捻くれた少年と健気な少女   作:ローリング・ビートル

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You Pray,I Stay

「…………」

「…………」

 

 駅に行く途中も、電車の中も、のんびり歩くこの時間も、二人は黙ったままだった。

 街のそこかしこに祭りの賑わいの

 唇はまだほんのり温かく、しっかりと感触が残っていた。

 ……本当に、キス……しちゃったんだ……。

 少しだけ前を歩く彼の背中を見つめながら、自分の唇をそっと指で撫でてみる。

 どっちから、だったかなぁ?

 何度思い出してもはっきりしない。

 というより……感触だけしっかり残っているのに、キスしたという事実がはっきりしない。

 …………何だか、顔が熱くなってきちゃった。

 このままじゃいられないと思ってしまった。

 私は湧き上がる感情のまま、八幡君の服の袖をつまみ、立ち止まる。

 彼は驚いた素振りも見せず、黙ったまま、いつもの瞳を向けてきた。

 何を言おうか考えてなかったから、頭の中に浮かんだことをそのまま口にする。

 

「キス……しちゃったね……」

「……ああ」

「…………」

「…………」

 

 やがて、真正面に向かい合う。彼の家はすぐ傍にあった。

 でも、それすらも気にせずに、じぃっと見つめ合う。

 揺れる感情の波が瞳に伝わっている気がした。

 それを見られたくなくて、目を閉じ、彼を待つ。

 

「…………」

「…………ん」

 

 再び私達の唇は重なった。

 一回目とは違うはっきりした感触。さっきより少しだけ馴染んだ感触。

 ずっとこのままでいたい……なんて思ってしまう。

 いつからか、私はずっとこの瞬間を待っていたのだから。

 もちろん永遠なんてなく、キスはゆっくりほどけていき、また揺れる瞳を見つめ合った。

 

「は、八幡君……」

「?」

「もう一回……いい?」

「……で、できれば……中に入ってからの方が助かる」

 

 彼はそっぽを向いて、頬をかいた。

 

「あはは……そう、だよね。ごめ……ん」

「…………」

 

 今度は強めに抱き寄せてからの強引なキス。

 私の後頭部に添えられた彼の手が、やけに熱かった。

 

「……ことり」

「なぁに?」

「……何でもない。ただ……小町も母ちゃんも親父もいなくて、二人きりだから……」

「……うん」

 

 *******

 

 シャワーから降り注ぐ、少し熱めのお湯に打たれながら、これから起こる何かについて考える。

 穂乃果ちゃんや海未ちゃんとも話したことのない何か。

 そう考えると、やっぱり私も含め、μ'sってかなりピュアだったのかも。

 ……もっと……ずっと先のことだと思ってた。

 自分がこんなにも早く誰かに強く惹かれるなんて……。

 

「……八幡君」

 

 彼になら、今あげれるものは全部あげたい。私自身でさえも。

 でも、これ以上……私の中で彼の存在が大きくなっちゃったら……。

 それだけが……気がかりだった。


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