「……!」
八幡君の大きな手が、私の手をぎゅっと包み込む。
彼の方からこうしてくるのは、初めてだったと思う。
隣を窺うと、彼は天窓の向こうに目を向けたままだった。
そして、その横顔はどこか寂しげに見えて、胸が締めつけられるような感覚がした。
私は……
「ことり」
彼が夜空を見上げたまま、名前を呼んでくる。その声にはさっきとは違う響きがあった。
「お前の夢、叶うといいな」
「……うん」
私は頷くことしかできなかった。
お互いに自分の気持ちは自覚してしまっている。
その上で彼は……私の背中を押してくれた。
ここで頷けないわけがない。
じゃあ、私に今できることは……
「八幡君……」
「?」
「もうしばらく……このままでいさせて?」
「……ああ」
私は彼の手を両手で包み込み、その肩に頭を預け、星の降る夜をただただ眺めていた。
*******
「それじゃあ……おやすみ」
「……おやすみ」
お互いに部屋の前で挨拶をして、ドアを開ける。さっきまでぴったりとくっついていたせいか、気恥ずかしさがあって、あまり目を合わせられないけど、甘やかな感触が離れがたい空気にさせていた。
「……それじゃあ」
動いたのは彼の方からだった。
八幡君は最後にほんの数秒間目を合わせ、ほとんど音を立てずにドアを閉めた。
私はその見慣れたドアを見つめ、同じようにドアを閉めた。
ベッドに体を横たえ、目を瞑ると、今日あった出来事がチカチカと、さっきまで見ていた星のように煌めいている。
何でこんなに……眩しいの?
胸がまた、とくん、とくん、と切ない高鳴りを見せ、目を閉じても、日付が変わりそうになっても、眠気はやってこない。
再び目を開け、部屋を見渡すと、さっきまでと同じ景色なのに、何かが違う。
もう……何もかもが違うのかも……。
私は起き上がり、さっきの動作を巻き戻すように、ゆっくりと音をほとんど立てずにドアを開ける。
すると、単なる偶然か、ちょっとした奇跡か、八幡君が同じタイミングでドアを開けていた。
「「…………」」
お互い驚きに目を見開き、じっと見つめ合う。
心が奮えて、この衝動に従うように告げてくる。
私は一歩踏み出し……
「……ことり……」
「っ……」
彼の方がわたしに一歩分多く踏み込み、私は抱きしめられていた。
決して力任せではなく、そっといたわるように。二つの体温がこれまでになく密着していた。
「その……いきなり、すまん」
「もう、遅いよ」
「そ、そうか……」
「ふふっ、そうだよ。だって……私だって……こうしていたい」
私もそっと抱きしめ返す。思ったより大きな体は抱きしめると、不思議な安心感があった。
ふわふわした感覚に包まれ、私は彼の胸元に話しかける。
「……いいの?私……3月に、遠くに行っちゃうよ?」
「ああ、その……このままだと、自分の気持ちにケリがつけられそうもない。だから……」
「?」
「……クリスマスまでの時間……俺に……分けて、欲しいんだぎゃ……」
あ、噛んだ。
「「…………」」
つい吹き出してしまう。でも、八幡君のせいだよ?
彼は気まずそうに目を逸らしている。
「もう、どうしてそこで噛んじゃうかなぁ」
「……悪い」
「こっち……向いて……」
「…………」
彼の胸から顔を離し、至近距離で見つめ合う。流れ星すら止まるような、密やかな甘い衝動。
今なら何もかも飛び越えられそう……。
私は目を閉じ、来るべき瞬間を待った……。
「たっだいま~!!」