二人共ずぶ濡れになったので、歩いて俺の家まで帰ることになった。少し距離はあるが、今日あった出来事について話していたら、いつの間にか家の前に到着していて、濡れた足跡はどこかで途切れていた。
門の前で、ことりが感慨深そうな顔をする。
「ここに来るの久しぶりだなぁ」
「あー……確か、二月に来て以来だっけ?」
「うん、あの時はまさかお泊まりになるなんて思ってなかったなぁ」
「……そうだな。じゃ、入るぞ」
ドアを開けると、ほぼ同時にぱたぱたと駆け寄ってくる音が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、おかえ……り……」
出迎えに来たのは勿論、麗しのマイシスター小町だが、あれ?様子がおかしい……進化すんのか?大天使になっちゃうのか?
「お、お、お兄ちゃん……その人は……」
小町が目をぱっちりと見開き、ことりを凝視している。
ことりの方は小町の表情に戸惑いながらも、ぺこりと頭を下げた。
「こ、こんにちは……」
「コンニチハ……」
「…………」
ことりが恐る恐る挨拶すると、何故かカタコトで返す我が妹。よく見れば、体全体が小刻みに震えていた。
……いや、まあ気持ちはわかる。
とはいえ、ここで長話をするわけにもいかないので、とりあえず話を進めよう。
「小町、後で話すから。とりあえずシャワー使うわ。ことり」
「え?あ、お邪魔します」
「わ、私が案内するから!こっちです!え~と、ことりさん!」
「うん、ありがとう。小町ちゃん」
浴室へと向かう二人を見送りながら、俺は式台に腰を下ろした。
一息つくと、二人と入れ替わるように、カマクラがとことこ歩いてきた。
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この前と同じように、俺のシャツとジャージを着て出てきたことりと入れ替わり、シャワーを浴びてからリビングに行くと、二人は早くも意気投合したのか、談笑していた。コミュ力高いね、君達。
俺に気づいた二人は笑顔を向けてきた。
「あ、お兄ちゃん来た!」
「八幡君。小町ちゃんってこんなに可愛かったんだね!八幡君が可愛がる理由もわかるなぁ♪」
「そ、そうか……」
「いえいえ、そんな……でもお兄ちゃん。奇跡って起こるんだね……」
「何がだ?」
「お兄ちゃんがこんなに美人で可愛くて、スタイル抜群なお義姉ちゃん候補を連れてくるなんて……」
「「…………」」
そこに関しては、二人して苦笑いでやり過ごした。まだ周りに説明する言葉が見つからなかった。
そこで小町は、少し大人びた微笑みを見せた。
「うん……なんか、ほっとした」
「そっか」
小町は小町で奉仕部を辞めた俺を心配してくれていたのだろう。二人とも繋がりのある小町には、奉仕部の仲が険悪になったのではなく、疎遠になっただけだと話しておいたが、何というか……不出来な兄ですまん。
心中で謝りながら、小町の頭を撫でる。
「な、何いきなり……もう、そういうのは二人っきりの時にしてよ……」
「別にいいだろ。たまには」
「…………」
隣から視線を感じる気がするが、というか視界に徐々にことりが入ってきている気が……
「ほら、お兄ちゃん」
小町は俺の手をことりの頭へと移動させる。ことりの濡れた髪の感触が、やけに艶めかしく肌に貼りつき、体温が心をくすぐった。
「あはは……」
ことりは照れくさそうに目を細め、俺の手に自分の手を重ねた。
「ご飯できたら呼ぶから、いちゃついてていいよ。でもキスとかは自分の部屋でしてね」
「っ!?」
「キ、キ、キス……」
小町の発言に、俺は自分の顔が熱くなるのを感じ、ことりはわたわたと手を振り回し、顔を真っ赤にした。
「あ、ごめん。その反応だとまだみたいだね。じゃ、じゃあ、ごゆっくり~♪」
最後にとんでもない爆弾が投下され、急に緊張が高まる。意識しすぎと言ってしまえばそれだけかもしれないが、今二人の間に流れる空気が、それを許してはくれなかった。
ことりは一度俯き、ゆっくりと顔を上げた。
「あ、あの……」
「おう……」
「は、八幡君の部屋……行かない?」