八幡君から何度も謝られて食事をした後も、身体は不思議な熱を保っていました。それは、μ'sの皆とハグをした時とは違う何かがあり、その何かに私も彼も、心のどこかで気づいていました。
今は二人で彼のベッドに腰を下ろし、特に何をするでもなく、手を繋いで、夜になった街の音に耳を澄ませていて、時折思い出したように会話をして、また夜の音に耳を澄ませる。
……あっという間、だったなぁ。
もう日付は変わりかけていて、あとは眠るだけだと考えると、やっぱり大事な人と過ごす時間は早く過ぎていくなぁ、と思える。
……さっきの事故は恥ずかしいけど。
「……まだ、怒ってるか?」
手を通して彼に考えが伝わったのか、不安そうに聞いてくる。
怒ってはいないんだけど、赤くなってるのが可愛いから、ついからかいたくなっちゃうなぁ……。
「う~ん、どうかなぁ~?私、初めてだったもんなぁ~」
「あー、その……本当に悪かった」
「ふふっ、冗談だよ。びっくりしちゃったけど、わざとじゃないのはわかってるから。それに……」
「?」
「な、何でもない!何でもないのよ!うん、何でもない!」
さすがに今の空気でその先を口にするのは恥ずかしかった。
代わりに窓の外見て、別の話題を見つけた。
「ねえ、八幡君。千葉っていい所だよね」
「だよな!」
「そ、即答したね……あまり街とか行けてないから、いつか色んな場所に案内して欲しいな」
「……ああ、いつでも」
「海未ちゃんが言ってた鋸山に登ってみるのもいいかも」
「…………いつかまた、そのうちな」
「今、絶対に登りたくないって思ってたよね」
「いや、それなら東京に行って高尾山とかに行った方が……いや、登るんなら東京タワーとかスカイツリーとかでも……」
「もう登山じゃなくなってるね……ふふっ、じゃあ夏になったら海に行くのはどうかな?」
「……まあ、いいんじゃねえの」
「あ、でも行くなら、新しい水着買わなきゃ」
「…………」
「もしかして、私に似合う水着を考えてくれてた?」
「……で、できるだけ泳ぎやしゅくて、派手すぎず、かつ潮の流れに強いやつをだな……」
「ふ~ん」
噛んでたなぁ。
彼は頬をかき、気を取り直した。
「あの……あれだ、祭りとかも、いいと思う」
「あ、いいかも♪花火見たいなぁ。どっちのお祭りに行こっか?あ、どっちもはどう?」
「いや二回も人混みに揉まれるとか……」
「え~」
彼は面倒くさそうに言いながらも、口元には僅かに笑みができていた。
そのことが嬉しくて、私はまた手を繋ぐ力を強めた。
「……明日からも楽しみだなぁ」
「……ああ」