顔の南ことりがいた。
特徴的なサイドポニーは、冷たい風にそよそよと揺れ、そこに過去の面影を見いだしてしまう。
だが、今見るべきは過去じゃない。この瞬間、目の前のことりだ。
「……おかえり」
「ただいま」
「そのサイドポニー、久々だな」
「うん。たまにはいいかなって……どう?」
「相変わらず似合ってる」
「八幡君もそういう事が言えるようになったんだね♪」
「割と電話とかで言ってた気がするんだが……」
「ふふっ、八幡君の事だから、直接は照れて言ってくれないかなって思ったの」
「あー、その可能性は高かったな」
「じゃあ、何で?」
「……やっぱり伝えたいことは伝えるべきだからな。あの日……空港でのお前がそれを教えてくれたから」
「八幡君……あ」
俺はことりを抱きしめた。
少し大人びた甘い香りが弾けると共に、背中に彼女の腕が回される。
「ことり……ずっと一緒にいて欲しい」
「私もだよ。だから……はなさないで」
どちらからともなく唇を重ね、心を一つにする。
会えなかった時間を空白とは思わない。
二人がこうして一緒にいるために重ねてきた時間だから。
これから新しい時間を重ねていけばいい。
唇を離し、見つめ合うと、彼女の目を一筋の涙が伝った。
「八幡君」
「どした?」
「はい」
ことりは手を差し出してくる。白く細い指先は、あの頃とあまり変わっていない。こういうものもある。
「……ああ」
俺は頷き、その手を握る。空いた手で、涙を拭っておいた。この日の涙の温もりも、きっと忘れることはないだろう。
そして、そのまま二人は歩き出した。
あの頃離れた場所から、今度は並んで歩き出した。
「……ことり」
「はい……」
「出会ってくれて……ありがとう」
「私も……ありがとう」
それからは他愛ない会話が始まり、息を白く染める冷たさに身を寄せ合う。
不揃いの足跡を雪に刻むように、お互いの温もりを分け合う。
たとえ雪が足跡を白く埋めてしまっても、二人で過ごした時間は消えはしないから。
そのことを俺達はもう知っている。
「ねえ、八幡君。どっちの家に帰ろっか」
「そうだな……歩きながら決めるか」
「……うん♪じゃあ、二人の行きたい場所に行ってから決めよう?」
「ああ、じゃあ行くか」
こうして新しい二人の時間を重ねていく。この二人で重ねていける幸せを抱きしめながら。