あわわわわ!!!
わ、わ、私どうしちゃったんだろう!?
何で普通に八幡君と手を繋いじゃってるのぉ!?
花陽ちゃんみたいに「ぴゃあああ……」と声を上げそうになるのを必死に押さえながら、俯きがちに歩き、自分の行動について、何故か自分で驚いている。
隣にいる八幡君の様子をこっそり窺うと、彼は俯いたり顔を上げたりを繰り返しながら、私の歩幅に合わせて、ゆっくり歩いてくれていた。
「…………」
「…………」
沈黙の時が一歩一歩刻まれていく。
穏やかな夜の空気を突っ切っていく。
ずっとこのまま、時折他愛ないお喋りをしながら歩き続けていられたら、どんなに楽だろう?
それとも彼の横顔に向けて、この秘密を打ち明けるのが一番いいことなのかな?
そこで、聞き慣れた声が飛んできた。
「あれ~?ミナリンスキーさんだ」
はっと顔を上げると、そこには後輩メイドのマユミちゃんがいた。彼女はバイト上がりらしく、見慣れた私服姿に、いつものリュックサックを背負っていて、メイドをしている時からは、あまり想像できないくらい、スポーティーな装いをしていた。
彼女がこちらに駆け寄ってくるに従い、繋いだ手に力が籠もる。
「お久しぶりです~。元気でしたか?……あれ?」
何かに気づいたような彼女の視線は、私から八幡君に移り、やがて繋がれた手に……
「あ~、ごめんなさい。デート中でしたか~、失礼しま~す」
「あ、違うの!これはね……これは……!」
「またまた~、照れなくてもいいですよ~。そんなにしっかり手を繋いじゃって♪」
「そ、そうなの!これは……手を繋いでるだけなの!」
「……そ、それをデートと言うのでは?あ、そうだ!」
マユミちゃんは八幡君の方に向き直り、途端に頬を紅く染め、もじもじとしながら喋り始めた。
あれ?何だろう……胸の奥で何かがチクチクと疼いてるような……
「あの……剣豪将軍さんは、最近お元気ですか?」
あ、収まっちゃった。
八幡君は少し考える素振りを見せ、意を決したように話し始めた。
「……ああ、無駄に元気だ……そんで、まだ声優と結婚とか無謀な夢見てる」
「…………」
剣豪将軍さん、そんな夢を見てたんだ……でも、夢は大きい方がいいよね……うん……。
すると彼女は……その瞳に確かな火を……真っ直ぐな輝きを灯して、自分に言い聞かせるように呟いた。
「私……その夢叶えてあげたいな」
「「…………」」
その呟きは、私達の耳を通り抜け、夜空へと吸い込まれていった。
ただ私は彼女の火照った顔に、羨望に似た眼差しを向けていた。