うっすらと目を開けると、薄暗い天井が見える。
どうやらいつの間にか眠っていたようだ。
手を繋いだまま、会話の途中で寝落ちをしていたようで、言葉の断片が頭の中にちらついている。
「ん……八幡君……」
名前を呼ばれ、ことりの方に目をやると、目は閉じられ、安らかな寝息を立てていた。
その頬をそっと撫で、時計を確認すると、もう朝の5時になっていた。起きる時間としては早すぎるが、眠っていた時間にもっと話ができたんじゃないかという小さな後悔もある。
窓の外は朝の気配を滲ませ、あと少ししたら、朝陽が顔を出すのだろう。
そこで、外から車が通り過ぎていく音が響き、室内の静寂を強調した。
ことりが無意識に俺の手を握り、僅かに爪が食い込む。
俺は車が去って行く音を聞きながら、また寝転がり、目を閉じた。
*******
「送ってくれてありがと♪」
「いや、別に……帰り、気をつけてな」
結局、二人して朝9時まで眠ってしまい、起きてからは小町が作ってくれた朝食を食べ、すぐに家を出た。
青空の下、もう街は動き始めていて、平日とは違う休日特有の慌ただしさを見せていた。
その人波に混じり、俺とことりは向かい合っている。
「ねえ、八幡君」
「どした?」
「昨日も言ったけど……また、色んな所に行こうね」
「ああ」
「絶対に行こうね……」
「……ああ、その……約束、する」
「……うん、約束したよ!」
どちらも自然な流れで小指を絡め、指きりをする。
けれど、どこかで俺もことりも気づいていた。
二人が直接会える機会が、これから少なくなることに。
二つの道が徐々に離れていってることに。
やがて、小指は離れ、彼女は小さく手を振った。
「じゃあ……また、ね」
「……ああ」
行き交う人波に遮られても、俺は遠ざかる背中をずっと眺めていた。
彼女が改札を通り過ぎ、見えなくなっても眺めていた。
*******
駅でことりを見送ってからは、しばらく会えずにいた。
俺は明確な目標はなくとも、受験勉強に本腰を入れ、ことりはフランス語の教室に通い出し、お互いにやるべきことに力を注いでいた。
それでも、毎日のように電話をして、他愛ない話で笑い合っていた。多分、話題など何でもよかったのだ。
ただ声が聞きたかった。
そうすれば心が繋がって、一緒にいる気分になれた。
そんな毎日を繰り返している内に、いつの間にか夏休みも半分を過ぎていた。
約三ヶ月前にした、夏祭りに一緒に行く約束を思い出しながら、俺は準備を済ませて家を出た。