今日は三ヶ月ぶりぐらいに八幡君と会える日です。
お互いに忙しくて、中々会える日が作れなかったけど、今はそのことを忘れさせるくらいに胸が高鳴り、ここ最近の勉強疲れも吹き飛んでいた。
夏真っ盛りの午前中。私は千葉駅の改札を通り抜け、彼の姿を探した。
少し時間がかかるかも……なんて思っていたら、すぐにその姿は見つかった。
彼は柱の近くに立ち、携帯を扱っていた。
私は彼を驚かせたくなり、いつもより大きな声で名前を呼んでみた。
「八幡君!」
「……おう」
彼はこの前と変わらない仕草で、でもどこか大人びた表情でこちらに軽く手を挙げた。少しくらい驚いてくれてもいいのになぁ。
「どした?」
「ううん、別に。ただ……八幡君だなぁ~って」
「……よくわからんが、わかった」
そう言って立ち止まり、しばらく見つめ合うと、どちらからともなく笑いが溢れる。
夏の暑さがほんの一瞬遠ざかった気がした。
「……久しぶり、だね」
「まあ、あれだ。毎日声聞いてたから、あまりそんな気はしないけど……」
「もう、そういうこと言わないの。雰囲気こわれちゃうでしょう?」
「あ、ああ、すまん……」
彼は頬をかきながら、私に手を差し出した。
「……行くか」
「はい♪」
私は彼の手を握りしめた。
彼は繋いだ手を見た後、俯きがちに呟いた。
「……その、今日の服、いい感じだ」
「あ、ありがとう……」
来ると思っていなかった褒め言葉に胸が高鳴り、口元が緩んでしまう。
ふ、不意打ちなんてずるいよぅ……。
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私達は電車に揺られ、ある場所に向かっています。
休日ということもあり、少し混んでいるけれど、この人の多さが休日の雰囲気を盛り上げてくれます。
彼と二人で外の景色が変わっていくのを見ながら、知っているはずの彼の近況についての話題をふってみた。
「最近、本当に忙しそうだね」
「お前ほどじゃねえよ。こっちは周りとやってること変わらんからな。そっちは結構喋れるようになったんだろ?」
「うん。でも、まだ日常会話で精一杯だから、覚えることは沢山あるよ」
「それでも十分凄いんだが……こっちは日本語でも噛むくらいだからな」
「あはは……それは八幡君があまり人と話さないからじゃないかな?」
「あ、見えてきたよ!」
窓の外に目を向けると目的地が見え、既に沢山の人が行き交っていた。
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「やっぱり、この前来た時より多いね」
「そりゃあ、本来この時期に来る場所だからな」
私達は人で溢れかえる砂浜を見て、目を丸くしていた。多分、普段の私達ならあまり行かない場所だと思う。
人の多い場所を選んだのは、別れを意識しなくていいから。
そんな気がしていた……。
寄せては返す波を見ていると、ふわりと潮風に髪が舞い、そっとかき分ける。
すると、八幡君がこっちをじぃっと見ていた。
「どうかしたの?」
「い、いや……何でもない」
彼はぷいっとそっぽを向いてしまった。
その頬は紅く染まって見えて、そのことが心のどこかで嬉しかった。