「はっ……はっ……」
秋葉原駅の改札を駆け抜け、真っ暗闇のどしゃ降りの中、俺は全力で走る。
道がここで合ってるのかすらわからなくなり、不安が胸を掠めるが、自分で傘も持たずに来た自分の用意の足らなさを責める時間すら惜しかった。
時折すれ違う帰宅途中のサラリーマンや、男女の二人組とかに、驚きの目を向けられたが、それすらもどうでもいい。
ことりに会いたい。
ただそれだけだった。
この雨を、夜を、あと少しだけ走り抜ければ、きっと会えるから。
やがて、見覚えのある家が見えてきた。
ポケットからスマホを取り出し、ことりを呼び出してみる。
彼女はすぐに出た。
「あ、八幡君?用事は済んだの?」
「……今、家の前にいる」
「えっ?」
二階のカーテンが開き、彼女が姿を見せた。
そして、またすぐに俺の姿を見つけ、驚いた表情を見せる。
「ま、待ってて!」
そこで通話は途切れたが、すぐに傘とタオルを持って出てきた。
「八幡君!」
「……おう……っ」
真っ黒な傘の下で、顔面にタオルを押しつけられる。
「……どした」
「それはこっちのセリフだよ!何やってるの?風邪ひいちゃうでしょ!?」
ことりの瞳は潤み、俺の髪をゴシゴシ乱暴に拭き始めた。その手の温かさに、彼女の優しさを感じ、走ってきた疲れなど、雨と共に流れていった。
そのまま瞳をしっかりと見て、おもいつくまま口を開く。
「……悪い。どうしても会いたかった」
「それは……私もだよぅ……ごめんね?私がワガママ言ったから」
「いや、別に気にすることじゃない……多分、お前が言わなくても、勝手に来てた」
「ふふっ……じゃあ……ん」
ことりの唇が、優しく自分の唇と重なり合う。
夏祭り以来のキスは、不思議とすぐに体に馴染んだ。
それは甘く優しく、雨で冷えた体を温めてくれているようだった。
互いの唇が離れると、ことりはあたふたと慌てだした。
「は、はやくシャワー浴びないと!」
しばらくそのままでいたかったが、俺はすぐに南家の浴室へと通された。
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熱いシャワーで体を温め、用意されていたジャージを着て、リビングに行くと、ことりが湯気の立ち上るカップ二つを手に、笑顔を見せてくれた。
「何つーか……いきなり来て、悪いな」
「もう謝らないで。その……私、嬉しいんだよ。ね?」
「……そっか。そういや雛乃さんは?」
「今日はお仕事で遅くなるの。だから大丈夫。それに八幡君ならいつ来ても大丈夫だよ」
「あ、ああ、ならいいんだが……」
渡されたカップに口をつける。
俺には少し苦めだが、程良い温かさが体に沁みた。
「…………あの」
「?」
「落ち着いたら、ちょっとお出かけしない?雨も小降りになってきたし……」
「別にいいけど……どこに行くんだ?」
「ついてくればわかるよ♪」